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裁判所の執行官試験の過去問というものを見ていたらhttps://www.courts.go.jp/saiyo/siken/shikkokan/index.html
択一試験に以下の肢が
4 無権代理人を本人とともに相続した者がその後さらに本人を相続した場合
は,当該相続人は,本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶することができ
る。
正答は×
加齢に間違る、いや(笑)華麗にまちがえる(笑)
本人が無権代理人を相続すると追認拒絶できるのは間違いないが、
本人と共に甲が無権代理人を共同相続 → その後甲が本人を単独相続
普通に考えるといくつかのパターンがありうる
①本人を相続しているので本人が拒絶する権利をも相続する
②無権代理人と本人の権利が共存
③甲はそもそも無権代理人を相続しているので無権代理人が本人を相続したと考える
で、判例は昭和63年3月1日
無権代理人を本人とともに相続した者がその後更に本人を相続した場合においては、
当該相続人は本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく、本人が自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生ずるものと解するのが相当である。
けだし、無権代理人が本人を相続した場合においては、本人
の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はなく、右のような法律上の地位ない
し効果を生ずるものと解すべきものであり(大審院大正一五年(オ)第一〇七三号
昭和二年三月二二日判決・民集六巻一〇六頁、最高裁昭和三九年(オ)第一二六七
号同四〇年六月一八日第二小法廷判決・民集一九巻四号九八六頁参照)、このこと
は、信義則の見地からみても是認すべきものであるところ(最高裁昭和三五年(オ)
第三号同三七年四月二〇日第二小法廷判決・民集一六巻四号九五五頁参照)、
無権代理人を相続した者は、無権代理人の法律上の地位を包括的に承継するのであるから、一旦無権代理人を相続した者が、その後本人を相続した場合においても、この
理は同様と解すべきであつて、自らが無権代理行為をしていないからといつて、これを別異に解すべき根拠はなく(大審院昭和一六年(オ)第七二八号同一七年二月
二五日判決・民集二一巻一六四頁参照)、
更に、無権代理人を相続した者が本人と本人以外の者であつた場合においても、本人以外の相続人は、共同相続であるとはいえ、無権代理人の地位を包括的に承継していることに変わりはないから、その後の本人の死亡によつて、結局無権代理人の地位を全面的に承継する結果になつた以上は、たとえ、同時に本人の地位を承継したものであるとしても、もはや、本人の資格において追認を拒絶する余地はなく、前記の場合と同じく、本人が自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生ずるものと解するのが相当であるからである。
判例の立場は要するに相続人基準説
判例はさも当然かのごとく本人の資格において追認拒絶をする余地はないと言い切っているが、前述の如く様々な考え方がある。この無権代理人の相続の問題が手を変え品を変えこれまでも司法試験やその他の法律系の試験で出題されている理由は要するに当然とは言い切れないからだろう。
従って、この類の問題を知っている者でも結構ミスを犯すのだろうと推測。
要するに判例の立場は本人以外の者には追認拒絶権がないからだということなのだろう。
追記
①無権代理人が死亡し甲と本人が共同相続
②本人が死亡し甲が相続
判例の考え方
①甲+無権代理人 本人+無権代理人
②甲+無権代理人 が 本人を相続 甲と無権代理人が別と考えているのではなく、無権代理人の資格を持つ甲が本人を相続したのと同じと考えている
従って追認拒絶権はない
ただ、例えば①の段階で本人が追認拒絶権を行使していた場合問題となる。本人が追認拒絶権を行使した後に死亡し、甲が本人を相続した場合どうなるのか?
そもそも、無権代理人を相続するとは法的にどのようなことを言っているのか?本人は相続しようがしまいが追認拒絶権がある。追認拒絶権を行使したとしても無権代理人を相続することは可能であるが、このとき相続するのは無権代理行為を行った履行義務や損害賠償債務などを相続するものと考えると追認拒絶によってそれらに限っては相続しないと考えることができる。
だとすると、本人以外の人間が無権代理人を相続すると相続放棄でもしないかぎり追認拒絶権そのものがないため履行義務や損賠債務を相続するのは間違いない。
そして、追認拒絶権を行使せず、履行義務や損賠債務を相続した本人をさらに相続した甲は追認拒絶権をも相続したと言えるのかが本問のキモだろう。追認拒絶権が一審専属権だとすれば分かりやすいが、判例は一審専属権だからだとはせずに、無権代理人(無権代理人+甲)が本人を相続したのと同義だから追認拒絶はできないと言っている。
この理は無権代理人が本人を単独相続した場合に当然有効という判例最判昭40.6.18の理を直接当てはめている。
しかし、これは単独相続の場合である。本人が死亡し、無権代理人が他の者たちと本人を共同相続した場合無権代理と相続の関係
本人が有する追認権追認拒絶権は共有であり単独では行使できないのが通説なようである。
本問では、①でまず無権代理人を共同で相続し、②で本人を単独相続しているが、共同相続した無権代理人が共同ではなくなったと考えることもできる。そうすると、甲に無権代理人と本人が併存しているということにもなるので、必ずしも無権代理人が本人を単独したのと同様な利益状況にあるとは言えないだろう。
この無権代理人の相続問題がよく出題されるのはこのような点をあまり理解していない者が多いからだろう。勿論、私の事ですが(笑)