法的に考えると不同意性交罪にあたるのか?という点と、あたらないとしても性加害と世間が認識し、松本さんは芸能界から抹殺されてしまうのか?という点が気になりました。
この点、以前であれば強制性交等にあたるのか?になりますが、ご存じの通り、この罪が認定されるためには暴行や脅迫が必要となり、今回のダウンタウン松本氏の件では認定はかなり厳しいでしょう。
しかし、時代は変わって不同意性交罪へと改正されたことにより、今回の件も文春の記事が真実なら不同意性交罪にあたる可能性が高い。
ちなみに口腔性交も同罪の適用対象であり、この点強制性交罪でも同様であったということをさっき知りました(笑)
また、非親告罪なので警察がその気になれば捜査対象として検挙できますね。親告罪から非親告罪になったのは強制性交罪からだということもさっき知りました(笑)
巷では両者の言い分が違うから何とも言えないので裁判で白黒つけろ的な意見が多いですが、ジャニーズの問題でもそうでしたが裁判で白黒つけてもマスコミが黙殺し業界が忖度すれば同じ。
とは言え、ジャニーズ問題は強制性交とは断言できない(暴行脅迫がない)場合がほとんどのようで、刑事事件として立件できるか微妙であり、そもそも検挙されることもなかったわけですから報道しない口実にできた面もあります。そういう意味では今回はかなり状況が異なると言えます。
いずれにしろ事の本質は、明確な暴行や脅迫がなかったにしろ、事実上拒否できないような状況を作ったり、あるいはそのような状況を利用したりしてなし崩し的に性交等を行ってしまうということ。
特にこれが上下関係などその人の立場が優越的と言えるような地位にあることを利用したような場合は問題です。何もしなくても既に拒否できないような状況ができあがっていると言えなくもない。
昨今の芸能界の性加害問題はまさにそこであり、これは刑法に規定される不同意性交罪にあたるかどうかとは別問題でしょう。
芸能界で働いている女性が大物芸能人の飲み会に誘われて性交に誘われて応じたとしても、もしかするとその女性は本当は性交したくなかった場合不同意性交罪にあたるのか?不同意性交罪にあたらないとしても、その女性が「誘いを断ると仕事がなくなると思ったので応じた」としたら道義的倫理的にどういう判断になるのか?
この点、よくありがちなのは明確に拒否すればよかっただけという考えがあり、確かに拒否したとしても何事もなかったかもしれません。
逆に、男だったら気に入った女性を誘うのは当然で、拒否されることもなかったので性交したら実は本人はやりたくなかったと言われてもじゃあその時に拒否してくれればよかったのに、となるでしょう。
こうなってくると、会社の部下とか、教授と学生とか、そういった上下関係にある場合はきちんとした意思確認をした上で性交をする必要があり、もっと言えば日頃の関係性なども考慮しなければいけません。
さて、ダウンタウン松本さんの性加害と思われる記事については内容が真実であれば道義的倫理的はどうあれ不同意性交罪が適用される可能性が極めて高い(改正前の行為なので不問でしょうが)。
他方、現状ではどちらの言い分が正しいのかは分からないため論評を避けるという考えはどうでしょうか?
