令和4年37問に訴えの変更に関する問題が出ていた。勿論間違ったのだが、単なる知識問題に見えて意外に奥が深かったので改めて記録しておきたい。
平成26〔第35問〕(配点:2)
訴えの変更に関する次の1から5までの各記述のうち,正しいものを2個選びなさい。(解答欄
は,[№42],[№43]順不同)
1.判例の趣旨によれば,訴えの変更は,請求の基礎に変更があるときは,相手方が異議を述べ
なかったときでも許されない。
2.訴えの変更は,相手方の陳述した事実に基づいてする場合であっても,著しく訴訟手続を遅
滞させるときは,許されない。
3.判例の趣旨によれば,いわゆる訴えの交換的変更においては,旧請求について訴えの取下げ
及び相手方の同意又は請求の放棄がなくても,旧請求の訴訟係属は消滅する。
4.判例の趣旨によれば,ある土地の所有権確認請求訴訟において,原告が初め被告からのその
売買による取得を主張し,後にその時効による取得を主張することは,訴えの変更に当たる。
5.離婚請求に当該婚姻の取消請求を追加することは,請求の基礎の変更にかかわらず,許され
る。
正解は2と5なので4は×。これ、漠然と考えると4は〇のように考える人も多いと思う(私だけか(笑))。
そのまんま覚えてしまえば良さそうだが解説が気になる。
まず百選にものっている昭和32.2.28を取り上げ、
「「元来、請求の原因を変更するというのは、旧訴の繋属中原告が新たな権利関係を訴訟物とする新訴を追加的に併合提起することを指称する」としている。したがって、単なる攻撃防御方法の変更は訴えの変更ではないこととなる」とある(アガルートアカデミー2016司法試験短答知識完成講座Ⅱ民事訴訟法・下P132)。
この解説だけを読むと、
肢にあるような請求の原因の変更のように見えるものでも判例は攻撃防御方法の変更に過ぎないと捉えているように思える。
実際に判例を読むと、上記請求の原因の変更云々は訴えの変更前の旧訴が消滅するかしないかの文脈の中で使われている。
また、判例の事案は貸金請求事件で事案がまったく異なる。
すなわち攻撃防御方法の変更に過ぎないから訴えの変更にあたらないということではないようである(勿論私見)。
本来であれば請求の原因を変更しているから訴えの変更にあたりそうだが結論としては訴えの変更にあたらないので、その理由が問題となる。
手持ちの本にはこの点の言及はない。
2と5が明らかに〇なので正解にはたどり着けるがしっくりこないので自分なりの解答を出すことにしよう。
訴えの変更と訴訟物
まず、訴えの変更にも訴訟物理論が影響してくる。
訴訟物が変われば訴えの変更になるのは間違いない。基本法コンメンタール民事訴訟法P43
請求の趣旨に質的な変更がある場合、金銭から物へなどの場合どの説でも訴えの変更になる。
旧訴訟物論では特定物の引き渡しを占有権に基づく場合と所有権や契約に基づく場合では訴えの変更となる。これは請求の原因の変更である。
しかし、肢の4の場合は請求の原因の変更にもならないという。
所有権確認訴訟と旧訴訟物理論
4は所有権確認訴訟なので、旧訴訟物理論によっても売買だろうが相続だろうが訴訟物は所有権であって異ならない。
ということは一般的には請求の原因と言われる部分の変更が単なる攻撃防御方法の変更となっている、という事なのだろう。
そういう事にしておこう。というか肢で取り上げている判例ってどの判例なのだろうか。本来解説本に求められるのはそういう情報なのだが。
結局解説があながち間違っていないという結果に(笑)
※追記
特定物の引渡請求を損害賠償請求に変更 → 請求の趣旨も原因も変更
特定の請求権の確認訴訟を給付訴訟に変更 → 請求の趣旨ののみの変更
請求金額を変更せずに債務不履行に基づく損害賠償請求を不行為に基づく損害賠償請求に変更 → 請求の原因のみ変更 民事訴訟講義案P79
本問は所有権確認自体は変更なし 売買に基づくものから時効取得への変更
これが請求の原因ではなく攻撃防御方法の変更にすぎないということらしい
http://civilpro.sx3.jp/kurita/casebook/showa/29/s290727supreme.html
建物の所有権確認請求訴訟の訴訟物は建物の所有権であるから、原告がこれを取得するにいたった事由は、請求の原因ではなく、請求を理由ずける攻撃方法としての必要な事実にすぎない。
1a.建物の所有権確認請求訴訟の原告が初め建物の所有権の承継取得を主張し、後にその原始取得を主張するにいたったとしても、それは攻撃方法が変更されただけであって、請求の原因に変更があったのではなく、前後を通じ請求の基礎に変りがない。
改めて請求の原因の意味が問われる
請求の趣旨と原因
https://eu-info.jp/CPL/4.html
請求の趣旨 とは、原告が裁判所に求める判決の内容を簡潔に記したものである
・給付の訴えの場合
「被告は原告に対し金100万円を支払えとの判決を求める」
・確認の訴えの場合
「別紙目録記載の建物につき原告が所有権を有することを確認するとの判決を求める」
・形成の訴えの場合
「原告と被告とを離婚するとの判決を求める」
請求の原因とは、請求の趣旨を補充し、請求の特定に必要な事実を指す(民訴規則第53条第1項)
「被告は原告に対し金100万円を支払えとの判決を求める」という請求の趣旨のみでは、原告・被告間のどの債権・債務が裁判の対象になるか特定されないので、どのような理由に基づき、原告は被告に金銭の支払いを請求するのか具体的に記載する必要がある
訴えの変更とは
143条1項「原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、請求又は請求の原因を変更することができる。ただし、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときは、この限りでない。」
請求の基礎に変更がない限り 請求又は請求の原因を変更することができる
請求の基礎とは何ぞや
請求及び請求の原因とは何ぞや
訴えの変更 = 請求及び請求の原因の変更 であり、請求の基礎とはこれらの基礎ということだろうが明確な定義のようなものはないようだ
この点刑訴の訴因変更の際の公訴事実という概念が参考になりそうではある
請求の原因とは
【裁判書類】請求の原因
請求の原因とは
訴状には,請求の趣旨及び請求の原因(請求を特定するのに必要な事実をいう。)を記載するほか,請求を理由づける事実を具体的に記載し,かつ,立証を要する事由ごとに,当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければならない。」(民訴規則53条1項)として,請求を理由づける事実の記載を積極的に要求している。請求を理由づける事実として記載すべき事実とは,訴訟物である権利の発生要件たる要件事実(請求原因事実)である。
要件事実の記載方法
ある典型契約に基づいて請求をする場合,請求原因として何を主張・立証しなければならないかについては,実務では冒頭規定説がとられている。すなわち,典型契約の場合,民法第3編第2章の「契約」の第2節ないし第14節の冒頭にある規定は,各契約の成立要件を定めたものであり,その要件に該当する具体的な事実を主張・立証しなければならないという見解である
請求の原因とは請求を特定するのに必要な事実 請求を理由づける事実=要件事実
ということのようである。そうすると所有権確認請求では売買に基づくか時効取得に基づくかは請求を特定するのに必要な事実ではなく請求を理由ずけるもの、要するに要件事実に該当するので請求の原因ではない、ということか。
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