強制採尿 実務では身体検査令状および鑑定処分許可状を併用していたが、判例最決昭55.10.23集34.5.300はこれを否定、捜索差押令状に医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨(218条5項準用)の条件をつけるべき、とした。条解刑事訴訟法P416
強制採血についての判例は以下の記事のように判例は見当たらない。強制ではない採血についての判例はあるようだ。
実務では鑑定処分許可状と身体検査令状を併用している。この場合「鑑定処分許可状には採血は医学的に相当と認められる方法によること、身体検査令状には採血は意思をして医学的に相当と認められる方法により行わせること、といった気詐害付されるのが一般的である。」条解刑事訴訟法P416
ほとんどアクセスのない当ブログで珍しく検索で引っかかっていたので少し補足しておいたほうがいいようだ。
そもそもこの問題、何が問題なのかと言うと、強制採尿については明確な判例があるが強制採血についての「直接強制で行う」明確な判例がないようである(多分)。
強制採尿の判例をそのまま強制採血にあてはめるのが少々問題なのでは?ということらしい。
強制採尿は捜索差押 捜索差押は直接強制が可能
強制採血は鑑定処分許可状で行うという判例があるが、鑑定処分許可状では鑑定人は直接強制はできない。
身体検査令状でも直接強制できる。
実務ではどうなっているかというと鑑定処分許可状と身体検査令状を併用しているのでとりあえずこれで問題はないようだ(なぜ併用なのか)が、司法試験の問題としてよく出題されているということは結論だけ覚えても意味ないよ?ということを司法試験委員会は言っているということである。
要するに何が問題でそれについてどういった解決法が妥当なのかきちんと理解して論述する必要があるということである。
何が問題なのか?
要するにおしっこは結局体外に排出されるものだから捜索差押でいいとしても、血液はそういうものではなく、何らかの物理的な方法を人の身体に加える必要があるから採尿と採血を同列に扱っていいのですか?という点が聞かれているわけである。要するにおしっこは差押えでもいいけど血液は自然に排出されないものだから差押え令状だと無理なので鑑定だよね、でも鑑定だと被疑者に拒否されたら直接強制できないけどどうすんのよ?ということであり、もっと言えば捜索差押も身体検査もその令状の効力で直接強制できるけどさ、鑑定は違うべよ、という事らしい。
ここで重要なのは自分の考えを聞かれているのではない点である。
仮に、別にそれでいいじゃん、と考える人もいるはずである。しかし、そうなると試験としては成り立たない。
何が問題とされているのかも、実は自分が考える問題意識ではなく、業界で(この場合は試験に限ってと言えるだろう)問題とされている点の事である。そして、なぜそれが問題とされるのかも自分で考える問題意識ではなく業界で言うところの「なぜ」である必要がある。ここで突拍子もないような理由や根拠を持ってきてもそれが許されるのは学者先生だけだろう。
そうすると、この問題に関しての基本的な問題意識が試験委員と共有されており、実務ではこういった令状が使われているという点を示せておけば、仮に実務とは違った令状を使うべきだと書いたとしてもとりあえず及第点は貰えそうである(知らんけど(笑))。
捜査機関は強制採血をする場合は223,225の規定により168条1項に規定する鑑定を嘱託できる。
この鑑定は強制処分ではあるが、被告人などに拒否された場合には鑑定人は直接強制して鑑定処分を行うことができない。
とは言え、逆に言えば拒否されていなければ判例の言うように223.225.168①で問題はない。
強制採尿 捜索差押令状に218条5項を準用(医師をして医学的に相当と認められる方法で行わなければならないなどの条件をつけなければならない)
※なぜ準用か?
