平成20年
本来,「当てはめ」とは,具体的事例に合わせて抽象的な法理論を柔軟に具体化する作業を指す
※暗記している抽象的理論を絶対視していて,具体的事例にそのまま「当てはめ」れば自動的に解答が出てくるかのように誤解しているのではないかと思われる
※具体的事例の個性が暗記してきた抽象的理論に収まらないときは,それ以上の思考を巡らせることなく,具体的事例の個性の方を切り捨ててしまうことになる。
※必要なのは,事案の内容に即した個別的・具体的な検討である。
学ぶべき事
〇法令違憲,適用(処分)違憲
法令違憲と適用違憲(処分違憲)の違いを意識して論じている答案は少なかった←理解が不十分
法令違憲では,ウェブサイト全体をフィルタリング対象にするという広汎さが明らかに問題になるのに,この点の検討を省いている答案がかなりあった
自己のサイトで注意喚起していることも適用審査において明らかに問題とすべきである
〇明確性の原則,そして内閣府令への委任
明確性については表現の自由と31条の関係性についての理解
明確性の厳格度の問題 ? 青少年保護を目的とする場合には厳格度が緩和されるのか否か,という問題
法律だけでは明確でない場合に下位規範で補完できるのか
内閣府令への委任自体も問題
法律が残虐性の定義に関する本質
的事項(あるいは重要事項)を定めているか否か
〇青少年保護と内容規制
残虐性に着目した本問の規制は内容規制である インターネット規制だから手段規制ではない
青少年保護という観点から保障の程度や範囲が異なってくるのか
〇違憲を主張する適格性
第三者の権利主張の可否は一つの重要な論点である
Aの発信情報を受ける者の知る自由の制約であるという意識が明確化されないままに混同
第三者の人権侵害を主張する際の問題点が欠落している
本来の訴訟要件の問題と混同して,訴えの利益を論ずるなど,的外れな論述
法令違憲を論じているはずなのに,その理由として,Aの目的や注意書き添付といった個別的行為を理由に違憲の判断を導くものが圧倒的に多く,実際には適用違憲(処分違憲)の論述をしていた
〇審査基準について
中間審査基準では,正当な目的ではなく「重要な目的」である
合理性の基準で求められるものが「正当な目的」
本問は,表現の自由の制約に関する一般的な審査基準を修正する必要があるのかどうかを問うもの
なぜその審査基準を採用するのか,また,本件の事案に適用した場合にどうなるのか,について丁寧に論ずる必要
合理性の基準よりも審査の厳格度が高められるものには,「厳格審査の基準」と「中間審査の基準」とがあるので,なぜ,どちらの基準を選択するのかについて,説明が必要
必要不可欠の(重要な,あるいは正当な)目的といえるのか,厳密に定められた手段といえるか,目的と手段の実質的(あるいは合理的)関連性の有無,規制手段の相当性,規制手段の実効性等はどうなのかについて,事案の内容に即して個的・具体的に検討することが必要
出題の趣旨
青少年保護育成条例における有害図書規制の合憲性と同種の問題である
本問では,最広義説に立っても,18歳以上の者は「解除ソフト」によって規制される情報を見ることができるので,検閲には該当しない(18歳以上の者が当該情報を見るために課せられる「負担」は,検閲の問題ではない。)
本問の場合,サイトを見る人の「知る自由」の制約も(が)問題となる。
他者の権利の制約が違憲であることを理由に法律や処分の違憲性を主張できるか否かを,検討する必要がある。
新しい素材に関して,全く新たに考えることを求めているのではない。
設問1
法令の違憲性に関しては,
①「有害情報」と18歳未満の者の健全な育成及び見たくない18歳以上の者の保護との関連性(立法事実)
②表現内容を規制する法律の合憲性に関する判断枠組み
③規制される「有害情報」の不明確性
④有害なウェブページだけでなく,それを含むウェブサイト全体を閲覧できなくする規制の広汎性
⑤仮にAの提供する情報は「有害」であるとしても,第三者の,憲法が保障する表現も規制される可能性
⑥18歳未満の者の「知る自由」への制約
⑦18歳未満の者を保護するための規制によって18歳以上の者の「知る自由」が制約される可能性
⑧18歳以上の者が見ることができるようにするためには一定の手続が求められていることが,「不当な負担」といえるか否か
Aに対する処罰の違憲性に関しては,
①Aが提供する情報の「有害」性
②Aが提供する情報自体の社会的重要性
③一般的な解除ではなく,Aのウェブサイトを解除するだけなのに刑罰を科すという規制手段の過度性
