出題の趣旨
設問1前段
EのFに対する株式譲渡の甲社に対する効力を問う
本来の制度の目的とは異なる目的でみなし承認の制度を利用した点がみなし承認の効力に影響を与え得るか否かについて
株式譲渡自由の原則,株式の譲渡制限とみなし承認の
制度趣旨,甲社の既存株主又は譲受人Fのいずれの利益を保護すべきか等に触れながら,説得的に論ずること
設問1後段
名義書換をしていないFを会社側から株主として取り扱うことができるか否かについて
名義書換が対抗要件であること(会社法第130条)やその趣旨に照らして論ずることが求められる(最判昭和30年10月20日民集9巻11号1657頁参照)
会社が右譲渡を認め譲受人を株主として取り扱うことは妨げないと解するのが相当である。
その違法が決議の結果に異動を及ぼすと推測されるような事情が認められない場合には、裁判所は原告の請求を棄却するべきもの解する
株式譲渡の当事者間における効力,会社に対する効力及び会社に対する対抗要件について,その制度趣旨,要件,相互の論理的関係等を理解した上で,筋の通った解答をすること
設問2前段
取締役の報酬の増額決議の効力を問うもの
①取締役会設置会社である甲社の株主総会において,その招集の際に定められた株主総会の目的である事項(会社法第298条第1項第2号)以外の事項について決議をしたことについて,同法第309条第5項に違反し,株主総会の決議方法の法令違反という同法第831条第1項第1号の決議取消事由に該当することを指摘する必要がある
②Qの死亡により遺産共有状態にある株式の権利行使者の指定(同法第106条)が共有者の持分の過半数の同意により行われたことについて,
同条の規定の趣旨,上記の権利行使者の指定の持つ意味,権利行使者の指定に共有者の全員一致を要するとする見解との比較等を踏まえ,その指定の効力を論じた上で,
議長AがBによる議決権の行使を認めなかった取扱いの法的評価につき,上記①と同様の決議取消事由に該当するか否かを論ずる必要がある(最判平成9年1月28日集民181号83頁参照)
③同法第831条第1項第3号の決議取消事由に関しても,取締役の報酬総額を定める株主総会決議について取締役である株主が特別利害関係人に該当するか否か,その議決権行使によって著しく不当な決議がされたか否か
設問2後段
平成23年総会において定められた報酬総額の枠を超える額の個別報酬額を定めた取締役会決議の効力を論ずる必要がある
この取締役会決議が全部無効となるのか又は一部無効にとどまるのか,一部無効となる場合には,各取締役に対する報酬決定について無効となる金額,全部無効となる場合には,全部返還を求め得るのか等の検討を踏まえて,結論の妥当性をも意識しつつ,各取締役に対して不当利得として報酬の返還を求め得ること及びその具体的金額について,説得的かつ論理的に論ずること
設問3前段
株主割当てによる新株発行に対し,不公正発行を理由とする差止請求(会社法第210条第2号)ができるか否かを問うもの
株主全員に申込みの機会を付与する株主割当ての事案
新株発行の目的がAによる支配権の確立にある
Aは,取締役の報酬の増額により,払込資金を用意するために有利な状況を自ら作出していること
株主Bが持株比率の低下という不利益を受けるおそれがあること
差止請求の実効性を確保する観点から,これを被保全権利とする仮処分(民事保全法第23条第2項)についても,保全の必要性に関する事情を指摘
設問3後段
新株発行無効の訴え(会社法第828条第1項第2号)の可否について論ずること
この訴えに係る無効事由について法の定めがないことを前提
新株発行により形成された法律関係の安定性や新株発行が会社の業務執行に準ずるものであることを重視する見解(最判平成6年7月14日集民172号771頁参照)を踏まえつつ
甲社が非公開会社であり,株主の持株比率の利益が重視されるべきであること
他方Bは,新株発行差止請求権を被保全権利とする仮処分により救済を受けることが可能であったこと等
新株発行無効請求 最高裁判所第二昭和36年3月31日 民集 第15巻3号645頁