利益相反取引と競業取引

利益相反取引と競業取引

利益相反取引

制限対象
直接取引 会社と取締役の取引 取締役自身が行う(自己取引)
               第三者のために行う取引

間接取引 ※会社が取締役の債務を保証する行為など 債務者である取締役と直接取引しているわけではない

承認機関
取締役会のない会社 株主総会 356
取締役会のある会社 取締役会 365  司法書士スタンダード合格テキストP89

利益相反取引にあたる行為とは

設問2でも利益相反取引がでてくるが、利益相反取引とだとは気づかなかった(笑)
つまり何も分かっていないらしい。

まず基本的には利益相反取引自体は禁止されていない。利益相反にみえる、あるいはあたるような場合であっても会社にとって必要な場合もあるから、というのが理由らしい。リーガルクエスト会社法P203
しかし、この説明ちょっと腑に落ちない。
会社法の体裁では利益相反行為を行うには株主総会なり取締役会なりの承認を得ればよいから確かにそうである。
民法では108条で利益相反行為を原則禁止しているが、例外的に許容される場合があるという体裁である。
また、利益相反にみえるものでも利益相反にあたらない場合がある、いわゆる外形説https://www.sn-hoki.co.jp/をとる。
会社法では原則的には利益相反行為を行えるが、承認を必要とする。承認がなくても原則有効なわけだが(笑)※心裡留保説
そして、利益相反にあたるような行為の要件が不明確で、何が利益相反にあたるのかは解釈に委ねられるという会社法おきまりのパターン。何が利益相反にあたるか分からない場合もあるのに前もって承認を必要とするというのもおかしな話である。
もっとも利益相反がどういう行為か分からないから、利益相反を禁止するような規定も置くことができないわけか。なっとく(笑)

(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。

利益相反取引自体は禁止されていないという建前だが、2項で承認を受けた場合に無権代理とはならないとしているように読める。ということは承認を受けていない利益相反取引は、無権代理という反対解釈もなりたつところであるが、どの本を見てもそんなことは書いてないので思い過ごしのようだ(笑)

(自己契約及び双方代理等)
第百八条 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

承認が必要な取引

取締役が自己または第三者のために会社と取引する場合 356①2
※第三者の為にとは、取締役が他の自然人や会社を代理、代表する場合を含む リーガルクエスト会社法P203
①会社が取締役の債務保証をする場合、②会社が取締役以外の者との間で会社と取締役の利益が相反するような取引を行う場合 356①3
②についての具体例は手持ちの本にはなかった(笑)
本問では一体どの部分が利益相反になるのか?
平成20年度新司法試験論文民事系第2問参考答案
「本件取引は、甲社をAが、乙社をBがそれぞれ代表して行われたものである。従って、Aは乙社の取締役であり、Bは甲社の取締役であるから、当該取引は甲乙両社にとって「取締役が…第三者のために株式会社と取引をしようとするとき」(356条1項2号)にあたる。そして、両社において取締役会の承認は無い。」
やはり価格の不自然な取引の部分だが、その理論構成が腑に落ちない。
356①2なので直接取引ということになり、第三者のためにあたるということだろう。第三者の為にとは、取締役が他の自然人や会社を代理、代表する場合を含むが、Aは乙社の取締役だが乙社を代表して甲社と取引したのはBである。またBは甲社の取締役でもあるが、甲社を代表して乙社と取引したのはAである。
第三者のためにの趣旨は、A会社と他の会社が取引するときでも、A会社の取締役が他の会社の代表だったり代理だったりした場合の事だと思ったのだが。
平成20年度新司法試験 会社法 コメント求む!
なるほど。Aは乙社の代表権ももっていた(笑)
複数代表という、さすが試験委員は抜け目がない、否、どれだけ問題ちゃんと読んでいないんだと(笑)

競業取引

競業取引する場合は株主総会または取締役会の事前承認が必要 356①1、419② ※100%子会社の場合取締役会の承認不要と解される 実務会社法講義P353
ある程度の包括承認は許されると解される

取締役会がある場合は事後遅滞なく取締役会に報告する 365②

利益相反や競業取引を行った場合の責任は

承認を得ない競業取引

承認を得ていなくても当該取引には影響がない。
当該取引により取締役又は第三者が得た利益の額を損害と推定し、取締役に損害賠償請求できる 423①②
※承認を得て取引を行い、損害が生じた場合どうか?
一般的な感覚からすれば承認を得ているから責任は生じなさそうである。短答にこんな問題が。

〔第42問〕(配点:2)
取締役の競業取引又は利益相反取引に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№48])
ア.判例によれば,取締役会設置会社において,取締役と会社との間の取引が株主全員の合意によってされた場合には,利益相反取引としての取締役会の承認を受けることを要しない。
イ.判例によれば,株式会社の事業の部類に属する取引に当たるか否かを判断する場合には,株式会社が現に行っている事業との市場での競合性を基準として判断し,仕入先の競合を考慮する必要はない。
ウ.取締役が自己のために取締役会設置会社でない会社と取引をしようとするときに承認を受けなければならない株主総会の決議は,特別決議ではなく,普通決議である。
エ.取締役会設置会社の取締役が取締役会の承認を受けて会社の事業の部類に属する取引をしたときは,その取引によって当該会社に損害が生じても,当該取締役は,会社に対する損害賠償責任を負わない。
オ.取締役会設置会社の取締役が会社の事業と同じ種類の事業を行っている他の株式会社の業務執行者に就任するためには,当該取締役会設置会社の取締役会の承認を受けなければならない。
1.ア ウ 2.ア エ 3.イ ウ 4.イ オ 5.エ オ