④見る人に不快感を与える可能性のある画像が出てくる前に注意を促す文章を掲げていることに関する評価等
上記の問題点をすべて挙げることではない
重要であると思う(その判断の妥当性は問われるが。)複数の問題について,説得力のある主張を展開すること
設問2
設問1での主張とは対立する,すなわち,本問の仮想する法律を合憲とする理由付けを想定することが求められる
このような憲法上の問題点に関する相対立する主張を踏まえて,「あなた自身の見解」を述べること
「あなた自身の見解」は,両者とは異なる「第三の道」であることもあり得るまた,この種の問題に関する判例と同じであることが求められているわけでもない
約1か月ほど前に目を通していた本問。既に忘却の彼方(笑)
改めてみると、採点実感より出題の趣旨のほうが参考になる。これは他の科目にも大体当てはまる。
まず問題を再度見ておこう。
子供を有害情報から守るため、及び有害情報を望まない人の為にフィルタリングソフトの普及促進を図る法律であるが、条文だけまず概観すると結構問題点がある。
有害情報を内閣総理大臣が指定する、となっており、2条2項に有害情報の定義がある。例の如くなんとでも言えるような代物である(どうせ裁判所は一般人の感覚で何となくわかればよい程度の判断だろう)。この点に関しては細かい基準を内閣府令に委任している。
フィルタリングソフト(適合ソフト)は大人が申請すれば削除できるので一見問題なさそうだが、確かにめんどくさい。
また、製造段階で一律に適合ソフトが搭載されるので、申請をしなければ削除されないというのは過度の負担とも捉えられる。特に、当該情報を受け取りたくない大人については、希望者が適合ソフトを搭載するにようにすることも可能だろう。
また、この観点で言えば適合ソフトを削除するようなソフトウェアの提供及び法に規定された以外の方法での適合ソフトの削除が禁止されているが、大人は原則として規制の対象ではないので、大人が自分の持つ端末の適合ソフトを削除するのは問題ないようにも思える。確かに適合ソフトの削除を自由に行えると子供が削除してしまい法の効果は見込めないかもしれない。しかし、大人に限って削除ソフトが使えるようにすれば目的は達成されるとも考えられる。
表現の自由や、知る権利といった部分は実はあまり問題ではないのかもしれない。
そもそも大人については知る権利を制限されているとまでは言えないし、表現の自由についても同様である。表現の自由や知る権利については子供に対しての表現の自由であり、子供としての知る権利なので、子供については大人と違った規制が許されるとすれば当然規制されてしかるべきとなってしまう。
出題の趣旨で気になるのは第三者の違憲主張についてである。この発想はなかった。
立法事実や表現の内容規制の判断枠組み
18歳未満を保護するための規制についての判断枠組み
規制手段の過度性
このあたりを再確認したい。
ここで思うのは結局違憲判断の方法も極端に違っていなければどの方法を採用するかは100%これという答えはないだろうという事。表現の内容規制の判断枠組みが言及されているが、それをどのように考えるかであって判例がこう言っているからこうなると、論証パターンのようになってしまうとほぼ意味がないだろう(減点されることもないだろうが)。
いずれにしてもその判断枠組みが分かっていなければ意味がないわけだが。
平成21年
出題の趣旨
大学の「規則」自体の違憲性の問題と処分違憲が問題となる
処分違憲に共通する大学側の主張として部分社会論を想定した場合には 「あなた自身の見解」において,部分社会論を展開した判例の判断枠組みを本件にそのま ,ま使用することの適切性,部分社会論自体の問題性等を論じる必要がある
設問1
「規則」違憲では,指針と「規則」の違い(それは,法律と条例の関係の問題でも,命令への委任の問題でもない
憲法第23条で保障される研究の自由の制約 。)の合憲性が問題となる
問題となる研究は実験を伴うものであり,思索中心の研究の自由とは異なる側面を有している
研究中止措置に向けられたものであって,何ら言論活動を禁止するものではない
本問での制約は,表現内容に基づく制約と同じものではない
設問2
被験者の遺伝子情報を知る権利の制約が問題
知る権利は,憲法上明文では規定されていないので,憲法上の位置付けが問題となる
知る権利は,表現の自由との関係で位置付けられているが,本件の場合には,送り手の自由と受けての自由という関係でのものではない
