出題趣旨
設問1
「保証債務の履行を請求するには,どのような主張をする必要があるか」
Bに代理権がなかったこと → 追認があったものと評価することができる
無権代理人Bが作成した契約書が民法第446条第2項の要件を満たすのか
書面の作成という保証契約の要式性を充足するとみるかどうか → 両様の考え方が成立可能である
446条第2項の規定の趣旨は,保証契約の内容を明確に確認し,また,保証意思が外部的に明らかになることを通じて保証をするに当たっての慎重さを要請するものである,というような説明がされてきた
これのみから直ちに結論を導くことには,やや論理的に無理
有権代理の場合に書面性の要件を充足するのはどのような場合かといった点を含め,更に深く立法趣旨を検討することが望ましい ※こういうのは大学の課題でだすようなことでは?
設問2
賃貸人Bがその修繕に要した費用に相当する金銭の支払を賃借人Fに求めるため
賃借人Fが賃貸借契約によって負担する賃借物の保管義務の違反,つまり債務不履行を理由とする損害賠償請求(同法第415条)※改正
以上の要件を満たすときでも,同法第415条によると,賃借人に責めに帰すべき事由がないときは,賃借人は損害賠償責任を免れる → は履行補助者責任が問題になる
履行補助者には,真の意味での履行補助者と履行代行者がある
本問のHはFとは独立の事業者であることから,後者の履行代行者に相当する
①明文上履行代行者を使用することができないのに使用した場合,
②明文上積極的に履行代行者の使用が許される場合,
③いずれでもなく,給付の性質上履行代行者を使用しても差し支えない場合が区別され
債務者が責任を負うための要件もそれに応じて区別される
FがHとともに内装の仕様及び施工方法につき検討した結果についてBが承諾をしていることが②に当たるかどうかが特に問題となる
もっとも,学説では,このような分類に対して強い批判
いずれの見解によるとしても,その論旨が説得的に展開されているかどうかが重要
そもそも賃借人に修繕義務はないのでは?
設問3
抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権として賃料債権との相殺の意思表示をした賃借人と抵当権の物上代位権に基づき当該賃料債権を差し押さえた抵当権者の優劣について判断した【参考】判例を提示して,
本問の具体的事案の下でも【参考】判例にのっとった結論を導くことが相当かどうか
判例と本問とでは事案が異なるから,Dの依拠する判例法理が本問には適用されない,とするのみでは十分でない
判例の事案におけるどのような特徴が判旨の示すルールの前提となっているのかを論理的に明らかにし,その特徴がどのように変化すれば,ルールがどのように変化するのかを明らかにしなければならない
採点実感
設問1
保証契約の要式性を題材とし,無権代理人が作成した保証契約書であっても要式性を満たす場合があるのか否かを問題とするもの
判例や学説によって未だ十分には議論されていない問題
なので以下省略
設問2
省略
設問3
①事案を示し,②条文を適切に提示した上,③必要費の定義を明らかにすることにより要件をきちんと明らかにした上で,④結論を導く必要
③が欠ける答案
相殺を認めるのであれば,なぜ相殺が認められるのかを,物上代位との優劣だけでなく,相殺の要件に照らして示すこと
判例の示したルールを,その射程を限定するのではなく,根本的に批判する答案もあったが,これについても適切な評価を与えた。しかし,そのときも,そうであるならばいかなるルールが適用され,本問の具体的な結論はどうなるかまで論じる必要がある
賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することができるか,という問題もあるが,「30万円を差し引いて支払う」というGの主張を基礎付けることが求められているのであるから,その問題自体を論じる必要はない
優秀に該当する答案の例 ※要するにこれが正解の一つということだろう
GはBに対して30万円の必要費償還請求権を有する
判例の事案における自働債権と異なり,受働債権たる賃料債権との牽連関係が密接である
賃料債権に抵当権の効力が及んでいることを知っていてもその取得を思いとどまることができない性質を有する
判例の射程は及ばず,相殺の期待が重視されるべき(この論理には様々なものがあり得る。)
かつ,相殺の要件を検討し,結論としてGはDが物上代位による差押えを行った後も,必要費償還請求権と賃料債務を相殺することができることを論じるもの ※差押えに優先するということか?
論文式試験で出題される事項は,画一的な思考で解決が得られるようなものではなく、あえて解答を見いだすことが困難な課題を与えるなどして受験者の法的思考能力を試そうとしている
答案の表面的な構成の手法には,ときに流行のようなものも見られ,年によって特定の構成が多くの答案において用いられている状況が見られる。そうした流行の型のようなものに従って論述することが,そのことのみで不利になるということはないが
問題
債務不履行による損害賠償の改正
改正により415は規定が変わった。
債権者は債務者の帰責事由を証明しなくてよくなり、債務者が自己に帰責事由がないことを証明する必要がある。新債権法の論点と解釈P100
もっとも、これは従前の解釈を変更するものではないという。
出題の趣旨には
「債務不履行を理由とする損害賠償請求(同法第415条)という構成であり,そのためには,賃借人がその賃貸借契約上の保管義務に違反し,それにより賠償されるべき損害が発生したこと(損害の発生と因果関係)が必要となる」とあるが、
保管義務違反は証明しなくてもよいことになる。
また、「賃借人に責めに帰すべき事由がないときは,賃借人は損害賠償責任を免れる → は履行補助者責任が問題になる」とあるが、債務者の履行補助者の故意や過失なども債務不履行に含める場合は債務者の帰責事由がなくても債務者は債務不履行責任を負わされるというロジックなので、出題の趣旨のロジックである「賃借人が損害賠償を免れて、履行補助者の責任」があるとなれば、それは履行補助者の損害賠償責任となってしまうようにも読める。
問題としては債務者である賃借人に損害賠償責任を負わせようという話なので賃借人自体に帰責事由がないとしても履行補助者あるいは履行代行者の責任をを賃借人の帰責事由に含めて考えなければならない。
債務者が損害賠償を免れるとするのではなく、債務者自信に帰責事由がない場合に履行補助者の責任を考慮する、としたほうが適切だろう。
さらに、「内装の仕様及び施工方法につき検討した結果についてBが承諾をしていることが②に当たるかどうかが特に問題となる」とある。これは賃貸人が承諾をしていれば、帰責性がないとも考えられるという意味なのか?
そもそも履行補助者の責任を債務者側の帰責性として考えるロジックは、履行補助者を使ったこと自体が債務不履行である、という意味ではないはずである。
従って仮に賃貸人が賃借人が内装工事を業者を使って行うという事などに承諾をしていたとしても、その事自体で免責されるわけではない。
いずれにしても債務不履行による損害賠償の規定は基本的に改正されていないということでよさそうだ。
相殺と差押えどっちが優先するのか問題
原則差押え前に取得した債権であれば相殺できる。紹介判例も差押え後には相殺できないと読めるので差押え前であれば相殺できると考えることも可能。
差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第五百十一条 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
2 前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。