今年の予備短答刑法の第8問肢1を間違えてしまったのでなぜ間違えたのか自戒の為に備忘録。
R4年 〔第8問〕(配点:3)
罪数に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、誤っているものを
2個選びなさい。(解答欄は、[No.9]、[No.10]順不同)
1.甲は、Aから財物を詐取した上で当該財物の返還を免れるためにAを殺害することを計画し、
計画どおりにAから財物を詐取し、その後、殺意をもってAの胸部をナイフで刺して殺害し、
これにより、財物の返還を免れるという財産上不法の利益を得た。甲には、詐欺罪と強盗殺人
罪が成立し、これらは包括一罪となる。
2.暴力団幹部甲は、配下の組員数名とともに、Aの身体に共同して危害を加える目的で、日本
刀数本を準備してA方前に集合し、その直後、外に出てきたAの顔面を手拳で数回殴打する暴
行を加えた。甲には、凶器準備集合罪と暴行罪が成立し、これらは併合罪となる。
3.甲は、業務として猟銃を用いた狩猟に従事していた際、Aを熊と誤認して発砲し、Aに傷害
を負わせ、その直後にAを誤射したことに気付いたが、Aを殺害して逃走しようと決意し、殺
意をもってAの胸部に向けて発砲し、Aを即死させた。甲には、業務上過失傷害罪と殺人罪が
成立し、これらは包括一罪となる。
4.甲は、A銀行が発行したB名義のキャッシュカード1枚をBから窃取した上、これを利用し
てA銀行の現金自動預払機から預金を不正に払い戻した。甲には、2個の窃盗罪が成立し、こ
れらは併合罪となる。
5.甲は、対立する不良グループのメンバーA及びBを襲撃することを計画し、路上で発見した
Aをバットで1回殴打した直後、そばにいたBを同バットで1回殴打し、両名に傷害を負わせ
た。甲には、2個の傷害罪が成立し、これらは包括一罪となる。
正解は3と5が誤り
詐欺を行った後に返還を免れるために殺人を犯した場合の罪数
https://mtadaki.r.chuo-u.ac.jp/seminar/resume/2013/2013_2nd_half/20131022_2h2_pro.pdf
被告人が当初から暴行,脅迫を用いて支払を免れる目的を有していなかったこと等の本件犯行の態様及び詐欺が強盗,窃盗と財産罪
としての類型を異にすること等を
あわせ考えると結局本件は詐欺罪と強盗致傷罪との
併合罪と解さざるを得ず,弁護人の前記主張は採用することができない。
〇弁護人の主張
「弁護人は,飲食物とその代金請求権とは刑法上保護に値する利益という点ではひとつ
のものと評価すべきであるから,第一行為を詐欺罪として評価する以上,本件ではそれ
以外に財産上の利益はなく,従って第二行為は傷害罪とすべきであると主張」
詐欺を行った後に、その返還を免れるために被害者を殺害した場合に詐欺と2項強盗が成立するかという時点でそもそも間違っていた。詐欺と2項強盗が成立するのではなく2項強盗一罪→強盗殺人一罪が成立すると判断して包括一罪ではないと結論づけたのだった。
なぜこのような判断をしたのかというと、勿論当該事例に関しての判例を知らないという点があげられるが、当初から殺そうという計画なのでこれって強盗殺人だよね、と考えてしまったからに他ならない。
詐欺を行ったあとに、その返還を免れるためさらに詐欺を行っても別途2項詐欺が成立しないのと同様に、2項強盗利得罪も成立しないという判例がある。 とは言え、その判例のロジックからすると結局私の結論である2項強盗利得罪は成立せず詐欺にとどまることになるが、だとすると暴行脅迫の部分、本問で言えば殺人の部分はどうなるのか。そう考えると確かに腑に落ちない判例理論ということになる。
詐欺と強盗の包括一罪であれば、強盗殺人で問議されるので結論的には変わらないわけだが、詐欺とその後の殺害行為を別個の行為とするならば包括一罪ではなく併合罪としたほうが良さそうだが。
まとめ
詐欺を行った後に返還を免れる目的で殺す 強盗殺人=強盗利得罪ということだろう
返還を免れるという文言に引っ張られて事後強盗?などと考えてしまうのが短答落ち常連の思考である
居直り強盗と罪数
