逮捕 勾留 そして保釈の要件

逮捕前置主義

被疑者の勾留について逮捕が先行していなければならないと直接定めた規定はないが、逆に言えばこれを許した規定は207に定められ、同条は204~206の規定による勾留請求の場合であるから、すなわち公訴提起されていない者について勾留する場合は逮捕されている者に限って許されることになる。
同一事実であれば罪名を変更して勾留請求を行う事は許される。 条解刑事訴訟法P395

一罪一勾留の原則

要するに一罪というのは逮捕、勾留されたの原因となった事実の事である。
同一の事実であれば罪名が変わっても問題はないが、既に逮捕、勾留されている被疑者に対して別の事実で勾留請求することは許されない。

H26〔第23問〕(配点:2)
次の【事例】について述べた後記アからオまでの【記述】のうち,正しいものの組合せは,後記
1から5までのうちどれか。ただし,判例がある場合には,それに照らして考えるものとする。
(解答欄は,[No.42])
【事 例】
司法巡査は,「路上で人がバットで殴られている。」旨の110番通報に基づき,事件現場に急
行したところ,現場到着時に犯人が逃走していたことから,傷害を負った被害者から被害状況や
犯人の服装・体格等を聴取し,犯人の探索を開始した。司法巡査は,事件発生の約30分後に事
件現場から約500メートル離れた路上において,被害者が供述した犯人の服装・体格と一致す
る人物甲がバットを持って歩いているのを認め,甲に「ちょっと待って。」と声を掛けて停止を
求めた。すると,甲が直ちに逃走を開始したため,司法巡査は甲を追跡し,甲を傷害罪の準現行
犯人として逮捕した。甲は,逮捕翌日に,傷害罪により検察官に送致された。
【記 述】
ア.司法巡査は,甲を準現行犯人として逮捕するに当たり,甲に逮捕の理由を告げなければなら
ない。
イ.甲が司法巡査から「ちょっと待って。」と声を掛けられて直ちに逃走を開始したことは,「誰
何されて逃走しようとするとき。」(刑事訴訟法第212条第2項第4号)に該当する。
ウ.甲の逮捕後,勾留請求前の時点で本件が強盗目的で敢行されたと疑うに足りる相当な理由が
生じた場合には,検察官は,強盗致傷罪で勾留を請求することが可能である。
エ.甲を傷害罪で勾留した後,本件が強盗目的で敢行された疑いが生じた場合であっても,強盗
目的であったことの捜査のために勾留期間を延長することは許されない。
オ.甲を傷害罪で勾留した後,甲が「強盗目的で事件を起こした。」旨供述した場合には,傷害
罪による勾留中に強盗致傷罪で逮捕しても適法である。
1.ア ウ 2.ア オ 3.イ ウ 4.イ エ 5.エ オ

正解は3

逮捕

逮捕状による逮捕 199

 
罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき ※明らかに逮捕の必要がないとき除く
逮捕状執行は制限なし 逮捕状請求権者は検察官 司法警察員※警部以上

逮捕の必要性 明らかに逮捕の必要がない場合は裁判官は却下の義務がある 条解刑事訴訟法P383

緊急逮捕 210

死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないとき ※逮捕状が発せられないときは直ちに釈放する
逮捕執行も逮捕状請求も制限なし 検察官、検察事務官又は司法警察職員

現行犯人 212

現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者
何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる213

準現行犯※現行犯とみなす 212②

以下の者が罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるとき
犯人として追呼されているとき
贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき
身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき
誰何されて逃走しようとするとき

勾留

被告人の勾留 60

罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で以下のいずれかに該当するとき勾留できる
〇勾留理由
被告人が定まつた住居を有しないとき
被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき

「以上に加え勾留の必要性もなければならない。
勾留の本来の目的に照らし、被告人の身柄を拘束しなければならない積極的な必要性(公的な利益)と、その拘束によって被告人の蒙る不利益、苦痛や弊害とを比較衡量して前者がきわめて弱い場合や後者が著しく大である場合は、勾留の実質的な必要性に欠ける。」 条解刑事訴訟法P147
勾留の目的は逃亡及び罪証隠滅の防止。
被疑者段階における必要性の判断基準。
「起訴の可能性(特に軽微事案)
捜査の発展性、進展の度合い(逮捕中起訴が可能かどうか)
別件逮捕、勾留該当の有無
勾留本来の目的の有無、程度(再犯防止は勾留の本来の目的ではない)
被疑者の個人的事情(健康、職業) 」など 条解刑事訴訟法 P397