本問での知る権利は,憲法第13条の幸福追求権に位置付けられている自己情報コントロール権に基づく情報開示請求権といえる
Xは,直接的には,Cの情報開示請求権侵害を主張することになるので,特定の第三者の権利侵害を理由として違憲主張をできるかが問題となる
違憲主張適格に関しては,判例の判断枠組みを正確に挙げた上で,それがこの問題に関する唯一の判断枠組みといえるか等も検証した上で,本件のような問題の場合の判断枠組み,そして個別的・具体的検討が必要
知る権利の制約の違憲性
被験者自身の情報の本人への開示の問題と,被験者以外の人の情報の被験者への不開示の問題
本人に与えるマイナスの影響への考慮という理由は,いわゆるパターナリスティックな理由であり,制約を正当化する理にかなった理由といえるか否かについて検討する必要開示によって生じるかもしれない様々な問題とは何かを具体的に想定した上で,第三者への情報提供を一切認めない規定の合憲性を,取り分け被験者の疾病の性質との関係で検討する必要
XがCに対して,Cの要望とは異なる「規則」の内容について説明していないことも,問題
設問1
学問の自由の中に学問研究の自由が含まれる
学問の自由の独自の意義を説明できなければならない
「明白かつ現在の危険」の基準をその本来的な意味・内容を正確に理解していない
大学の自治は通常,学問の自由を保障するための制度的保障であると理解されているが,本問では,両者は対立関係にあるため,これをどう調整するのかという問題を避けて通ることはできない
設問2
Xは,Cには憲法第13条の自己情報コントロール権があり,Cへの情報の開示はこれにこたえるものであり,インフォームドコンセントの観点からも不可欠の行為であるところ,本件規則はかかるCの権利を侵害すると主張し,これに対してYは,CによるC自身の情報取得がCの自己加害につながるとしてパターナリスティックな規制を,Cの家族については同条のプライバシー権を保護する規制の必要を主張するという構造を把握できた答案があった
被験者Cの知る権利及びその家族のプライバシー権であることに気付いていない答案
家族の遺伝子情報をCに開示したことの規則違反を指摘していても,それがプライバシー権の問題であることを意識していない答案
本件処分の理由は,規則に違反する情報開示であるため,直接的には,被験者であるCの遺伝子情報を知る権利の侵害が問題
知る権利は自己の情報に関する限り,憲法第21条ではなくプライバシー権の発展型としての情報プライバシー権(自己情報コントロール権)として位置付けることも可能である
輸血拒否事件判決を理解していれば,Cに対するXの説明責任が問題になることに気付くことができたはず
第三者の憲法上の権利侵害を理由としてXが違憲主張する適格が問題となる
富山大学判決の判断枠組みを,本件のような場合にもそのまま用いることの妥当性や部分社会論自体の問題性を論じる必要
第三者の違憲主張適格
本年も第三者の違憲主張適格に言及があるが、その判例ってどの判例を言っているのかが分からない(笑)
https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/production.wp.s3.agaroot.jp/wp-content/uploads/2017/04/H21kenpou.pdf
どうやら例の第三者所有物没収事件でよさそうである。
そもそもだが、設問2では情報を開示したX教授が規則に違反して停職処分を受けた。
この取消訴訟を提起した際の憲法上の問題を指摘しなければならない。
要するに規則は情報を開示するなと定めているから、その規則が憲法に違反する、と主張しなければいけない。
個人的には違反してないと思うが(笑)、規則が憲法に違反しているとするなら、それは情報を開示しないということが憲法違反なので、結局Xの権利ではなくCの知る権利を侵害しているとしなければスジが通らない。
そこで第三者の違憲主張適格の話が出てくるわけである (笑)
他の参考答案を見てもたいがい第三者の違憲主張は原則許されない、としているが、第三者所有物没収事件のロジックだと、第三者への権利侵害と利害関係があれば違憲主張できる。
とは言え、被験者へ遺伝子情報を開示しなかった場合は教授は何の咎めも受けないので利害関係はなさそうに見える。
しかし、ここで採点実感が役に立つ。輸血拒否事件を読めと。