aいわゆる居直り強盗は窃盗と強盗ではなく強盗罪のみが成立 高松高判昭28.7.27高集6.11.1442
b財物窃取後に強取目的で暴行脅迫を加えたが結局新たに財物を奪取できなかった場合は
財物の取得を確実にしたなどの事情がない限り、暴行、脅迫と財物取得との間には何らの因果関係も認められないから包括して強盗未遂 東京高判昭28.10.23判特39.154
条解刑法P676
aは包括ではなく一罪のみ成立
bは窃盗と強盗未遂の包括
さて、なぜであろうか。本来は窃盗と強盗は別個の行為とすべきであるところを居直り強盗は特殊な処理をしているという理解のほうがよさそうである。判例を改めてみると包括的という言葉は使われているものの、窃盗と強盗を包括して重い強盗として処断とはされておらずやはり強盗一罪のみ成立するようである。
また、窃盗が逮捕や財物返還を免れるために暴行脅迫を行えば事後強盗。既遂未遂は窃盗が既遂か未遂かであるという。最判昭24.7.9集3.8.1188
cもともと殺害して覚せい剤を奪取する計画で、後に覚せい剤を奪取した後に殺害をすることに変更した場合
「判例は窃盗ないしは詐欺の罪と強盗殺人未遂罪のいわゆる包括一罪が成立するとして(最決昭61.11.18集40.7.523)別個独立の犯罪として評価する事に積極の見解を示している。なお、詐欺と強盗殺人が包括一罪となるか併合罪となるかは両行為の時間的、場所的近接性等の点から判断されることとなろう。」条解刑法P710
この判例では、一審二審ともに強盗殺人(未遂)一罪としている。
昭和61年11月18日
「本件の場合、もともとBを殺害して覚せい剤を奪取する計画であつたところ、後に
計画を一部変更して覚せい剤を奪取した直後にBを殺害することにしたが、殺害と
奪取を同一機会に行うことに変わりはなく、右計画に従つて実行していること、な
どの理由を説示して、被告人(及びF)に対しいわゆる一項強盗による強盗殺人未
遂罪の成立を認め、これと結論を同じくする第一審判決を支持している。」
しかし、最高裁の見解は違う。まず、財物を取得した行為自体を検討
「先行する本件覚せい剤取得行為がそれ自体としては、窃盗罪又は詐欺罪のいずれに当たるにせよ」
そして、殺人未遂行為を
「本件覚せい剤の返還ないし買主が支払うべきものとされていたその代金の支払を免れるという財産上不法の利益を得るためになされたことが明らかであるから、右行為はいわゆる二項強盗による強盗殺人未遂罪に当たるというべき」
としている。
仮にこのような事案で先行行為が窃盗ならば事後強盗になる可能性もある。238条は「財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するため」と規定している。原審の認定した事実では「覚せい剤代金の支払等を待ちうけていた際、同人に対し拳銃発射の行為に及び、Bをして本件覚せい剤の取り戻し又は代金債権の行使を事実上不可能にし、反面、このような債務の履行を事実上免れようとしたものである」
窃盗であれば事後強盗の要件に合致する。
とは言え、最高裁は窃盗か詐欺かについては判断を下していないが、仮に窃盗だったとしても2項強盗が成立するという言い回しに見える。(窃盗であったにしても代金債権行使を事実上不可能にしようとした事実は変わらないからである)
もっとも、事後強盗は強盗なので、結局変わらないわけだが。このあたりどうなるのだろう。。。
※この点、裁判官谷口正孝の意見も窃盗として論ずる場合は事後強盗の可能性に言及しているようである。すなわち強盗利得罪とするならばそれは結局詐欺を認定していることになる。
詐欺と強盗がなぜ包括処理されるのか
まとめると
財物奪取行為に向けられた暴行や脅迫がないから1項の強盗(殺人未遂)一罪が成立するというのはおかしい
先行行為と後行行為は別々の行為ではあるが場所や時間が近接しているため包括して問議する
先行行為が窃盗の場合は事後強盗のケースもあり得る
※この点谷口氏の意見が参考になる「同罪と二項強盗殺人未遂罪の関係は、両罪が同一場所で同一機会に継続してなされたも
