債権譲渡と解除

債権譲渡後の債務不履行解除

令和5年

〔第24問〕(配点:2)
契約の解除に関する次のアからオまでの各記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものを組
み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。(解答欄は、[No.24])
ア.債務者が債務の履行をせず、債権者が期間を定めないでその履行の催告をした場合において、
その催告の時から相当の期間を経過しても債務が履行されないときは、債権者は、契約を解除
することができる。
イ.債務者が債務の履行をしない場合において、その不履行が債務者の責めに帰することができ
ない事由によるものであるときは、債権者は、契約を解除することができない。
ウ.債務者が債務の履行をせず、債権者が催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行
がされる見込みがないことが明らかなときは、債権者は、催告をせずに直ちに契約を解除する
ことができる。
エ.AB間で締結された契約に基づき発生したAのBに対する債権甲をAがCに譲渡し、債務者
対抗要件が具備された場合において、その後、BがAの債務不履行により当該契約を解除した
ときは、Cは、Bに対し、甲の履行を請求することができる。

オ.賃借人が死亡し、複数の相続人が賃借権を共同相続した場合、賃貸人が賃貸借契約を解除す
るには、その相続人全員に対して解除の意思表示をしなければならない。
1.ア イ 2.ア ウ 3.イ エ 4.ウ オ 5.エ オ

肢エは×ということらしい。ある解説ではCは第三者ではないから545条①但し書きが適用されないからだと言う。
これは基本中の基本だろう。
さて、ここで問題なのはなぜこの問題について混乱したのか?という点である(笑)

①債権が譲渡され対抗要件具備
②その後債権者が債務不履行
③債務者が解除権行使

債権譲渡時の契約解除についての条文はない

まず、債権譲渡についても改正などがなされているが、条文を確認する。
第四節の債権譲渡では、解除についての直接の規定はない。また、当該債権についての実際上の問題点についてどのように決するかについてのルールは債務者側からの抗弁として規定されているが、契約の解除がこの抗弁にあたるのかについては条文上分からない。

(債権の譲渡における債務者の抗弁)
第四百六十八条 債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる
2 第四百六十六条第四項の場合における前項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第四百六十六条第四項の相当の期間を経過した時」とし、第四百六十六条の三の場合における同項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第四百六十六条の三の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。

債権の譲受人は第三者にあたらない説がなぜ出てくるのか

概ね、債権譲渡時の解除についての解説は譲受人は第三者にあたらないから545条1項が適用されず譲受人に解除を対抗できるとする。
しかし、この解説は端折りすぎだろう。
そもそも論として、債権が有効に譲渡された後に当該債権債務契約が解除された場合の規定、要するにルールが第四節には規定されていない。
また、本問は債務者からの解除ではあるが、債権者からの解除もありうる。そうすると、債権譲渡が有効に成立しているにもかかわらず債権者からの解除が有効になりうるかという問題がある。

債権譲渡後譲渡人は契約関係から離脱するはず

もっとも、債権譲渡を行った場合、譲渡人はもはや債務者に請求する権利はないので解除権もない、と考えることができる。
しかし、ここで疑問に思うのは本問のように債権譲渡後に譲渡人の債務不履行を理由に解除した、とある点である。譲渡人はすでに債権を譲渡しているわけであり、契約関係から離脱しているはずである。だからこそ、譲渡後には債務者に対して請求できないという条文には規定のない論法になる。
そうすると、この債務不履行というのは譲渡前の債務不履行のことだろう。
であれば、468条に規定される対抗要件具備時までに譲渡人対して生じた事由をもって譲渡人に対抗することができるが適用されて、わざわざ545条①但し書きなどを持ち出さなくても解除を対抗できることになる。

468条の対抗は契約が有効であることを前提とするものである

545条は解除されると現状回復しなければならないが、第三者の権利を害することができないと規定し、解除そのものは有効であることが前提である。
このように考えていくと、468条ではなく、わざわざ545①但しを持ってきているのは、468条の対抗できる事由というのは解除を含まず、契約が有効であることを前提としているものだと考えるのが自然である。

譲渡人に対して契約の解除がなぜできるのか

従って、本来、解除権行使の前提である解除事由は対抗要件具備の前後で場合分けして考える必要がある。
もっとも、債権譲渡後は譲渡人は債権債務関係から離脱するので、その後に譲渡人が債務不履行など解除事由を発生させることはない、はずである。
従って、本問の場合は債権譲渡前の債務不履行により、対抗要件具備後に当該契約を解除しているとみなければならない。
問題は契約関係から既に離脱しているのに債権譲渡後にその契約関係を解除できるのか?という話であって、ここから旧法下における意義をとどめない承諾のような論点がでてくるのである(当然あくまで私見ですので(笑))
545条①但し書き第三者に当たらない説も、結局解除が有効であることを前提とするものである。
そして、解除が有効であったとしても第三者を害することができないため譲受人が第三者にあたるのなら譲受人は請求できることになる。

短答の解き方 解除が有効であることを前提にしたほうが効率がよい

短答式の問題として捉える場合には解除が有効か無効かを考えると時間を食ってしょうがない。
解除が無効だとすると譲受人は履行請求できるのは当然だとして、解除が無効なのに(適法に譲渡を受けて契約も存在している)のに履行請求できないことはあり得ないから解除が有効なのか無効なのかを考えること自体が無駄という(笑)

まとめ

まとめると、
債権譲渡の際、当該契約の解除についての規定はないため民法の契約についての解除規定が適用されるのが原則となる。
解除が有効であるとしても(短答の問題なので無効であれば譲受人は履行請求できるので無効の場合ではなく、有効の場合を考えたほうが話が早い。解除が無効なのに履行請求できないとすると譲渡は一体なんだったのかと話が錯綜してしまう)、譲受人が第三者であれば譲受人の利益を害することはできないため、履行請求できる。
しかし、判例は当該契約そのものを譲り受けた場合は第三者とは言えないとしている。
よって、譲受人は履行を請求できない。

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