つまりインフォームドコンセントを受ける権利があり、それは逆に言うと教授の説明責任があると捉えられるから、結局利害関係あり、とすることも可能だろう。
いずれにしろ、結論はあまり重要ではなく、そういう問題意識が答案上に表されて論理的整合性が保てていればいいと思われる。と、短答落ちが申しております。
問題
規則違憲とは
出題の趣旨で「「規則」違憲では,指針と「規則」の違い(それは,法律と条例の関係の問題でも,命令への委任の問題でもない」とあるが、一体何が言いたいのか分からない。
※追記
要するに処分違憲か法令違憲か(本問では規則)という問題意識のようである。この違いについてほとんど言及がないという点が指摘されていると考えてよい。
とは言え、指針自体は規則ではなく、確かに法律の委任を受けた条例などのようの関係にもない。
スタンダード100を見てもその点についての言及はない。wセミナーのスタンダードには出題の趣旨や、採点実感が全文載せられているが、解答作成にあたってどれくらい参考にしているのか疑問である。
設問1は「審査委員会規則」研究の中止命令がだされたことに対して処分の取消訴訟を行う際に憲法上の問題点を主張するという形である。
前提として規則に処分性がある、ということなので、出題の趣旨を見なければ確かに何も疑問に感じないことだろう。
恐らく、指針と規則の違いという表現から、指針とは違って規則だから処分性があるんだよ、ということを指摘することを期待していたのかと思ったが、前提として処分性あり、となっているので違うのかもしれない。
スタンダードよりこちらのほうが参考になる 平成21年度新司法試験論文式公法系第1問参考答案
いずれにしろ規則と指針の違いには触れられていない。
採点実感を再度読み直すと
「指針の位置付けとY県立大学医学部の規則による規制の可否については,これを検討している答案が1割程度と少数にとどまったが,両者の相違の理由,規則制定の背景・経緯を踏まえて説得力のある論述を行っている答案もあり,そのような答案は,総じて全体的にも高水準の内容」
指針は差し詰め立法事実とでも言えそうだ。そして気づく。
指針には研究中止などについては明記されていない。規則8条には中止命令が出せるとあるので8条自体の違憲性を主張することになるから、以下の処分違憲などではないことになる。※出題の趣旨を再度読んだら、「設問1及び設問2の処分違憲に共通する大学側の主張として部分社会論を想定した場合には」としっかり書いてあった(笑)
規則全体が法令だとみなすのだろう。
とは言え、処分の取り消しなのだから、法令自体の違憲性(この場合は規則)を主張するのではなく、処分の違憲、適用違憲、あるいは運用違憲を主張するということになろうか。
※追記
規則自体の違憲性を主張するのか
規則自体ではなく、処分の違憲性を主張するのか
指針を殊更取り上げているが、これは触れても触れなくても合否には関係のない、よくある試験委員会独特の問題意識というやつだろう。
「明白かつ現在の危険」の基準をその本来的な意味・内容
採点実感に「明白かつ現在の危険」の基準をその本来的な意味・内容を正確に理解していないとあった。
そこで改めて復習してみると、「明白かつ現在の危険」は表現の内容規制という認識が一般的である。
違法な煽動などで危険が差し迫った場合などは、その違法な内容の表現行為を差し止める、という意味合いで「明白かつ現在の危険」は説明されるのでそう理解してしまう。
しかし、仮に表現の内容自体が違法な内容でなくても表現を制約することができる。
泉佐野市民会館事件
「公の秩序をみだすおそれがある場合」に当たるとして不許可とした処分は、当時、右集会の実質上の主催者と目されるグループが、関西新空港の建設に反対して違法な実力行使を繰り返し、対立する他のグループと暴力による抗争を続けてきており、右集会が右会館で開かれたならば、右会館内又はその付近の路上等においてグループ間で暴力の行使を伴う衝突が起こるなどの事態が生じ、その結果、右会館の職員、通行人、付近住民等の生命、身体又は財産が侵害される事態を生ずることが客観的事実によって具体的に明らかに予見された
公の秩序をみだすおそれがある場合にあたる理由として、表現内容そのものを問題にしているのではないことがわかる。
仮に内容自体を規制すれば済むのであればその内容を変更すればよいが、この場合は集会すること自体に焦点が向けられている。
もっとも当該グループがなんら空港建設に関係のない別個の目的で集会を開いたとするならば公の秩序をみだすおそれもないと判断されたかもしれない。
