司法試験行政法論文採点実感出題の趣旨から振り返って勉強する

平成20年

出題の趣旨
問題

県知事が介護老人保健施設に対して勧告をした事案について,勧告を違法と考え従わなかった施設の代理人弁護士という立場から論じさせる

設問1
勧告不服従の公表を阻止するための法的手段(訴訟とそれに伴う仮の救済措置)に関して,基本的理解を問う
勧告や公表が処分に当たるのかといった検討を,介護保険法に即して行うことが前提
勧告や公表の法的性格を分析することが求められている

処分性の定義を前提として,勧告が処分に当たることを具体的に説明した上で,その執行停止を解答する場合には,勧告の取消訴訟を論じることに加えて,行政事件訴訟法第25条所定の要件について検討する必要があろう

勧告の処分性を否定する場合には,勧告に対して公法上の当事者訴訟を提起するとともに,仮の権利救済手段として仮処分を検討することが考えられる確認訴訟を利用する場合には,確認の利益を中心に詳細な検討が期待される

公表の処分性を肯定した上で,その差止め訴訟,仮の差止めを提案する解答もあり得る
この場合には,差止め訴訟の要件(行政事件訴訟法第37条の4)や仮の差止めの要件(特に,同法第37条の5第2項,第3項)について,法文の解釈や当てはめが的確になされていることが必要となる

公表の処分性を否定し,公表に対する民事の差止め訴訟ないし公法上の当事者訴訟を提案し,仮処分の可能性を検討することも考えられる
民事の差止め訴訟を選択する場合には,差止めを根拠付ける権利について詳細な言及が望まれよう

設問2
調査,勧告の適法性を論ずる問題
帳簿書類等を段ボール箱に詰めて持ち帰った行為が強制力の行使に当たるとすれば,介護保険法第100条の解釈として許容されるのかを検討する必要がある
調査に当たりB県職員が身分証を提示しなかった点について,同法第100条第2項,第24条第3項に違反するのかが論じられなければならない

行政指導として行われる調査を同法第100条の調査に先行させる義務を知事は負っているのかという問題も,検討すべき

調査の違法が認められる場合に,それが勧告にどのような影響を及ぼすのかを検討することも,本問では要求されている

勧告の違法性に関しては,基準違反を内容とする県の指摘について,事実誤認を主張することが考えられる
勧告の手続法的違法
その前提として,勧告にはどのような行政手続が要請されるのかが論じられなければならない
勧告を不利益処分ととらえる場合には,行政手続法の不利益処分手続が適用される
この場合には具体的にどのような手続規制が要求されるのかを明らかにした上で,本件事案でそうした手続が踏まれていたのかを検討

勧告を行政指導と解する場合には,知事の行う行政指導については,行政手続法は適用除外となり,B 県行政手続条例の定める行政指導手続が要求される

採点実感に特筆すべきものなし

平成21年

平成21年 出題趣旨
採点実感
問題
建築主事がマンションの建築確認を行ったのに対し,当該マンションの建築に反対する周辺住民Fらが採るべき救済手段について論じさせるもの
設問1
建築確認に基づく建築を阻止するために考えられる法的手段(訴訟とそれに伴う仮の救済措置)に関して,基本的な理解を問う
資料1において,措置命令や検査済証交付をめぐる行政訴訟は検討の対象から除外されているので,本件確認の取消訴訟を論じることが考えられる
本件確認の処分性,審査請求前置,出訴期間には問題がないとされているので 主として原告適格と狭義の訴えの利益を検討すべき
原告適格については,行政事件訴訟法の条文と判例を踏まえ,いかなる判断枠組みにより,いかなる点に着目して判断すべきかを明らかにした上で,建築基準法及び関連条例の趣旨目的や,本件においてFらが主張する利益の内容性質に即して,原告適格の有無を論じることが必要である
狭義の訴えの利益については,資料1の指示に従い,建築物が完成した場合の問題点を検討することが要求されている
仮の救済措置としては,本件確認の執行停止が考えられる
「重大な損害」の要件を中心に具体的に論じることが必要
設問2
上記法的手段の本案で主張すべき本件確認の適法性を検討させる問題
まず,接道義務違反が問題
本件道路がこの要件を満たしているかを検討しなければならない
次に,本件建築物の地下駐車場と本件児童室の出入口間の距離が問題

