出題の趣旨
〔設問1〕
遺言無効の確認を求める訴えである訴訟Ⅰについて
訴えが確認の利益を欠き不適法であるとする立場からの立論を行う
本件には最高裁判所昭和47年2月15日第三小法廷判決・民集26巻1号30頁の判例の射程が及ばず,本件で遺言無効
の確認を求めることは確認対象の選択において適切でないと論じること
過去の法律関係の存否の確認を求める訴えには,原則として確認の利益がないとされている(売買契約の無効の確認を求める訴えにつき最高裁判所昭和41年4月12日第三小法廷判決・民集20巻4号560頁)。【原則及びその根拠】
【昭和47年最判の理解】
遺言が無効であることの確認を求める訴えは適法として許容される場合がある
多数の不動産等を含む全財産を一人の相続人に遺贈するというものであり,そのような場合に個々の財産について原告の共有持分権に引き直してその確認を求めるとすれば,特定の財産を漏らしたりする危険もある
遺言が複数の財産を対象とするような事案においては,対象財産全てに共通する遺言という基本的法律行為の無効を既判力により確定する方が,より直接的かつ抜本的な紛争解決につながるものといえる
遺言①の対象財産は,土地甲1だけであり,遺言①の無効の確認を求めることによって多数の紛争を一挙に解決できるという関係にない
Bを被告として現在の法律関係である土地甲1の所有権の確認を求める訴えを提起できれば紛争の解決として十分
昭和47年最判は本件とは事案を異にし,本件にその判例の趣旨は及ばない
設問に対する解答を超えて確認の利益の一般論(対象選択の適否,手段としての適否等)を論じても,特に評価の対象とはしない
昭和47年最判との関係では,なぜ上記原則の例外が認められるのか,その理由を説明することが必要
重要なのは対象財産の個数であり,相続人の人数の多寡や受遺者が相続人であるか否かがポイントになっているわけではない
〔設問2〕
所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えである訴訟Ⅱについて
被告とされた遺言執行者Dが被告適格を欠き,訴えは不適法であるとする立場からの立論を行う
相続人が遺言執行者を被告として遺言の無効を主張し,相続財産について自
己が持分権を有することの確認を求める訴を提起することができる旨述べる最高裁判決があるにもかかわらず,訴訟Ⅱの被告適格は受遺者Cにあり,遺言執行者Dには被告適格が認められないことを,その根拠と共に論じることを求めている
遺言②の対象財産は土地甲2のみ
遺言執行の内容も同土地の所有権移転登記を行うこと
登記が受遺者Cに移転
遺言②の執行は終了
遺贈目的物の管理処分権も遺言執行者ではなく受遺者Cに帰属する
所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えは,登記名義人であり本来の登記義務者である受遺者Cを被告として提起すべき
遺言執行者の実体法上の地位(問題文に書かれている内容)を再確認し,法定訴訟担当であることなど遺言執行者の訴訟法上の地位に言及すべき
「そもそも当事者適格とは‥」といった当事者適格の一般論を論じても特に評価の対象とはしない
〔設問3〕
小問1
相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因を本件の事実関係に即して摘示すること
①『Fは平成15年4月1日死亡』,②『GはFの子』,③『Jは土地乙をもと所有』,及び④『JF売買』を摘示すべき
③④の代わりに『Fは①の当時土地乙所有』
小問2
小問1で整理した請求原因ごとに各事実が当事者から主張されているか否かを検討すること
①,②及び③については,「父Fから」「その生前に」などのGの主張から読み取ることができる
④については,Gはこれと矛盾する「JG売買」を主張し,かえってHが④を主張している
このように請求原因の一部でありながら原告であるGが主張していない事実を判決の基礎とすることができるか否かということが問題となる
〔設問4〕
既判力による遮断効の範囲が縮小するという理論構成をし,Gの立場からHの主張に反論すること
明示的一部請求の事案において,既判力によっては妨げられない訴えを信義則に基づいて却下した判例と関連付けて論じること
前訴でGの所有権確認請求の全部棄却が確定した以上,Gが乙土地について共有持分権を有するとの主張は既判力により遮断されるのが原則
上記判断が前訴におけるHの自己責任に基づく訴訟追行の結果であることに照らすと,信義則違反
そうすると,Gの所有権確認請求を全部棄却した確定判決の既判力は,後訴におけるGの上記主張を遮断しない限度で,訴訟物の枠よりも縮小される。【結論】