のであり、社会現象としても一個の事象として評価されることにかんがみ、詐欺(既遂)罪と(二項)強盗殺人未遂罪の包括一罪として重い後者の刑で処断さるべき」
同一場所
同一機会
社会現象として1個
包括一罪にしろ併合罪にしろそもそも別々の行為という認識で間違いない
その別々の行為を包括して処断するのかそれとも併合処理するかの違いになるが、前者は最も重い罪、後者は重い罪の1.5倍であり、かなり違う。
結局場所的にも時間的にも近接していれば包括されるということでよそうである。が、傷害罪の場合はそうとも言えない。
同一機会でも併合罪になる場合
同一機会における暴行による傷害であっても、被害者の数だけ本罪が成立し、これらは原則として併合罪となる。最判昭29.5.6裁判集95.81条解刑法P541
包括処理する場合との違いは被害者の数、という点であろうか。
そうすると、財物を詐取した被害者と請求者が違う場合は詐欺と強盗の併合なのか?それとも、別人に対する暴行や脅迫は2項強盗にあたらず単なる暴行脅迫なのか?請求者が債権譲渡を受けている場合と、単なる代理人の場合などで違いがありそうである。
包括罪と併合罪についての司法試験委員会の説明
H19旧司 〔No.48〕 次のアからウまでの記述の( )内に語句群から適切な語句を入れ 【 】内にⅠからⅣまで ,
のいずれか異なる適切な事例を入れると,後記各事例における甲に成立する犯罪の罪数に関する記述とな
る。①から⑪までに入るものの組合せとして正しいものは,後記1から5までのうちどれか。
【記述】
甲について成立する犯罪に関し,甲を有期懲役刑で処断すべきとき
ア 【 ① 】の事例では ( ② )ので,観念的競合として 【 ③ 】の事例では ( ④ )ので,牽 , ,,
連犯として,共に( ⑤ )で処断することになる。
イ 【 ⑥ 】の事例では ( ⑦ )ので,包括一罪として ( ⑧ )で処断することになる。 , ,
ウ 【 ⑨ 】の事例では ( ⑩ )ので,併合罪として ( ⑪ )で処断することになる。 , ,
【事例】
Ⅰ 甲は,X経営の建築事務所において,自己が経理担当者として金庫内に保管・管理しているX所
有の事業用資金の中から30万円を手に入れようと決意し,3回にわたり,一日おきにその金庫内
から現金10万円ずつを持ち出して自宅に持ち帰り,現金合計30万円を横領した。
Ⅱ 甲は,X方で金品を窃取する目的で,昼間,X方浴室の施錠されていない窓からその住居内に侵
入し,X所有の現金10万円を窃取した。
Ⅲ 甲は,甲方において,令状に基づいて同所で適法に捜索・差押えを行っていた司法警察員Xに対
し,その顔面を1回強く殴打し,顔面打撲傷を負わせた。
Ⅳ 甲は,店長を務める居酒屋において,その勤務中,客Xと口論となり,Xを調理用の包丁で突き
刺して殺害し,続いて,甲を取り押さえようとしたXの友人Yも同様にして殺害した。
【語句群】
a 法的評価を離れて構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で社会的見解上1個のものと評価さ
れる行為が「2個以上の罪名に触れ…るとき」に当たる
b 数罪間に罪質上通例その一方が他方の手段又は結果となる関係があり,しかも具体的に犯人がこ
うした関係においてその数罪を実行したと認められる
c 複数の犯罪行為が同一犯意に基づき近接する日時・場所で同種法益に対して同種態様でなされた
ものである
d 複数の犯罪行為が近接する日時・場所で同種態様でなされたものであるが,被害法益がそれぞれ
一身専属的なものである
e 最も重い罪について定めた刑の長期に2分の1を加えたものを長期とする刑
f 最も重い罪の刑
g その罪の刑
1.①Ⅲ⑦d⑪e 2.②a⑧g⑨Ⅱ 3.③Ⅳ⑧f⑩d
4.④c⑥Ⅳ⑪f 5.⑤f⑥Ⅰ⑩d
正解は5
事例Ⅰは包括一罪
事例Ⅳは併合罪
これは正解から間違いなさそうだ。
ウ 【 ⑨ 】の事例では ( ⑩ )ので,併合罪として ( ⑪ )で処断することになる
⑩にはdが入ることになるが、「複数の犯罪行為が近接する日時・場所で同種態様でなされたものであるが,被害法益がそれぞれ一身専属的なものである」ので併合罪となる、という説明になる。?
