出題の趣旨
出題の趣旨
設問1
現物出資財産の価額が当該現物出資財産について定款に記載された価額に著しく不足する場合における,発起人及び設立時取締役の責任
不足額のてん補責任(会社法第52条第1項)の要件の該当性 免責事由(同条第2項)についての適用除外の有無及び免責事由の当てはめ
第53条第1項に基づく任務懈怠による損害賠償責任の有無
設問2
株式会社の成立後における募集株式の発行に際し,その一部が仮装払込み(いわゆる見せ金)による場合
①その払込みの効力と発行された株式の効力,
見せ金による払込みの効力と発行された株式の効力を分けて論述すること
前者では,判例の立場を踏まえ,見せ金の意義,見せ金と認定するための要件とその当てはめ,払込みの効力の論拠を検討すること
後者では,判例の立場を踏まえ,発行された株式の効力の論拠を検討する必要があり,払込無効説を採る場合には,取引
の安全への配慮のほか,無効となった払込みの実質的なてん補手段の有無や10パーセントの資金が会社に残っていることの評価について検討すること
株式の効力を否定する場合には新株発行の無効と不存在の別,払込無効説に立ちながら株式の効力を認める説(株式有効説)を採る場合には株式の所有者等が問題となり得る
払込有効説を採る場合には,取締役が払込みに係る資金を引き出して引受人に対し交付した行為の評価について検討すること
②見せ金による払込みにかかわった取締役その他の取締役や見せ金による払込みを行った募集株式の引受人の会社に対する責任及び
いずれの説に立つ場合であっても,これに整合して,会社法第423条第1項の任務懈怠の内容及び損害の内容等について記述すること,
取締役Bについては,監督(監視)義務違反の根拠及びその内容を記述することが求められる。
募集株式の引受人丙社については,会社法第208条第5項による失権の有無を踏まえ,同法第212条第1項第1号の類
推適用の可否等会社法上の責任について検討すること
③当該取締役の第三者に対する責任
取締役A及びBの両名について本件募集株式発行に関し,会社法第429条第1項の「職務」の内容を具体的に記述すること
同条第1項と第2項の責任の関係
同条第2項での責任主体となる「取締役」の意義を記述すること
取締役Aの同項第1号ロ及びハの各責任の有無については,①において採用した結論との整合性に配慮しつつ,資料①②の虚偽のある項目及び内容を分析すること
採点実感
設問1
Aが,現物出資者であるため同条第2項(52条)の適用がなく(同項柱書かっこ書),同条第1項の責任につき無過失責任を負うことを指摘していない答案も多かった
Bについては,本件事案では検査役が選任されていないため同条第2項第1号の適用はなく,同項第2号により,無過失を立証すれば同条第1項の責任を負わないことを論じていない答案がかなりあり,中には検査役を選任しなかったこと自体により責任を負うという誤った理解をした答案もあった
A,Bについては,会社法第53条の発起人・設立時取締役の任務(会社法第46条第1項第2号による現物出資財産等の価額の証明等の相当性に関する調査が含まれる)懈怠責任も問題になる
設問2
「見せ金」の概念及び問題の所在を示した上で,本件事案が見せ金に該当するか否かを論じている答案は,少なかった
最高裁昭和38年12月6日第2小法廷判決(民集17巻12号1633頁)は,払込み後,当該借入金を返済するまでの期間の長短,払込金が会社資金として運用された事実の有無,当該借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響という三要件により,見せ金に該当するか否かを判断し,見せ金による払込みは効力を有しない旨を判示
採点においては,無効説・有効説いずれをとっても,その理由等が適切に述べられていれば,同様に評価した
見せ金による払込みの効力が無効である立場を採るとしても
最高裁平成9年1月28日第3小法廷判決(民集51巻1号71頁)が,取締役の引受担保責任が存在することを理由に,見せ金による払込みがされた場合であっても,新株発行が無効となるものではない旨を判示
会社法により,引受担保責任が廃止されたことを受けて,見せ金による払込みがされた場合は新株発行無効事由又は新株発行不存在事由になるとする学説等もある
見せ金を除くごく一部につき実際の払込みがあることを,本件募集株式発行により発行された株式の効力を考える上で,いかに評価するかを論じる必要がある
募集株式発行に係るA及びBの甲社に対する責任
Aが,見せ金による払込みに関与し,本件募集株式発行をしたこと又は丙社のDに払込金を交付したことの評価
それについてのBの監視義務の有無等から
A,Bに甲会社に対し取締役としての任務懈怠責任があったか
自説とした見せ金払込有効説又は無効説を前提に,事実関係を丁寧に拾い上げて論じる必要(有効説においては,交付の法的評価が大きな問題となる
丙社の甲社に対する責任を,会社法第212条第1項第1号の類推適用等により導くような考えもあり得る
募集株式発行に係るA及びBの乙銀行に対する会社法上の責任
まず会社法第429条第1項の責任が問題
A,Bの取締役としての任務懈怠の有無(Bの場合は監視義務違反),損害との因果関係等を論じる必要
同条第2項第1号ロ・ハの責任も論じる必要
AのほかBも責任の主体になり得るか等の問題の検討や,見せ金による払込みの効力及び株式の効力と整合的に,貸借対照表及び履歴事項全部証明書の内容を分析することが,不十分であっただけでなく,
同条第2項第1号の要件を満たすから同条第1項の責任が認められると議論する等,
前者の責任と後者の責任の関係を理解していないものが圧倒的であった
現物出資
第二十八条 株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、第二十六条第一項の定款に記載し、又は記録しなければ、その効力を生じない。
一 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数(設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合にあっては、設立時発行株式の種類及び種類ごとの数。第三十二条第一項第一号において同じ。)
二 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称