(最高裁判所昭和51年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8号799頁,最高裁判所平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1147頁
Gの主張を紛争の蒸し返しと評価することができずHの主張は認められない参考答案
平成25年民訴法は出題ミスか?(参考答案付)
平成25年司法試験論文式民事第3問参考答案
問題
設問1
昭和47年判決を前提としながら,事案の違いを踏まえ,Eが提起した遺言①の無効確認を求める訴えが確認の利益を欠き不適法であると立論
設問2
本案
前の抗弁として,訴訟Ⅱの被告適格は受遺者Cにあり,遺言執行者Dには被告適格がないと主張し,訴えの却下の判決を求める立場からの立論
設問3
⑴相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因は何か。
⑵適切に釈明権を行使したならば,上記請求原因を判決の基礎とすることができるか
設問4
判例は,訴訟物の範囲を超えて後訴における蒸し返しを封じる場合を認めています。訴訟物の範囲を超える部分では信義則が働くという論法
信義則を理由として既判力の作用を訴訟物よりも狭い範囲に止めること(遮断効の縮小)も認められるか
平成10年判決を参考にして立論
Hの上記主張に対し,Gの立場から法律上の主張
過去の確認の利益
まず、問題文の事案を読まずに出題の趣旨や設問だけから考えて試験委員会が何を聞きたいのか分かるか。
設問1は正直分からなかった。
設問1は要するに、「過去の法律行為の確認を求めることはできないので遺言は形式上過去の事であり無効確認はできないと考えられる。しかし、遺言であっても必ずしも過去の法律行為の確認を求めるとは言えないものもあり、その場合は確認訴訟ができる 場合がある
が、本問の場合はやはり確認訴訟は不適法である。」という事を47年判決との事案の違いを踏まえて論述せよ、という事らしい。
そして、事案が違うということがキーポイントのようで、また、それは結局のところ遺言無効の確認の訴えが認められる場合と認められない場合は何がどう違うのか、という点を理解していますか?ということが聞かれているということなのだろう。
勿論分かっているわけがない(笑)
一応判旨が載っているが、これだけ読んでも事案は分からないのでまったく意味がないと言える。出題の趣旨では相続人の多寡などではなく、重要なのは対象財産の個数である、となっている。
これをきちんと勉強して理解していた受験生はどれくらいいるのだろうか。特に対象財産の個数などという理解はどの基本書に書かれているものなのか。確認しよう。
47年判決では「遺言が有効であるとすれば、それから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合」としているから、遺言の有効無効が現在の法律関係に影響を与える場合は遺言に関する確認訴訟は許される場合があり得ると考えるのが素直なようである。
そして、本問の事案は前提として確認の訴えが許されないとして論法を組み立てなければならないから、現在の法律関係に影響しない、あるいは確認の訴えを認めたところで意味がない、或いは他の訴訟で事足りる、などという理屈になるはずだ。勿論出題の趣旨などではそうではない事が分かるが、とりあえず思考実験を続けてみよう。
これを本問の事案についてみると、唯一の相続人であるEが遺贈を受けたBのみを被告として、遺言①の無効を確認する訴訟を起こしているが、そもそもBのみの遺言の無効を確認する意味があるのか疑問である。
確かに遺言①と②は別日にかかれているから遺言①が書かれた日の意思無能力を理由としているからそうなるだろうが、そうすると、遺言無効確認をしたとして、別途土地甲1の所有権確認及び土地引き渡しや登記の抹消移転などをしなければならない。それを考えれば遺言無効確認を訴えるのではなく、別途所有権確認などの訴訟の中で遺言の無効を主張したほうがよい。
と書いても大して評価はもらえないのかしら(笑)
参考答案などを見ても、対象の不動産が1個だから認められないと言っているようなもので、多分出題趣旨を見て書かれたものだろう。そもそもだが対象不動産がたくさんあれば過去の確認の訴えが認められ、1個であれば認められないというのも変な理屈だと思うが。
訴えの利益とは
確認の訴えが認められるか認められないかは詰まる所訴えの利益があるかどうかで切り分けられるのではないか。
そこで訴えの利益について改めて確認しよう。
訴えの利益
「当事者適格では、特定の当事者間の法的紛争の解決に(または当事者の権利の実現に)本案判決が必要か否かが問われるのに対し、訴えの利益では、誰が当事者であるかではなく、具体的な紛争の解決に本案判決が必要かどうかが問われる。」
行訴法の訴えの利益と比較すると問題がなさそうに見えてやはり確認の訴えと将来の訴えが問題だろう。