出題の趣旨は大学の研究という学問の自由を制約する根拠として「明白かつ現在の危険」を使うというロジックに対して、その意味を正確に理解していないと指摘されていると思われる。
確かに、研究行為そのものは外部に表現されて初めて表現の自由との問題が生ずると言える。
出題の趣旨にも「表現内容に基づく制約と同じものではない」と述べられている。
明白かつ現在の危険が表現の内容そのものを規制するかどうかにかかわらず、いずれにしろ研究の中止命令を明白かつ現在の危険があるから許されると考えるのは誤りのようである。
平成22年
出題の趣旨
生活保護法が「住所」ではなく,「居住地」「現在地」を有する者を保護の対象としているにもかかわらず,生活の本拠を有しない者からの生活保護申請を拒否した処分をめぐる憲法上の問題
ここで問われているのは,立法裁量論の問題ではない
自治体による別異の取扱いに関しては,それを合憲とした先例(最大判昭和33年10月15日)があるが,その先例と本問の事案とは異なる
公職選挙法第9条第1項が定める選挙権の積極的要件を満たし
同法第11条第 1 項が定める選挙権の消極的要件に当たらなくても
選挙人名簿の登録が住民基本台帳に記録されている者について行われる(同法第21条第 1 項)ので
住所を失うと選挙権を行使する機会を奪われることになる。ここでは,選挙権(投票権)の意義をどのように考えるのかが問われる
「国民の選挙権又はその行使を制限するためには,そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければなら」ず,「やむを得ない事由があるといえ」るためには,「そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合」であることが必要である(最大判平成17年9月14日)。
住所を有しない者が投票する仕組みを設けていないことについての「やむを得ない事由」の有無を,事案の内容に即して個別的・具体的に検討すること
採点実感等に関する意見(憲法)
平成22年新司法試験論文式試験問題
法令や処分の合憲性を検討するに当たっては,まず,問題になっている法令や処分が,どのような権利を,どのように制約しているのかを確定する
次に,制約されている権利は憲法上保障されているのか否かを,確定する必要がある
審査基準論を示せばよいというものではない。審査基準とは何であるのかを,まず理解する必要がある。また,幾つかの審査基準から,なぜ当該審査基準を選択するのか,その理由が説明されなければならない。
なぜあらかじめ基準を立てない比例原則を採るのか
生活保護法自体ではなく,行政機関によるその解釈適用(運用)の適否が問題となる
※適用違憲の場合の審査基準
同法の目的である生存権保障の観点から生活保護法第19条第1項の「居住地」「現在地」の文言の解釈適用(運用)を検討することが求められる
憲法第25条及び生活保護法の趣旨から同法の条文解釈をするのではなく,Y市側の解釈適用(運用)の合憲性審査基準を検討して,目的手段の審査により,そのような解釈適用(運用)の合憲性を判断するというものが多く見られた
生存権の法的性格については,現在の判例学説上プログラム規定説は採られていない
生存権を具体化した生活保護法が既に存在し,その解釈適用(運用)が問題となっているのであるから,生存権の法的性格を長々と論じる必要はない
地域的不平等に基づく差別の問題であると指摘した答案は多かったが(東京都売春取締条例事件判決)に触れ,当該先例の事案と本件の問題の違いについて検討している答案はほとんどなかった←触れる必要がある
ということでプログラム規定ではない、ということがはっきりと述べられていた。
そして、売春取締条例事件という判例についてもう一度(いや、初見に等しい(笑))確認せねばなるまい。
選挙関係
最高裁平成17年9月14日大法廷判決(在外邦人選挙権訴訟)は選挙権又はその行使の制限の合憲性を検討する上で極めて重要かつ基本的な判決である在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件
住所を有しない者が投票する仕組みが設けられておらず,その選挙権の行使が制限されていることについて,在外邦人選挙権訴訟判決を踏まえて,立法不作為の問題として検討する答案は必ずしも多くなかった←在外邦人選挙権訴訟が住所を有しない者の選挙権訴訟に使えるということか?