手続面では,本件紛争防止条例に定める説明会の開催と,行政手続法に定める公聴会の開催が問題

最後に,本問では,Fが以上の違法事由をすべて主張できるか検討することも求められている。行政事件訴訟法の条文を踏まえ,違法事由ごとに検討を加える必要がある

採点実感
建築確認の根拠条文を丁寧に検討することなく,建築基準法第1条の目的規定とB県中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例の「近隣関係住民」の規定を挙げるにとどめている。建築確認の要件が全く検討されていない答案や建築紛争条例が関連法令に該当するのかといった議論を省いた答案が,相当数見られた
何が個別的に法令で保護されていると解釈できるのか

>この点、建築確認の条文が根拠法令にあたるようだが、なぜなのかよくわからなかった。
とは言え、建築確認の取り消し訴訟なのでまず建築確認の条文が根拠となるということかしら。そこから建築基準法の目的や関係法令を参照せよという意味かな。
解答例https://ameblo.jp/shinshironbun/entry-10620648903.html
関係法令などもかなり詳しく書かれていてこれくらい書けばいいと思われ。採点実感の各指摘もほぼ網羅されているように思われ。

行政事件訴訟法第9条第2項は,法令に違反してなされた場合に害されることとなる利益の内容・性質を勘案することを求めている
利益の内容及び性質に関して原告適格を論じた答案は少なく,
何が個別的に法令で保護されていると解釈できるのか

訴えの利益が消滅する理由が全く述べられていない

執行停止に関して,行政事件訴訟法の要件を解釈した上で,本件を適切に当てはめて利益衡量を行った答案は,極めて少数
効力停止の必要性について論じているものは少ない

条例制定権に関しての理解不足が目立つ

法律に基づいて制定された条例なのか,地方公共団体が自主的に制定した条例なのかといった区別や,その性質の違いを意
識した答案は少数

>何が言いたいのかよく分からなかったが上記解答例をみて理解した。
手続き的瑕疵、要するに自主条例だと行手法が適用にならないから問題となる。完全にアウトオブ眼中

法律条文の趣旨を踏まえて,その解釈を示し,具体的な事実関係を当てはめて結論を出すという,法的三段論法に沿った論述は少なかった
児童室が「児童公園,・・これらに類するもの」(B県建築安全条例第27条第4号)に該当するかについて,条文の趣旨解釈から説明しているものは少なく,条文を解釈するという姿勢に欠けている。

説明会開催義務違反に関しては,手続的違法による処分の取消し可能性についてのみ論じる答案がかなり多かった。建築基準法と自主条例の関係に関して,この点を論じる必要性に関して意識されていないものも少なくない

主張制限については,一通り書き込まれている答案が多かった。しかし,そのような答案のほとんどは,行政事件訴訟法第10条第1項については原告適格と同様に考えればよいといった説明に終わっていた

平成22年

出題の趣旨
採点実感
問題

A村の村長Eが行った村有土地の安値売却に対して,村民Bらが提起することが予想される訴訟について,A村の顧問弁護士の立場から論じさせるもの
住民訴訟の訴訟要件等を検討するとともに,本案における違法事由,つまり本件土地売買契約の適法性を論じる力を試す

設問1
住民監査請求を行っていない村民Dが本件で住民訴訟の原告になることができるのかを検討する必要がある
他の市に転出したCによる住民訴訟の提起について,具体的に論じなければならない
村民Bがこれから住民訴訟を提起する場合に遵守すべき出訴期間についても,言及することが求められる
4号請求として,違法な契約の締結によって村に損害を与えた村長Eに対して損害賠償請求を行うよう,A村の執行機関に求める訴訟が考えられる点も,説明することが求められている

>求められる水準
①村長Eが地方自治法第242条第1項にいう「普通地方公共団体の長」として「違法」な「財産の…処分」(又は「契約の締結」)をしたとされることについて,A村の「執行機関又は職員」(本件ではE)を被告として,この者においてA村がEに対して有する損害賠償請求権の行使をすることを求める内容のもの(義務付け訴訟)であることが押さえられているかどうかを,②他の主要な論点(Bについての出訴期間の遵守,Cについての「住民」要件の充足,Dについての「住民監査請求前置」の充足)への解答とあいまって,優秀な答案であるかどうかを判定する際の目安とした

