相棒21 第10話「黒いコートの女」
またまた相棒を見ていたら腑に落ちない話にでくわす。
そもそも反町さんあたりのシリーズから脚本の詰めが甘いというか、強引と言うか、ネタ切れなのか話を何個かくっつけて無理矢理複雑にしたような、それでいて捕まる犯人に同情すべき点が多くてなんとも割り切れない話が多くなった。
で、今回の話は「ダイヤ」を探すエロすぎる橋本マナミが主人公。ダイヤだから当然宝石のダイヤかと思うじゃないですか、子供の名前なんですよ。
まずこれがすごく陳腐なんですけどまあいいとして、自分の子供が誘拐されて6年くらい逃亡しながら自分の子供を探しているんですよ。
誘拐されたけど今は幸せに暮らしている子供
でようやく見つけてたらとりあえず幸せに暮らしているわけです。んで子供を連れだす(何度も言いますが自分の子供です)わけなんですが、最終的に未成年者略取誘拐で右京さんと薫ちゃんに逮捕されちゃいます。めっちゃ話をかいつまみましたけど、子供ちゃんはまったくの赤の他人と暮らしているのでこれで誘拐って言えるのか?
逮捕するにしても起訴できるのか?とか法律よく知らない人でも思うんじゃないかと。。。
育てていた人間には何の権利もなさそうだが
いやね、育てていた人が行政から頼まれたとかなんらかの法的根拠があれば別でしょうけど、誘拐した元々の犯人から脅されて子供を預かって結局そのまま育ててたわけです。まあ理屈をこねれば保護責任みたいなのが発生していると言えなくもないですが、実の親が今まで育ててくれてあざーすとか言ってきたら返すのがスジでしょう?
そこで改めて誘拐の保護法益とか判例ってどうなっとんねんとみてみると
一般的な刑法の考え方
これをみて改めて気付かされたのは
刑法的な考え方だと、まず構成要件に該当するかどうかを判断するので、そうすると親権者であろうがなかろうが関係ないわけで、未成年者略取誘拐の故意があって構成要件に該当する行為を実行したら当該罪に問議されるということ。
次に行為者が親権者とか監護権者とかだと違法性阻却事由の問題がでてくる。
また、一体何を保護しているのかという保護法益についても争いがあるわけで(条文には書いてないし)、判例がとっている折衷説も実際はある事例(要は離婚した当事者間)の利害調整的な面が否めないことが露呈する。
確かに自力救済禁止の観点から例え誘拐されたからと言って誘拐し返しても犯罪に問われるとは思うが、ここで誘拐の保護法益をどう捉えるかで窃盗されたものをとりかえす場合との大きな違いが出てきてしまうことになる。
特に、普通に親権者と暮らしている子供を誘拐した犯人のもとから親権者がその子供を取り返した場合は自力救済禁止の観点からしても罪に問う事はできないだろう。
これは保護法益をどう考えてもそうなるはずだ。
しかし、今回のドラマのように6年もの間実の親子のように、しかも幸せに暮らしており、かつ育てていた者が親権者でも監護権者でもない場合は問題となる。
未成年者略取誘拐の保護法益の争い
未成年者の自由のみが保護法益であるとする未成年者の自由説、
監護権者の監護権のみが保護法益であるとする人的保護関係説、
未成年者の自由と監護権者の監護権の2つが保護法益であるとする折衷説、
未成年者の自由と安全が保護法益であるとする未成年者の安全説
今回の事案ではどの保護法益を侵害しているのか
判例は折衷説らしいが、今回の事案では監護権の侵害はない(逮捕された本人に法的には監護権があるものと思われる)
未成年者の自由を侵害しているかどうかも捉え方次第だろうが、侵害している(この場合は取り返そうとする実の親のほうが)と考えて罪に問えるというのであれば監護権者は関係ない。そうなると例えばまったく見ず知らずの第三者の元に子供が自由意志で家出したとしても実の親権者は取り返せない場合があるということになり、そうなると未成年者略取誘拐とは一体なんなのかということになる。※やはり対象が子供であるという点がキモとなる
家出した自分の子供を自力で連れ戻しても逮捕されるのか?
最近はマッチングアプリなどで出会った未成年者を連れまわしたり、家に泊めた場合でもすぐに誘拐となるが、この場合に親が子供を自力で取り返すと逮捕されかねない。もっともこの場合未成年者の安全が侵害されている状況下から親が救い出すという解釈になるのだろうが。
しかし、例えば当該子供が親から虐待されていてオンラインゲームで知り合った誠実な大人の元に逃げ出した、などの場合親がその子供を連れ戻したら罪に問われるのか問われないのか?
判例は折衷説のようだが、もしも家出したり、誘拐された子供でも現状幸せに暮らしている場合(何をもって幸せというかはこの際おいておきます)は、そこから離脱させてしまう行為を行えば実の親でも離婚して監護権がなければ罪に問われることはやぶさかではない。しかし、監護権があったとしても虐待している親自身が取り返した場合は未成年者の自由を侵害しているとも言える。※実際に違法性が阻却されないとされた判例もある
ここが未成年者略取誘拐特有の問題点である。仮に17歳の女子高生が自らの意思でナンパされた男の家に泊まったとしても、いや泊まらなくても数時間男と一緒に行動しただけでも誘拐で逮捕され有罪に持ち込まれるなら結局未成年者の自由はない、と言っていいだろう。
そうすると、詰まる所未成年者略取誘拐の保護法益は親の監護権一択ということになる。
逆に言えば未成年者略取誘拐に抵触しないのは監護権のある者に限られることになるだろう。
判例がわざわざ監護権を持ち出した理由おそらく、そういった権限がない者の支配から取り戻す場合は罪に問議しないための基準かと思ったが、今回のドラマのように実の親が、監護権のない者から取り返しても罪に問われるのはもうわけわかめである。
共同親権者であっても有形力を用いて連れ去った行為で監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情が認められず,行為態様が粗暴で強引なものである場合は違法性が阻却されないとした判示からみると、監護権云々結局は離婚した場合に限っての話であり、子供の自由、安全、安心に暮らすという面から誰と一緒に生活したほうがよいのか、裁判所が実質的に判断しているようにみえる。
折衷説、などと言っているのは業界の人間が勝手に言っているだけの話だろう。
そしてここで気付く。
刑法的な考え方だと、まず構成要件に該当しているかどうかをみるので、親であろうが構成要件に該当していればとりあえず逮捕はできるな(笑)
その後裁判によって違法性阻却事由があるかないかをみる。。。まさに実務もそんな感じだし。
さすが右京さん。法に少しでも抵触すれば問答無用で捕まえる。そのくせ自分は結構な違法捜査をやる(笑)
なのでこの事案でもさもありなんか。
このように考えていくと、これらの学説で議論されている保護法益なども実に薄っぺらい教科書的議論であることが分かる。
裁判所も結局理屈は後付けというやつである。だからこそ学説も錯綜し、この場合はどうなるんだと疑問がわくことが多くなる。(刑法は体系だったものがあるようにみえるが実は理論的には脆弱なものが多い)
司法試験の勉強とは結局のところこういった話を突き詰めて考えて自分なりの論述をすることではなく、こういう議論があってそれらにどういう問題があるのかを知っていることを前提として、とりあえず実務上妥当な結論を答案上に出せるかということなのだろう。
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