強制採尿は身体検査ではなく捜索差押ということだろうか
強制採血 223、225、168① で行う必要があるという判例判例アリ仙台高判昭47.1.25 だが、168条は直接強制できる規定ではない(※強制処分ではある)。 223、225も拒否された場合に直接強制できる手当がない。
よって223、225 +222で準用される139の身体検査令状で直接強制 実例捜索・差押えの実際(第二版)120頁
222は218を行う場合に139を準用するとしているので強制採血も結局218条の捜索差押になる。これを併用説と言うらしい。
223 鑑定
218 差押え捜索検証
第百三十九条 裁判所は、身体の検査を拒む者を過料に処し、又はこれに刑を科しても、その効果がないと認めるときは、そのまま、身体の検査を行うことができる。
第百六十八条 鑑定人は、鑑定について必要がある場合には、裁判所の許可を受けて、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り、身体を検査し、死体を解剖し、墳墓を発掘し、又は物を破壊することができる。
② 裁判所は、前項の許可をするには、被告人の氏名、罪名及び立ち入るべき場所、検査すべき身体、解剖すべき死体、発掘すべき墳墓又は破壊すべき物並びに鑑定人の氏名その他裁判所の規則で定める事項を記載した許可状を発して、これをしなければならない。
③ 裁判所は、身体の検査に関し、適当と認める条件を附することができる。
④ 鑑定人は、第一項の処分を受ける者に許可状を示さなければならない。
⑤ 前三項の規定は、鑑定人が公判廷でする第一項の処分については、これを適用しない。
⑥ 第百三十一条、第百三十七条、第百三十八条及び第百四十条の規定は、鑑定人の第一項の規定によつてする身体の検査についてこれを準用する。
168条で強制採血はできるが、拒否されると鑑定人が自ら直接強制することはできない。
第二百十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
② 差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。
③ 身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。
④ 第一項の令状は、検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により、これを発する。
⑤ 検察官、検察事務官又は司法警察員は、身体検査令状の請求をするには、身体の検査を必要とする理由及び身体の検査を受ける者の性別、健康状態その他裁判所の規則で定める事項を示さなければならない。
⑥ 裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を附することができる。
第二百二十二条 第九十九条第一項、第百条、第百二条から第百五条まで、第百十条から第百十二条まで、第百十四条、第百十五条及び第百十八条から第百二十四条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第百十条、第百十一条の二、第百十二条、第百十四条、第百十八条、第百二十九条、第百三十一条及び第百三十七条から第百四十条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条又は第二百二十条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第百二十二条から第百二十四条までに規定する処分をすることができない。
② 第二百二十条の規定により被疑者を捜索する場合において急速を要するときは、第百十四条第二項の規定によることを要しない。
③ 第百十六条及び第百十七条の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条の規定によつてする差押え、記録命令付差押え又は捜索について、これを準用する。
④ 日出前、日没後には、令状に夜間でも検証をすることができる旨の記載がなければ、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第二百十八条の規定によつてする検証のため、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入ることができない。但し、第百十七条に規定する場所については、この限りでない。
⑤ 日没前検証に着手したときは、日没後でもその処分を継続することができる。
⑥ 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第二百十八条の規定により差押、捜索又は検証をするについて必要があるときは、被疑者をこれに立ち会わせることができる。
⑦ 第一項の規定により、身体の検査を拒んだ者を過料に処し、又はこれに賠償を命ずべきときは、裁判所にその処分を請求しなければならない。
第二百二十三条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる。
② 第百九十八条第一項但書及び第三項乃至第五項の規定は、前項の場合にこれを準用する。
第二百二十五条 第二百二十三条第一項の規定による鑑定の嘱託を受けた者は、裁判官の許可を受けて、第百六十八条第一項に規定する処分をすることができる。
② 前項の許可の請求は、検察官、検察事務官又は司法警察員からこれをしなければならない。
③ 裁判官は、前項の請求を相当と認めるときは、許可状を発しなければならない。
④ 第百六十八条第二項乃至第四項及び第六項の規定は、前項の許可状についてこれを準用する。
身体検査も検証だが、身体検査令状が必要 218後段
220では令状によらない捜索差押、検証が規定されているが身体検査は?
身体検査も含む
短答過去問
令和2 予備 〔第18問〕(配点:2)
次の学生AないしDの【会話】は,医師が捜査機関の依頼に基づき,人の身体から注射器を用い
て直接強制により血液を採取するために必要と考えられる令状に関する議論である。学生Aないし
Dが必要と考えている令状として正しい組合せは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№
28])
【会話】
学生A:私は,一般に身体内にある体液を採取するために必要な令状については,強制採尿に関
する判例が採用した考え方と同じでよいと思う。
学生B:しかし,同じ体液といっても,尿と血液とでは性質が全然違うからなあ。
学生C:そういうBさんの見解も,対象者が採血を拒否した場合には直接強制するための明文が
ないのが問題だ。
学生B:その点は,刑事訴訟法第172条の類推適用で対応できると思う。
学生D:Cさんの見解だって,もともとその令状が想定している範囲は,身体の外表か,せいぜ
い肛門等の体腔を外部から確認する程度であって,身体の損傷を伴う血液の採取をその令
状で行い得るとするのは行き過ぎだ。
学生C:そういうDさんの見解も,それぞれの令状が単独ではできないことを,令状を併用すれ
ばできるとするのは,便宜に過ぎるのではないかと批判されているよね。
学生D:でも,Bさんの見解のように,直接の明文規定を欠いているにもかかわらず,条文の類
推適用によって直接強制し得るとするよりは良いと思う。
1.A:捜索差押許可状及び鑑定処分許可状,B:鑑定処分許可状,
C:身体検査令状,D:捜索差押許可状及び身体検査令状
2.A:捜索差押許可状,B:身体検査令状,C:鑑定処分許可状,
D:鑑定処分許可状及び身体検査令状
3.A:捜索差押許可状,B:身体検査令状,C:鑑定処分許可状,
D:捜索差押許可状及び身体検査令状
4.A:捜索差押許可状,B:鑑定処分許可状,C:身体検査令状,
D:鑑定処分許可状及び身体検査令状
5.A:捜索差押許可状及び鑑定処分許可状,B:身体検査令状,
C:鑑定処分許可状,D:鑑定処分許可状及び身体検査令状
正解4
まとめ
強制採尿
判例 捜索差押許可状 ※医師をして 条件付記
強制採血
判例 223、225、168①鑑定
問題点 168の鑑定では直接強制できない → 実務では鑑定処分許可状と身体検査令状を併用 併用説