行政処分の裁量について

条文には裁量があるとは書かれていない

平成23年の採点実感にこんなのがある。
「本件許可に関して法律が行政庁のどのような判断について裁量を認めている可能性があるかを,法律の文言及び趣旨・目的を正確に把握した上で検討できているか」

法律に行政庁には裁量がありますよ、と書かれていれば話は簡単だが、条文だけをざっくり見ても裁量があるのかないのか分からない事が多い。
また、裁量があるとしてもそれは何のどの部分についての裁量を言っているのか。

裁量についての学説ざっくりまとめ

結局のところ条文からまずはそれを推し測らなければならない。
ケースブックには行政裁量関連の判例として8つ掲載されている。
冒頭には裁量についての簡単な解説があるが、分かりにくい事この上ない。
学説はこうで、現在はこうで、結局何がいいたのかは分からない。要件裁量だとか効果裁量だとか。

いずれにしろ、それが条文で示されているわけではない。

古典的学説
羈束行為 要件内容が法令に規定
裁量行為 行政庁の判断にゆだねる

 裁量行為 – 法規裁量(羈束裁量) 司法審査の対象
      \ 自由裁量(便宜裁量) 司法審査の対象にはならない

要件裁量と効果裁量は自由裁量の判断に使うものさしである

法規裁量と自由裁量の区別
 形式説(要件裁量説) 要件が定められていないか公益のためといった抽象的な目的で定めている場合に自由裁量とする
 実質説(効果裁量説) 法定要件の認定に関する行政裁量(要件裁量)は否定。自由裁量は処分を行うか否かの判断のレベルであり、国民の権利自由を制限する処分については自由裁量を否定。国民の権利自由と無関係な処分や、国民に権利利益を与える処分は原則として自由裁量とする。
条解行政事件訴訟法第三版P508

とはいえ、行訴法30条により自由裁量だとしても裁量権の範囲をこえ又はその濫用があればその処分は取消せるようになったため自由裁量かどうかは相対的なものになった。
現在は裁量の問題を分析する場合は個別の行政処分がなされる際の判断過程ごとい検討するようになってきている。

ということで、裁量とはどういうものか、或いはどんなものに裁量があるのかという問題には決着がついていないと言えるから、論文などで問題が出たた時は個別具体的に検討するしかない。

判例概観

とりあえず判例を見てみよう。
リーディングケースとされるのはマクリーン事件。類似の法領域としては旅券発給処分における発給拒否事由該当性の判断の裁量性を認めた判例最判昭44.7.11民集23.8.1470 
似たような判例に帆足計事件があるが、これは裁量云々は論点になっていないようである。

科学的、専門技術的な判断を必要とされることから要件裁量を認める場合
温泉掘削許可最判昭33.7.1民集12.11.1612
伊方原発訴訟

判例を概観すると、特定の法領域に特有の裁量がありそうにも見えるが、結局はケースバイケースだろう。
勿論短答対策としては各判例を抑えておかなければならないから、短答の過去問もあわせて後程随時検討しよう。

裁量についての審査基準

裁量があるとしてその審査基準はどうなるのか?どんな場合にその裁量が違法とされるのか。
この点、ケースブックには裁量統制の基準とか判断過程審査などとして説明されているが、このような基準に当てはめて裁判所は判断しているものではないだろう。
このケースは事実誤認だからとかこのケースは判断過程審査だ、などとまずそれがありきではないはずだ。
そういう意味でこういった一般的抽象的な基準を大上段にまず構えて論述するのはよくないと思われる。試験委員がもっとも嫌いそうである。
論文では似たようなケースの判例を記憶の片隅から引っ張り出して、その判例の審査方法がそのまま使えるのか、アレンジして使うか、なぜその判例をそうやって使うのかを個別具体的に論じれば一応の水準には達するはずである。と、短答落ちが申しております(笑)

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