在外邦人選挙権訴訟判決では選挙権又はその行使を制限することは,そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り違憲であるとしている。
この判例の枠組みによるときは,住所を有しない者に選挙権の行使を認めないことが選挙の公正の確保との関係でやむを得ないものかどうかを具体的に検討することが求められる。
在外邦人選挙権訴訟判決では,国が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置をとらないという不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合の立法不作為の実体的合憲性の問題と,立法不作為が国家賠償法上違法の評価を受けるための要件という問題を区別して検討しているが,この2つの問題の区別を意識しない答案が多い
適用違憲の審査基準とは
採点実感に「適用違憲の場合の審査基準」とあるが、そんなのあるっけ?と疑問に思う。
そもそも運用や処分がどうかという話と、法律などが違憲か合憲かというのは次元が違うのではないかという素朴な疑問。
やはりそう思った方が少なからずいたようである。
適用違憲と違憲審査基準 ※’15.1.14追記
「憲法の急所」を一読して、処分審査という概念があることを知りました(同書P31)
確か私も読んだような記憶がありますが、すぐにヤフオクで売却しました(笑)
「処分審査とは、正確には、処分自体を審査対象とするものではなく、根拠法のうち、その処分を基礎づけている部分の審査をするものである」
確かにそう解釈しないと理屈にあいません。ということは要するに根拠法の当該部分を違憲とするということになりそうですが、それは適用違憲というより部分違憲になるのでは?
適用違憲における三類型説の再検討
概ねそういう理解でよさそうです。問題はこの場合の違憲審査基準ですよね。
「憲法第25条及び生活保護法の趣旨から同法の条文解釈をするのではなく,Y市側の解釈適用(運用)の合憲性審査基準を検討して,目的手段の審査により,そのような解釈適用(運用)の合憲性を判断するというものが多く見られた」
まっさきに目的手段審査が思いついたのに真向否定されている(笑)のではなく、目的手段審査でもいいけどまず生活保護法の趣旨から条文解釈せよ、という意味だと思われます。比較衡量や裁量は全否定されているようなので。
選挙権の行使の制限が許される場合とは
判例が日本語としておかしい場合
上記の判例が言いたいのは試験委員会が代弁してくれている。言わんとすることは理解できるものの、判例の言っている日本語は非常に分かりにくい。
選挙権の制限ができる場合とは、選挙権の行使を認めると選挙の公正が確保できない場合ということだろう。
選挙権の制限なしには選挙の公正が確保できない場合であるから、選挙権の制限なしには選挙の公正を確保しつつ、選挙権の行使を認めることが事実上不能という日本語はおかしな日本語である。
自治体による別異の取扱い
売春等取締条例違反事件とは事案が異なるという採点実感を読み、本問は異なる取り扱いをする事は合憲になると思ってしまう。よく考えると事案が異なるから必然的に答えが出る話でもなく、また、そもそもなぜ合憲と判断するのかその根拠が分からない。これが短答常連落ち脳である(笑)
採点実感が述べているのは、平等原則違反を論じるなら過去の判例に言及し、その判例とは違うという指摘をした上で論じろということなのだろう(多分)。
生存権はプログラム規定ではない
採点実感に「生存権の法的性格については,現在の判例学説上プログラム規定説は採られていない」とあり、一瞬混乱してしまう。なぜならプログラム規定説と理解していたからである(笑)
生存権に関する過去の判例を確認せねばなるまい。
衆議院憲法審査会
「プログラム規定説とは、生存権を、国に対して政治的・道徳的義務を課しただけであり、法的権利性を持たないプログラム規定であるとする説であり、判例も食糧管理法違反事件(最判昭23・9・29)において採用した」
「その後、朝日訴訟第一審判決(東地判昭35・10・19)では、25条を具体化する法律によって生存権が実質化され、その法律違反がひいては25条に違反するとする抽象的権利説が述べられた。また、堀木訴訟最高裁判決(最判昭57・7・7)は、この抽象的権利説に立った上で、立法の広い裁量を認めている。」
なるほど。
朝日訴訟の最高裁判決はプログラム規定説なのですね。プログラム規定説とは?わかりやすく解説【生存権の法的性格】
抽象的権利って何?
