平成25 刑事訴訟法 採点実感

出題の趣旨

設問1
殺人事件発生の約30分後,その現場から約800メートル離れた路上において甲及び乙を準現行犯逮捕した手続(甲につき,【逮捕①】,乙につき【逮捕②】)
甲を逮捕の現場から約300メートル離れた交番に連行する途中,転倒した甲のズボンポケットから落ちた携帯電話を差し押さえた手続(【差押え】)
特定の犯罪(本件では,平成25年2月1日午後10時にH公園で発生したVに対する殺人事件)との関係で,甲の準現行犯の要件該当性を論じる必要がある
なぜ,Vに対する殺人事件の証跡と言えるのかを論じる必要がある
「罪を行い終わってから間がない」ことについてはいかに犯罪と犯人の明白性に結び付くのかを論じる必要がある
乙の自白を,犯罪と犯人の明白性の判断資料として良いかも問題となる
Wの通報内容も,逮捕者であるPが直接認識したものではないから,その通報内容を前提として犯罪と犯人の明白性を判断してよいかも問題となり得る
準現行犯の場合,現行犯人の現認とは異なり通報内容等を犯罪と犯人の明白性の判断資料とすることは当然の前提とされていると言えよう

【逮捕②】
乙は,甲に対してVの殺害を指示したものの,自らは実行行為に及んでいない上,逮捕時においては,乙自身の身体又は被服には犯罪の顕著な証跡が存在しない。
しかし,被服に血を付着させた甲と同行していたのであり,この状況を,乙との関係でも同法第212条第2項第3号の該当事由であると考えることができないか問題となる
乙が実行行為に及んでいない以上,乙と甲との間の共犯関係自体が,逮捕時の状況から明白であると判断できるのかについても検討

設問1の【差押え】
同法第220条第1項第2号の「逮捕の現場」という要件との関係で問題となる
(最決平成8年1月29日刑集50巻1号1頁)
『逮捕の現場』における差押えと同視することができる」としたものであるが,なぜに「同視することができる」のかについての法理論までは説示していない
実際には,同交番に向かう途中において差押えを実施
しており,この点についても,各自が展開すべき法理論との整合性に配慮する必要

設問2
【別紙1】においては,目撃者Wの説明に基づき,Wが目撃した犯行状況を司法警察員2名が再現した写真が貼付され,かつ,犯行状況に関するWの説明内容が記載
【別紙2】においては,Wが目撃時に立っていた位置から前記再現状況を撮影した写真が貼付され,見通し状況についてのW及び司法警察員Pの説明内容が記載
【別紙1】が「犯行状況」という立証趣旨に,
【別紙2】が「Wが犯行を目撃することが可能であったこと」という立証趣旨にそれぞれ対応することはすぐに理解されよう。

【別紙1】
Wの供述を録取した書面としての性質をも有している
【別紙1】で立証しようとする事項が犯行状況そのものであることから,Wの供述内容の真実性が問題となっている
写真に写っている人物がW自身ではなくその供述に基づいて実演をした司法警察員2名であることから,Wの供述に基づいて司法警察員2名が犯行状況を再現する過程自体において,供述どおりの再現になっていることが担保されていないと見る余地もあり得よう。
いずれにせよ,このような問題点をも踏まえつつ,供述記載部分と写真部分とを分けて論じること
(最決平成17年9月27日刑集59巻7号753頁)

【別紙2】
いかなる事実が要証事実となるのかを論じる必要があり,その中で,Wの供述部分はその真実性を立証することになる
のか否か,真実性が問題とならないと考えるのであればその理由を論じる必要がある

採点の実感

設問1の【逮捕①】

犯罪と犯人の明白性の判断材料に関し,司法警察員Pが直接覚知した事情に限定されるのか,その他の事情も含まれるのかにつき全く言及せず,あたかもWによる通報内容のみで当然に犯罪と犯人の明白性を認定できるかのよう

