債務不履行と履行不能と解除 旧法と改正法の比較など

債務不履行関連の概観

損害賠償の問題
解除の問題
不能時の履行の問題(危険負担)

履行不能になった場合当事者の履行義務はどうなるのか?

履行と言っても双務契約であれば両者に履行義務があるので誰の履行を問題にしているか確定する必要があるが、基本的に履行が不能になったと言っているのは債務者の履行義務である。従って債務者は履行しようにもできない。これは帰責性があろうがなかろうが変わらない。
債務者の履行が不能になった場合に債権者の履行義務はどうなるのか?という事になる。

A 債務者に帰責性がある場合

 
規定なし
Aの場合で債権者に帰責性がない場合、何もしなければ債権者の履行義務は残るのが理屈。履行したくなければ解除ができる。解除しなければ履行義務は残るが損賠請求して相殺という事になろう。

B 双方に帰責性がない場合

  
536① 債権者は反対給付の履行を拒否できる
536①はいわゆる債務者の危険負担。旧法では債務者は反対給付を受ける権利がないと規定していた。

C 債権者に帰責性がある場合 536② 債権者は反対給付の履行を拒否できない
債権者に帰責性がある場合、旧法では債務者は反対給付を受ける権利を失わないと規定していた。
債務者に帰責性があっても債権者にも帰責性がある場合は解除は恐らくできない。「債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない543条」※恐らくとしたのは不履行が債権者の帰責性によるものだけなのか、それとも双方に帰責性がある場合も含むのか分からなかったため。

特定物に関する債権者主義534は削除 旧534は債務者に帰責性がない場合に債権者に負担を負わせるものなので536の特則になる(双方に帰責性がない場合と債務者に帰責性がなく債権者に帰責性がある場合含む)。

損害賠償の問題の処理の仕方

債務不履行での損賠か?不法行為での損賠か? 明確にしておく
失火の問題などで違いが問題にされるが債務不履行か不法行為かの明記がなく、誰の誰に対する損賠請求なのかで異なってくる

債務者の帰責性、債権者の帰責性

債務不履行による損害賠償については415条に規定がある。その要件に当てはめる。
〇債務者の帰責性 必要 
〇債権者に帰責性がある場合 自分の履行を拒否できない536②が債務者に帰責性があれば損賠自体は可能※415に否定するような規定なし

填補賠償の明記

415条②で損害賠償のうち履行利益の賠償もできるように明記された。
解除不要で 履行請求+填補賠償 できる

(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

債務者の帰責性は必要だが挙証責任の転換

債務不履行責任による損害賠償を請求するための要件として債務者の帰責性は必要
債務者が自己に帰責性がない事を証明すれば責任を免れると明文化
債権者が債務者の責任を証明する必要はない

債務者の責任とは履行補助者も含める

債務不履行責任の場合は履行補助者の行為も債務者の責任として追及できる。この場合選任監督についての過失は不問。
※不法行為の場合は715の使用者責任で処理 

未成年者が失火した場合の責任追及

債務不履行の場合は未成年者が履行補助者に該当すれば債務者の責任追及可能。
失火の場合不法行為責任を追及するには重過失が必要。また未成年の場合は原則として712条により責任を負わないが、714条により監督義務者が責任を負う。
一般的には未成年者の行為自体に不法行為の要件を満たす必要があると説明されるが、
判例は未成年者に過失の有無は観念できないといい、監督義務者の監督について過失があるかないかを判断する結果、重過失は監督について吟味することになる。
一方、715の使用者責任については過失の有無は被用者について判断し、使用者が選任監督について過失がないことを立証すれば免責される。

不法行為責任の損害賠償請求において、故意過失の立証責任は被害者側にあるが、未成年の監督義務者の責任追及においては監督義務者が自己の免責を立証しなければ責任を負う構造となっている。従っていずれにせよ未成年者の故意過失の立証は不要であり、無過失責任に近い。

債務者の帰責事由がなくても解除できる

催告による解除541 催告による解除権の消滅547
催告によらない解除542
債権鞘の責めに帰すべきときは解除不可543
解除の効果545

子供のイタズラで多額の賠償責任を負うのか負わないのか問題

加害者が未成年者の場合は誰に損害賠償を請求すればよいか?

まず民法712条は「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」としているが、責任を負わないのは事理弁識能力がない場合であるので、
事理弁識能力があれば未成年であっても責任を負う場合がある。
714条の責任無能力者の監督者責任は712条で未成年者が責任を負わない場合に保護者が責任を負うという規定なので、事理弁識能力がある未成年者の不法行為においては原則として責任を負わない。
もっとも、

監督義務違反と交通事故による損害の発生との間に相当因果関係が認められる場合には,民法714条ではなく,民法709条・710条に基づいて,その未成年者の監督義務者に対して損害賠償を請求できるとされています(最二小判昭和49年3月22日)。

とされていることから、監督義務者固有の不法行為が成立して損害賠償責任を負う可能性もある。
今回のスシロー事件では親が動画を撮影していた?ようなので損害賠償責任は免れないだろう。
また、損害賠償額が多額だから免責するという理屈が通るなら敢えて多額の損害賠償で和解したほうが得だと考える輩もでるはずで、そのようなロジックで免責が否定されることはないはずである。

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