旧法下では全部解除できず一部解除しかできなかったが
以前書いた記事を読み返していたら例の如くかなりミスリードしていたので改めて書き直すことにしました。以前の記事は過去の駄文として残しておきます。
事の発端はこの記事請負の一部解除ってまだあるんじゃない?
H22-25-5とH29-28-オに疑義があるという。
まず改正前の旧法下の素の司法試験問題をみてみましょう。
H22-25
5.判例によれば,請負人が仕事を完成しない間は,注文者はいつでも損害を賠償して契約の解除をすることができるが,仕事の内容が可分であり,既にその一部が完成し,完成部分が注文者にとって有益なものである場合には,注文者は,未完成部分に限り契約の解除をすることができる。
H29-28
オ.請負人が仕事を完成しない間は,注文者は,いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができるが,契約の目的である仕事の内容が可分である場合において,請負人が既に仕事の一部を完成させており,その完成部分が注文者にとって有益なものであるときは,未完成部分に限り,契約を解除することができる。
ほぼ同じ内容となっているので、解説が違うことはあり得ない。その意味では問題がおかしいのではなく解説が確かにおかしいのだが、結局改正後はどうなるのか?
旧法下では肢の事案では全部解除できないのが判例であり、旧法下での答えは正しいとなります。
一部解除のみならず全部解除されても報酬は請求できる
さて
「2020年(令和2年)対策 司法試験&予備試験 短答過去問パーフェクト4 民事系民法②」をご購入の皆様へ では問題文を全部解除できるに改変して答えを正しいと変更しています。
これは改正後に対応するためにこのようにしたと思われます。
以前私はこの点を見逃していました。改正後も判例を踏襲していると思っていたからです。
しかし、請負の一部解除ってまだあるんじゃない?にもあるように新「民634条2号は、全部解除できることが前提」とすると、解答は×に変更になりますね。
しかし、上記リンク先にもあるようにこの新634条2号は、全部解除を前提としているのかちょっと疑問ですね。
そもそも全部解除する必要があるのか?全部解除して一部分を完成とみなして報酬が発生するとするよりも一部解除を認めた方が話が早そうだと思ったからです。
しかし、条文でわざわざ「二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。」という要件を規定しているのは逆に言えば解除されないと一部報酬は請求できないとも言えます。
とは言え、これはあくまで請負人側からみた一部報酬請求権の発生要件ですよね。
問題となっている事案は注文者側の解除権です。仕事が一部完成しているにも関わらず契約を全部解除されて報酬が発生しないとするのは不合理だから、一部しか解除できないとすることによって報酬請求権を認めていたのが旧法下での判例と言えるでしょう。
それを明文化したとすると、確かに全部解除されても一部の報酬は請求できますよ、と解釈するのが妥当になりそうです。
とは言え、判例によればの判例は昭和56年の判例で債務不履行に基づく解除(民法541条)が問題となっている事案だと思われます。
請負人の債務不履行でもこれまでは仕事が一部完成しているような場合でも全部解除はできなかったが、これからは全部解除できるというのは色々と意味がありそうです。
一部完成部分を報酬請求権を発生させるために契約を残存させるわけで、そこから色々と派生することもあるでしょう。
でも、債務不履行をするような請負人とは仕事したくないと思う注文者にとってはいい迷惑かもしれません。
従って、やはり全部解除できるとしたほうがいいのかもしれませんね。
634と641の解除の要件の違いから考える
※追記
641は任意解除 S7判 641解除
634条2号は債務不履行解除(多分) S56判 541解除 請負の一部解除ってまだあるんじゃない?
『「既施工部分は解除ができず、完成していなくても注文者には既履行分の報酬支払義務が認められることになる」(論点と解釈403頁)』
S56の判例は債務不履行解除であっても一部解除しかできないt言っている。そうすると新634の場合であっても一部解除と解することも特段問題ではない。
言い換えると全部解除が前提だが、既履行部分がある場合は一部解除になる場合もある、という表現がより適切か。
結論
つまり、641にしろ634にしろ全部解除が前提だが一部解除の場合もある、というだけの話ではないか?