今まで芸能関係で性加害についての報道はいくつかありましたが、全て裁判で白黒をつけてから論評していたのか?というと必ずしもそうではないでしょう。
芸能界の性加害、週刊誌やSNSでの告発に弁護士が警鐘「必ずしも正しいやり方とは言えない」
結局相手が現役の大物芸能人の場合真偽不明の場合は論評を避けるが、そうでなければコメントをしているだけのような気がしますね。
いずれにしても密室での人間と人間の言動ですから録音や録画をしていなければ白黒は当事者しかわかりません。
また、仮に録画していたとしても不同意性交の場合は客観的には明確に拒否していませんから前後の言動が分からなければ判断のしようがない。他方、上下関係があったとしても本人が同意していれば問題はない。他方、性交時は同意していたとしても、後から考えるとあれは間違いだったということもあるでしょう。
この場合に上下関係があり、いわゆるグルーミング的なものがあったとして不同意性交罪に問われるかもしれませんし、適用されなかったとしても報道されてしまえば性加害があったと世間的には認識するかもしれません。
女優の荻野目慶子さんは監督から性的暴行を受けたとされていますが、きっかけは自らマッサージをしてあげたことのようです。そして愛人関係が10年も続いたとのこと。
これは性的暴行なのか?レイプされたとはっきり書かれているものもありますが、仮に告訴された場合裁判所はどのように判断するか?という問題と世間がどのように判断するか?という問題があります。また、本人がどのように思っていたのか?本人が同意していれば問題はないわけですが、性行為をするつもりがなかったのになし崩し的に性行為を行ってしまったということをレイプという言葉で表現しているだけであって、本人はその事自体が嫌ではなかったとしたら当然告訴などはしないでしょう。
そうすると、性行為を行うことに対して同意がないということに刑罰をもってのぞむ場合はやはりそれなりの明確な要件定義をしないと危険でしょうし、道義的に糾弾する場合であっても本人がどう思っているのかを字義通りに受け取ってしまうことも危険なような気もします。
他方、客観的には同意しているように見える場合であっても本人が心の中では同意していない場合もあるでしょうが、それは他人には分からない。そして同意があったと思って性交を行ったら糾弾されるとなると、仮に事前に同意を得たとしてもその同意は誘導されたものだとか、拒否できなかったに違いないと言われるともはやどうしようもなくなってくる。
重要なのは芸能人などの有名人の場合は、事の真偽はともかくとして報道されてしまうとイメージダウンは避けられない点にあります。
仮に、性行為自体は行ったという事が事実だとしても事実の認識に齟齬がある場合もあります。
民事上の名誉棄損と刑事上の名誉棄損の違い
どうやら吉本興業サイドは週刊文春を提訴するようですが、我々にとって重要なのは刑事告訴ではなく民事上の提訴だと、何がどう違ってくるのか?って話ですね。
そもそも民事上だと不法行為責任を相手側に追求することになりますが、要は相手の故意過失を立証する必要があるということになります。
名誉棄損の場合はそれがどのように判断されるのか?ということで、仮にですが当該事実の適示が真実ではなかったということを立証しなければならないとすると、なかったことを立証するのはケースによっては不可能となりかねません。
まず民事上の名誉棄損は事実の適示に限られないということを初めて知りました(笑)
https://www.shinginza.com/db/01976.html
不法行為としての名誉棄損が成立する対象は,刑事上の名誉棄損罪と異なり,事実の摘示に限られず,意見や論評の表明も含まれる
そして、違法性が阻却される要件として(つまり不法行為にならない場合)
「事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,右行為には違法性がなく,仮に右事実が真実であることの証明がないときにも,行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定される(最高裁昭和三七年(オ)第八一五号同四一年六月二三曰第一小法廷判決・民集二〇巻五号一一一八頁,最高裁昭和五六年(オ)第二五号同五八年一〇月二〇日第一小法廷判決・裁判集民事一四〇号一七七頁参照)。」
この点刑法上の違法性阻却要件と変わりありませんね。
また論評については若干緩めの基準となるようだ
「ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,右意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,右行為は違法性を欠くものというべきである(最高裁昭和五五年(オ)第一一八八号同六二年四月二四日第二小法廷判決・民集四一巻三号四九〇頁、最高裁昭和六〇年(オ)第一二七四号平成元年一二月二一日第一小法廷判決・民集四三巻一二号二二五二頁参照)。そして、仮に右意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、事実を摘示しての名誉毀損における場合と対比すると、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解するのが相当である。」
このように見てくると名誉棄損で損害賠償請求が認められるためには真実ではないと立証する必要が原則としてあることになる。これは前述の如く密室などでの言動についてはかなり難しいだろう。
そうするとプライバシーの侵害として訴えることになろう。
プライバシー侵害とは
とは言え、プライバシー侵害は仮に真実だとして、というより真実だったとしても通常は公開してほしくないものであれば成立するので逆に真実だと認めてしまうようなものになる。従って、当該事実が事実無根だとしてそれを証明したい場合には使っても意味のない訴訟となってしまう。
と思ったが、真実性の立証=違法性阻却事由の立証はそれを主張する側になるのではないか?
