親子関係不存在確認の訴えができる場合とできない場合

3種類ある嫡出推定のまとめ

772の推定規定

(嫡出の推定)
第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

772①婚姻中に懐胎すれば夫の子と推定→嫡出子と推定
772②婚姻後200日経過後or婚姻解消から300日以内に生まれた子は婚姻中の懐胎を推定→772①婚姻中の懐胎は夫の子と推定⇒嫡出子推定

推定されない嫡出子

推定されない嫡出子とは772の推定要件に合致しないもの
本来推定要件に合致していないので嫡出子ではないが判例により嫡出子として扱われるものであるから推定されない嫡出子と呼ばれる

推定されない嫡出子は結局嫡出子と推定されるという日本語の不可解さ(笑)

そもそも論として嫡出子というもの自体が推定規定である。生物学的な話ではない。
そして、日本語としては推定されないのだから嫡出子ではないと考えてしまうが、「推定されない」けど嫡出子だという(笑)
要は、772の推定要件に合致していないが嫡出子として扱うという意味で推定されない嫡出子というへんてこな日本語を使っているようだ。
とは言え推定の及ばない嫡出子もあるので、これと区別する意味でこのようなめんどくさい言い方をしているようである。
そうすると、例えば10年ほど内縁関係で既に子供が生まれている男女間で、婚姻届けを提出したら役所としてはどんな取り扱いをするのだろうか?
いずれにせよこの場合嫡出子として推定しているわけではなく、嫡出子として扱っているだけである。
従って、推定されない嫡出子というよりも推定の及ばない嫡出子と言えるだろう。

推定の及ばない嫡出子

推定の及ばない嫡出子とは772の推定要件に合致しているが状況的に夫の子であると言えない場合
よって、推定が及ばないのではなく推定は及んでいることになる。紛れもなく嫡出子である。
法律用語としてはみなし規定だと反証が許されないが、推定規定だと反証は許される。

同時死亡の推定や占有態様の推定などいくつかの推定規定があるがわざわざ推定の及ばない同時死亡などと言い方はしない。
そもそも推定の要件に合致していないならそれは同時死亡ではないはずで、推定要件に合致していないということが分かっているなら同時死亡ではないだけである。
しかし、推定の及ばない嫡出子は嫡出子である。推定が及ばないということが親子関係不存在確認で証明されれば当然嫡出子でないことに確定するが、それは後で分かる話だろう。反証が認められて初めて推定の及ばないというレトリックがでてくるのであって、それがなされていないのに嫡出子には3種類あるような記述はミスリードである(私のことだが(笑))

いずれにせよ、推定は及んでいるので推定の及ばない嫡出子という表現は非常に紛らわしい。従って、物理的な親子ではない嫡出子とでもしたほうがよい(笑)
むしろ、法がわざわざ嫡出推定規定を原則としているのは言わばこのような状況でも親子関係を擬制することによって社会秩序や法的安定性、家族制度を維持していこうとするものであり、それに合致しているとさえ言える。
そうすると、親子関係不存在確認訴訟などの限定された場合にしかこの訴訟が認められないとするのも腑に落ちるというものである。

推定されない嫡出子推定の及ばない嫡出子まとめ

同じ嫡出推定でなぜこうも混乱しているかというと

推定されない嫡出子は 「夫の子」 であることが相当程度に高い可能性があるために推定要件に合致はしていないが夫の子だとして認めてやろうという趣旨
推定の及ばない嫡出子は 「夫の子」 ではないことが立証されれば推定要件に合致していても夫の子だとは認めないという趣旨

言い換えると
推定されない嫡出子は 形式上推定要件に合致していないけど嫡出子とし扱う
推定の及ばない嫡出子は 形式上推定要件に合致しているが、判決によって嫡出子として扱わない

更に言えば、
推定されない嫡出子は 本来嫡出子ではない
推定の及ばない嫡出子は 嫡出子 である

日本語としては推定されない嫡出子はまだ理解できるが、推定の及ばない嫡出子はかなり不自然だろう。

嫡出子否認の訴え

嫡出否認の訴えとは772の推定要件に合致している場合にそれを否認する場合に使うもの
嫡出否認の訴えは772の推定要件に合致していない場合は使えない。使えるのは要件に合致している場合のみ

親子関係不存在の訴え

親子関係不存在の訴えは要件に合致していない場合だけでなく、合致していても状況的に夫の子であると言えない場合でも使える

以前の記事↓

まず、推定されない嫡出子と推定の及ばない嫡出子では意味が違うということにほとほと呆れてしまう。

推定されない嫡出子は要するに772に該当していない場合であってそもそも嫡出子ではないが、嫡出子として扱われる(笑)
推定の及ばない嫡出子とは772に形式上該当しているが、物理的に夫と妻の間で懐胎したと考えられないような場合であるが、嫡出子として扱われる

このように法律用語は日常用語とは違う意味がある場合が多々あるので結局その言葉の意味を知らずに表面的に勉強していると肩透かしをくらう。

さて、嫡出子として推定される場合に親子関係がないとして訴える場合は774条の嫡出否認の訴えによる。
しかし、これは出訴権者は夫のみでしかも子供が生まれた事を知ってから1年以内という期間制限がある。
そこで親子関係不存在確認の訴えなるものが登場するのだが、これは民法その他の法律で規定されている訴訟ではないようである(多分)。

肯定
平成10年8月31日

否定
平成26年7月17日

DNA鑑定の結果を理由にして親子関係がないという訴えはできないという事らしい。
理屈としては夫婦間の性交渉が状況的にあり得ないような場合のみ認められるという事のようだが、果たしてそれでいいののだろうか。
なぜなら、親子関係不存在確認の訴えそのものが法律に要件が規定されているものではないからである。
官僚的思考とでも言うべき論理展開に、は?と思う一般庶民多数であろう。
従って、この判例もそのうち変更されることになるかもしれない。

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