更に言えば、問題の肢は明らかに641の任意解除であり、641は改正されていない。となれば判例がそのまま生きるはずである。従って正しいとなる。
「2020年(令和2年)対策 司法試験&予備試験 短答過去問パーフェクト4 民事系民法②」をご購入の皆様へ
この問題、おそらく改正634で全部解除できるということを前提としたためこのようになっていると思われるが、問題そのものが634ではなく641であり、問題自体をミスリードしていると思われる。
また、634を全部解除が前提としている見解もあるが、可分であり既履行部分があってそれが注文者の利益となる場合は一部解除になるのが旧判例であり、それが踏襲されるかされないかについては争いがあるとしておこう。もっとも全部解除であろうが一部解除であろうが結論に差異はないが。
民法の原理原則に立ち戻る
※追記
改めて読み直して気づいたのは、請負関連の条文には一部解除できるという文言は見当たりません。641条で損害を賠償して全部解除できるという規定があるのみです。
そうすると、規定がない部分については民法の有償契約の部分が適用されますよね。従って、これは634条の話ではなく民法の原則として考えると解除権の発生要件などの話になりますよね。
一部完成している場合に契約が解除できるのかどうかという規定がない以上、原則に立ち戻って考えると、未完成部分に限って契約が解除できるとは言えないことになりそうです。
もっとも以前の判例は未完成部分に限って解除を認めていたわけですから、判例がそのまま踏襲されると正解と言える余地もあります。
他方、641の解除は債務不履行などなくても解除できる場合であり、原則として債務不履行などあれば全部解除できるのであって一部分しか解除できないわけではないとも言えます。
以前の判例のロジックは全部解除できると部分的に報酬請求できないからだったと思われますが、だとすると改正によって全部解除されてしまうことになります。でも、解除されても634条によって割合報酬請求できるので問題なし。
という事で原理原則どおり全部解除可能でよさそうです。
ただ、解除されないと割合報酬請求権は発生しないように読めますが、634の要件では1号に注文者の帰責事由なく仕事が完成できなくなった、2号で完成前に解除されたとき、とあります。仕事がこれ以上続けられない場合に割合報酬請求できると読めるので、続けられる時は当然続けろということでいいのでしょう。
まとめ
〇ポイント
割合報酬請求権は請負人がイニシアチブをとるのではなく請負人は受け身である
全部解除あるいは一部解除は注文者の解除権の事を言っている
旧法下では、割合報酬請求権の発生要件に全部解除や一部解除が要件としてあるわけではない
旧法下判例は一部完成部分が注文者にとって利益になるような場合は全部解除を認めないとしていた
全部解除されると、一部完成部分について割合報酬請求権がなくなるからだと思われる
改正法下では634条2号で「契約が解除されたとき」が明記され、全部解除されても一部完成部分については報酬が請求できる
改正法では全部解除が前提というのではなく、全部解除されても報酬請求ができるという意味であり、仮に一部しか解除できないとしても報酬請求については結論は変わらない
とは言え、全部解除と一部解除だとやはり様々な面で違いが生じてくるはずであり今後の判例の蓄積によって変わってくる可能性もある
いずれにしろ受験レベルだと全部解除できるで問題ないはずだが、全部解除が前提とする肢が出た場合は少々問題だと思う
割合報酬請求権の発生要件
注文者の帰責性のない仕事完成不能
完成前に解除されたとき※641の解除は除外
肢は報酬請求についてなんの言及もしてない件
復習をしていて改めて気付いたのは当該肢は実は報酬請求についてはなんの言及もしておらず、単に全部解除できるかどうかを問うているだけである。そうすると、確かに旧法下での判例からすれば全部解除はできず一部解除のみとなる。これは報酬云々は関係ない。
次に法改正があった後にどうなるか?である。全部解除できず、一部解除しかできないのは判例実務からするとそうなるのであり、要はその判例が改正によって無効化されたのか?という話になる。
条文を改めてみる
(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
第六百三十四条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
要は解除されても一部完成部分でも報酬を請求できるということを規定している
これに対して当該肢は「全部解除できるのかできないのかを聞いているのであり、判例はこのとき全部解除はできないと言っている。法改正後の条文は要するに解除されても完成部分は報酬請求できると言っているにすぎず、仮に部分解除しかできないと条文を解釈すれば判例と同様の結論になり、全部解除しても、と解釈すれば判例とは違うことになる。
肢はあくまで残存部分しか解除できない→〇ですか?という問い方なので、この肢に改正後の条文を当てはめてどうなのか?ということになるが、条文の構造は一部報酬をする条件として二号で解除されたときとしているのであって、報酬を請求しない場合についての解除要件についてはなんら規定していない。従って、改正後の条文で旧判例を無効化したとまでは言えないのではないかという疑問が残る。もっとも、これは問題となっている肢についてのものであって、一部報酬請求の場合の解除についてはやはり巷間言われているように判例は無効化されたと考えた方がよいのだろう。
過去の駄文
請負の一部解除ってまだあるんじゃない?