真実性の証明は被告側に有利な事なので被告側で真実性があると立証しなければならない
名誉毀損で訴えられても違法性阻却事由が認められるポイント
松本人志の“文春砲”で考えるべきこと…アテンド経験のある女性が語る「違和感の正体」
ただ、アテンドによる遊びが横行するのは、芸能人が表立って遊びにくい立場にいるからで、ゴシップを避けたいタレントほど活用したがる傾向を見た。ある人気お笑い芸人コンビのひとりに、女性ゴシップがあった際、もう一方が「なぜ素人と遊ぶのか」と怒った裏エピソードがある。怒った方は仕事への悪影響を考え、日頃はアテンドが用意した場以外で遊ばないようにしていたからだ。
だから、アテンドのセッティングした場で遊んだ話のある芸能人は、むしろプロ意識から異性問題に気をつけていたという人もいる。もし松本が小沢の集めた女性と飲んだなら、その女性たちが信用のおける人たちだという前提もあったはずだ。
そこは、まさにアテンドの質が問われる。ガーシーのように後に暴露するような人物は、信用していた芸能人にとっては裏切り行為。松本の件について、筆者の友人である女性アテンドはこう言った。
「もしスイートルームに集まったこと自体が事実なら、女性を集めた小沢さんのミステイクもあったという見方もできますね。たとえば、女性がただの飲み会と聞いていたのに、行ってみたら乱交セックスの場だったなら、絶対に揉めます。私は男性タレントに女性を集める場合、乱交みたいなことをするなら、そういうのが大丈夫だという女性を選ばなきゃいけないので、事前にちゃんと確認するんです」
『週刊文春』裁判でジャニー氏は何を証言したのか 喜田村洋一[弁護士]
1審と2審で判決はどう変わったのか
――『週刊文春』が1999年10月28日号から「芸能界のモンスター」と題してジャニーズ事務所を追及する連載を行い、事務所側から提訴されました。当時の誌面では「ホモセクハラ」と表現されていたジャニー喜多川氏の性加害については、東京高裁判決でそれが真実と認定され最高裁でも維持されたわけですね。それが大手メディアできちんと報じられなかったことが被害の継続をもたらしたのではないかと。今回改めて問題視されています。
この裁判では1審と2審で性加害の認定が逆転したわけですが、その経緯をお聞かせいただけないでしょうか。
喜田村 提訴は1999年11月26日で、原告はジャニーズ事務所とジャニー喜多川氏。被告は文藝春秋、『週刊文春』編集長と発行人、それとデスクでした。
東京地裁の判決は2002年3月27日に出され、「ホモセクハラ報道」については真実性・真実相当性ともになしという判断でした。ところが2003年7月15日の東京高裁判決では、その部分について「重要な部分については真実であるとの証明があった」とし、2004年2月24日に最高裁はジャニー氏らの上告を棄却したのです。
――1審は「ホモセクハラ」の部分も含めて全部名誉毀損とされたのですか。
喜田村 いや、いろんなポイントが真実だと認められていました。ジャニーズJr.に学校に行けないスケジュールを課しているという部分については真実とされました。ただ、一番大事な「ホモセクハラ」の部分、今となってはその呼び方に問題はありますが、その点については負けてしまったということです。
それが2審でそこがひっくり返ったわけです。その結果、1審判決ではジャニーズ事務所とジャニー喜多川氏に各440万円を支払えという損害賠償の額が、2審判決では60万円ずつと減額されました。要するにホモセクハラの部分がいかに大きいかということですね。2審になったら、ホモセクハラの部分は真実で、名誉毀損ではないと。そういうことで、文春側が勝ったのです。
――2審でも損害賠償は科されたわけですね。
喜田村 一部ですね。タバコとか酒をのませてるという記述について、のんだJr.はいるだろうけど、ジャニーズ事務所としてそれを容認していたとか薦めていたということはないと。だからそういうところは負けたわけです。
被害少年たちとジャニー氏が法廷で対峙