朝日訴訟の最高裁判決の判旨を読んでも堀木訴訟を読んでもプログラム規定なのか抽象的権利なのか分からない(笑)
そもそも抽象的権利がどういうものか分かったつもりで分かっていないようだ。
プログラム規定説は要するに当該条文を根拠にして何らかの請求をすることはできない。※自由権的な権利はある。(それに基づいて何らかの請求ができるかどうかはまた別問題だろう)
抽象的権利説は憲法の条文を具体化した立法を前提にして争う。立法がなければ立法の不作為で争えない。
具体的権利説では立法がなければ立法の不作為で争える。
プログラム規定説は法規範性がない
抽象的権利説は法規範性がある
ちなみに前文は法規範性があるという
ここで疑問なのは仮にプログラム規定説をとるとして、具体化立法があったとしてもその合憲違憲を争うことができないということだろうか。多分そういうことだろう。しかし、
「第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と規定されている。
プログラム規定説と統治行為論の比較でプログラム規定説を理解する
そこで統治行為論と比較されるのも頷ける。3、統治行為論との違い
つまり、プログラム規定説のキモは基本的に裁判所は扱わないということである。
朝日訴訟最高裁判決
何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、法の定める範囲内において、厚生大臣の合目的的かつ専門技術的な裁量に委ねられているとみるべきであつて、その判断の誤りは、当不当の問題として、政府の政治責任の問題が生ずることはあつても、直ちに違憲・違法の問題が生ずることのないのが通例である。ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定するなど、憲法及び生活保護法の趣旨・目的に違背し、法律によつて与えられた裁量権の限界を踰越し又は裁量権を濫用したような場合にはじめて違法な措置として司法審査の対象となることがあるにすぎないと解すべきである
司法審査の対象になるのかい、ならないのかい、どっちなんだい!と、中山きんに君ならずとも叫びたくなる超曖昧な言い回しだが、これは統治行為論でも見られる最高裁ロジックなので、基本は審査対象外ということだろう。
そう考えると確かに、少なくともプログラム規定説という解釈でなければ辻褄があわなくなる。
堀木訴訟最高裁判決結論部分抜粋
堀木訴訟最高裁判決を見てみよう
「憲法二五条の規定は、国権の作用に対し、一定の目的を設定しその実現のための積極的な発動を期待するという性質のものである。~~ 、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない」
たしかに、通常の裁量権逸脱などの場合と違い、裁判所が審査判断するのに適しないという表現である。
朝日訴訟最高裁判決結論部分抜粋
朝日訴訟最高裁念のため判決を見てみよう
「憲法二五条一項はすべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない(昭和二三年(れ)第二〇五号、同年九月二九日大法廷判決、刑集二巻一〇号一二三五頁参照)。~~ 憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となることをまぬかれない」
これ、堀木訴訟とぼぼ同じロジックですよね?
一般的には朝日訴訟の最高裁判決はプログラム規定と言われていると思いますが、これって要するに現在の業界での捉え方が変わったという理解でいいのかな。。
そして、採点実感にあるように現在の判例学説はプログラム規定説はとっていないという結論に至るのも納得である。
憲法を勉強しだして約20年、初めて気づく。。。(笑)
しかし、堀木訴訟最高裁判決がなぜ抽象的権利説からの結論となるのかは分からない(笑)
改めて堀木訴訟の判例をみる。
堀木訴訟最高裁判決
憲法二五条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。
裁判所が審査判断するのに適しないという言い回しからこれはプログラム規定説で間違いない(笑)
もっとも、最終的に裁判規範性があるとするなら朝日訴訟でもそういうことになるし、多分、そっちの理解のほうがいいのかもしれない。
そもそも、抽象的権利説は「プログラム規定積極説」とも言うらしい。基本法コンメンタール憲法P154
朝日訴訟最高裁判決も抽象的権利説としたほうがいいのかもしれない、いや、プログラム規定説の範疇にあるからプログラム規定説なのかい、どっちなんだい!
