国葬差止め仮処分申請却下は法的に正しいのか

国葬差し止め訴訟 東京地裁却下
安倍晋三元総理の国葬を巡り、576人が差し止めなどを求めた裁判で、東京地裁は市民らの訴えを却下しました。差し止めを認めない判決は全国で初めてだということです。

 市民団体の呼び掛けに応じた576人は、安倍元総理の国葬は「法的根拠がなく違法」だとして、国葬と国葬への予算執行の差し止めを求めて裁判を起こしていました。

 訴えを起こした市民団体によりますと、東京地裁は9日、「国葬の実施と予算執行自体が国民に対して、弔意や弔意に沿った行動を強制する効果があると理解すべき理由は見当たらない」と指摘し、国葬の差し止めなどを求めた訴えを却下しました。

 差し止めを求める仮処分の申し立ては全国で行われていますが、通常の裁判手続きで裁判所の判決が出るのは初めてだということです。

 安倍元総理の国葬は27日に東京・千代田区の日本武道館で行われる予定です。

判決などの報道の場合は本当にごくごく一部、結果のみしか報道されず詳しい事はまったく分かりませんので、この情報だけから色々と疑問に思ったことを備忘録的に書き留めておこうと思います。

まずこの裁判はいわゆる「仮の地位を定める仮処分」だろうと思われます。https://matsuyama.vbest.jp/columns/general_civil/g_lp_indi/6571/

次に訴え自体を不適法却下している理由としては、「国葬の実施と予算執行自体が国民に対して、弔意や弔意に沿った行動を強制する効果があると理解すべき理由は見当たらない」
これは、原告側がこのような事を主張して、それに対しての判断でしょう。
これは訴えの利益のようなものがない、という事なのか?そのような権利がそもそもないということなのか?
他方、仮に、国が行う何らかのイベントや予算執行などが国民に対して一定の行動を強制する効果があるとすればその執行は差し止めることができるとも考えられます。
そうすると、この部分の判断は訴えの要件ではなく、実質的な判断をしているとも言え、訴え却下という判断はおかしいのではないかとも考えられます。

「仮地位仮処分の被保全権利は「争いがある権利関係」(民保23Ⅱ)である。…権利といえない法律関係をも広く含めて「権利関係」と規定したのである。財産関係、身分関係をとわず、物権、債権をとわず、条件付、期限付債権(民保23Ⅲ、20Ⅱ)でもよい。争いがある権利関係というのは、権利関係について争いがあり、その争いがまだ確定判決等によって確定されていない状態にあることをいう。」中野貞一郎 2018 民事執行・保全入門 補訂版 有斐閣P343

仮地位仮処分の仮処分の訴えの場合は被保全権利はかなり広く捉えることが前提となっているようです。
そうであれば、国葬およびその予算執行を差し止めるという権利関係ととらえることもできるように思われます。もっとも、その点を踏まえて強制するような効果がないと言っているのかもしれません。また、地方自治体に対しての民衆訴訟のような形態の訴訟方法がないこともあり、そもそも予算執行関係に対して国民がどうのこうの言う権利はそもそもない、というスタンスなのかもしれません。

棄却すると上訴されてめんどくさいから却下したように思えなくもないですが、全国で訴えが提起されているようですから、別の裁判所では異なった判断が下される可能性もありますね。
こちらの記事では国葬差し止め訴訟、却下 「訴えは不適法」―東京地裁
「判決は9日付。岡田裁判長は、予算執行の差し止め申し立てを可能とする根拠法は存在しないと指摘した。仮差し止めの申し立てについても同様に却下した。」
この論法はよく見ますが、予算執行の差し止めって根拠法がなければできないのか?
また、「予算執行の差止め」ではなく、国が主催して行う今回の葬儀そのものを差し止めることはどうなのか?
そもそも民事訴訟で差止めなどが行われる場合、イチイチ根拠法がなければ差止めできないわけではないでしょう。

他方、「弁護団の大口昭彦弁護士は「国葬に根拠法令がないと指摘されているのに、(根拠)法令がないから判断できないというのは矛盾している」と語った。」
確かに昔は国葬令なるものがあったようですが今はありません。しかし、内閣府設置法第4条第3項第33号を法的根拠としているようで、そうすると一定の法的根拠がある事になります。
とは言え、それで予算が執行できるのかはまた別問題ですね。これで予算執行ができてしまうと、なんでもかんでも閣議決定で予算が執行できてしまい国会を通す必要がなくなってしまいます。

もっともこの問題は法的根拠が仮にあったとしても国葬許すまじ、というある種政治的信条の問題だとも言えるので最終的には選挙などで意見を反映するしかないのかもしれませんが。

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