リーディングケースと思われる岐阜県青少年保護育成条例事件をみてみる。
まず立法事実的には
「有害図書が一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に悪い影響を及ぼし、性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮の助長につながるものであつて、青少年の健全な育成に有害であることは、既に社会共通の認識になつているといってよい。さらに、自動販売機による有害図書の販売は、売手と対面しないため心理的に購入が容易であること、昼夜を問わず購入ができること、収納された有害図書が街頭にさらされているため購入意欲を刺激し易いこと~云々かんぬん」
立法事実と思われるものの中に既に有害図書がある。有害図書がなぜ青少年の健全育成を阻害しているのかは分からない。有害図書から青少年の健全な育成を守るために本条例はあるという事で、例の如く立法事実を吟味してもあまり役には立たない。
この立法事実と規制手段を次に検討する。
~青少年の健全な育成を阻害する有害環境を浄化するための規制に伴う必要やむをえない制約であるから、憲法二一条一項に違反するものではない。
試験の採点的に言えば具体的な事例を丁寧に拾って当てはめていないからこれを法の適用とは言えないと言われそうな当てはめになっているが、表現の自由に対する規制なので「必要やむをえない制約」としている。
立法事実と言われるもので立法理由を確認して、それに伴う規制手段を検討するわけだが、このやり方ではほとんど合憲になる事が分かる。
平成20年の出題の趣旨では18歳未満の者の知る自由への制約などに言及されていたので、18歳の者に対して特別な判断枠組みがあるのかという意味で検討してみたものの本判決では特にそれはないようである。
次に校則によるバイク制限
いわゆる三ない原則を定めた校則に違反したことを理由の一つとしてされた私立高等学校の生徒に対する自主退学の勧告が違法とはいえないとされた事例
この事案は法令の違憲性を争ったものではないため、純粋な憲法訴訟とは違う。
「本件自主退学勧告は憲法一三条、二九条、三一条に違反する旨をいうが、」
学校側の処分が憲法上の権利保障規定などに違反しているとして訴えている。
裁判所はまず憲法の規定は私人間に直接適用されない旨述べる(本学校は私立である)。
その後原審の事実認定などについての言及があり、
「原審の確定した事実関係の下においては、本件校則が社会通念上不合理であるとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができる」としている。
判断の基準は社会通念となっている。
憲法上の判断は何もなされておらず、校則は社会通念上合理性があるから違法、或いは不当ではないというところだろうか。判決から30年以上たった今なら差し詰め違法と判断されても不思議ではない。
また、私立ではなく公立であったら判決はどうなっていただろうか。
いずれにしろ、一般的によく言われているパターナリズム的な考えはまったくないと言ってよいが、H20年の採点実感を見ると「18歳未満の者の保護という立法目的によって,表現の自由の保障の程度や範囲が成人の場合と異なってどの程度緩和されるのかという検討が必要である」とあるので、結局のところ違いがあるということだろう。
そして、さらに「本問は,表現の自由の制約に関する一般的な審査基準を修正する必要があるのかどうかを問うものである」と、あるのでやはり18歳未満の者に対して権利を制約するような立法については審査基準を若干緩めるという認識で良さそうである。多分、この点について明確にしている判例はないと思うし、採点実感でも触れられていない。
一つ気になるのは「私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものでない」として、過去の判例を引用している点。一般的には私人間には直接適用できないが、憲法の趣旨を民法90条や709条などに反映させるという間接適用説が通説と言われているが、判例では違うのか?どうやら何やら勘違いをしているようである。
憲法上の権利と私人間
憲法上の権利が私人間で問題になった事案の一覧→https://www.foresight.jp/gyosei/column/private-individual/
判例上もどうやら間接適用でよさそうだ。校則バイク事件の判例はあくまで類推適用はできないと言っており、間接適用できないとは言っていない。そうするとこの事案ではなぜ間接適用に言及しなかったのか。間接適用するかしないかが裁判官の胸先三寸ならこれはこれで問題がありそうだが。
判例が引用していたのは三菱樹脂事件
そもそも判決文には憲法上の規定を間接適用などという文言は使われておらず、民法1条や90条の適切な運用によって述べているだけである。これを一般的には間接適用ないし間接効力を認めているというようである。
また、女子若年定年制事件では、「性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法九〇条の規定により無効であると解するのが相当である(憲法一四条一項、民法一条ノ二参照)」として、これも間接適用の一つにあげられるようである。
憲法は対国家であって、私人には直接適用されないから差別も許される、などと言う理屈がまかり通るはずがない。だとすると憲法は画に描いた餅に過ぎない。
そもそも憲法上の権利であっても私人に直接適用されるものもある。