請負契約を全部解除できるようになった意味改め

解除された場合に一部報酬請求権があることが明文化された
旧法下では判例によって全部解除ではなく一部解除にすることによって一部報酬請求を可能とする

つまり
旧法下では一部解除にすることによって一部報酬請求を可能にする
新法では解除されても一部報酬請求は可能と明文化
ロジックが変わっている

IT訴訟解説:ベンダーのコミュニケーション不足が争点となった裁判「たった1日連絡しなかっただけで契約解除ってどういうことですか!?」

こうしたこともあり、そもそもシステム全体に渡って自分たちの出した要件をベンダーが正しく理解しているか不安に思ったユーザー企業は、直接顔を合わせての面談を申し入れたがベンダーはこれに応じず、自分の仕事は終わったとの態度に終始し、さらに丸1日ユーザー企業からの連絡に応えなかった。

ここに至ってベンダーを信頼できなくなったユーザー企業はベンダーとの契約を解除したが、ベンダーは自身の作成したソフトウェアをユーザー企業のサーバに格納した上で費用を請求する訴訟を提起した。

一日連絡がとれなくても契約解除できるかというのが論点というより、契約解除されても費用を請求できるか、という点がキモである。※契約解除が認められるとして請負の割合報酬請求権はどうなるのか?
民法が改正されて請負契約の全部解除ができるようになったが、この意味はまさにこのような事案で威力を発揮するのだろう。

債務不履行の問題として考えると

旧法下判例では一部完成している場合は全部解除できないから、一部分の契約は残るわけで、そうすると割合報酬は支払う必要がある。
しかし、この事案のように債務不履行で全部解除が認められてしまうと割合報酬は請求できない理屈となる。この事案では報酬ではなく費用を損害賠償として請求しているようなので意味は違うが、費用を損害として賠償請求するためには相手方の債務不履行責任が原則として必要となり、この事案では債務不履行がないか立証が難しいためいずれにしろ費用請求は認められない(あくまで旧法下では)。
従って記事の解説にもあるように、連絡を絶つのではなくこれ以上は対応できないのでお互い合意のうえで契約を終了させるべきだったのだ。
対応をまがりなりにもしていれば一方的な契約解除は認められないはずであり、そういう意味ではベンダー側が対応を間違ったと言える。
そもそも、一日連絡がとれなかった、のではなく、敢えて連絡をとらないようにした、というのが適切な表現でそれは相手を怒らせる対応である事は社会的な常識だろう。
請負全部解除できるかできないか問題

既履行部分がある場合は一部解除になる?

修正
https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2304/03/news016.html
記事だけからは全部解除したかどうか定かではない
生産管理システムは完成、人事管理システムに問題
https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2304/03/news016_3.html

※どうやら全部解除のようである。

これまでの判例によれば人事管理システムのみ解除になる
新634でも結局一部解除になりそうであるが、一部解除なのか全部解除なのかいずれにしろ、634条2号では仕事の完成部分については報酬請求が可能となる。
しかし、ベンダー側は費用を損害請求しているので634条2号に基づいていないことが分かる。
そもそも、注文者側は641条による注文者の解除権を行使したわけではないようである。なぜならこの解除権は相手方の損害を賠償して解除することになるからである。
恐らく

542条三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

の解除権を使ったのだと思われる。

また、634の解除は帰責性などが必要なのかどうか?
641条が注文者の任意解除を定めている。

634条2号は注文者、請負人双方の解除権なので相手方の帰責性は必要なようである。

そうするとこの規定は債務不履行責任の特則とも言うべきものだろう。
単に解除されたときとなっている。請負に関しては個別に帰責性などの要件を設定せずに原則として541や542によって解除権を行使するようである。

第六百三十四条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。

既にした仕事
可分な給付
注文者が利益を受ける

つまり、仮に契約を解除されたとしても既に完成した仕事の部分があり、それが可分なものであって注文者が利益を受けるなら割合報酬は請求できる。
これを本権についてみると、ベンダー側の損害賠償請求は全て棄却となっている。損害賠償請求は債務者の帰責性が必要であることからすると確かに損賠請求が認められるのは難しいだろう。もっともベンダー側が帰責性を立証する必要はないが。
しかし、634条の割合報酬は貰える可能性も無きにしも非ずではないか。。。

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