イ 【 ⑥ 】の事例では ( ⑦ )ので,包括一罪として ( ⑧ )で処断することになる
事例Ⅰは包括一罪なので恐らく⑦にはcが入る。
ここで気づく、一身専属的とはそれぞれの被害者にとってという意味だったのだ。。。これを履き違え、一身専属的だから別々の被害法益ではないと考えて包括としたのであった。。。(笑)
包括一罪の場合は成立する罪は2罪ではなくそもそも処断される罪一罪らしい
⑧にはgが入る。
「g その罪の刑」
つまりそれぞれの複数の罪が成立してもっとも重い罪で処断する、というのは正確ではなく、
複数の罪を包括してもっとも重い罪が成立する、という表現のほうが正しいようだ。
包括一罪は本来的一罪だという。従って成立する罪は一罪。この点、いくつかの罪が成立し、一罪で処断する、というのとは違うようだ(多分)。
そうすると令和4年の第8問肢1は詐欺と強盗殺人が成立し、という表現はどうなのか?
要するにここで言う成立と裁判において罪数の処理をする場合の成立とは意味が違うということなのだろう。
こういう事は基本書では教えてくれない。
従って肢1は「詐欺罪と強盗殺人罪の構成要件に合致しているが、両者を合わせて包括処理されて一罪となる」が正確な表現だろう。
包括一罪についての私見まとめ 包括一罪 観念的競合 併合罪の違いとは
あくまで個人的な考えですので見かけた方は気にしないでください。
A 1コの計画(公訴事実)+ B 法益侵害1コ(当該財物奪取ならその財物)+ C 複数の構成要件に該当=包括一罪
A + 法益侵害複数行為そのものが1個+複数の罪名に触れる = 観念的競合
A + B + Cが目的手段などに該当すれば牽連犯
複数の計画(公訴事実)ならそもそも 併合 ※法益侵害される主体が複数の場合も併合
包括は少なくとも複数の構成要件に該当している
この点、観念的競合に似ているが、観念的競合はその1個の事実的行為が複数の罪名に触れているように見える場合である。
一方、包括一罪は1個の行為ではなく、公訴事実全体を見た場合であるからある行為がある罪にある行為が別の罪に触れている場合となる。
それが仮に目的手段の関係になっていれば牽連犯となり、法益侵害される主体が別の主体であれば併合罪となる。
包括一罪のロジック
結局
複数の罪名に触れているように見える場合は
●法益侵害される主体が複数なのか
●行為が複数なのか
で結論が湧かれる
A法益侵害されている主体が複数であればそもそも併合罪
なのでまず法益被侵害主体が複数なのかを吟味する。法益被侵害主体が同一、要するに一人の場合行為自体が一個か複数なのかが吟味される
B法益侵害主体が同一で、行為自体が一個しかなければ観念的競合
C 〃 行為も複数 行為が目的手段の関係なら→ 牽連犯 そうでない場合に包括処理されているということができる。
この場合目的手段とは本人がどう考えるかではなく、社会的事実行為として目的と手段の関係にある必要があるようだ。
従って火災保険金を詐取しようとして家に放火しても牽連犯とはならないという、常識的には考えにくい判例となる。
では、火災保険金を詐取する場合に目的と手段の関係にあるような犯罪とはどのような罪名をを言うのだろうか。勿論、判決に不要なことなので当該判例がそこまで言及するはずもなく推論するしかないが。大審院判決(昭和5年12月12日)
つまり、包括処理されるのは罪質云々の話ではなく、消去法的に行われているという事が出来る。もっとも、このような事は恐らくどの基本書でも書かれていないが(笑)
このロジックを肢1に当てはめる
複数の罪名に触れているのように考えられるので単純一罪ではない
法益被侵害主体は一つなので 併合ではない
行為は1個ではないので 観念的競合ではない
目的手段の関係と言い切れれば 牽連犯 言い切る事ができなければ 包括
牽連犯の判例の考え方を理解していなければ最後の段階で結局間違えてしまうが(笑)牽連犯は罪名と罪名ではなく、当該行為が目的達成の為に通常行われる行為かどうかという事が分かっていれば比較的容易に判断できる
強盗目的か否か
“2度目の裁判員裁判”で判決覆る…名古屋の高齢夫婦殺害事件で被告に「死刑判決」強盗殺人罪の成立を認定
事件の3日後に自首した松井被告は、大島さん夫婦を殺害し、現金1200円ほどが入った財布を奪った強盗殺人の罪で起訴されました。
一審の裁判員裁判では検察側の「死刑」求刑に対し、弁護側は「財布は衝動的に持ち去った」と強盗目的を否定。判決は「殺人」と「窃盗」の罪を認め、無期懲役が言い渡されました。
しかし、二審の名古屋高裁は…。
<名古屋高裁・堀内満裁判長>
「原判決には事実誤認がある」
「強盗目的を認めることが前提」と、一審判決を破棄して地裁に審理を差し戻し、異例の“2度目”の裁判員裁判が始まりました。
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