美人局で大学生転落死事件はなぜ強盗致死ではなく監禁致死なのか

強盗致死から監禁致死に罪名変更 「美人局」で大学生を脅しビルから転落死させた疑い 中学生2人を家庭裁判所に送致 大阪地検
大学生を「美人局」の手口で脅し、その後ビルから転落死させたとして、強盗致死の疑いで逮捕されていた中学生2人について、大阪地検は28日、罪名を監禁致死に切り替え、家庭裁判所へ送致したと発表しました。
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大阪地検は、罪名を監禁致死に変更した理由について、「捜査により得られた証拠の内容を検討し、変更した」としています。2人の認否は明らかにされていません。

コメント欄で池袋カッター強盗事件を知ったが、こちらも強盗致死ではなく窃盗と傷害致死となったらしい。
現金を盗んだ後に殺害して懲役6年の判決

大学生転落死事件のほうは事実関係が分からないので何とも言えないが、大阪地検の判断が正しいとすると恐らく犯人グループに一旦捕まった後に逃げている最中に転落死したものと思われる。
問題は強盗かどうか?ということになるが、もしお金を奪おうと脅迫などを行っている最中であれば、当該場所から逃げている途中でも強盗の機会であり、そうすると強盗致死となるはず。そうしていないのは既にお金を奪った後なのか、暴行脅迫を未だ加えていない状態だったのか。
お金を奪った後であれば犯人グループは追いかけたりはしないだろう。また、暴行脅迫を加える前の段階で例えば人目につきにくい場所へ移動させようとしたところ被害者の大学生が逃げ出したということなのかもしれない。この場合、逮捕監禁状態だったと言えるかがさらに論点になりうる。

強盗にあたるかあたらないか結構難しい場合がある。例えば殺した後に財布を奪う、逆に財布を奪った後に殺すなど。
上記の事案はいずれも強盗と思しき行為の後に加害行為などが行われ被害者が死亡している。

(強盗)
第二百三十六条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

2項強盗は支払いを免れたたりする行為も含まれるので、必ずしも財物を奪取する場合においてだけ暴行脅迫が必要なわけではない。
また、強盗を行った場合には致死傷の結果を伴うことが多いが、被害者がケガを負った場合も直接的な暴行による場合だけでなくいわゆる強盗の機会において致死傷の結果が生じれば強盗致死傷になりうる。もっとも、致死傷の結果が必ず強盗の機会でなければならないわけではなく、例えば3日後に病院で死亡した場合であっても原因行為が強盗の機会に生じていればよいとされる。そもそも、暴行脅迫によって直接的に傷害を負った場合などは敢えてこの点を論ずるまでもない。
要するに強盗の機会とは何ぞやという話になってくる。

強盗で怪我をさせても強盗致傷罪にならないことがある!
判例においては、「強盗の機会」に行われた行為かどうかは、①強盗を行なったときの行為と負傷結果を生じさせた行為との時間的・場所的近接性や、②犯行意図の継続性等を総合的に考慮した上で判断されると考えられており、怪我を負わせた行為が新たな決意に基づいた別の機会によるものである場合には、「強盗の機会」を認めていません(最判昭和23年3月9日)。

忘れてはならないのは、あくまで強盗であって、そもそも強盗にあたらないものはいかに当該行為の機会にケガを負ったとしても強盗致傷にはならない点である。
そうすると、池袋カッター強盗殺人事件は窃盗行為が先行しており、判決も窃盗と傷害致死であるが、窃盗行為がバレて返金を求められたりしてそれを免れようとして相手を殺傷するなどした場合は2項強盗あるいは事後強盗が成立するようにみえる。
事後強盗は
①取り返されることを防ぐ
②逮捕を免れる
③罪証(証拠)を隠滅
目的で暴行脅迫が行われる必要があり目的犯とされることから、この目的が欠けていたため事後強盗ではないと判断されたのであろう。
とは言え、目的犯における目的の認定はどうするのかという論点は別途あるが。

美人局は強盗という先入観

ここではたと気付く。そもそも脅迫したというだけでは強盗だとは必ずしも言えないな。もっと言えば、暴行をはたらいたと言えどもそれが反抗を抑圧するに足る程度でなければ強盗罪にいう暴行とは言えない可能性がある。
そこで、大学生転落死事件を再度検索。

他にも“SNS美人局”か、強盗致死容疑で逮捕の中2女子生徒が示唆 大阪の大学生転落死事件
死亡したのは滋賀県草津市笠山の大学生、太田岳さん(22)。中学生2人の逮捕容疑は共謀し2月12日午後2時50分~午後3時10分ごろ、大阪市中央区のビルに太田さんを誘い出し、金を奪うため脅迫したうえ、逃げた太田さんをビルから転落させ、死亡させたとしている。

 府警によると、事件当日、女子生徒は現場近くのコンビニで太田さんと待ち合わせ、7階建てビルの6階に行き、そこで待つよう伝えた。その後、女子生徒は少年らと合流。6階で脅迫された太田さんは外階段から7階に逃げ、隣接する4階建てビルの屋上に飛び移った。さらに逃げようとした際、地上に転落したとみられる。司法解剖の結果、死因は多発性外傷による出血性ショックだった。

金を奪うため脅迫したうえこの脅迫が反抗を抑圧するに足る程度とは言えないと判断されたという事であろう。
とは言え、強盗致死と監禁致死では刑罰がかなり違うので犯人が少年だという事を考慮して検察が忖度したという疑念は否めない。

(強盗致死傷)
第二百四十条 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。

(逮捕及び監禁)
第二百二十条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
(逮捕等致死傷)
第二百二十一条 前条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

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