請負の過去問が落ちてないか検索していたところ上記記事を発見。正直何が論点なのか分からなかった(笑)
要するに仕事の一部が完成したあとで請負契約を全部解除できるのか異なる判例があるということらしく解説が異なっているらしい。
判例は異なる事案ではあるが一部解除しかできないと言っている。
しかし、原則に立ち戻ると請負契約は全部解除できるので全部解除できないとするのはまず誤りであると判断してしまう。そこで私のような常連落ちは普通は終わってしまうが、結局は他の選択肢を総合的に判断するしかないということになるだろう。
新司法試験短答式試験平成22年民事系第25問をみてみると愕然とする。5より、2のほうが分からない。いや、2は普通に悩まずに〇にしてしまった(笑)
http://www.moj.go.jp/content/000046902.pdf
〔第25問〕(配点:2)
請負契約に関する次の1から5までの各記述のうち,誤っているものはどれか。(解答欄は,[№
27])
1.請負契約は,報酬額が具体的に定められていない場合であっても,報酬額の決定方法が定め
られていれば成立する。
2.判例によれば,請負人が注文者に対して報酬請求をしたのに対して,注文者が目的物の瑕疵
修補に代わる損害賠償請求権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合,注文者は,請負人
に対する相殺後の報酬債務について,相殺適状時から履行遅滞による責任を負う。
3.請負人が注文者に対して報酬請求をした場合に,仕事の目的物に瑕疵があり,注文者が瑕疵
の修補を請求したときは,注文者は,報酬の支払を拒むことができる。
4.判例によれば,建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替
えざるを得ない場合には,注文者は,請負人に対し,建物の建替えに要する費用相当額を損害
としてその賠償を請求することができる。
5.判例によれば,請負人が仕事を完成しない間は,注文者はいつでも損害を賠償して契約の解
除をすることができるが,仕事の内容が可分であり,既にその一部が完成し,完成部分が注文
者にとって有益なものである場合には,注文者は,未完成部分に限り契約の解除をすることが
できる。
5の肢が問題になっているが、法務省によれば25問の正解は2となっているので5は正しいということになる。
ツイッターでは誤りとなっているが、これは改正されたことを前提にしたらと言う意味だろうか。
(※追記 ツイッターの誤りの指摘は後述のように改変した問題での回答のようで、どうやらそれも間違っているので、結局誤りのようだ。要するに予備校自体が間違った解説をしたことを認めて訂正したけど結局その訂正も間違っていたということのようです。)
改正民法でも一部解除についての規定はない。634条は直接的には報酬請求権である。
規定されていない部分については原則どおり売買契約などの規定が準用される。
請負人の担保責任
559条により売買の規定が適用される・562条 追完請求
・563条 減額請求
・564条 損賠及び解除
さて、一部解除については542条に規定されているが、いずれにしても請負契約についての判例を変更するほどの改正規定がないので従前のままだと思われる。
ということで上記リンク先の記事にあるように答えとしては〇であり、法務省の見解でいいということでそれは改正後も変わらないということでしょう。
しかし、ここで気になる記事発見。当該問題の発端である。「2020年(令和2年)対策 司法試験&予備試験 短答過去問パーフェクト4 民事系民法②」をご購入の皆様へ
H22とH29の問題について両問とも同趣旨の問題であり、H29については解説が誤りだったとしている。が、解説が誤りだとすると回答が誤りとなってしまうので回答がないということになるとしています。
そこで問題文を改変して全部解除できるとして回答を正しいに変更していますが、そもそも全部解除できないわけですから、解説云々というよりは肢5を誤りとしたこと自体が間違っていただけだと思われます。
