行政代執行法1条と2条の読み方

第一条 行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。
第二条 法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。https://www.e-gov.go.jp

1条には条例や規則が定められていないが2条には条例や規則などが含まれている。
これはどういうことか?一般的に1条は仕組みなどをあらたに条例でつくれないとして条例であらたに直接強制などができないとして説明されることが多い。

とは言え、代執行を行おうとする場合に根拠法などがなければ条例をつくればいいとも説明されるので混乱が生じやすい(分かった気になってよくわかっていない)

1条の論理構造 
行政上の義務履行は代執行法による 
別に法律で定められていればその法律 ← 条例で定めたとしても当該条例には従わないor法律で定めろ とよめる

2条は行政代執行法を使う場合は法律や条例に根拠があればよい、ということであり、代執行を使おうとする際に根拠となる条例がなければつくればよいということになる。

結果として条例で新たに行政上の義務履行に関して何らかの強制手段を作ることができない、となる。従って現行法上条例で直接強制を行える規定があれば格別、なければ条例で直接強制を行えるような規定はつくれないということになる。

行政代執行の1条が何を言っているかまとめ

※追記
1条 行政上の義務の履行確保に関しては法律で定める (条例では定められない)
   
2条 代執行ができる要件 
   ①法律により直接成立する義務
   ②行政庁によって命ぜられた行為を行う義務 除却命令等
   根拠法令は法律条例(自主条例含む)

1条が言っているのは、代執行のような行政上の義務確保手段については法律で定めなければいけないということである。
そして、その行政上の義務確保手段の一つが行政代執行法ということであり、行政代執行によれば条例により直接成立する義務、及び条例によって命ぜられた行為を行う義務について代執行ができると定めている。
要するに、条例自体に行政代執行法のような義務確保手段を作ることはできないが、直接義務を命じるような条例を作れば代執行法が使えるということである。

短答過去肢

法律による行政の原理によれば議会制定法によって義務の履行強制が可能であるから現行法上直接強制について法律のほか条例を根拠規範とすることも許される。(新司23-28)←誤り

そもそも代執行は代替的作為義務にしか使えない。
直接強制も義務履行確保の手段の一つであるが、1条では義務の履行確保については法律で定めろとなっている。
1条は基本的に代執行で義務履行の確保を行え、ということであるから直接強制は別途法律で定めろともよめる。

行政代執行法は行政上の義務の履行確保に関しては別に法律で定めるものを除いては、同法の定めるところによるとしているから、条例に即時強制の手法を定めることは許されない。(予備26-17)←誤り

即時執行は義務の履行確保手段ではない。 例 破壊消防

行政庁が行政処分により私人に義務を課すことができる旨が法律に定められていても即時強制を行う事ができる旨が法律に定められていなければ、行政庁が行政処分を経ずに当該義務の内容を実現する即時強制を行う事は認められない(予備27-17)←正しい

義務を課す法律があっても即時強制を行える法律がないので即時強制は行えない。
※追記
「行政庁が行政処分により私人に義務を課すことができる旨が法律に定められていても」とあるが、即時強制は義務がない場合の話である。
義務の存在を前提にはしないが、法律、もしくは条例の根拠は必要である。
行政代執行法1条は義務履行の確保については法律で定めろと言っているので、義務の存在を前提にしない即時強制には適用されないと考えられる。

※追記 ミスリード発見 26-17

スタディング 司法試験・予備試験講座の解説によると

イ 正しい
即時強制は人の身体・財産に対し不利益を与える措置であるため、これを認める法律の根拠が必要です。
そのため、行政処分により私人に義務を課すことができる旨が法律に定められていたとしても、即時強制を許容する規定が無い場合、即時強制を行うことはできません。
したがって、記述イは正しいといえます。
(なお、行政処分により私人に義務を課したあと、これを実現させるために有形力を行使することは、即時強制ではなく直接強制と分類されます。)

