知識の再確認のために過去問をやっているので本問のような完全現場思考パズル問題はやっても意味がないが、一応やってみたところ華麗に間違える。
問題形式に慣れるとか慣れないとか、知識があるとかないとか以前の問題であることは明白。
〔No.49〕 「甲は,真犯人でないのに,殺人事件の捜査対象にされた。乙は,甲が捜査対象となっている
ものの客観的・合理的判断によればその嫌疑はない旨確信していたので,丙に対し,警察署に出頭して丙
自らが真犯人である旨の虚偽の陳述書を提出するように唆したところ,丙は警察署に出頭しその行為に及
んだ。その際,丙は,甲がその真犯人であって捜査対象となっている旨思い込んでいた。」との事例にお
いて,乙及び丙の罪責に関し,見解,結論及び根拠の組合せとして正しいものは,後記1から5までのう
ちどれか。
【見解】
刑法第103条の「罪を犯した者」の意義について
Ⅰ 真犯人に限るとする見解
Ⅱ 真犯人のほか,犯罪の嫌疑によって捜査又は訴追中の者を含むとする見解
Ⅲ 真犯人のほか,隠避行為がなされた時点で,客観的かつ合理的な判断によって真犯人であると強
く疑われる者を含むとする見解
【結論】
a 丙に証拠偽造罪のみ,乙に証拠偽造罪の教唆犯のみがそれぞれ成立する。
b 丙だけに犯人隠避罪のみが成立する。
c 丙に犯人隠避罪のみ,乙に犯人隠避罪の教唆犯のみがそれぞれ成立する。
【根拠】
ア 条文の文言に忠実に解釈すべきである。
イ 犯人隠避罪の適用に当たり,国家の刑事司法作用を過度に保護する必要がない。
ウ 行為者が真犯人でないと信じた場合でも処罰できるとしなければ,刑事司法作用が害される。
エ 犯人を特定する陳述書をその特定が虚偽であるとの認識を有しながら作成すれば,証拠偽造罪の
構成要件に該当し得る。
オ 陳述書は供述を書面化したものだから,証拠偽造罪にいう証拠に当たらない。
1.Ⅰaアオ 2.Ⅰcアエ 3.Ⅱcイエ 4.Ⅲbイオ 5.Ⅲcウオ
(参照条文)
刑法第103条 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者(中略)を蔵匿し,又は隠避させた者は,二年
以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
同法第104条 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し,偽造し,若しくは変造し,又は偽造若しく
は変造の証拠を使用した者は,二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
そもそも条文まで問題文に列挙してある。
問題文をよく読んでも特別な判例知識などが問われているわけでもない。
正答率は54.4%と微妙な感じである。
また正答は4だが5を正答とした人が多いそうだ。何を隠そう私も5を正答とした(笑)
解説では4と5を可能性的に残したからだとあったが、まさにその通りである。
前提文をきちんと読みつつ自信を持って間違えているのである。
これはなぜか?
4はⅢb、5はⅢcとつながっている。
Ⅲの見解をもとにしてb丙にだけ隠避罪が成立する
Ⅲの見解をもとにしてc丙に隠避罪のみ乙に隠避罪の教唆のみ成立する
この2つのうちで自信をもって5にしたわけである。
しかし、前提文には乙は甲が捜査対象となっているものの客観的・合理的判断によればその嫌疑はない旨確信していた、とあり、Ⅲは隠避罪の対象となる犯人は真犯人のほか,隠避行為がなされた時点で,客観的かつ合理的な判断によって真犯人であると強く疑われる者を含むとある。
この点を結果的にミスリードしたと言えるだろう。Ⅲの見解からは真犯人でなくても強く疑われれば103条の対象となるが、強く疑われていなければ対象となりえないことになる。
5を選択した人の多くは恐らく4と5まで行きついているはずで、となると前提文もきちんと拾っているはずである。
正答が4ということなので乙にはⅢの見解からは隠避教唆が成立しないということになり、5を選択した人は問題文をきちんと読んだうえで成立したと判断したと言える。
この差が一体どこからくるのか?恐らくこれが常連落ちの一つのカギのような気がするので少し掘り下げてみたい。
乙に隠避教唆が成立しないということは乙を対象とした場合に「隠避行為がなされた時点で,客観的かつ合理的な判断によって真犯人であると強く疑われる者」に甲は該当しないという意味なのか?