設問2
同法第96条第1項第6号等の解釈として,議会の議決が存在しない本件において,「適正な対価」が認められるのかを論じなければならない
同法第234条等の解釈を通じて,本件事案における随意契約の許容性を「条文の解釈を踏まえて」詳細に検討することが求められる
地方自治法上,競争入札が要求されている趣旨に言及することや,随意契約が例外とされる趣旨を前提として解釈を行うことが求められる
本件土地売買契約を適法と解釈するのに適した事由として,過疎対策,人口確保対策,税収対策としての本件土地売買の必要性,前年度の売却失敗という経緯,簡単に売却ができない(過疎に悩む)A村の特殊事情,適正な対価の存在などに具体的に言及して,法的評価を行う
本件土地売買契約を違法とする可能性のある事由としては,同法施行令第167条の2第1項第2号等の解釈を通じた,本件事案における随意契約の法的評価,村の幹部関係者や担当部局職員の家族が購入している点での公正性の問題,A村の村民が購入している点での過疎対策としての有用性に係る法的評価,下限の価格を定めていない点(つまり,基準設定をしていない点)での透明性の問題,一部対価免除,対価の適正に関する解釈など
>求められる水準
地方自治法施行令第167条の2第1項第2号を適切に適用し,あるいは,価格の下限の不設定,側溝部分等の対価免除,関係職員の親類への売却,村民による買換えといった事実から,Bが主張すると考えられる違法事由について,村の側の主張やFの立場に立った見解を明確に示していれば,優秀な答案
「適正な対価」とは,一般に,当該財産の時価がこれに当たると解されているところ,このことが基本とされていれば,当該答案は一応の水準にあると判定

設問3
住民訴訟でBらが第一審で勝訴した場合であっても,議会関係者はその後の段階で,村長Eに対する請求権放棄の議決
を行うことを検討していることから,A村の顧問弁護士として,議決の適法性に関して評価を行うことが求められている
議会議決に限定を付していない地方自治法の規定(例えば,同法第96条第1項第10号)や,議会議決を尊重するという民主主義の視点に着目して,議会が請求権の放棄を議決できると説く立場が考えられる。

議会による請求権放棄を議決権の濫用ととらえる見解も成立し得る

>求められる水準
違法な財産の処分をした長に対する損害賠償請求権を放棄するか否かの判断につき,議会に裁量を認めていることが理解されていれば,一応の水準に達しているものとした

採点実感
・ 法的三段論法を習得していない答案が多い
・ 問題の売買契約の適法・違法を論じるに当たり,法令の解釈・適用よりもむしろ各人の一般常識に依拠した判断を示す例が少なくない
一定の視点から事案を分析・整理した上で,法令の解釈・適用を行うという法実務家に求められる基本的素養が欠如していると言わざるを得ない答案が多かったのは,残念である。

字を判読できない答案には閉口した。字の上手下手があるのは当然であるが,そうではなく,読まれることを前提としないかのような殴り書きの答案が相当数あった

「この点」を濫発する答案が少なからずあったが,「この」が何を指示しているのが不明な場合が多く,日本語の文章としても,極めて不自然なものとなっている。

設問1について
(被告を書いていないもの,議会,監査委員などとするもの,Eに対して直接損害賠償請求をするというもの,「怠る事実」の相手方としてEを位置付けるもの,Eに対する賠償命令の義務付けを請求内容とするものなど)が見られた。
・ 出訴期間について触れているものが少なかった。また,出訴期間ではなく,監査請求期間について触れているものが相当数あった。

設問2について
随意契約によることができるかどうかについては,地方自治法第234条第2項を受けた地方自治法施行令第167条の2第1項各号の該当性を具体的に検討すべきところ,どの号に該当するかを論じないで,一般的に,不公正であるか,
あるいは,村長の裁量の範囲を逸脱しているかといった点を論じたものも目立った。

設問3について
判例解釈については,大きく分けて,①住民代表である議会を尊重する立場と住民訴訟による違法の是正を尊重する立場の違いとするもの,②両者は矛盾するものではなく議会の裁量にも限界があるから種々の事情を合理的に検討しなければならないとするもの,③事案の違いとのみ述べるものに分かれ,①と②を統合して,住民訴訟の趣旨との関係で議決権の裁量の限界を述べ,議決権濫用の有無をどのように審査するのかについてまで述べられたものは少なかった

