H24 行政法 論文 出題の趣旨 採点実感

出題の趣旨
都市計画の適法性を争い,又は建築制限に対する補償を請求する事案における法的問題について論じさせる
設問1
Q県が都市計画を変更せずに存続させていることの適法性を争うために,Pがどのような行政訴訟を提起できるか
都市計画決定の処分性を検討させる問題
土地区画整理事業の事業計画の決定に処分性を認める大法廷判決の論旨をよく理解
処分性の判断に関わる都市計画決定の法的効果を,後続する都市計画事業認可の法的効果と関係付け,また比較しながら的確に把握すること
都市計画決定が権利制限を受ける土地を具体的に特定
都市計画決定が土地収用法上の事業認定に代わる都市計画事業認可の前提となること
都市計画が決定されるとその実現に支障が生じないように建築が制限されること
都市計画決定と都市計画事業認可の関係図書等や法的効果等を比較することを通じて,都市計画決定においては,収用による権利侵害の切迫性が土地区画整理事業の事業計画の決定に伴う換地の切迫性よりは低いこと
判決が,建築制限について,それ自体として処分性の根拠になるか否かを明言していない点にも,注意

権利救済の実効性を図るために都市計画決定に処分性を認める必要性について,都市計画事業認可取消訴訟,建築確認申請に対する拒否処分取消訴訟及び都市計画に関する当事者訴訟など他の行政訴訟の可能性及び実効性を考慮して,判断

設問2
計画の存続を違法とする立場による場合
Q県が都市計画を変更しなくても,都市計画決定及びそれに基づく建築制限が当然に失効していると解釈されるか否かにまで論及することは,求めていない
裁量権行使の前提となる事実の調査及び認定に過誤があれば,裁量権の行使が違法となり得ること
都市計画法は,定期の基礎調査及びそれに基づく計画の変更を定めており,前提事実の再検討による計画の見直しを重視していることを,論じなければならない
将来交通需要推計が旧市街地の現況及び一般的な人口動向等から乖離している点,その背後に旧市街地の事業者の利益の不当な重視が疑われる点を,指摘
道路密度について地域の実態及び個別事情を考慮せずに機械的に基準として適用することが正当か

計画の存続を適法とする立場
都市計画変更決定に関する行政裁量の存否及び幅を,都市計画法の文言,都市計画の性質,及び裁量に関する判例を考慮して,判断すること
そして,Q県がR市の旧市街地の活性化という政策目的を考慮することの適法性を論じること

設問3
損失補償の根拠として,憲法第29条第3項の直接適用が可能なことを指摘した上で,補償の要否を判断するための考慮要素として,財産権侵害の重大性,公用制限としての性格,土地利用の現況の固定に当たるか否か等を挙げること

本件の損失補償に関しては,都市計画事業として土地が収用される際には,被収用地が建築制限を受けていないとすれば有するであろうと認められる価格で補償するものとされるため
収用前の時点で補償を認める場合,収用時の補償との関係をどう考えるか,という問題がある。しかし,この点を詳細に論じることは試験時間内では困難なため,設問3は損失補償の基本的な根拠及び要件を問う形式にして,配点を下げることにした

採点実感
土地区画整理事業の事業計画の決定に処分性を認めた最高裁判所平成20年9月10日大法廷判決,民集62巻8号2029頁(以下「大法廷判決」という。)を前提に

設問1
判例が土地区画整理事業の事業計画の決定に処分性を認めた理由として,建築制限の効果のみを挙げる答案が予想外に多かった
法廷意見においてそれが主要な理由とされていないことは,基本的な学習事項の範囲内である
建築制限の効果と収用の前提となる効果を正確に理解しておらず,例えば,都市計画決定の建築制限の効果は都市計画事業認可の取消訴訟において争えば足りるとするような答案が相当数あった

設問2
各要素の持つ両面性について積極的に分析・検討していない答案が多く見られた
自説に不利な事情への検討がおろそかになっている答案が多い

設問3
損失補償の要否の判断基準として,権利侵害の一般性・個別性はほとんど問題にならない
建築制限が「公共の利益に資するものである」ため損失補償が不要とする答案が散見された
なぜ損失補償が憲法上の問題となるのか,その基本にまで考えが及んでいない

問題

設問2については現場思考問題なので割愛
また設問3については採点の実感で「収用前の時点で補償を認める場合,収用時の補償との関係を詳細に論じることは試験時間内では困難なため,設問3は損失補償の基本的な根拠及び要件を問う形式にして,配点を下げることにした」とあるが、問題文では「請求の根拠規定を示した上で,請求の成否を判断するために考慮すべき要素を,本件に即して一つ一つ丁寧に示しながら」とあり、これだけで上記の点を詳細に論じる必要はないと判断できるのだろうか。できなくて詳細に論じても論じるだけ無駄となる。

問題文を見ると物凄くめんどくさそうに見える。読むのさえ苦痛(笑)
参考答案を見よう。
平成24年司法試験論文式 公法系第2問の感想と参考答案
めんどくさそうだが、実はそうでもない問題であることが分かる。都市計画法なんかを事細かに理解していなくても解けるようになっているわけだ。当たり前と言えば当たり前。問題にある難しい用語に引きずられてはいけない。

都市計画と土地区画整理事業の処分性

土地区画整理事業の処分性

平成20年判決
特段の事情のない限り,その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ,その後の手続として,施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることになる。
前記の建築行為等の制限は,このような事業計画の決定に基づく具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐために法的強制力を伴って設けられているのであり,しかも,施行地区内の宅地所有者等は,換地処分の公告がある日まで,その制限を継続的に課され続けるのである。
そうすると,施行地区内の宅地所有者等は,事業計画の決定がされることによって,前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ,その意味で,その法的地位に直接的な
影響が生ずるものというべきであり,事業計画の決定に伴う法的効果が一般的,抽象的なものにすぎないということはできない

換地処分等の取消訴訟において,宅地所有者等が事業計画の違法を主張し,その主張が認められたとしても,当該換地処分等を取り消すことは公共の福祉に適合しないとして事情判決(行政事件訴訟法31条1項)がされる可能性が相当程度ある

そうすると,事業計画の適否が争われる場合,実効的な権利救済を図るためには,事業計画の決定がされた段階で,これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性があるというべきである。
市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は,施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって,抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ,実効的な権利救済を図るという観点から見ても,これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。したがって,上記事業計画の決定は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。

都市計画決定の処分性

問題文には親切に誘導がある。
「都市計画決定の法的効果を分析する際には,その次の段階に位置付けられる都市計画事業認可の法的効果との関係も考慮に入れてください」
誘導はあっても、そもそも都市計画事業の認可の法的効果を知らなければどうしようもない(笑)
しかし、ヒントがある。
「土地区画整理事業の事業計画の決定は,道路に係る都市計画でいえば,事業認可の段階に相当します」
土地区画整理事業の決定に処分性があるということを知らなければ意味がないが、超重要判例だからこれを知らなければそもそも話にならない。
都市計画事業認可に処分性があるかどうかは別として、その前段階の都市計画決定の段階には処分性がないという方向でいけそうだ。というかそれは誰でも知っていそうではある。

都市計画の建築制限はなぜ処分性がないのか

参考答案にこのような記載があった。
「試験現場で都市計画法をみると、計画決定の段階で、建築制限という効果が発生している。
なのに、なぜ処分性が否定されるのか。
現場で、疑問が生じてしまった人も、いたのではないか。」
この部分は行政法の判例を勉強をしていると必ず感じる素朴な疑問だと思う。
自分なりの解決思考としては、建築制限は言ってみれば、規制されている建築をしようとする場合に問題となる。もしかすると一生その建築制限に遭遇しない人もいるだろう。そういう意味では誰かの権利を個別的に制限しているものではないと言える。
一方、土地区画整理事業の場合はある特定の土地の換地処分というのが確実に行われる。という意味でより個別具体性が高く、かつ決定された時点で権利制限が明らかである。

いわゆる青写真判決と言われることもあり、計画の段階だから処分性がない、としてしまうと問題の所在が分からなくなる。

損失補償の処理ロジック

憲法29条3項により個別法がなくても直接損失補償はできるが、どのような場合に損失補償が請求でき、請求できないのか。
昭和43年 河川附近地制限令違反
一般的な制限は損失補償不要
「公共の福祉のためにする一般的な制限であり、原則的には、何人もこれを受忍すべきものである。このように、同令四条二号の定め自体としては、特定の人に対し、特別に財産上の犠牲を強いるものとはいえないから、右の程度の制限を課するには損失補償を要件とするものではなく」
損失補償を要する場合
「その財産上の犠牲は、公共のために必要な制限によるものとはいえ、単に一般的に当然に受忍すべきものとされる制限の範囲をこえ、特別の犠牲を課したものとみる余地が全くないわけではなく」

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