それとも犯罪の故意が阻却されるという意味なのか?素直に捉えれば該当しないという意味なのだろうが「隠避行為がなされた時点で,客観的かつ合理的な判断によって真犯人であると強く疑われる者」という要件が人によって変わってくる基準と言うふうになる。丙は「甲がその真犯人であって捜査対象となっている旨思い込んでいた」から「,客観的かつ合理的な判断によって真犯人であると強く疑われる者」に該当するということなのだろう。
違法性のなんとか、故意がどうのとか、共犯とかそんなものはまったく関係なく問題文をそのまま読んで解く問題だったわけだが、だとするとなぜ乙に隠避教唆が成立すると判断したのか?
まず、Ⅲの見解がⅠ、Ⅱの見解より対象が広くなっている点があげられる。このことにより漠然としたイメージが残る。
そして、これが一番の理由だろうが、個々人がどう思うかではなく、捜査機関などがどのような見解を持っているかが問題となっているのだと思っていたふしがある。
従って、乙がいかに犯人ではないと思っていたとしても公的機関が捜査の対象にしている以上『客観的かつ合理的な判断によって真犯人であると強く疑われる者』に該当すると言える。また、このように考えると丙がどう考えていようが丙にも隠避罪は成立することになり特に問題はない。
で、5にしたのではないか?
少なくとも私はそのような思考の流れだったわけで、正答率が低いのも頷ける話である。完全に事務処理能力を問うているような問題で、勿論法律問題は論文で問えるからそれでいいのかもしれないがなんとも腑に落ちない問題である。
しかも、いかようにも捉えようがある問題でもある。こういた事務処理能力を単純に問う問題を出すのは構わないがもっと前提とか基準など誤解が起きないように明示すべきではなかろうか。
論理パズル問題の思考の流れ
※追記 質の悪い論理パズル問題
約3か月ほどたって復習をして、また間違える。。。(笑) つける薬はないようだ。。。
さて、前回の記事をざっと読んで気づいたのは、解き方が今回は違っていたようで(違う観点から解いていた)最終的に4か5に行きついたのではなく、まず4にいきついて、ミスをして5を選択したということであり、そうすると解き方としては今回の方でよかったということになる。
問題文の前提条件に不服があってもそのまま受け入れる
まず前提として、「甲は真犯人ではない」。この事は誰かの考えではなく、事実である。
そして、乙は客観的合理的判断で甲が真犯人ではないと考えている、ということが前提である。
また、丙は甲が真犯人だと思っている。という事が前提である。
見解は要件と読み替える
見解として提示されているのは要するに犯罪構成要件の一つの見方であるから、これに問題文の前提をあてはめていく。
この見解は103条についてのものであり、104条については何も言及していないから104条の成立については事実を機械的に当てはめていく必要がある。
ここで注意が必要なのは真犯人だと思っているとか、思っていないとかいう問題文の前提条件はこの104条の成立には直接かかわらないという点である。
あくまで見解は103条の成立に関してであり、104条の他人の刑事事件に関しての話ではないからである。
根拠は置いておき、当てはめをやる
法的三段論法的に言えば、大前提→小前提→結論 であり、根拠とか理由はそもそも関係ない。
本問の場合で言えば小前提が見解ということになるので、当てはめて結論をだしていくと、
Iはaと結びつく
Ⅱはどれとも結びつかない、というか選択肢が1つしかなく検討は後回しでよい
Ⅲは問題文の表現からすると乙には隠避が成立しないということを言いたいのだろう(実際はおかしいのだが)。そうするとbに結び付きそうだが、ここでちょっと疑問に突き当たる。隠避罪のみ、ということだが証拠偽造罪はどうなるのか?
この点、隠避が成立すれば証拠偽造罪は択一的だとか吸収だとかで成立しないという、そういう理解でいいのだろうか。
多分そういうことなのだろう。
確かに同じ行為で二つの罪が成立するわけはない(笑)
となると、Ⅲとcは結び付かないのでこの時点で肢5は外れてしまうのだった。。。
解き方の気づき
真犯人だと思ったとか、思わないとか、被疑者が合理的に判断した場合が要件に取り込まれるのはおかしいのだが、司法試験の刑法パズル問題はそこは割り切って解かないと答えがでない。
刑法の問題ではなく一種のクイズと捉えたほうがよい。本問もほぼほぼ刑法の知識は不要。
最後罪数が地味に影響してくるが、これも勘のいい人であれば刑法を勉強していなくても答えにたどり着けるだろう。
基本的に正答率が50%前後、あるいはそれを切るような問題は悪問と言ってもいいと思う。
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