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罪名と科刑
素朴な疑問↓
共犯の過剰
甲乙間で2万円の窃取について意思連絡をしたが、実行者甲が2万円を強取した場合、実行行為をしていない乙に窃盗罪の共謀共同正犯が成立するのでしょうか?
こういうのって基本書とかでもサラっと流されてるんですよね。
結論から言うと甲が強盗の共同正犯、乙は窃盗の共同正犯でいいようです。刑法総論講義案(改訂版)363頁
このあたり学説などでもあまり論じられていないということで試験の解答としてはきちんと理屈が述べられていればいいのではないかと思われます。
共謀が成立するためには必ずしも罪名が一致している必要はない事が根拠となる。
またこの議論は行為共同説と犯罪共同説の対立でもある。
法定的符合説 発生した思い犯罪についての共同正犯の成立は否定されるが、共謀にかかる犯罪の構成要件と発生した犯罪の構成要件とが実質的に重なり合う限度で共同正犯の成立が認められる。
短答過去問
令和2年〔第3問〕(配点:2)
共犯と錯誤に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいもの
の個数を後記1から5までの中から選びなさい。(解答欄は,[№4])
ア.甲及び乙がAに対する暴行を共謀したが,Aの態度に激高した甲が殺意をもってAを殺害し
た場合,甲及び乙に殺人罪の共同正犯が成立するが,乙は傷害致死罪の刑で処断される。
イ.甲及び乙がAに対する強盗を共謀したが,その強盗の機会に,甲が過失によってAに傷害を
負わせた場合,甲及び乙に強盗致傷罪の共同正犯が成立する。
ウ.甲及び乙が共謀して,公務員Aに虚偽の内容の公文書の作成を教唆することにしたが,乙は
Aを買収することに失敗したため,甲に無断で,Bに公文書を偽造することを教唆し,Bが公
文書を偽造した場合,甲に虚偽公文書作成罪の教唆犯が成立する。
エ.甲が乙にA方に侵入して金品を窃取するように教唆して,その犯行を決意させたが,乙はA
方と誤認して隣のB方に侵入してしまい,B方から金品を窃取した場合,甲にB方への住居侵
入罪及びBに対する窃盗罪の教唆犯は成立しない。
オ.甲が乙の傷害行為を幇助する意思で,乙に包丁を貸与したところ,乙が殺意をもってその包
丁でAを刺殺した場合,甲に殺人罪の幇助犯が成立し,傷害致死罪の幇助犯は成立しない。
1.0個 2.1個 3.2個 4.3個 5.4個
正解は2なので正しいのは1個。
イとウが正しいと判断した。なぜ間違っていたのか自己解決するまでに約40分。試験まで後6日なのに復習も何もあったものじゃない(笑)
まず、Bは公務員じゃないようだ。。。どうやら公務員だという前提で問題文を読んでいたようである(笑)
次にB及び乙は公文書偽造に問議されることになる。これを公正証書原本なんちゃらかんちゃらは間接正犯をうんたらかんたらで、と勘違いしてしまう短答常連落ち(笑)
次に甲さんは共犯と錯誤の話になる。公文書偽造と虚偽公文書作成罪の関係はどうなのか?
虚偽の内容の公文書を作るように教唆しているのでそもそも間接正犯の形態ではない。
で、結局この問題は判例に従って、という事だが、その判例が見当たらない。
刑自体は同じなので実はどっちでもいい事になるのだが、どうやら公文書偽造の教唆に問議されるようである。
http://sloughad.la.coocan.jp/sono/crim/keik04/cr61c25q.htm
判例ロジックを推測する時間がないのでそういうもんだと記憶するしかない。
公務員をだまして虚偽の文書を作成させた者について、虚偽公文書作成罪の間接正犯(他人を自己の犯罪遂行の道具として使用して犯罪を遂行するもの)が成立するか
公文書の作成権限のない者が公文書の作成権限のある公務員を道具として使い虚偽の公文書を作成する
まさに間接正犯の類型であり、普通に考えると利用者は公文書偽造や虚偽公文書作成罪に問われそうである。
しかし、この犯罪形態が別途公正証書原本不実記載罪として規定されているためどっちを適用するか?という話で、こういうのは結局のところ判例がもっともらしいロジックで結論付ける。
論文試験的には、判例や学説などを披露して自分の考えを述べればオッケー。むしろ短答試験においてのほうがややこしいだろう。
とは言え、昔の刑法パズル問題においてはもはや結論とか知らなくても解けてしまう場合も多いが。
注意が必要な判例ロジック
虚偽公文書作成等罪
判例は、公務員でない者が、公務員をだまして虚偽の公文書を作成させた場合については、刑法157条の公正証書原本不実記載罪等が成立しない場合には、処罰しないと判示しました(最高裁判決昭和27年12月25日)。
ただし、公文書の起案を担当する公務員が、故意に虚偽の公文書の文案を作成し、公文書の決裁権者(作成権限者)をだまして虚偽の文書を作成させた場合については、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立すると判示しました(最高裁判決昭和32年10月4日)。判例は、公務員でない者が、公務員をだまして虚偽の公文書を作成させた場合については、刑法157条の公正証書原本不実記載罪等が成立しない場合には、処罰しないと判示しました(最高裁判決昭和27年12月25日)。
ただし、公文書の起案を担当する公務員が、故意に虚偽の公文書の文案を作成し、公文書の決裁権者(作成権限者)をだまして虚偽の文書を作成させた場合については、虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立すると判示しました(最高裁判決昭和32年10月4日)
公務員でない者 → 公務員 公正証書原本不実記載罪が成立しない場合は処罰しない = 虚偽公文書作成罪は適用しない?とも言える(虚偽公文書作成罪そのものも成立しないのかもしれない)
公務員 → 公務員 虚偽公文書作成罪の間接正犯
事案が虚偽の公文書作成となっているのでこれが偽造公文書だとどうなるのか?
偽造だとすると作成権限がそもそもない場合である
そうすると公務員であろうが公務員でなかろうが作成権限がない者が主体であれば偽造にあたるが、公正証書原本不実記載罪に該当する場合は公文書偽造に問われない、ということでいいのか?
公正証書原本不実記載罪は、作成権限のある者に対して虚偽の申し立てをし不実の記載をさせることなので作成権限がなければ公文書偽造の間接正犯や共同正犯などに問われる可能性がある、という理解でよさそうです。