民事執行法と抵当権と賃借権

物権法の一般原則 売買は賃貸借を破る

抵当権設定より後に設定された用益権は競売により消滅するのが物権法の一般原則だ、などと言われる。
が、物権法の一般原則が何を指しているのか分からないし、仮にそうだとしても一体なぜ抵当権に劣後する用益権は競売されると消滅するのかその根拠は一般原則ということなのか?
すると、競売ではない通常の売買で不動産が譲渡された場合も当然抵当権設定後の賃借権は消滅してしかるべきだな。
確かに売買は賃貸借を破るとも言いますしね。
もっともこの場合は抵当権があろうがなかろうが関係なく新所有者に対して賃借権は主張できないわけですが、対抗力のある賃借権は主張できる?
この点で対抗力のある賃借権は売買は賃貸借を破らないという一般原則があるのか知りませんが、一般的にはそのように解して良さそうです。恐らく多分。ここにどういう法的根拠があるのかよく分かりませんが。

対抗力のある賃借権は売買を破る

借地借家法では当該物件の引渡しで対抗力ありとしていますが、借地借家法の適用対象外の場合はどうなるのか?
結局のところ賃借権の登記をしておくほかなさそうですね。駐車場の賃貸借

そこで抵当権の場合に戻ると、物権法の一般原則から言えば抵当権設定前であっても、競売によって所有者が代わってしまったらいずれにしろ賃借権を主張することはできないことになる。※対抗力がない場合
ここで、民事執行法をみてみる。

競売後の新所有者と賃借権者

(引渡命令)
第八十三条 執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者又は不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる。ただし、事件の記録上買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、この限りでない。

競売によって代金を納付したものはその時点で所有権を取得するが(同79条)、物件に居座る占有者もいる。
このような場合に引渡し命令を利用できる。

ちなみに競売によって抵当権自体が消滅すると規定されているので、抵当権の効力によって把握されていた賃借権も消滅するのが原則である。

59条の失効の意味

(売却に伴う権利の消滅等)
第五十九条 不動産の上に存する先取特権、使用及び収益をしない旨の定めのある質権並びに抵当権は、売却により消滅する。
2 前項の規定により消滅する権利を有する者、差押債権者又は仮差押債権者に対抗することができない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失う。
3 不動産に係る差押え、仮差押えの執行及び第一項の規定により消滅する権利を有する者、差押債権者又は仮差押債権者に対抗することができない仮処分の執行は、売却によりその効力を失う。

59条1項 消滅するのは抵当権そのものである。
抵当権に対抗できない権利は売却により消滅すると説明されるが、抵当権に対抗できないから消滅するわけではなく、差押え債権者に対抗できない権利は売却により失効するからである。59条2項

抵当権者 差押え債権者 抵当権による競売の場合は差押債権者は抵当権者であろう。従って抵当権者に対抗できない=差押え債権者に対抗できないのでその権利は失効する。

引渡し命令に言う対抗できる権利
59条2項に言う対抗できる権利

そうすると、引渡し命令を申し立てる場合に考慮する買受人に対抗できるかどうかを吟味するまでもなく当該権利は失効してしまっているので引渡し命令が認められる。

従って、抵当権設定の前に設定されていた賃借権であっても少なくとも民事執行法では消滅することになる。※ここで言う抵当権などの消滅とは執行する抵当権ではなく、他の抵当権のことを言っているのだろう。※やはり執行する抵当権のことらしい。「抵当権者に対抗できない賃貸借による占有者は、長期賃貸借権と短期賃貸借権とを問わず、売却によりその賃貸借を失効せしめられる(法59条2項)」(中野貞一郎 民事執行法 改訂版 2021年 青林書院 P601
対抗力のあるものは消滅しないのか?よく分からない。※59条2項の反対解釈により、差押債権者又は仮差押債権者に対抗することができる権利は売却されても効力を失わないことになる。
この点、民法のロジックであれば消滅しないと言えるだろう。執行法83条もその点を考慮しいそうである。

83条但し書きにより、、買受人に対抗することができる権原により占有している場合には引渡し命令は発する事ができないと規定されているが、買受人に対抗できる権原とは何か。

83条の買受人に対抗する事ができる権限とはどういうものか

物権法の一般原則によれば売買は賃貸借を破るのだから、対抗要件を具備していない賃借権は原則として相手にならない。
要するに対抗要件を具備している場合を言うのだろう。
一般的な民事執行法の基本書にはこの点の具体事例は記載されているが、原則論としての記載ははない。
買受人に対抗できるか否かであれば差押えや少なくとも競売前までに対抗要件を具備していれば引渡し命令の相手方とはならないとも考えられるが。ここに59条の失効の問題がからんでくる。
仮に抵当権ではなく、一般債権者が差押えをして競売した場合を考える。
差押えをするということは処分が禁止され、「禁止停職処分の効力自体を否定され」 P399るので結局買受人に対抗できるというためには少なくとも差押え前に対抗力を具備する必要があることになる。

次に、抵当権設定後に賃借権を設定登記した場合はどうか?対抗要件はいつまでに備える必要があるのか?

対抗力の具備の先後で優劣

結局のところ対抗力を得た先後で決しているようである。
売買は賃貸借を破るが、対抗力のある賃借権は破れない。
対抗力の具備の先後で優劣を決める。

そうすると、抵当権の登記後に賃借権の登記をした場合を比較すれば賃借権のほうが劣後し、抵当権により競売された場合は物件を明け渡す義務がある。抵当権が建物賃借権(賃貸借契約)に与える影響とは?
では、抵当権の設定のない不動産を競売した場合はどうなるのか?
この場合は旧所有者と賃借権者との関係になり、賃借権者が登記を具備していれば旧所有者に対抗できるのだから、競売後の買受人にも対抗できるということになり、引渡し命令を発することはできないのか?

「差押」などの所有権にかかる権利の登記がされている賃貸物件
つづく

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