相手方が代理人である事を知っていた場合は顕名がなくても代理行為は有効に成立するか
『H3-38
甲所有の土地を乙が丙に売り渡す契約を締結した場合についての次の記述のうち、契約の結果が甲に帰属する場合は何個あるか。イ 甲から土地売却の代理権を与えられた乙が甲の代理人であることを告げなかったが、乙が代理人であることを丙が知ることができた場合
正解
帰属する。 代理人が代理人であることを相手方に告げなかった場合でも、相手方が本人のためにすることを知り得た場合には、契約は本人と相手方との間に成立する(100条参照)。』LEC東京リーガルマインド司法試験年度別体系別択一過去問2006年版P458
代理人という事実と代理意思は同じ?
代理人が本人のためにすることを相手方が知り、又は知ることができたときは、本人に対して有効という100条但し書きの規定が適用されるのか?
本肢の場合「代理人であることを丙が知ることができた」だけなので代理意思(本人に効果帰属させる意思)については不明なので、本肢は帰属しないと考えた。
代理人である事=本人の為にする意思 という事のようである。
99条における顕名とは
代理行為の有効要件の一つに顕名(代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示)99条がある。
「本人の為にする」とはだいたい本人に効果帰属させる意思であると解説されている。
自分のために行動する代理人
代理人であっても本人に効果帰属させる意思がない場合も存在するだろう。例えば代理権はあるが代理人としては行動せず、自分の為に自分の名義で契約をする場合である。
この場合、仮に相手方が代理人であることを知っていたとしても本人に効果帰属しないのは当然である。
自分のために行動する代理人でも代理人であるという事実のみを知っていたら有効?
なぜ、効果帰属しないのか?まず顕名がない。もっとも顕名がなくても本人の為にする意思があることを相手方が知っていたり知り得る場合は本人に効果帰属する。
この時、単に代理人であるということだけで本人の為にする意思であると判断するとこの場合でも本人に効果帰属するということになってしまう。
顕名とは名乗ること
これによれば代理人であることを示せばそれだけで顕名ありと言えるようだ。
そして、代理人と示すことで本人に効果帰属させる意思ありとしているようである(多分)
顕名についてのミスリード
顕名の理解をミスリードしているのか。
顕名とは?|わかりやすく宅建・宅地建物取引士の解説
まず、読み方ですが「けんめい」と読みます。名を顕す(あらわす)=名乗るという意味です。
代理人という表示が本人に効果帰属させる意思表示
よくよく考えてみると代理人の内心の意思なんか第三者に分かろうはずもない。
代理人●●である、などと言えば通常●●さんに効果帰属させると思うし、代理人であるという表示を本人に効果帰属させる意思があるとしている。
もっとも、代理人が実は本人には効果帰属させるつもりはないとか、自分の利益のために動いているとかそういう場合にまで有効としてしまうのは適切ではないから、それを相手方が知っているか知ることができた場合は無権代理となる改正107条。
結局、100条但し書きにいう「本人のためにすること」とは99条にいう顕名と同じ趣旨の事であり、本人に効果帰属させる意思がある場合は勿論、代理人であるという事実だけでも該当するということなのだろう。
昭和の過去問
S41-40
甲は乙から自動車を買い受けようとしたが、自分で甲本人だといわないで、交渉するのが有利だと感じ、甲の代理人丙だと笑止、甲から丙への委任状を作って乙に示し、丙になりすまして乙との間で売買契約をなした。後で乙は丙という者は別にいて、交渉したのは実は甲本人であり、丙はまったく関知しないことを知った。正しいものはどれか。
正解は
1 甲は自分の為にした契約だから、この売買契約は甲と乙との間に効力を生じる。
当初肢1だと思ったが、変更。なぜ変更したのか。
まず、これは無権代理行為だと考えた。無権代理行為の場合は本人の追認が得られなければ相手方の選択に応じて履行や損賠となる。
仮に履行を迫られたとして、これは売買契約が成立した結果ではない、と考えたのだが。
よくよく考えると無権代理が有権代理になればその代理効果は本人に帰属する。
いずれにしろ甲と乙との間に効力が生じることはないと考えた
(本人のためにすることを示さない意思表示)
第百条 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。
100条では代理人が本人のためにすることを示さないで行った場合を規定している。代理人に無権代理人も含むと考えれば
いや、そもそも無権代理行為ではない。無権代理行為とは単に権限のない者が代理人と称して行動することを言うのではない。
また、代理権があるわけでもない。
※追記
改めてこの問題をみてみると、
(無権代理)
第百十三条 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。
113条により本人に対して効力が生じない、無権代理そのままの事案である(笑)
100条は代理権のある代理人の話である(笑)
コメント