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リコール署名偽造…佐賀のアルバイト女性が詳細を証言「事務局員似の人居た」
「8時間で250人書き写した」愛知リコール署名偽造、バイト男性は「人気案件」と証言
この事件で気になったのは署名の偽造バイトをした人たちである。
下手したら逮捕とか、警察がその気になれば逮捕できるとか怖いコメントが散見される。
捕まるとして(首謀者は捕まってないのに変な話だが)何罪なのか?地方自治法違反とかで告発している人がいるらしい。地方自治法では署名の偽造が禁じられている。
偽の署名バイト、罪に問われる? 専門家「捜査本筋は首謀者」
署名は住所や生年月日は代筆やデータ入力が可能だが、押印と名前は自筆でなければならない。地方自治法では署名の偽造が禁じられており「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」
私文書偽造では行使の目的が必要となっているが、ここで行使の目的って具体的にナンダ?(笑)
他人が認識しうる状況におく目的らしい。これは自分でそういう状況に積極的におくのか?それとも認識しうる状況を許容するだけでいいのか?
少なくとも今回のアルバイトの人たちは事情をまったく知らないので自分で積極的に選管に提出する目的などはない。しかし、書き写した署名用紙が使われることは許容していると言えるので逮捕状を請求すればおそらく逮捕状はでるに違いない。
また、事情を知らないバイトの人たちは言わば道具として使われているわけでこれはまさに間接正犯の事例ではないか(笑)
いや笑い事ではない。ところで間接正犯ってナンだ?・・・(笑) すでに忘却の彼方へ・・・
ということでまずバイトの人たちが罪に問われるかどうか検討してみよう。
前述の如くまったく事情を知らなかったら罪に問われることはないだろうが、住所氏名などを書き写している用紙がリコール用紙だとすぐに分かるらしいので、この点どう判断されるだろうか。
つまり事情を知ってしまった道具ということになりはしないか。仮に一見するとリコール用紙と分かるものだったとしてもまさか署名の偽造をしているとは分からなかった人もいるだろう。全員そうだとすると故意がないとも言えるが、本物のリコール用紙だと気づいたとしたらそれに勝手に記入しているという認識はあるので罪に問われても仕方ないような気もする。
とりあえず、この点は保留し、完全に道具だとして間接正犯についておさらいしておこう。
まず要素従属性
誇張 共犯が成立するためには、正犯に構成要件該当性、違法性、有責性に加えて処罰要件まで備える必要がある
極端 構成要件該当性と違法性と有責性
制限 構成要件該当性と違法性
最小 構成要件該当性のみでよい
間接正犯の議論の出発点は確か刑事未成年を使った犯罪の場合、実行犯が処罰されないから共犯も処罰されないからとかそんな話だったと記憶している。http://repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/24510/KJ00005089111.pdf
が、現在の通説は制限従属性説なので刑事未成年者が正犯であっても共犯者は処罰される。
そもそも刑事未成年者が正犯だと処罰できないから間接正犯の議論が、という思考過程もちょっとおかしいのだが。
間接正犯の議論も行為支配説とか色々あるようだが、結局判例はケースバイケースで判断しているようである。
本件の場合、バイトの人たちは偽造しているという認識があったとしても行使の目的がないため私文書偽造にはとえないだろう(上記地方自治法は条例の制定改廃についてではなかろうか。ということで一旦保留)
こうなると正犯自体に構成要件該当性がないため、制限従属性説からしても本件の黒幕も共犯として罪に問えない事になりかねない。
従って、こうなってくるとバイトの人たちを完全な道具として使った間接正犯としたほうがよくなってくる。
これがまさに間接正犯の意義だろう。と、思ったが正犯自体に構成要件該当性がない場合ってどうなるのだろうか。
行使の目的という主観的要件って構成要件該当性とは別だったっけ?
私文書偽造における行使の目的
人をして偽造文書を真正な文書と誤信させ、又は虚偽文書を内容の真実な文書と誤信させようとする目的を言う。条解刑法P393
目的の具体的内容である用法が行使罪における行使にあたるものでなければならない。
行使の意義
真正な文書として又は内容の真実な文書として、他人に交付、提示などして、その閲覧に供し、その内容を認識させ又はこれを認識しうる状態に置く事を言う。最大判昭44.6.18集23-7-950
未必的な目的がある場合だけでなく、他人が行使することを認識している場合も含む。最判昭28.12.25裁判集90-487
これを本件についてみてみると、バイトの人たちは本件用紙が使われる可能性があると認識していた可能性は高い。なんせバイト代まで支払って使わないわけはないだろう。そして自分の名前を書いているわけでもない。従って行使の目的アリとなるだろう。
ところで間接正犯は以前は責任無能力者の行為とされていたようだ。http://repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/24510/KJ00005089111.pdf
他方で、共犯なき正犯を認める立場もあるらしい。
こうなってくるともうわけわかめになってくる(笑)
結局間接正犯ってナンだ?
自己の意思によって一方的に他人を支配利用し犯罪を実現する場合である。間接正犯が成立するには 主観的要件として行為者は故意の他に他人を道具として利用しながらも特定の犯罪を自己の犯罪として実現する意思を有している 客観的要件としては行為者が被利用者の行為をあたかも道具のように一方的に支配利用し、被利用者の行為を通じて構成要件的行為の全部または一部行ったことが必要 刑法総論講義案(改訂版)76頁。
目的犯において被利用者が目的を欠く場合であっても間接正犯は成立する。刑法総論講義案改訂版P81
間接正犯が処罰の間隔を埋めるものといった、要素従属性などの話を持ち出すと途端にわけがわからなくなるのも無理はない(笑)
間接正犯とは
他人を道具として利用し、実行行為を行う場合を言う
従って要素従属性だとかは関係ない。むしろ道具として使われた被利用者が故意がある場合などが問題となる。
実行の着手時期
様々な説があるがどれも一長一短であり、結局ケースバイケースになるが、少なくとも法益侵害の危険発生の有無により、ある時は利用者の行為に、ある時は被利用者の行為に認められる。条解刑法P160
間接正犯と共犯の錯誤
事情を知ってしまった被利用者のケースで争いがある。
大きく分けると最初から事情を知ってしまった場合と、途中で知った場合に分けられる。
最初から知っていた場合
間接正犯ではなく教唆になる事で争いがない
途中で知った場合
かなり争いがありこれという答えはないようだ。実行の着手時期によって結論を異にしているが、いずれにしろ説得力に欠けるので争いがあるのだろう。
利用者に実行の着手を認める場合
利用行為の時点で実行の着手があるので行為後の事情は因果関係の問題とする。
事情を知ったにも関わらず犯罪を実行するのは社会通念上相当とは言えず、因果関係が否定される。
従って間接正犯の未遂となる。伊藤真試験対策講座刑法総論第三版P431
しかし、この場合被利用者が犯罪を実行して既遂になっても利用者は未遂である。
被利用者に実行の着手を認める場合
被利用者に実行の着手を認める場合は実際に法益侵害の危険が発生したときが実行の着手になるので、事情を知ったのがその前だとすると結局当初から事情を知っていたのと同じになるので結果、教唆が成立する。
※この問題結局被利用者がいつ事情を知ったかではなく実行の着手をどの時点にするのかによる。
上記刑法総論によれば、被利用者に実行の着手を認める場合でも、実際の実行の着手以降に事情を知る事もあり得るのでその場合は間接正犯になるため、利用者説、被利用者説だけでは明確に切り分けられないようである。