口頭弁論終結後の承継人

訴訟物と係争物の譲受人

承継の意義については学説が錯綜しているので結論をまずはっきりさせ、既判力が及ぶものと及ばないものを覚えたほうが早い。

〇訴訟物(訴訟物となった権利義務)の譲受人に既判力が及ぶのは争いがない
〇係争物の譲受人も既判力が及ぶ

訴訟物たる権利関係の実体法的性質

訴訟物である権利関係の実体法上のものに関連しているから、一見すると承継人にあたるようなものあっても該当しない場合がある。

「特定の土地明渡請求訴訟において、賃貸借契約の終了を理由とする場合には、その被告適格は当該契約の借主に限られ、目的物の現在の占有者が何人であるかは関係ないから、訴訟中借主たる被告が第三者に占有を移転しても借主は被告適格を失わない反面、
標準時後に占有の移転があれば判決の効力は新占有者に及ばない(口頭弁論終結後の承継人にあたらない)。
これに対し、所有権に基づく返還請求においては、目的物の占有者ないし妨害物権の所有者が被告適格を有するのであるから、被告から妨害物権を譲り受けたものに対しても、判決の効力が及ぶことになる。」民事訴訟法講義案P286

口頭弁論終結後の承継人への既判力拡張

Y1とAの通謀により、Aが登記をしていた
Y1が登記を戻せと訴える ⇒ 勝訴
しかし、A名義の土地をX1が善意で落札し登記
Y1は、X1らは前訴口頭弁論終結後の承継人であるとして,名古屋地裁からX1らに対して執行できる旨の承継執行文の付与を受け,登記を得る
X1らは,この承継執行文付与は違法として「所有権確認請求」、所有権移転登記手続きをするように求めた

普通に考えるとX1は115条①3にあたりそうである。
しかし、元々通謀虚偽表示なので、そもそもXらは善意の第三者であってY1は無効を主張できないのがスジである。
にもかかわらず民訴を形式的に適用すると民法の規定のようにはならない結果となる。
どうなるのかはさっぱり分からないので判例をみよう(笑)
結論から言うと、X1は承継人にあたらないそうだ。なぜか?判決文を見てもその理由は判然としない。これはいわゆる逃げの判決だな(笑)

48年判決上告人Aは、本件土地につきD名義でなされた前記所有権取得登記が、通謀虚偽表示によるもので無効であることを、善意の第三者である被上告人に対抗することはできないものであるから、被上告人は本件土地の所有権を取得するに至つたものであるというべきである。このことは上告人Aと訴外Dとの間の前記確定判決の存在によつて左右されない
そして、被上告人は同訴外人の上告人Aに対する本件土地所有権移転登記義務を承継するものではないから、同上告人が、右確定判決につき、同訴外人の承継人として被上告人に対する承継執行文の付与を受けて執行することは許されないといわなければならない。

なんとでも解釈できるので結論だけ理解しておくほかない
各学説からの帰結では話にならない。

通謀虚偽表示において、善意の第三者は承継取得するのではないと考えると確かに承継人にはあたらないとなる。
この点民法的にどうだったか?よく分からない(笑)
恐らく訴訟物を承継しているわけではない、むしろ逆だとみているのだろう。
※判例は法定承継取得説のようです。http://blog.livedoor.jp/kosekeito/archives/minpou94jou.html最高裁昭和42年10月31日判決
承継取得というと誤解しそうですが、虚偽表示をした者から善意の第三者が取得するという形式なので、口頭弁論終結後の承継人にはあたらないという理解ができます。

実体法的観点での通謀虚偽表示における既判力の拡張の有無

参考になるのは実体法的観点だろう。
特定の土地明渡請求訴訟では、賃貸借契約の終了を理由とする場合は当該契約の借主としての地位が承継されず、単なる占有者に対しては既判力は及ばない。
これを48年判決の事案でみると、通謀虚偽表示に基づく登記が無効である、という実体法上の権利関係は当該原告と被告間にしか及ばないから、標準時後の善意の第三者はその権利関係を承継するものではない。
従ってこの場合、口頭弁論終結後の承継人にはあたらないと考えるのがもっともスジが通っている。
もしも、承継人にあたり既判力が及ぶのであれば上記土地明渡請求においてでも既判力が及ぶとするのがスジであろう。
この点、訴訟継続中の訴訟承継の場合は別問題である。
特に固有の攻撃防御方法があるとかないとか持ち出さなくても論理的整合性は得られる。

