退去強制令書発付処分取消等請求事件
立法府に与えられた上記のような裁量権を
考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められ
ない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認めら
れない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,同項に違反するも
のと解される
国籍法3条1項は,日本国民である父が日本国民でない母との間の子を
出生後に認知しただけでは日本国籍の取得を認めず,準正のあった場合に限り日本
国籍を取得させることとしており,これによって本件区別が生じている
旧国籍法3条1項
準正による国籍の取得)
第三条 父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる
身分を取得した子で二十歳未満のもの(日本国
民であつた者を除く。)は、認知をした父又は
母が子の出生の時に日本国民であつた場合にお
いて、その父又は母が現に日本国民であると
き、又はその死亡の時に日本国民であつたとき
は、法務大臣に届け出ることによつて、日本の
国籍を取得することができる。
2 前項の規定による届出をした者は、その届出の
時に日本の国籍を取得する。
国籍法3条1項は,同法の基本的な原則で
ある血統主義を基調としつつ,日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国
との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて,これらを満たす場合に限り
出生後における日本国籍の取得を認めることとしたものと解される。このような目
的を達成するため準正その他の要件が設けられ,これにより本件区別が生じたので
あるが,本件区別を生じさせた上記の立法目的自体には,合理的な根拠があるとい
うべきである
国籍法3条1項の規定が設けられた当時の社会通念や社会的状況の下~
~上記の立法目的との間に一
定の合理的関連性があったものということができる
以上のような我が国を取り巻く国内的,国際的な社会的環境等の変化に照らして
みると,準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことにつ
いて,前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなって
いる
日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子のみが,日本国籍の取
得について著しい差別的取扱いを受けているものといわざるを得ない
日本国民である父から胎児認知された子と出生後に認知され
た子との間においては,日本国民である父との家族生活を通じた我が国社会との結
び付きの程度に一般的な差異が存するとは考え難く,日本国籍の取得に関して上記
の区別を設けることの合理性を我が国社会との結び付きの程度という観点から説明
することは困難である
,日本国
民である母の非嫡出子が出生により日本国籍を取得するにもかかわらず,日本国民
である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子が届出による日本国籍の取得
すら認められないことには,両性の平等という観点からみてその基本的立場に沿わ
ない
同じく日本国
民との間に法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず,上記のような非嫡
出子についてのみ,父母の婚姻という,子にはどうすることもできない父母の身分
行為が行われない限り,生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとし
ている点は,今日においては,立法府に与えられた裁量権を考慮しても,我が国と
の密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との合理的
関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用しているものというほかなく,
その結果,不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ない。
憲法-法の下の平等 司法試験平成26年 第3問
ア.日本国籍は重要な法的地位であり、父母の婚姻による嫡出子たる身分の取得は子が自らの意思や努力によっては変えられない事柄であることから、こうした事柄により国籍取得に関して区別することに合理的な理由があるか否かについては、慎重な検討が必要である