被疑者勾留から被告人勾留へ自動的に移行する根拠

起訴後も自動的に勾留が続く根拠
自動的に起訴後勾留へ移行することを直接規定した条文はない。
起訴後も自動的に勾留が続くことの根拠は,刑事訴訟法208条1項の反対解釈である。
「…被疑者を勾留した事件につき,…公訴を提起しないときは,検察官は,直ちに被疑者を釈放しなければならない。」
これを反対解釈すると,以下のような考えを導出できると言われている

短答の解説などでさらっと被告人勾留は自動的に移行するなどと言われていてそのまま丸暗記していたがなぜなのか疑問に思っていたが、条文には規定がないということで逆に納得。というか、刑事訴訟法の基本書などはまともに読んだことがないので基本書にそのような解説があるのかは知らないが、条文だけ勉強しても司法試験に受かるはずもない。
では、在宅起訴された場合は、そもそも勾留されていないので自動的に勾留されるわけではないということになり、勾留請求する必要があるのか?
しかし、この点についての条文はない。条文を類推解釈するなら検察官が勾留請求を行う必要にも思うのだが。
逮捕中求令状および勾留中求令状についても条文はない。

起訴後の勾留は裁判所の職権で行う

起訴後の勾留の性質
まず起訴後の勾留は、裁判所の職権で行われる強制処分である。現行刑事訴訟法の強制処分は実施主体からみれば、裁判所が実施する証人尋問請求・証拠保全請求型と(旧刑事訴訟法までは原則型)、捜査機関が実施する捜索・押収・検証型が併存している(8)。この中で勾留は、裁判所または裁判官が行う強制処分であり(刑訴法六〇条一項、二〇七条一項)、ことに起訴後の勾留は検察官に請求権のない裁判所の職権による強制処分である。裁判所の責任は重い。但し、勾留の執行指揮は検察官が行い(刑訴法七〇条)、検察官には移監の権限もあるので(刑訴規則八〇条)、執行されている勾留そのものは外部的には、起訴後の勾留の場合も、検察官の勾留のような印象を与えるときもある。

なるほど、起訴後の勾留は誰が請求するものでもなく裁判所が行うものということで間違いないようだ。
そうすると、在宅起訴された後に勾留される場合の保釈はどうなるのか?
保釈の請求は当然弁護人だったり被告人が行うだろうから、原則保釈するのがスジとなる。
通常は逮捕され被疑者として勾留された後にそのまま起訴されて起訴後の勾留に自動的に移行しているので、まるで検察官が勾留請求を行っているかのように思っていたがそうではなかった・・・(笑)それに自動的に起訴後の勾留に移行とは言うが、これも実は変な話である。なぜ自動的に移行するのかは反対解釈から導出されるというものの、本来勾留の必要性があるから勾留するのがスジなはずである。
また、法第六十一条では、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができないと規定されているから自動的に移行するとは言ってもこれを省略することはできないはずだ。

被疑者及び被告人の勾留
勾留をする裁判所が,すでに被告事件の審理の際,被告事件に関する陳述を聞いている場合には,改めて刑訴法61条のいわゆる勾留質問をしなければならないものではありません(最高裁昭和41年10月19日決定)。

なるほど(笑)
いずれにしろ起訴後の勾留については裁判所が行うものであることは間違いない。
そこで気になるニュースが・・・

国と都に1億6000万円賠償命令 不正輸出事件の起訴取り消し 捜査「合理的根拠欠く」・東京地裁
噴霧乾燥機の不正輸出容疑で逮捕され、後に起訴が取り消された機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の社長らが、違法捜査で損害を受けたとして国と東京都に計約5億6000万円の賠償を求めた訴訟の判決が27日、東京地裁であった。