――それでジャニーズ側の上告が棄却されて、2審判決が確定したということですね。1審と2審の逆転の大きなポイントは何でしょうか。被害少年2人は直接法廷で証言したわけですね。
喜田村 証言を直接聞いたのは高裁でなく地裁です。少年たちが関西在住だったので、1審のときに東京地裁が大阪まで出張っていって聞いたわけです。2001年7月25日と26日でした。
少年たちとジャニーさん以外にも、文春側とジャニーズ事務所側の証人を尋問しましたが、それらは全部地裁で行われ、高裁の裁判官はその記録を読んだだけです。だから僕らに言わせると、地裁の裁判官の誤判ですよね。
証言は非公開で行われ、少年たちとジャニーさんの間は衝立で仕切られていました。尋問の最後に1人の少年に「ジャニーさんに何か言いたいことはありますか」と尋ねたとき「長生きしてください」と答えていたのが印象的でした。ジャニーさん個人に嫌なことをされたという思いはあるのですが、一方で感謝の気持ちもあり、誠実さを感じました。
ジャニーさんは、少年たちへの行為について「一切ございません」と総括的に否定していました。ですから私は「少年たちが嘘をつく理由はありますか?」と聞いたのですが、「わからない」というのです。さらに「彼らが嘘の証言をしたということを、僕は明確には言い難いです」と述べました。それを聞いた瞬間に私はこの裁判は勝訴したと思ったのですが、1審の裁判所の判断は違ったのですね。
普通に考えると、セクハラの加害者だと言われてそれが嘘だというのであれば真っ赤になって怒るでしょう。でもジャニーさんはそうは言わなかった。これはおかしいと考えるべきで、法廷でも、私はさらに「彼らはなぜ嘘をついたとお考えですか」と訊いたのですが、ジャニーさんの答えは「彼らは寂しかったんじゃないでしょうか」といったものでした。
――説得に応じて出廷した2人のほかに、被害者少年の取材時の証言の反訳書も提出したそうですね。
喜田村 そうそう。音声そのものを出すと、話しているのが誰か特定されてしまうので反訳書を提出しました。それが10人くらいあったかな。
高裁の裁判官は1審の被害少年やジャニーさんの証言記録を見て、ジャニーさんの証言は信用できないと判断したわけですね。
ジャニー氏への尋問で提言したこと
――高裁で新たに提出した証拠もあったのですか?
喜田村 いくつかありました。例えば1審は少年が被害を受けた場所が全日空ホテルかアークヒルズかで違っていると言ってたのですが、地図で見たら二つのビルは隣なんですよ。しかも少年たちは車で連れていかれたんだし、少年たちは十代半ばなんだから、わからなくたってしょうがない。そういう証拠も出しましたけれど、ジャニーさんの否定証言を覆すには1審証拠で十分だったはずです。逆に1審判決については、なんだこりゃと思って笑わざるを得なかったですね。
――2審判決でも賠償金を払うことにはなったけれど減額されたわけですね。
喜田村 最初の原告の請求は総額1億700万円でしたが、1審でそれぞれ440万円支払えとなり、2審でさらに減らされてそれぞれ60万円になった。しかも主要部分が真実と認定されたのですから、これは勝訴と言ってよい判決です。
――それにも拘(かか)わらずジャニーさんの性加害はその後もずっと続いたわけですね。
喜田村 ジャニーさんへの尋問の中で言ったんです。「あなたはやってないと言うけれど、北公次さんとかいろいろな人が証言してるじゃないですか。そんなことはしていないと言うんだったら、疑われないように、あなたの自宅と少年たちが泊まるところを別にすればいいじゃないですか」と。でも彼は「そうします」と言わないんです。その後、最高裁でセクハラは事実だと認められたのだから、分離するのは当たり前でしょう。それなのに、その後も性加害が続いていたというのは驚くべきことですね。これは会社の問題です。
判決内容を新聞やテレビがきちんと報道しなかったことも大きいですよね。そこで報道されていればその後の被害者は出なかったはずだと記者会見でカウアンさんも言ってましたね。
不同意性交の実行の着手とは
松本さんに続き今度はサッカー日本代表選手への性加害問題。
ここでふと思ったのが不同意性交の実行の着手っていつなのか?