アガルートの答えとまったく違うわけだが、果たしてどっちがどうなのか。
司法試験委員会の正解は7なので××〇でアガルートの解答があっていた。
即時強制は確かに国民の身体や財産などを直接的に制限する場合があるので法律の根拠が必要のように感じるが、条例を根拠にすることも許容されているのが通説のようである。
ミスリードというのはアガルートの解説にある即時強制は義務履行の確保手段ではないから条例でも定めることができる、という部分である。
確かに即時強制は国民になんらかの義務を課するものでもなければ、義務を実現させるものでもなく、即時強制は義務履行確保手段ではないから行政代執行法1条の適用外、と捉えても間違いではない。

行政代執行法は義務を実現化する場合の手続き総則

気になるのは即時強制は義務の履行確保手段ではないから、と言い切っている点である。そもそも行政代執行法は義務を履行しない場合にどのような要件、手続きでそれを実現かできるかを定めるのみであり、義務そのものについては法律や条令に委ねている。
つまり行政が国民になんらかの義務を命じた場合の執行方法についての総則規定のようなものだろう。
確かに即時強制は行政上の義務がある者に対して執行するわけではないから行政代執行法の適用外であるのは間違いないが、行政代執行法の適用外だから条例でも定めることができるのではない。そのように解してしまうと行政代執行と同次元の話のように感じてしまう(もちろんこれは私個人の感覚)。そうではなく、即時強制は本来法律や条例で定めるべきものであって、義務履行確保手段ではないから条例でも定めることができるのではない。

即時強制には隠された義務がある

そのように考えていくと、行政代執行法1条のほうが要件が厳しいともいえるが、そうではなく、義務履行確保に関して、例えば条例によって除却命令がだされたときに、条例で別途手続きなどを定めてはいけないと読むべきだろう。例えば戒告の手続きを省略した条例を定めるなど。
そもそも、義務の根拠となるものは法律でも条令でも制定できるのであって、これは即時強制でも同じことである。行政代執行法はその実現化手段を法律で規制しており、別途条例によっては規制できないとも言える。即時強制は義務の根拠規定ではなく、言わば実現化手段が直接規定されているといえる。一般的な説明では「義務の履行を強制するためではなく、義務を命じる余裕のない緊急の障害を除く必要がある場合」に「行政目的を達成するため」などと言われるが、その裏には本来義務を命じたいがその余裕がない場合というのがあり、要するに隠れた義務があるといってもいいだろう。

27-17 引っ掛け

「行政庁が行政処分により私人に義務を課すことができる旨が法律に定められていても」
「即時強制を行う事ができる旨が法律に定められていなければ、」
「行政庁が行政処分を経ずに当該義務の内容を実現する即時強制を行う事は認められない」
端的に言えば即時強制を行うには法律または条令などの根拠が必要なので法律(条令)に定められていなければ即時強制は認められない、ので〇だが、うっとうしいのは「行政処分を経ずに」という部分である。即時強制を行う場合は行政処分は必要としないはずである。そうすると、この肢は×になるのか?
そうではなく、「定められていなければ処分を経ずに」⇔定められていれば処分を経ずに即時強制できる→定められていないので処分なしで即時強制できない
要するに何が言いたいかというと、即時強制を行うには処分のあるなしは関係ないのに処分を経ずにとわざわざ言及していることで混乱していたのだ(笑)
ここで処分の有無は関係ないからそれを条件のようにしているから×などと考えてしまうのが短答落ち常連と言えよう。

明渡と代執行

結論 行政代執行でできる債務は代替的作為義務
公園の明渡や部屋の明渡に代執行が使われている根拠は、明渡ではなくホームレスの使っていた段ボールなどの撤去命令、或いは部屋の中に残存している備品などの撤去命令に基づくものである。
明け渡す=引き渡し債務は与える債務である。与える債務には行政代執行は使えない。

不動産トラブルに強い弁護士が教える「行政代執行」とは
行政代執行は他人が代わって為すことのできる行為に認められる。(代替的債務)
明渡し、或いは引き渡しは与える債務である。
その意味で非代替的作為義務と言え、行政代執行は使えないことになるが事務所の明け渡しやホームレスの公園からの追い出しなどに使われる場合がある。