【逮捕②】
同項各号の要件該当性を論じずに犯罪と犯人の明白性を論じたり,
同項各号の要件該当性を否定しながら,乙の自白等から犯罪と犯人の明白性が認められるとして【逮捕②】を適法とす
る答案が相当数見受けられ,
そもそも同法第212条第2項の構造を理解していないと思われた

同項各号の要件該当性を論じるに当たっては,本件が共犯事件であることを意識すべきである

乙は共謀共同正犯であるから,乙につき「罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる」との要件を満たすかについて
甲による実行行為のみに向けられているのか,甲及び乙の共謀まで含むのか

後者の見解をとる場合,共謀とは謀議行為を意味するのか,意思の連絡を意味するのか

【差押え】
逮捕の約10分後に本件【差押え】を実施しており,同法第220条第1項の「逮捕する場合」の要件を満たすことは明らかである
著名な最高裁判例(最決平成8年1月29日刑集50巻1号1頁)を下敷き
同判例が,被処分者に対する差押えをできる限り速やかに実施するのに適当な最寄りの場所まで連行した上で,実施した差押えを「『逮捕の現場』における差押えと同視することができる」としていることに漫然と倣って結論を導く答案が大多数であり,その根拠を的確に論じる答案は少なかった

被疑事実と証拠物の関連性は,差押え時の事情から判断すべきことについては,ほとんどの答案において理解されていた

設問2
【別紙1】
最決平成17年9月27日刑集59巻7号753頁)同判例の規範を機械的に記述するのみで本件への適切な当てはめができないものが相当数見受けられた
上記3点を峻別して分析・検討することができない答案,写真につき機械的に記録したものであり,「非伝聞証拠」であるとして証拠能力を認める答案などがこれに該当する

【別紙1】の立証趣旨は「犯行状況」であるところ,これを前記判例のいう「犯行再現状況」と混同する答案

【別紙2】
立証趣旨は「Wが犯行を目撃することが可能であったこと」であるから,
司法警察員Pの説明部分及び写真は,犯行現場という場所の状態を五官の作用をもって明らかにしたものとして同項が規定する「検証の結果を記載した書面」の典型である
Wの説明部分も,司法警察員Pが,実況見分の対象を特定するに至った動機・手段を明らかにするためのものであり,その内容の真実性を目的とするものではない

問題
参考答案

逮捕の際の無令状差押えでの逮捕の現場という意味

紹介判例をみると
『二 逮捕した被疑者の身体又は所持品の捜索、差押えについては、~~
最寄りの場所まで連行した上でこれらの処分を実施することも、刑訴法二二〇条一項二号にいう「逮捕の現場」における捜索、差押えと同視することができる。』
本問は被疑者が落とした物を差押えしており、これは被疑者の身体の捜索差押となる。
この場合、逮捕の現場とは物理的な空間を指すものではないという認識が可能。

実況見分調書の321条1項なのか3項なのか問題

本問では、【実況見分調書】につき,立証趣旨を「犯行状況及びWが犯行を目撃することが可能であったこと」としている。そして、別紙1ではその犯行状況説明にWの供述があるから、これは伝聞供述である。
紹介判例の事案は形式的には本問とほぼ変わらないが、立証趣旨を「犯行再現状況」としている。とはいえ結果としてその犯行再現状況という実況見分調書が犯行を認定させているのだから、立証趣旨の文言では再現状況となっていても、実質的には犯行そのものを立証する趣旨だと言っていい。そうなると、その実況見分調書の中での犯行状況についての供述は伝聞法則の適用があることになる。
これを本問についてみると、そもそも立証趣旨が犯行状況となっている点に注意を要する。これは恐らく引っ掛けだろう。
言葉の文言だけに引っ張られてしまうと実況見分調書の中に供述があっても現場指示などと解釈してしまいかねない。それを狙っているのかもしれないが。