旧法下では暴行脅迫などのある程度の客観的基準みたいなのがあったのでその点はあまり問題にもならなかったと思いますが(一応論点として司法試験などにもでていますが)、改正後においては暴行脅迫のみならず様々な不同意性交にあたる類型が列挙されています。
改めて条文を確認してみます。
(不同意わいせつ)
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
(不同意性交等)
第百七十七条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。
3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
不同意性交の未遂はいつか
まず未遂処罰規定があるので結果が発生しなくても実行の着手があれば処罰されます。この点が重要です。わいせつな行為そのものが実行の着手とするならば話はそこで終わってしまいますが、不同意性交の場合性交してしまったら未遂ではなくなるわけで、未遂と言えるためには性交に至らない場合であることが必要になりますよね。
例えば性交が最終目標で服を脱がせようとした、この時点で未遂なのか?列挙されている行為に着手した時点なのか?
①仮に性交が目的であるのにそれを隠して、部下の女性を部屋に呼ぶ。
②部下に対して言う事を聞いていれば昇進させてやるなどと言う。
③服を脱がせようとする。
④性交をする
不同意性交の被害者が自ら脱出した場合
このような流れでみると③が妥当だと思われますが、さてここで服を脱がせたはいいが女性が自力で部屋から脱出するとか、助けを呼んで性交までに至らなかったとします。
不同意性交未遂の典型事例かと思いきや、結果的に拒否できているのだから不同意性交ではないのではないか?という素朴な疑問が浮かんできます。
旧法のように性交目的での暴行があれば結果的に性交に至らなくても未遂になりえますが、暴行脅迫は被害者の犯行を著しく困難にする程度であれば足り、被害者の犯行を抑圧する程度までは必要ないため、被害者が抵抗し自力脱出しても未遂に該当するのは分かります。
不同意性交の構成要件
しかし、不同意性交の場合は、
「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」と規定されています。
同意しない意思が形成できなような状態
同意しない意思を表明するのが困難な状態
同意しない意思を全うするのが困難な状態
にさせる、又はその状態にあることに乗じて
性交を行う、または性交を行おうとすることを処罰するものであると解すると、自力でその状態から離脱できるのであれば同意しない意思が形成できないとか同意しない意思を全うできないわけではないとも言えます。
不同意性交の結果が発生しなかった場合構成要件に合致しないのではないか問題
この改正は旧法下でも問題になっていた「拒否できたんじゃないの?」というような、暴行脅迫を明確に伴っていない行為を処罰するためのものでもあると思いますが、結果的に拒否できた場合はそもそもの条文に規定されている構成要件に合致しないのではないかという疑問がでてきます。
なぜなら、例えば上記②の後に部下が明確に拒否して部屋から退出して事なきを得た場合、③の時点で実行の着手を認めるとすると、未遂にもなりません。
しかし、恐らく部下の女性は②の時点で人によってはかなりの不快感を感じるかもしれません。そこでこの②の時点実行の着手を認めようとすると、例えば普通に食事に誘う、あるいは好意を持って付き合おうと申し込む、このような場合であっても多かれ少なかれ性交が目的であるでしょうが、ほぼ未遂として処罰できてしまいます。
やはり、未遂として処罰するためにはそれ相応の現実的な危険性、不同意性交に関しては客観的、或いは社会通念上性交に至るような蓋然性のある行為が伴う必要があるでしょう。
そうすると上記で言えばやはり③ということになろうかと思います。旧法では無理に脱がせるような行為がなければ実行の着手は認められそうにありませんが、改正後は例えば自分で脱ぐように命じても実行の着手は認められる可能性が高い。
しかし、そうするとここでも疑問が湧きます。仮に普通に飲食に誘ってその後ホテルの部屋に入室し(明確な拒否なし)、服を脱ぐように命じられ、一旦脱いだものの、やはり気が変わって部屋から出た。
不同意性交の故意とは?