問題文を改変して答えだけを合わせてもそもそも意味がないことをしていますよね。
H29民法問題
H29民法解答
〔第28問〕(配点:2)
請負に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせた
ものは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№28])
ア.請負人は,仕事の目的物の引渡しを要する場合には,これを引き渡した後でなければ,報
酬を請求することができない。
イ.請負人が仕事の目的物を引き渡した場合において,その目的物に瑕疵があり,注文者が瑕
疵の修補に代わる損害賠償を請求したときは,注文者は,その賠償を受けるまでは報酬全額
の支払を拒むことができる。
ウ.建築請負の目的物である建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかはない場合であっても,
注文者は,請負人に対し,建物の建替えに要する費用相当額の損害賠償を請求することはで
きない。
エ.請負人の担保責任の存続期間は,これを契約で伸長することができない。
オ.請負人が仕事を完成しない間は,注文者は,いつでも損害を賠償して契約の解除をするこ
とができるが,契約の目的である仕事の内容が可分である場合において,請負人が既に仕事
の一部を完成させており,その完成部分が注文者にとって有益なものであるときは,未完成
部分に限り,契約を解除することができる。
1.ア ウ 2.ア エ 3.イ エ 4.イ オ 5.ウ オ正しい肢がアとイとオでしょうか?と思うのが常連落ちですね(笑)
(報酬の支払時期)
第六百三十三条 報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。
とは言え、私にとってはむしろ肢2です(笑)
相殺後の報酬債務について遅滞による責任を負う、即決で〇としてしまったのはなぜか。
相殺後に仮に報酬債務が残っていたとした場合にその部分については遅滞と判断したわけだが、問題文では相殺適状時から遅滞となっている。
この判例についての知識は当然ない(笑)
報酬と損害賠償を相殺した後の遅延損害金発生時期
比較的新しい判例だし、判例六法にも出ていないような(もしかしてある?)もん知るかよ、というのが常連落ちの態度。
この判例を仮に知らなくても2を保留にできていれば5は〇と判断できそうなので(結果論)2を×にできそうではある。
それに、もしも相殺適状時から遅滞となるとそもそも報酬債務全体についてなのか相殺後の残債務についてだけなのかについて疑問が残る(判例は残金について相殺翌日から遅滞と言っているが、問題文には残との記述はない。勿論報酬債務全部が相殺によって消滅してしまえば履行遅滞の問題は生じないので普通に考えれば残債務について遅滞が生じるのは?となるが、そこで混乱するのが常連落ち脳なのである)。
請負契約と委任契約の違いとは
請負契約とは?
委任契約との違い・メリットとデメリット・
契約条項・注意点などを分かりやすく解説!請負(うけおい)契約」とは、請負人が仕事を完成することを約し、注文者がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する契約
これに対して委任契約は法律行為を、準委任契約は法律行為でない事務を委託する契約です(民法643条・656条)
結論から言えば上記の通りであって単純な話である。
上記記事の中にもあるように、中には仕事の完成を目的とする業務委託契約などというものがあってこれが混乱のもとである。
そもそも
業務委託契約なのに請負の場合がある、ということではなく
業務委託契約という名称がついているだけで、仕事の完成を目的とするなら契約内容に請負と謳おうが委託契約と謳おうが法的には請負契約にあたる
というのが正しいだろう。
ただそれだけの話である。委託契約なのに請負になるという日本語自体がおかしい、或いはミスリードを誘いがち、と言える。
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