分かったようで分からない。
採点の実感を見てみよう。
設問1【確認の利益】採点実感
「確認の対象は現在の法律関係でなければならないという原則をその根拠と共に論じることを期待したが,多くの答案が不十分な論述にとどまった」とは言え、出題の趣旨には「確認の利益の一般論(対象選択の適否,手段としての適否等)を論じても,特に評価の対象とはしない」とある。
「遺産確認の訴えについて適法とした最高裁判所昭和61年3月13日第一小法廷判決・民集40巻2号389頁の説示に引きずられたのか,
遺産分割と関連付けた答案も見られた。その典型例が,昭和47年最判の事案では特定の相続人に全財産を遺贈する内容の遺言であるが,
設問1の遺言は被相続人の友人に土地甲を遺贈する内容の遺言であり,
前者では(47年判決)遺言の無効が確認されれば相続人間で遺産分割の問題となるが,後者ではそのような問題はないので,遺言無効は確認対象として不適格である,とする答案である。(設問1は遺言無効が確認されても相続人間の分割などの問題とはならない?から)
しかし,昭和47最判は遺産分割との連携については言及していないし,もしそこに確認対象の適格性を分かつ要因を求めてしまうと,
設問1の遺言が『全財産を友人Cに与える』という内容のものであったとしても(遺言が無効になると相続人の取り分が復活するから?),
『判決において,端的に,当事者間の紛争の直接的な対象である遺言の無効の当否を判示することによって,確認訴訟の持つ紛争解決機能が果たされる』ことにはならず(なるという考えもあり得ると思うが、ならないという考えからはならない(笑)),
個々の相続財産を特定してそれにつき原告が相続分に応じた持分権を有することの確認に引き直す必要があることになるが(よく分からない),そのような結果が不合理であることに気付いてほしい。」
恐らく、受験生が遺産分割との関連に言及したのは遺言が無効か有効かによって現在の法律関係に影響があると考えたからであり、必ずしも遺産分割でなければならないとするものではないだろう。従って、本問が遺産分割の事案じゃないから関連がないと片付けてしまう、或いは勘違いをしていると評価するのはどうか。
いずれにしろ、47年判決の事案でも、仮に対象不動産が1個しかなければもしかすると無効確認の訴えは認められない可能性もある。試験委員会はそういうことを言いたいのだと思うが、それを試験問題として出すのはいかがなものかと思われる。なぜならその判例でその事に触れていればともかく、それは一つの考え方、判例の解釈に過ぎない。
47年判決は対象の財産が多いというのみならず事案も結構複雑であり、対象財産が多いというのは確認訴訟が認められる一つの理由に過ぎないと思われるからである。
本問はまず結論が示されてそれに至るロジックを提示せよ、という問題だと思われる。また、特定の判例が提示されている為、その結論に至るロジックがある程度限定されるとは思うが、本年の試験委員には一つの模範解答があるようで、それはそれでいいとしても、それ以外は受け付けないと捉えられても仕方のない出題の趣旨と採点実感のようである。
売買契約の無効の確認を求める訴えにつき最高裁判所昭和41年4月12日第三小法廷判決・民集20巻4号560頁
確認訴訟は特段の規定のないかぎり、現在の権利または法律関係の確認を求め、かつ、これにつき即時確定の利益がある場合にのみ許されるべき
最高裁判所昭和47年2月15日第三小法廷判決・民集26巻1号30頁
形式上過去の法律行為の確認を求めることとなるが、請求の趣旨がかかる形式をとつていても、遺言が有効であるとすれば、それから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で、原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは、適法として許容されうるものと解する
遺言執行者の当事者適格
本問についての答えは採点実感にほぼほぼ書いてある。
「特定物遺贈では,遺贈の発効と同時に受遺者はその所有権を取得するが,遺言執行者が置かれているときは,その管理処分権は遺言執行者に帰属するから,
相続人が遺言に反して当該目的物につき相続を原因とする所有権移転登記を経由したときは,遺言執行者は,遺言執行の障害となる相続人名義の登記につき,この管理処分権に基づき,受遺者の法定訴訟担当者として,その抹消登記手続を求め
る訴えを提起することができるが,
遺言執行者が遺贈を原因とする受遺者宛ての所有権移転登記を経由することにより,遺言の執行を完了すれば,目的物についての管理処分権も受遺者に移転するから,遺贈を原因とする所有権移転登記の抹消登記
手続請求訴訟の被告適格は受遺者にある。
当事者適格,特に第三者の訴訟担当との関連で用いられることの多い管理処分権の意味を今一度整理しておいてほしい。」