代替的作為と他人が代わって為すことのミスリード

強制履行の方式では
①直接強制
②代替執行
③間接強制
に分けられる。

直接強制も代替執行も他人が代わって実現できる

②代替執行は他人が代わって為すことのできる行為に適用されると規定されているが、他人が代わって為すことができるという観点で言えば①直接強制でも同じである。
そうすると、この観点だけから言えば直接強制として挙げられている明渡しや引き渡しにおいても行政代執行は使えることになる。
判例は
①「法律が命じているか行政庁が法律に基づいて命じている行為」
②「為す義務たる作為義務のうち代替的なもの」
と解し、そもそも与える義務は含まれないと解している。

明渡しや引き渡しが行政代執行には使えない理由

明渡しや引渡しは非代替的義務などと言われる。
前述の如く民事執行法では明渡し引き渡しは与える債務で直接強制できるものに分類される。
その意味で確かに代替執行に分類されないので非代替的という表現は間違っていないが、ここから代替できないものというイメージにつながっているようだ(ええ、私のことです)。
代替的ではない→他人が代わって為す事のできるものではない→行政代執行には使えない
明渡しを与える債務と考えると直接強制が原則であり(改正により間接強制も可能になる)代替執行はできないから明渡し債務は非代替的というロジック。

引渡し明渡しがなぜ与える債務に分類されているかと言えばそれは実質的にはその所有権なり占有権なりを債務者から債権者に移転させるものだからであり、その意味では債務者の何らかの行為は別段必要としない。もしも債務者でしかなしえない債務だったら直接強制もできないことになろう。

明渡し債務は他人が代わって為す事のできる債務である

もっとも、いずれにしろ判例は行政代執行の対象は「為す義務のうち代替的なもの」であり「与える義務」はこれにあたらないとし、明渡しや引渡しは与える義務だと考えているので行政代執行の対象ではない。

明渡に行政代執行が許されているわけではない

事務所や公園の明渡しの際に行政代執行が使われるロジックとしては建物内や土地上の物を除却する命令が撤去義務のような為す債務と捉えている?、ざっくり言えばこんな感じである。
しかし、本来明渡しというのは建物内の物を撤去しただけでは足りず、むしろ明渡の付随効果として建物内の物が撤去できると考えたほうが自然である。
最終的には占有を移転させなければ強制執行が終了したとは言えないだろう。
建物内や公園上の物を撤去しただけでは占有が移転した、と果たして言えるのか疑問である。物を撤去したはいいが人がそこに再び存在し続けることだってあるだろう。この場合物の除却命令で人まで退去させることは恐らくできないはずである。
公園の中にあるホームレスのテントを撤去した、ただそれだけであり、勿論そういう命令しかでていないのでそれでいいわけだが、ホームレスを公園から退去させた=明け渡しさせたわけではない。
結局、明渡しに行政代執行を使ったわけではないことになる。平成21/3/25はあくまで除却命令
大高決昭和40/10/5は事務所使用許可取消処分に基づく事務所内の残置物の撤去の代執行の戒告自体が違法としている

仮に行政代執行によって明渡しや引き渡し自体が可能だとしても、その実現方法が民事執行法に規定されているような方法に限定されると結局代執行の意味がない。
代執行というのは要するにその手続き内で行政のやりたい目的が実現できるからこそ意味があるのであって、別の法律で実現するのであれば代執行の存在意義も危うい。
もっともホームレスに公共の場所の占有権があるかどうかは問題だし、行政との債権債務関係もないだろうから行政代執行はもとより民事執行法などの適用も難しそうではあるが。

明渡しは為す債務か与える債務か

いずれにせよ、法律によって直接命ぜられているか、あるいは法律に基づいて行政が何らかの義務を命じているなどの要件を満たしていなければ、いくら為す義務のうち代替可能であったとしても行政代執行は認められないことになるが、一旦その点は置いておき、明渡すという行為は為す義務にあたらないのかまとめてみたい。
前述の如く第三者でもその履行自体は可能である。

与えるという事と為すという事は別の行為なのか?

明渡しと行政代執行の問題は、言い換えると為す債務と与える債務の問題と言えるかもしれない(あくまで私見)。
部屋を明け渡すという行為自体をみると、まさに本人しかできない行為に思えるが、少なくとも民事執行法では為す債務ではなく与える債務となっている。
しかし、これは差押→競売→買受で所有権を取得した結果を実現する行為の現れととらえると確かに与える債務だが、その過程がない場合は与える債務と言えるのか疑問である。勿論為す債務だとしても明け渡すという行為自体は第三者でも可能だが、与える債務だと考えてもやっている行為自体は変わりない。
明渡し行為は為す義務ではない、とは言い切れないのではないか?