正答は1
考える肢で、肢のエが×になっていたが×でよさそうだ。

承認を得る意味とは

つまり承認を得ていても会社に損害が発生すれば損害賠償をしなければならない場合があるということになるが、だとすると承認の意味は?⇒423②の適用の有無 承認を受けずに競業取引を行った場合は当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額を損害の額と推定する

承認を得ていても任務懈怠があって損害が発生すれば損害賠償しなければならない
利益相反についても同じ

利益相反取引の承認の効果

利益相反取引する場合は株主総会または取締役会の事前承認が必要 356①2、365①
承認を得ているかどうかは有効無効の問題
※承認を得て利益相反取引を行っても任務懈怠が推定される。スタンダード合格テキスト商法会社法P126

承認を得ない利益相反取引の効果

対外的には原則有効 心裡留保 
対内的には会社が無効主張できる

事後承認可能と解される理由 
356②が会社の承認を受けた直接取引には民法108条を適用しないとしていることから、反対解釈として、承認を受けないでした取引は一種の無権代理行為として無効となる。(最判昭43.12.25民集22.13.3511頁)実務会社法講義P355

任務懈怠の推定される役員など

承認を受ける義務のある者
取引を決定した取締役
決議に賛成した取締役
決議に参加した取締役は異議をとどめない限り、決議に賛成したものと推定される369⑤

取締役の一般的義務と任務懈怠、過失の有無

善管注意義務

(株式会社と役員等との関係)
第三百三十条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
(執行役の選任等)
第四百二条 3 指名委員会等設置会社と執行役との関係は、委任に関する規定に従う。

民法
(受任者の注意義務)
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

忠実義務

(忠実義務)
第三百五十五条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。
(執行役の監査委員に対する報告義務等)
第四百十九条 2 第三百五十五条、第三百五十六条及び第三百六十五条第二項の規定は、執行役について準用する。この場合において、第三百五十六条第一項中「株主総会」とあるのは「取締役会」と、第三百六十五条第二項中「取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号」とあるのは「第三百五十六条第一項各号」と読み替えるものとする。

会社法355条の規定は、通常の委任関係に伴う善管注意義務を敷衍し、明確にしたにとどまるものであり、それとは別個の高度な義務を規定したものではない。最判昭45.6.24民集24.6.625頁

何が忠実義務違反にあたるかは判例で確認しよう。

取締役の責任

会社法の条文構造というか体裁では、取締役の誰に対する責任か、あるいは何の規定について、どんな責任を負うか、というものが、ひとまとまりにされている項目もあれば、責任あるいは義務からみてひとまとまりにされているものもあったりするので、どこに何の規定があるのか知らないと条文だけから探すことは難しい。
だから勉強するのだよ、と言われれば返す言葉もないが。

任務懈怠という責任

会社に対する責任

例えば、役員等の損害賠償責任 として節にまとめてあり、これを一般的に任務懈怠責任などと言っているようだが、任務懈怠と過失の関係は任務懈怠について過失があるかないかを考えているようで、要するに当該任務執行に関して過失があるかないかということのようだ。
この点、会社が任務懈怠を証明し、それに加えて過失も証明する必要があるのか。
立証責任が転換されているとされるものもあるが、任務懈怠を推定するものだったり、過失自体の証明が必要なのか不要なのか分かりづらい。

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
3 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役
二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)
4 前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。 

取締役の損害賠償義務発生の要件

参考 実務会社法講義P361

① 任務懈怠行為 一般規定 423① 
任務懈怠+損害(任務懈怠と損害に因果関係必要) これらの証明責任は会社 
これに加えて役員の帰責事由も必要だが、役員側が帰責事由がないことを立証すれば免責される。
※任務懈怠と過失(帰責事由)を別個に捉えた場合は立証責任が転換されているとみることもできるが。

※競業取引 承認を受けない場合は競業取引で得た利益を損害額と推定423②

②過失推定 利益相反取引 423③ (株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する) ※過失推定と記載されているが、条文では任務懈怠を推定するとされているので過失と任務懈怠を同義に捉えているものと思われる

③無過失責任 利益相反直取引(自己の為の取引のみ)428① 中間責任無過失責任であり、(任務を怠ったことが当該取締役又は執行役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない)
また、 428②により(責任の一部免除)425(取締役等による免除に関する定款の定め)426(責任限定契約)427は適用されないので責任を免除できない。

第百二十条(株主等の権利の行使に関する利益の供与)も任務懈怠の一つなのか?
利益供与への関与が任務懈怠にあたるかという判断は経由せずに責任が認められる。リーガルクエスト会社法P220
その意味では過失推定と言ってもいいかもしれない。
とは言え、利益供与した者は無過失責任で、それ以外に関与した者は無過失を立証すれば免責される120④但

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