三 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称
四 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)
(定款の記載又は記録事項に関する検査役の選任)
第三十三条 発起人は、定款に第二十八条各号に掲げる事項についての記載又は記録があるときは、第三十条第一項の公証人の認証の後遅滞なく、当該事項を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをしなければならない。
現物出資は実務上も結構やっかいである。本問題のような場合1億円程度のものを会社に5億円で売却したようなもので恐らく税金も莫大なものになるのではないか。
ここで少々疑問に思う。例えば営業権のようなものを現物出資することは可能であるが、いずれにしろ現物出資の場合は現実の払い込みがなされるわけではない。言わば言い値と言ってもいい。その言い値に対してお墨付きがあるかないかの違いである。
仮に営業権として1億円の評価をつけて現物出資したとして、実際は5000万円だから5000万円払いこめ、というのもなんだか変な気がするのだが、その点は置いておこう。※出資者が他にいる場合、現金を出資した者と公平ではない。ひとりで学ぶ会社法P11
まず条文だけ見てみよう。
(出資された財産等の価額が不足する場合の責任)
第五十二条 株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が当該現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額(定款の変更があった場合にあっては、変更後の価額)に著しく不足するときは、発起人及び設立時取締役は、当該株式会社に対し、連帯して、当該不足額を支払う義務を負う。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、発起人(第二十八条第一号の財産を給付した者又は同条第二号の財産の譲渡人を除く。第二号において同じ。)及び設立時取締役は、現物出資財産等について同項の義務を負わない。
一 第二十八条第一号又は第二号に掲げる事項について第三十三条第二項の検査役の調査を経た場合
二 当該発起人又は設立時取締役がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合
3 第一項に規定する場合には、第三十三条第十項第三号に規定する証明をした者(以下この項において「証明者」という。)は、第一項の義務を負う者と連帯して、同項の不足額を支払う義務を負う。ただし、当該証明者が当該証明をするについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。
責任を負わない場合の免除の要件が2項に規定されている。
1.検査役の調査を経た場合
2.注意を怠らなかったことを証明した場合
1はいいとして2である。職務を行うについて注意を怠らなかったことなんかどうやって証明するのだろうか(笑)
変態設立事項
設立に際して定款に定めておかなければ効力を生じない事項。
28条
1.現物出資
2.財産引受
3.特別利益
4.設立費用
行うための手続き
①定款に定める
②検査役の選任 ※現物出資と財産引受については合計額500万以下、有価証券で定款上の評価額が市場価額より低い、弁護士などによる証明がある場合は不要
見せ金
本問は募集株式発行に際し、見せ金を使って払い込みを行っている。
見せ金というのは当事者はともかく、客観的には分からないのに最初から見せ金、見せ金、と言って決めつけて、見せ金にあたるか?というのも変な話であるが。
見せ金という定義が会社法上あるのかと言えば、なさそうで、ないくせに出資の履行を仮装した場合などという規定がある。
実際問題、本問は見せ金にあたるのか。
見せ金とは結局のところ払い込まれた金を融資という形であれなんであれ出資者に戻すわけである。
本問の場合は、
甲社は丙社から1億円の出資を受けた。払い込みも実際行われている。
この増資実績を条件に乙銀行から2億の融資を受けたが返済不能。
客観的に言うと問題のない経済活動のように見える。
実際は丙社は甲社のAが全株式を所有している会社で、丙社に9000万を借入させて出資金をねん出し、出資金が払い込まれるとすぐにその金を払い戻し借金の弁済にあてているから、9000万の部分については所謂見せ金にあたると言っていい。
見せ金による払い込みは無効だけど株式は成立しちゃってます問題
紹介されている判例にもあるように見せ金による払い込みは無効ということらしいが、会社法が改正され、213の2①1仮装した金額全額支払えとあるので株式自体は成立しているのではないかと議論されているらしい。
もっとも、払い込み無効で、株式も払い込まれたら有効で、払い込まれなかったら無効でいいんじゃね、という感じで規定されているのではないかと思われるので真面目に議論しても実益はなさそう。
それよりも、「払込みを仮装した払込金額の全額の支払」とあり、この場合払い込み自体はあったわけで、払い込みを仮装したという表現はなんともおかしな感じが否めない。出資の履行を仮装したとかのほうがしっくりくるのだが。
「引受人丙社については,会社法第208条第5項による失権の有無を踏まえ,同法第212条第1項第1号の類推適用の可否等会社法上の責任について検討すること」とある
そもそも仮想払い込みは無効だという判例と、改正によって株式の発行自体は成立していると捉える見解とをどのように整合性をつけるのか。正直、こういうのはなんとでも言えそうだが論文はこういう問題が好きである(笑)
仮装払い込みであって不公正な価格ではない。
仮装払込は429条第1項の「職務」に該当するのか
出題の趣旨には「会社法第429条第1項の「職務」の内容を具体的に記述すること」とある。
2項に列挙されている項目にあてはまるのか、あてはまるとしてどれなのか。
第1項と第2項の責任の関係とはナンデスカ(笑)
手持ちの本に記載なし
2項での責任主体となる「取締役」の意義
手持ちの本に記載なし
Aの同項第1号ロ及びハの各責任の有無
もう参考答案をみたほうが早い。。。。
今回はいいものが落ちていなかった。。
ということで保留にしておこう。
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