民事執行では明渡しは直接強制できる

この点、民事執行法では「物の引渡しを求める請求権についての強制執行は執行機関の実力で物の現実的支配を移転する直接強制によることができ」中野貞一郎民事執行・保全入門」P221、物の引渡しを求めるのだから与える債務と考えるのが当たり前。しかし、間接強制のほうがよければそちらを選択しても構わないと改正されたようである。

直接強制が許されない場合に代替執行ができると旧民法でも規定があり、そう考えるといずれにしろ明渡しは代替執行できないのが原則とも言える(民法的に)。

民事執行では不動産の引渡し命令は事実上の明渡し命令と言える。明渡しは与える債務で直接強制できるとされるのでこれは単なる呼び方の違いということか。

とは言え、なぜ直接強制が許されない場合に代替執行あるいは間接強制ができるのか?あまり説得力のある根拠はなさそうである。その証左が執行法の改正だろう。

代執行法と民事執行法とのねじれ現象?

行政代執行で執行できるものは「代替執行できるものだけである」、と考えると結局明渡しや引渡しはこれにあたらないということになり、詰まる所行政代執行法の対象をどう捉えるのかということに帰着して堂々巡りなわけだが。
あくまで条文上は他人が代わって為すことのできる行為と規定されているので、そう考えると、明渡す行為が為す義務でなくても他人が代わって為す事ができると考えれば現行法でも明渡しに行政代執行法が使えることになる。
が、今のところそうは考えられていないようなので、その意味で行政代執行法とその他民事執行法などで考え方が異なっていると言えるだろう。

レッカー移動は即時強制?

駐車禁止場所でのレッカー移動について、気になった事があります

>レッカー移動は行政行為の一種で、即時強制行為と言います。

目前急迫の障害を除く必要上、命じる余裕がない場合に限り行うことができる、令状の必要ない行政上の強制行為です。

つまり、そのレッカー時にはレッカー移動をしなければ何かしら発生するような急迫した状況があったのだと思います。
それが何なのかは流石にその場にいた警察官にしかわかりません。

まず、即時強制であっても法令上の根拠は必要である。急迫の障害を取り除くために令状や行政処分がなくてもできると言われると、我々短答常連落ち組みはすぐに急迫の障害があれば即時強制可能のようにミスリードしてしまいがち(笑)
結局のところ、即時強制などと言っても根拠法令があってそれを執行しているだけなのであって、殊更即時強制云云かんぬんを言う必要もなかろう。
行政法を勉強する際に必ず出てくるのは、通常であれば何らかの行政処分があって初めて強制的な公権力の行使が許されるのに、即時強制は行政処分のような手続きを経ずとも行えるから比較対象として都合がよい、講学上勉強するものだろうと個人的に思う。このような事は実は大きなお世話で余計に混乱を招きやすい。

改めてH27の問題をみてみよう。
「行政庁が行政処分により私人に義務を課すことができる旨が法律に定められていても,即時強制を行うことができる旨が法律に定められていなければ,行政庁が行政処分を経ずに当該義務の内容を実現する即時強制を行うことは認められない。」

法律は一定の要件に合致して効果が発生するから、短答の問題の解き方、見方としはある効果が発生するには要件に合致しているかどうかをみる必要がある。
当該肢は即時強制が認められるかどうかであるから、即時強制が認められるには法令上の根拠が少なくとも必要である。
肢では
義務を課す法律はある
即時強制の根拠法令はなし
行政処分なし

問題として少しうまくないのは即時強制を行えるかどうかを聞いている点である。仮に行政処分があった場合は義務を課する法律も存在しているので合法となるが、それが即時強制といえるのかというとそれはもはや即時強制ではない。

行政処分を経ない → 即時強制はできない
対偶をとる
即時強制である ← 行政処分を経る

となり、このロジックは実は間違いである。もっとも論理学の問題ではないからそんなことを言っても始まらないし、即時強制が認められないことに変わりはないのでやはり〇ということになりそうであるが、そうすると司法試験の短答式での論理問題というのは存在しないとも言える。

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