判決内容が分かっていればどっちでもいいな(笑)
立法不作為短答過去問
https://www.moj.go.jp/content/000006517.pdfH18-4
ア. 憲法第27条の勤労の権利は,これを直接根拠として行政庁に対してその実現を求め得る具
体的請求権であるとは解せないものの,立法府が勤労の機会を実質的に確保するため最低限度
の立法をしないときには 憲法第27条に基づいて 立法不作為の違憲確認訴訟を提起できる ,, 。
https://www.moj.go.jp/content/000006529.pdf
正解 ×
具体的請求権ではないとすると、抽象的権利、あるいはプログラム規定説とも考えられる。いずれにしろ、立法不作為で争えるのは具体的権利のみであるから×となる。
https://www.moj.go.jp/content/000006371.pdf H19
〔第17問〕(配点:3)
次の文章は,選挙権行使の保障に関する最高裁判所の二つの判決に関するものである。AからD
までの各空欄に 後記1から6までの中から適切なものを補充して 文章を完成させなさい なお , , 。,
同じ記号には,同じ文章が入るものとする (解答欄は,AからDの順に, から ) 。 [№36] [№39]
選挙権行使の保障に関し問題となるものとして,在宅投票制度や在外選挙制度がある。
最高裁判所は,在宅投票制度を廃止し,その後復活しないことの違憲性が争われた訴訟におい
て,立法不作為を含む立法内容の違憲性と国家賠償法第1条第1項との関係について【A】[№36]
旨述べた上,同項の適用上どのような場合に国会議員の立法活動が違法の評価を受けるかについ
て【B】 旨判示した。 [№37]
最高裁判所は,その後,在外選挙制度の違憲性が争われた訴訟において,まず,在外選挙制度
の憲法適合性について【C】 旨判断し,さらに,国会議員の立法活動が国家賠償法第1条 [№38]
第1項の適用上違法の評価を受けるかについて A 旨述べた上で D 旨判示し ,【】 【】 [№36] [№39]
た。
1. 国会議員は国民に対して違憲の立法をしない法的義務を負っており 立法内容が違憲の場合 , ,
国会議員の立法又は立法不作為は原則として国家賠償法第1条第1項の適用上違法となる
2. 国家賠償法第1条第1項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動
が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であり,当該立法内容
の違憲性の問題とは区別される
3. 立法内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらずあえて当該立法を行うような,
容易に想定し難い例外的な場合でない限り,国家賠償法第1条第1項の適用上違法の評価を受
けない
4. 立法内容が国民に憲法上保障された権利を違法に侵害することが明白な場合や,国民に憲法
上保障された権利行使の機会を確保するには所要の立法措置が必要不可欠で,それが明白なの
に,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国家賠償法第
1条第1項の規定の適用上,違法の評価を受ける
5. 在外国民に国政選挙での投票を認めないことは憲法に違反しており,平成10年の公職選挙
法改正で在外選挙制度が創設されたが,その対象が衆議院と参議院の比例代表選挙に限られて
いた点で,従前の違憲状態が継続していた
6. 平成10年の公職選挙法改正で在外選挙制度が創設されたが,その対象が衆議院と参議院の
比例代表選挙に限られている点で,遅くとも本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総
選挙又は参議院議員の通常選挙の時点において,憲法に違反する
正解 A2,B3,C6,D4
https://www.moj.go.jp/content/000006392.pdf
https://www.moj.go.jp/content/000046901.pdf H22-37
ウ.国会議員の立法行為は,本質的に政治的なものであって,その性質上法的規制の対象になじ
まないものであるから,制定された法律の内容が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵
害するものであることが明白な場合などには,例外的に国会議員の立法行為が国家賠償法上違
法であるとの評価を受けることもあり得るが,立法の不作為についてまで国家賠償法上違法で
あるとの評価を受けることはない。[№82]
正解×
https://www.moj.go.jp/content/000048295.pdf
https://www.moj.go.jp/content/000123124.pdf H26
〔第33問〕(配点:2)
在外日本人である原告らが,①平成10年法律第47号による改正前の公職選挙法が,原告らに
衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていなかったことが違法であ
ることの確認,②同改正後の公職選挙法が,原告らに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選
挙区選出議員の選挙における選挙権の行使を認めていないことが違法であることの確認及び③原告
らが今後直近に実施される上記②の各選挙において選挙権を行使する権利を有することの確認を求
める各訴えに関する最高裁判所平成17年9月14日大法廷判決(民集59巻7号2087頁)に
ついての次のアからウまでの各記述のうち,正しいものに○,誤っているものに×を付した場合の
組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。(解答欄は,[№77])
ア.この判決は,上記①の訴えは,過去の法律関係の確認を求めるものであって,確認の利益を
欠くから,不適法であるとした。
イ.この判決は,上記②の訴えは,抽象的に立法不作為の違法確認を求めるものであって,法律
上の争訟に当たらないから,不適法であるとした。
ウ.この判決は,上記③の訴えが適法であると判断するに当たり,選挙権は侵害を受けた後に争
うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであることを考慮して
いる。
1.ア〇 イ〇 ウ○ 2.ア〇 イ〇 ウ× 3.ア〇 イ× ウ○
4.ア〇 イ× ウ× 5.ア× イ〇 ウ○ 6.ア× イ〇 ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
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