既判力というと、真っ先に判決理由中の判断に既判力は及ばないと考える。
すると、通謀虚偽表示により無効だから、という理由は関係ないから、などと考える。
既判力がまず何かを考え既判力が及んでいないからその部分は関係ないことを前提として、承継人にあたるかどうかを考えている。
そうではなく、まず承継人にあたるかどうかを確定させ、その上で既判力として何がどう及ぶのかを考えなければいけない。

予備H29〔第42問〕(配点:2)
BがAから賃借した土地上に建物を建築し所有していたところ,Aは,Bに対し,土地賃貸借契
約の終了に基づく建物収去土地明渡請求訴訟を提起した。この場合に関する次の1から5までの各
記述のうち,誤っているものを2個選びなさい。(解答欄は,[№46],[№47]順不同)
1.民事訴訟法第50条の「義務承継人」の範囲を訴訟物たる義務の引受けをした者と解すると,
口頭弁論終結前にBがCに当該建物を貸し渡した事案では,Cに訴訟を引き受けさせることは
できないこととなる。
2.民事訴訟法第115条第1項第3号の「承継人」の範囲を訴訟物たる権利の譲受け又は義務
の引受けをした者と解すると,口頭弁論終結後にBがCに当該建物を貸し渡した事案では,C
に確定判決の効力が及ぶこととなる。
3.民事訴訟法第50条の「義務承継人」の範囲を紛争の主体たる地位の移転を受けた者と解す
ると,口頭弁論終結前にCがBに無断で空き家だった当該建物に入居した事案では,Cに訴訟
を引き受けさせることができることとなる。
4.民事訴訟法第50条の「義務承継人」の範囲を紛争の主体たる地位の移転を受けた者と解す
ると,口頭弁論終結前にBがCに当該建物を売却してこれを引き渡し,その所有権移転登記を
した事案では,Cに訴訟を引き受けさせることができることとなる。
5.民事訴訟法第115条第1項第3号の「承継人」の範囲を紛争の主体たる地位の移転を受け
た者と解すると,口頭弁論終結後にBがCに当該建物を売却してこれを引き渡し,その所有権
移転登記をした事案では,Cに確定判決の効力が及ぶこととなる。
(参照条文)民事訴訟法
(義務承継人の訴訟引受け)
第50条 訴訟の係属中第三者がその訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継したとき
は,裁判所は,当事者の申立てにより,決定で,その第三者に訴訟を引き受けさせることが
できる。
2・3 (略)
(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)
第115条 確定判決は,次に掲げる者に対してその効力を有する。
一 当事者
二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人
四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者
2 (略)

正解2と3
肢2と肢5が口頭弁論終結後の承継人の問題。ややこしいのは肢2と肢5で承継人の定義が違う点である。

承継する側ばかりに目がいきがちだが、実際は実体法上の請求権が何に基づいているのかが重要である。

係争物の譲受で既判力が及ぶロジック

※訴訟物の移転と紛争の主たる地位の移転の違い
肢5は、訴訟物はいいとして紛争の主たる地位という意味が問題となる。
肢5は正解としては訴訟を引き受けさせることができるという。
すると、紛争の主たる地位というのは要するに訴訟を引き受けさせる、あるいは承継させることができるような地位ということになろう。
紛争の主たる地位という日本語の意味、定義が国語辞典にのっているわけではない。
この日本語の意味するところがどういうことなのか理解できなければ正解を導けない。
前述のように係争物の譲受でも既判力は及ぶが、肢5はまさにその例となる。
他方肢2は係争物を譲り受けてはいない。
別の見方からすれば、
係争物を譲り受けると紛争の主たる地位が移転するということになろう

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