これでも未遂の要件には合致しているように見えます。しかし、上司は普通のお付き合いとしての認識だったらどうなるのか?
そう考えると、行為者の認識、故意というものも重要になってきます。
不同意性交の故意とは一体何なのか?結局上記例で言えば部下だから断れないだろう、あるいは断りにくいだろう、断りにくいような状況をつくってそれを利用して性交まで至ろう、ということになるでしょう。
これらを踏まえて、サッカー日本代表の行為を見てみると
酔っている女性と性交をした(あくまで仮定)
女性は同意していないと主張
男性は同意ありと主張
不同意性交は同意があっても成立する
不同意性交の条文をみると「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」とあるので、仮に同意があったとしても「同意しない意思を形成できない、あるいは困難な状態」であることが認定されてしまうと要件に合致してしまいます。
あとは代表選手がどういう認識、要は不同意性交の故意があったかという点になるものの、本人がそれ自体については当然否認するでしょう。
これは当該犯罪で立件されるほとんどの被疑者がそう主張するはずで、これがすんなり認められるのであれば法律を改正した意味がありません。
旧法でも泥酔させて性交に及ぶのは準強制性交に該当し得ますし、改正法でも規定があります。従って、仮に当時同意があったとしてもアルコールを摂取している状態でかつ、かなり酔っているような状態での同意は同意とは認められない可能性もあり得ます。これは旧法下でも同様かもしれません。
とは言え、いずれにしろ行為者の故意、認識がどのようなものかがおざなりにされてはいけません。故意がなければ犯罪に問うことはできないからです。
酩酊状態に乗じて性交をしよう、少なくともこの認識は必要でしょう。
よく言われるのが後になって同意がなかったとかなんとでも言える、言ったもん勝ちじゃないか。確かにこのような場合、当時同意があったのは間違いないが後になってあの時は泥酔していてよくわからなかったと言われて訴えられてしまうのは酷なようにも思えます。しかし、相手が泥酔している状態であることを認識していて、仮に今から性交するけど大丈夫?と聞いて大丈夫と言質をとって、それこそスマホで録画もしていたとして果たしてそれがどれほどのものなのか。
やったもん勝ちを規制するのが不同意性交
むしろ、そういったやったもん勝ちを処罰できるようにするのが改正の一つの趣旨のようでもあるような気がします。
後でちゃぶ台返しをされてしまうのはおかしいという意見ももっともですが、よくよく考えるとだからこそ条文で類型が列挙されているとも言えます。
泥酔していてよくわからない、そういう状況に乗じてやられてしまった・・・自分にも落ち度があると思うのか、それに対して拒否反応を示すのか?それはケースバイケースでしょう。
例えばイケメン俳優でもありミュージシャンでもある国民的大スターが若かりし頃道端で泥酔している女性をかついで家まで持って帰っていたという有名な話がありますが、朝目覚めて隣にそのイケメンがいたら、まあほぼほぼどんな女性も不快感はなさそうです。しかし、これが汚いオッサンだったらどうでしょう(笑)
訴えられないように性交渉を持つ前にその都度承諾を得て契約書にでも残しておかなければならないなどと言う意見もありますが、極論すると同意があっても処罰され得るわけであり、その場合はそれ相応の要件があるということになります。
要は酔っているような女性には手を出さなければ済むだけの話です。
もっとも、部下と上司や、コーチと選手などこういった上下関係のある場合に通常の交際関係であってもこのような不同意性交として立件されることも多くなりそうなので、そうするとやはり不同意性交についての行為者の認識、故意がよりクローズアップされるような気がします。
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