【写真】起訴取り消し後に記者会見した「大川原化工機」の大川原正明社長

 桃崎剛裁判長は、警視庁公安部や東京地検の捜査について「合理的な根拠が欠けている」として違法性を認定。国と都に計約1億6000万円の支払いを命じた。

 原告は同社と大川原正明社長(74)、元役員島田順司さん(70)、勾留中に胃がんが判明して亡くなった元顧問相嶋静夫さん=当時(72)=の遺族ら。

 判決によると、公安部は捜査を始めた当初、経済産業省と協議し、同社の噴霧乾燥機は輸出規制に該当すると判断していた。

 桃崎裁判長は、一貫して規制対象ではないとした相嶋さんらの供述に基づいて捜査し直せば、規制に該当しないことは容易に分かったはずだと指摘。「嫌疑があるとした公安部の判断は合理的根拠が客観的に欠けている」として、逮捕の違法性を認めた。

 東京地検の検察官についても、同社側の主張を把握した後にも起訴や勾留請求を行っており、「必要な捜査を尽くしておらず違法」とした。

 島田さんを取り調べた警察官が規制の解釈を誤解させるような説明をしたり、調書を修正したように装ったりした行為を違法な取り調べと判断した。

 6月の証人尋問では、捜査に当たった同庁の現職警察官が、事件について「捏造(ねつぞう)ですね」と証言。別の警察官は追加捜査を進言した際、上司から「事件をつぶして責任を取れるのか」と言われたと証言したが、上司は否定していた。判決はこれらの点には言及しなかった。

 新河隆志・東京地検次席検事の話 主張が一部認められなかったことは誠に遺憾で、上級庁などと協議して適切に対応したい。

 小松秀樹・警視庁訟務課長の話 判決内容を精査した上で今後の対応を検討する

この事件は後に起訴が取り消されるが亡くなった相嶋静夫さんは起訴後の勾留中であろう。そうすると、検察官が勾留請求を行ったというのは被疑者段階での勾留請求の話ということになり、この責任は裁判所にあるはずである。

検察官の被疑者勾留請求 204 205

留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない ※時間制限内に公訴提起した場合は請求しなくてよい

被告人の規定の準用

 207
204~206の勾留については被告人の勾留についての規定を準用する

保釈

原則保釈する 89

権利保釈 必要的保釈
保釈の請求があれば以下の場合を除いて許可する必要がある
被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき
被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき
被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき
被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき
被告人の氏名又は住居が分からないとき

職権保釈 90

 裁量保釈
適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる

保釈または勾留執行の停止の失効 343

禁固以上の判決を受けると保釈と勾留執行の停止は効力を失う

勾留回数制限、必要的保釈の不適用 344

禁固以上の判決を受けると60②と89の適用なし

H19〔第22問〕(配点:2)
勾留に関する次の1から5までの各記述のうち,正しいものはどれか
1. 刑事訴訟法第60条第1項第2号に定める「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があ
るとき」の「罪証」とは,犯罪の成否に関する証拠を意味するので,犯罪の成立自体について
は,既に証拠が収集されていて証拠隠滅の余地がなく,犯罪の動機に関する証拠にのみ隠滅の
おそれがある場合には,同号の要件を満たすことはない。
2. 被疑者の勾留の期間は,勾留の請求をした日から10日間であるが,裁判官は,やむを得な
い事由があると認めるときは,検察官の請求により,1回に限り,その期間を延長することが
できる。
3. 検察官は 逮捕勾留されていない被疑者について公訴を提起する際 勾留請求権に基づいて , ,,
裁判官にその勾留を請求することができる。
4. 第一審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の判決を言い渡した場合であっても,
控訴裁判所は,記録等の調査により,前記無罪判決の理由の検討を経た上でもなお罪を犯した
ことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは,勾留の理由があり,かつ,控訴審にお
ける適正 迅速な審理のためにも勾留の必要性があると認める限り その審理の段階を問わず , ,,
被告人を勾留することができる。
5. 少年の刑事事件については,その健全な育成を期するという見地から,定まった住居を有す
る少年の被疑者を勾留することはできない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました