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H26 〔第37問〕(配点:2)
損失補償に関する次のアからエまでの各記述は,最高裁判所の判例の内容を示したものである(か
ぎ括弧内の記述は,最高裁判所の判例の原文をそのまま抜き出したものである。)。4つのうち,損
失補償の要否の判断に影響を及ぼした主要な要素が他の判例と最も異なっているものを1つ,後記
1から4までの中から選びなさい。(解答欄は,[№84])
ア.「鉱業法六四条の定める制限は,鉄道,河川,公園,学校,病院,図書館等の公共施設及び
建物の管理運営上支障ある事態の発生を未然に防止するため,これらの近傍において鉱物を採
掘する場合には管理庁又は管理人の承諾を得ることが必要であることを定めたものにすぎず,
この種の制限は,公共の福祉のためにする一般的な最小限度の制限であり,何人もこれをやむ
を得ないものとして当然受忍しなければならないものであつて,特定の人に対し特別の財産上
の犠牲を強いるものとはいえないから,同条の規定によつて損失を被つたとしても,憲法二九
条三項を根拠にして補償請求をすることができないものと解するのが相当である。」
イ.奈良県ため池の保全に関する条例は,「災害を防止し公共の福祉を保持するためのものであ
り,その四条二号は,ため池の堤とうを使用する財産上の権利の行使を著しく制限するもので
はあるが,結局それは,災害を防止し公共の福祉を保持する上に社会生活上已むを得ないもの
であり,そのような制約は,ため池の堤とうを使用し得る財産権を有する者が当然受忍しなけ
ればならない責務というべきものであつて,憲法二九条三項の損失補償はこれを必要としない
と解するのが相当である。」
ウ.都有行政財産である土地について建物所有を目的とし期間の定めなくされた使用許可が当該
行政財産本来の用途又は目的上の必要に基づき将来に向かって取り消された事案においては,
「都有行政財産たる土地につき使用許可によつて与えられた使用権は,それが期間の定めのな
い場合であれば,当該行政財産本来の用途または目的上の必要を生じたときはその時点におい
て原則として消滅すべきものであり,また,権利自体に右のような制約が内在しているものと
して付与されているものとみるのが相当である」から,使用権者は,特別の事情のない限り,
その取消しによる土地使用権喪失についての補償を求めることはできない。
エ.道路法70条1項による「補償の対象は,道路工事の施行による土地の形状の変更を直接の
原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむを得ない必要があつて
した前記工作物の新築,増築,修繕若しくは移転又は切土若しくは盛土の工事に起因する損失
に限られると解するのが相当である。したがつて,警察法規が一定の危険物の保管場所等につ
き保安物件との間に一定の離隔距離を保持すべきことなどを内容とする技術上の基準を定めて
いる場合において,道路工事の施行の結果,警察違反の状態を生じ,危険物保有者が右技術上
の基準に適合するように工作物の移転等を余儀なくされ,これによつて損失を被つたとしても,
それは道路工事の施行によつて警察規制に基づく損失がたまたま現実化するに至つたものにす
ぎず,このような損失は,道路法七〇条一項の定める補償の対象には属しないものというべき
である。」
1.ア 2.イ 3.ウ 4.エ
H25 〔第9問〕(配点:2)
財産権の保障に関する次のアからウまでの各記述について,正しいものには○,誤っているもの
には×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。(解答欄は,[№17])
ア.憲法は,私有財産制と具体的な財産上の権利をともに保障しており,後者には所有権などの
物権のほか債権や知的財産権などが含まれる。
イ.財産権の内容は必ず法律によって定めなければならないが,財産権の制約は法律によらずに,
政令によることも許される。
ウ.財産権が公務員の故意又は過失による違法な行為によって侵害されたとき,被害者は国又は
地方公共団体に対し損失補償を請求できる。
1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
H25〔第38問〕(配点:2)
損失補償請求権として法律構成することが考えられる事案について,損害賠償を認めることによ
り解決される例がある。こうした例として適切なものを,次の1から5までの中から2個選びなさ
い。(解答欄は,[№88],[№89]順不同)
1.民間の事業者が村の工場誘致施策に応じて投資した後,村長が交代し,村が事業者に対し代
償的措置を執らずに施策を変更した場合に,村が事業者の受けた積極的損害を賠償する不法行
為責任を負う例。
2.国の行政機関が民間の事業者による汚染物質の排出を規制する権限を適切に行使しなかった
場合に,国が公害の被害者に対し国家賠償法第1条第1項による賠償責任を負う例。
3.民間の指定確認検査機関が違法に建築確認を行ったために当該建築物の近隣住民が被害を受
けた場合に,当該建築物に係る建築確認事務の帰属する市が国家賠償法第1条第1項による賠
償責任を負う例。
4.市の保健所で受けた予防接種により個人に後遺障害が生じた場合に,接種した医師の過失が
一部推定され,市が損害賠償責任を負う例。
5.国家公務員が勤務場所での事故により死傷した場合に,国が国家公務員に対して負う安全配
慮義務の懈怠を理由に損害賠償責任を負う例。
損失価格はいつの時点の価額を基準にするのか
H24 〔第38問〕(配点:3)
損失補償に関する次のアからエまでの各記述について,法令又は最高裁判所の判例に照らし,そ
れぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからエの順に[№
80]から[№83])
ア.Aが所有する一団の土地の一部が収用された事例において,残地部分が不整形になり,その
価格が収用前に比べて減少した場合には,起業者はAに対して,残地に関する損失を補償しな
ければならない。[№80]
イ.ある土地が道路用地として収用され,道路が建設された結果,道路面とその隣接地との間に
高低差が生じた事例において,隣接地の所有者Bが高低差を解消するために通路の設置を余儀
なくされた場合には,Bは起業者に対して,通路設置に要した費用の補償を請求することがで
きる。[№81]
ウ.Cの土地が収用される事例において,権利取得裁決により起業者はCの所有する土地を取得
することから,事業認定の時点ではなく,当該裁決の時点における土地取引価格を基準として,
Cが近傍において被収用地と同等の代替地を取得することができるだけの補償金額が,算定さ
れなければならない。[№82]
エ.自己の所有する土地を収用されたDは,権利取得裁決に定められた補償額を不服として増額
請求訴訟を提起して勝訴した場合には,正当な補償額と裁決で定められた補償額との差額のみ
ならず,その差額に対する,裁決で定められた権利取得の時期からその支払済みに至るまでの
民法所定の法定利率相当額を請求することができる。[№83]
正解 ア〇 イ〇 ウ× エ〇
事業の認定の告示の時における相当な価格
土地収用法
(土地等に対する補償金の額)
第七十一条 収用する土地又はその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金の額は、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とする。
土地収用法の主要手続
相当な価格というミスリード
http://kraft.cside3.jp/verwaltungsrecht28-6.htm
最一小判昭和48年10月18日民集27巻9号1210頁(Ⅱ―258)
判旨:「土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によって当該土地の所有者等の被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものである」。従って、「完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもって補償するような場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要するという」べきである。
原則、完全補償だが、必ずしも完全に補償しなければならないものではない、と捉えたほうが良さそうである。
そして、土地収用法71条に言う「相当な価格」という意味が、「収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもって補償するような場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要するという」事であれば、単に言葉の表現上の違いということになる。
従って肢ウは後半部分が〇と捉えられる。もっとも前半部分が明確に違うので検討不要であるが。
公共用地の取得に伴う損失補償基準
(補償額算定の時期)
第3条 土地等の取得又は土地等の使用に係る補償額は、契約締結の時の価格によって算定するものとし、その後の価格の変動による差額については、追加払いしないものとする。
短答における悪肢
H23 〔第8問〕(配点:3)
財産権の制限と補償の要否に関する次のアからウまでの各記述について,最高裁判所の判例の趣
旨に照らして,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,
アからウの順に[№14]から[№16])
ア.憲法第29条第3項にいう「公共のために用ひる」とは,公共の福祉のための必要に基づい
て公共施設のための用地買収など公共事業を目的として行う場合に限られないが,特定の個人
が受益者となる場合は,これに当たらない。[№14]
イ.憲法第29条第3項にいう「正当な補償」とは,その当時の経済状態において成立すると考
えられる取引価格に基づき,合理的に算出された相当な額をいうが,かかる補償は,対象とな
る私有財産の収用ないし供与と同時に履行されなければならない。[№15]
ウ.憲法第29条の規定に照らせば,法律で一旦定められた財産権の内容を事後の法律で変更し,
特段の補償を行わないものとしても,それが公共の福祉に適合するようにされたものである限
り,これをもって違憲ということはできない。[№16]
肢ウ
公共の福祉に適合するような法律であれば合憲と言っているが、公共の福祉が何を指すか分からず、合憲になるような公共の福祉なら、合憲になるのであり、公共の福祉という一言で片づけているから問題だろう。
もっとも合憲である、と言い切っておらず、要するに必ずしも違憲とは言えない、と言っているので違憲だとも合憲だとも言えないから、結局この肢は何も言っていないことになる。
だから×とも言えない。〇×問題なので〇が正解という事か。。。そりゃ部分点貰わないと割に合わない問題だ(笑)
損失補償が不要な場合
H23 〔第37問〕(配点:2)
次の【甲群】に掲げるアからウまでのXの各損失について,国又は地方公共団体が損失補償は不
要であると主張する場合に,それぞれの理由として最も適切なものを,【乙群】に掲げるAからF
までの中から選んだ場合の組合せを,後記1から4までの中から選びなさい。(解答欄は,[№84])
【甲 群】
ア.市が卸売市場を開設する区域内の土地について,地方自治法第238条の4第7項によりX
が期間の定めのない使用許可を受けて店舗を営業していたところ,市長が卸売市場を拡幅する
計画に伴い使用許可を撤回したために,Xが当該店舗で営業できなくなることによる損失
(参照条文)地方自治法
第238条の4 1~6 (略)
7 行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することがで
きる。
8,9 (略)
イ.Xが埋設した石油の導管が,近隣に新たに建築物が建築されたために,石油パイプライン事
業法に基づく石油パイプライン事業の事業用施設の技術上の基準を定める省令第13条第1号
に違反する状態となり,Xが導管の移設工事をしなければならなくなった場合の工事費用
(参照条文)石油パイプライン事業の事業用施設の技術上の基準を定める省令
第13条 導管を地下に埋設する場合は,次の各号に掲げるところによらなければならな
い。
一 導管は,その外面から建築物,地下街,隧道その他の告示で定める工作物に対し告
示で定める水平距離を有すること。
二~七 (略)
ウ.Xが自然公園法第20条第3項第1号により建築物の新築許可申請をしたところ,県知事が
公園地域の風致・景観を維持する上で重大な支障があるとの理由で不許可処分をしたために,
Xが建築物を建築できないことによる損失
(参照条文)自然公園法第20条 環境大臣は国立公園について,都道府県知事は国定公園について,当該公園の
風致を維持するため,公園計画に基づいて,その区域(海域を除く。)内に,特別地域
を指定することができる。
2 (略)
3 特別地域(特別保護地区を除く。以下この条において同じ。)内においては,次の各
号に掲げる行為は,国立公園にあつては環境大臣の,国定公園にあつては都道府県知事
の許可を受けなければ,してはならない。(中略)
一 工作物を新築し,改築し,又は増築すること。
二~十八 (略)
4~9 (略)
【乙 群】
A.警察規制による損失であるから。
B.公用制限による損失であるから。
C.地域一帯において土地及び土地利用の現状を変更することの公共性が高いところ,こうした
現状変更のための規制による損失であるから。
D.地域一帯において土地及び土地利用の現状を維持することの公共性が高いところ,こうした
現状維持のための規制による損失であるから。
E.土地利用の規制により,利益を受ける者が反面で被ることになる損失であるから。
F.土地の利用権が,付与された当初から一定の公益上の理由により消滅すべきことが予定され
ていたところ,このように予定されていた権利の消滅による損失であるから。
(ア,イ,ウの順とする)
1.F – A – D 2.C – F – E 3.B – F – A 4.C – E – D
警察規制だから損失補償不要というミスリード
肢イ58.2.18 判決
判決では損失補償が必要とされる要件を述べている。※厳密には憲法29条3項の損失補償の問題ではない。
まず、道路法70条1項は
「従前の用法に従つてその用益又は管理を維持、継続していくためには、
用益上の利便又は境界の保全等の管理の必要上当該道路の従前の形状に応じて設置されていた通路、みぞ、かき、さくその他これに類する工作物を増築、修繕若しくは移転し、これらの工作物を新たに設置し、又は切土若しくは盛土をするやむを得ない必要があると認められる場合において、
道路管理者は、これに要する費用の全部又は一部を補償しなければならない」
そして、結論は本件の場合損失補償を要しないとしているが、一般的な判例の理解では警察規制の場合は損失補償が不要ということになっている。
しかし、この事案は道路法70条1項に基づく損失補償であって、憲法29条3項を根拠にして直接損失補償を請求しているわけではない。
道路法にいう損失補償
従って、判決道路法70条1項にいう損失補償にはあたらないと言っているだけである。
また、道路法70条1項では従前の用法に従って維持管理していくには増築や修繕などをしなければならないやむを得ない状況のときに補償される。
道路工事の施工の結果、警察規制に違反する状態となりガソリンタンクを移設しなければならなくなったことは形式的に見ると70条1項の補償を受けられそうである。
しかし、この規定は道路工事の施工の結果、物理的な支障をきたした場合の補償規定であり、別の法律に違反することとなる場合まで対象となっていないとも考えられる。
他方、昭和43年の 河川附近地制限令違反のロジックでは道路工事の施工の結果、ガソリンタンクを移設しなければならなくなったのは特別の犠牲にあたるとも考えられ、この場合は29条3項を直接の根拠にして訴える事もできる。
尚、河川法違反では、損失補償規定がないからと言って29条3項に違反していないと言っているのは、その法律が一般的な犠牲を強いるものだからである。憲法29条3項を根拠にして直接損失補償を請求できるからであるが、だからと言って必ず損失補償が確約されているわけではない。
(道路の新設又は改築に伴う損失の補償)
第七十条 土地収用法第九十三条第一項の規定による場合の外、道路を新設し、又は改築したことに因り、当該道路に面する土地について、通路、みぞ、かき、さくその他の工作物を新築し、増築し、修繕し、若しくは移転し、又は切土若しくは盛土をするやむを得ない必要があると認められる場合においては、道路管理者は、これらの工事をすることを必要とする者(以下「損失を受けた者」という。)の請求により、これに要する費用の全部又は一部を補償しなければならない。この場合において、道路管理者又は損失を受けた者は、補償金の全部又は一部に代えて、道路管理者が当該工事を行うことを要求することができる。
17.11.1 市道区域決定処分取消等請求事件
一般的に当然に受忍すべきものとされる制限の範囲を超えて特別の犠牲を課せられたものということがいまだ困難であるから,上告人らは,直接憲法29条3項を根拠として上記の損失につき補償請求をすることはできないものというべきである。
裁判官藤田宙靖の補足意見
公共の利益を理由としてそのような制限が損失補償を伴うことなく認められるのは,あくまでも,その制限が都市計画の実現を担保するために必要不可欠であり,かつ,権利者に無補償での制限を受忍させることに合理的な理由があることを前提とした上でのことというべきである