採点実感を読んで思ったのは、まず法律云々以前のところで躓いている人多数だなと思わされた。
字が汚いのはなんとかなるにしても、日本語の使い方を言われてしまうともう小学生からやり直すしかない(笑)
また、住民訴訟というマイナーな分野で一体何を測ろうとしているのかと疑問に思った。
知らなければ解けない問題については確かに条文や資料などが添付されているが、それは現場思考で解けということになり、そういう中で初見に等しいような法文の制度趣旨までさかのぼって骨太な論文にするのはやはり厳しいと思われ。
一般的な言葉ばかり書き殴ってしまうのも分からないではない。
例えば「同法第96条第1項第6号等の解釈として,議会の議決が存在しない本件において,「適正な対価」が認められるのかを論じなければならない」と言うが、資料にはこの条文はないので自分で気づかなければいけない。
勿論司法試験用の六法は参照できるだろうが。

求められる水準というのが示されているが、例えば設問2は「「適正な対価」とは,一般に,当該財産の時価がこれに当たると解されているところ,このことが基本とされていれば,当該答案は一応の水準にあると判定」するとある。
設問2は売買契約の適法性について検討しなければならないが、要するに適正な対価であれば適法性アリとしていいということだろうか?そもそも適正な対価が時価であることが分からなければいけないが。
設問3についても、議会に裁量を認めていることが理解されていれば,一応の水準とされているが、住民訴訟の判例を初見で読んでそれに気付く必要があるのは少しハードルが高いと思う。私見を述べさせて論理的整合性があればよいとするのは分かるが、これでは正解があるのと同じである。

住民訴訟の基礎

改めて住民訴訟のやり方を確認しよう。
住民監査請求・住民訴訟制度について
これを見たら余計混乱しました(笑)
もっともよく分からなかったのが誰に何を請求するのか。また訴訟して勝った場合の後の流れ。
団体の長に対して訴訟を提起して長個人に訴訟告知するという。
本問の場合は、村が損害を受けて、それを村長に賠償させるということでいいのかな。

242の3によると当該普通地方公共団体の長が返還金を請求しなければならない。
そして支払われないときは更に当該普通地方公共団体は訴訟を提起しなければならない。

いわゆる4号請求の場合、誰に対して何を請求するか。条文は

四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。
ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合には、当該賠償の命令をすることを求める請求

執行機関又は職員に対して損害賠償又は不当利得返還請求をする、となっている。

従って、これらの者を被告として訴訟を行って請求内容が容認されたら当該普通地方公共団体の長が、これら被告に請求するということらしい。

(訴訟の提起)
第二百四十二条の三 前条第一項第四号本文の規定による訴訟について、損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合においては、普通地方公共団体の長は、当該判決が確定した日から六十日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得の返還金の支払を請求しなければならない。
2 前項に規定する場合において、当該判決が確定した日から六十日以内に当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金が支払われないときは、当該普通地方公共団体は、当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない。
3 前項の訴訟の提起については、第九十六条第一項第十二号の規定にかかわらず、当該普通地方公共団体の議会の議決を要しない。
4 前条第一項第四号本文の規定による訴訟の裁判が同条第七項の訴訟告知を受けた者に対してもその効力を有するときは、当該訴訟の裁判は、当該普通地方公共団体と当該訴訟告知を受けた者との間においてもその効力を有する。
5 前条第一項第四号本文の規定による訴訟について、普通地方公共団体の執行機関又は職員に損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合において、当該普通地方公共団体がその長に対し当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起するときは、当該訴訟については、代表監査委員が当該普通地方公共団体を代表する。

住民訴訟とは?重要判例も紹介します!

請求権者は、住民監査請求をした住民

監査請求した後の出訴期間が不服がある場合などでいくつかある

住民訴訟は金を払えというだけでなく4つに区分されている

「損害賠償や不当利得返還請求をすることを求める請求について、これを請求内容とする住民訴訟が提起された場合には、その職員又はその行為もしくは怠る事実の相手方に対して、普通地方公共団体の執行機関や職員は、遅滞なく、その訴訟の告知をする義務があります」

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