立証趣旨によっては写真であっても321条1項の適用

本問の別紙2の写真は321③の要件を満たせば証拠能力があるが、紹介判例の場合は321①2号ないし3号、被告人の場合は322①の要件を満たす必要があるとする(写真なので署名押印は不要)。

【要旨】このような内容の実況見分調書や写真撮
影報告書等の証拠能力については,刑訴法326条の同意が得られない場合には,
同法321条3項所定の要件を満たす必要があることはもとより,再現者の供述の
録取部分及び写真については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321
条1項2号ないし3号所定の,被告人である場合には同法322条1項所定の要件
を満たす必要があるというべきである。もっとも,写真については,撮影,現像等
の記録の過程が機械的操作によってなされることから前記各要件のうち再現者の署
名押印は不要と解される。

第三百二十条 第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
② 第二百九十一条の二の決定があつた事件の証拠については、前項の規定は、これを適用しない。但し、検察官、被告人又は弁護人が証拠とすることに異議を述べたものについては、この限りでない。
第三百二十一条 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。
一 裁判官の面前(第百五十七条の六第一項及び第二項に規定する方法による場合を含む。)における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異なつた供述をしたとき。
二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述をしたとき。ただし、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。
三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。ただし、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。
② 被告人以外の者の公判準備若しくは公判期日における供述を録取した書面又は裁判所若しくは裁判官の検証の結果を記載した書面は、前項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
③ 検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
④ 鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても、前項と同様である。
第三百二十一条の二 被告事件の公判準備若しくは公判期日における手続以外の刑事手続又は他の事件の刑事手続において第百五十七条の六第一項又は第二項に規定する方法によりされた証人の尋問及び供述並びにその状況を記録した記録媒体がその一部とされた調書は、前条第一項の規定にかかわらず、証拠とすることができる。この場合において、裁判所は、その調書を取り調べた後、訴訟関係人に対し、その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならない。
② 前項の規定により調書を取り調べる場合においては、第三百五条第五項ただし書の規定は、適用しない。
③ 第一項の規定により取り調べられた調書に記録された証人の供述は、第二百九十五条第一項前段並びに前条第一項第一号及び第二号の適用については、被告事件の公判期日においてされたものとみなす。
第三百二十二条 被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第三百十九条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。
② 被告人の公判準備又は公判期日における供述を録取した書面は、その供述が任意にされたものであると認めるときに限り、これを証拠とすることができる。
第三百二十三条 前三条に掲げる書面以外の書面は、次に掲げるものに限り、これを証拠とすることができる。
一 戸籍謄本、公正証書謄本その他公務員(外国の公務員を含む。)がその職務上証明することができる事実についてその公務員の作成した書面
二 商業帳簿、航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面
三 前二号に掲げるものの外特に信用すべき情況の下に作成された書面
第三百二十四条 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人の供述をその内容とするものについては、第三百二十二条の規定を準用する。
② 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人以外の者の供述をその内容とするものについては、第三百二十一条第一項第三号の規定を準用する。
第三百二十五条 裁判所は、第三百二十一条から前条までの規定により証拠とすることができる書面又は供述であつても、あらかじめ、その書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となつた他の者の供述が任意にされたものかどうかを調査した後でなければ、これを証拠とすることができない。
第三百二十六条 検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、第三百二十一条乃至前条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
② 被告人が出頭しないでも証拠調を行うことができる場合において、被告人が出頭しないときは、前項の同意があつたものとみなす。但し、代理人又は弁護人が出頭したときは、この限りでない。
第三百二十七条 裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人が合意の上、文書の内容又は公判期日に出頭すれば供述することが予想されるその供述の内容を書面に記載して提出したときは、その文書又は供述すべき者を取り調べないでも、その書面を証拠とすることができる。この場合においても、その書面の証明力を争うことを妨げない。
第三百二十八条 第三百二十一条乃至第三百二十四条の規定により証拠とすることができない書面又は供述であつても、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには、これを証拠とすることができる。

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