大谷翔平の通訳水原一平氏の告訴罪名は窃盗なのか横領なのか問題

預金口座の管理権があれば横領?なければ窃盗?

「本人確認不要で50万ドル一括送金も可能です」 水原一平氏の違法賭博問題、残された“最大の謎”、具体的なシステムを解説
水原氏が送金した可能性について、カリフォルニア州弁護士の資格を有する東町法律事務所の村尾卓哉弁護士に聞くと、

「第三者による電子送金は、『Power of Attorney』(POA)という方法で可能です」

 とのことで、

「これは“口座から送金する権限をこの人に委ねます”という委任状を銀行に提出し、当該人物に送金権限を付与する仕組みです。委任状には通常、口座名義人と公証人がサインをし、委任する内容は自由にカスタマイズできます。例えば毎月の送金額上限を50万ドル、あるいはもっと多く設定することもできます」

 このPOAは一般的に、寝たきりの高齢者や認知症患者が家族に資産管理を任せる際などに用いられる制度だというのだが、

「特定の口座について、特に制限をせず大谷選手が水原氏に権限を付与していたとしても不思議ではありません」(同)

 続けて、

「もう一つは、複数の人物が共同で署名(サイン)の権限を持つ『サイナー』というシステム。おもに法人口座などで用いられ、口座開設時に社長と財務責任者をサイナーに指定し、口座運用において署名権限を持たせるケースなどが考えられます。POAは、数多くある口座の運用行為のうち、日常的な振込や送金など委任状に記載のある行為にのみ権限を付与するものですが、サイナーには基本的に広い権限が与えられます」(同)

 さらに先のジャーナリストが付言して、

「日本の銀行の『振込代理権』にあたる『Check writing privileges』という、口座名義人の許可を得た人物が送金できるシステムもある。オンライン上では、本人確認不要で一度に最大50万ドルを送金できます」

預金口座の管理とは法的にどういう事を指すのか

この件について、送金の権限が大谷翔平氏から仮に付与されていたのならば横領になるが代理人及び大谷翔平氏自身が窃盗という言葉を使っているのだから権限は付与されていないとする意見を見かける。
確かにそうだな、と思ったのだが改めて考えてみると

高齢者の親に代わって日常の支払いなどをする場合は実質的に財産の管理を任されており預金口座についても法律上の支配があると考えられる
従って、自分の借金返済などのために親の口座から勝手にお金を引き出したり送金したりすれば横領になる。

財産の管理権と振込代理権

そこで、これを今回の件について考えてみると
仮に水原一平氏に『Check writing privileges』代理人権が設定されていたとする。
この場合、当然違法賭博への借金返済の為に送金できるような特別の承諾を大谷翔平氏から得ていなければ横領になりそうである。しかし、この『Check writing privileges』なるものが一体どういう性質のものであるかが判然としない。そもそも、先にみたような財産全般の管理を任せているのならば何もこのような権限を付与しなくてもパスワードなどを教えておけば事足りる話である。勿論、代理人権を設定しておいてもいいが。
つまり、この『Check writing privileges』なるものがアメリカの法律においてどのように扱われているのか?ということである。
日本の刑法においての考え方、実務上預金口座の占有というものの考え方をそのまま当てはめてみた場合に『Check writing privileges』の設定を受けた者に預金口座の占有、いわゆる法律上の支配を観念できるのかという話である。それが観念できて初めて横領ということになり、なければ窃盗となろう。

他人に自分の銀行口座へのアクセスを許可する 4 つの方法
1. 銀行口座を「死亡時支払」または「POD」口座にします

当座預金口座、普通預金口座、マネーマーケット口座、または預金証書口座に 1 人または複数の受取人を指定できます。銀行口座の受取人を指定すると、その口座は「Payable on Death」口座または「POD」口座と呼ばれるようになります。銀行と直接連携して、銀行口座の受取人を指定します。

銀行口座に受取人が指定され、口座所有者が死亡すると、その口座内のお金は簡単に指定された受取人に送金されます。これは、検認プロセスを通じて銀行口座資金を送金するよりもはるかに簡単なプロセスです。

ほとんどの人は自分の銀行口座の受取人を指名していません。その主な理由は、人々が自分の銀行口座の受取人を指名できることを知らないからです。 (何らかの理由で、銀行は通常、このオプションについて顧客に教育しません。)

長所:主な利点は、死後に簡単にアクセスできることです。あなたの銀行口座の受取人を指定することにより、この口座は検認を回避することが保証され、あなたの受取人はあなたの死亡時にすぐに現金にアクセスできるようになります。

短所:誰かをあなたの銀行口座の受取人として指定しても、あなたが生きている間、その人は所有権や口座にアクセスする権利を持ちません。あなたがまだ生きているが無力な状態で請求書の支払いを手伝ってもらう必要がある場合、POD の指定は役に立ちません。

警告 1: 各銀行には、銀行口座の受取人を指定するための独自のルール、ポリシー、およびフォームがあります。銀行によっては、1 つの口座に複数の受取人を指定することを許可していない場合があります。銀行によっては、口座に「主」受益者の指定のみを許可し、「臨時」受益者の指定を許可しない場合があります。

警告 2:多くの人は、成人した子供 1 人以上を銀行口座の受取人として指定し、子供たちがそのお金を葬儀費用やその他の財産の費用に使えるようにしています。受益者がそのお金をあなたの不動産の請求書の支払いに使用できるのは事実ですが、このお金は法的には「自分のお金」であり、自分の好きなことに使うことができるということを忘れないでください。あなたが意図しているのであれば、指定された受益者がそのお金をあなたの遺産の請求書の支払いに使用してくれると信頼していることになります。

警告 3:銀行口座の受益者にあなたの遺産の請求書を支払い、残りのお金を他の子供たちに分配するつもりの場合、POD 口座を介してあなたの受益者に送金されたそのお金は「彼らの」ものになります。 IRSの観点から見たお金。

2023年現在、あなたの受益者がそのお金のうち17,000ドル(未婚の場合)または34,000ドル(既婚の場合)を超える金額を独身者に贈った場合、それは指定された受益者の財産からその他の人への「贈与」とみなされます。受益者はその課税年度にその「贈与」を IRS に報告する必要があります。

2. 誰かをあなたのアカウントの「共同所有者」にする

あなたが生きている間、誰かをあなたの銀行口座の共同所有者にすることができます。銀行口座の共同所有者は、あなたが生きている間も死後も口座への完全なアクセスと権利を持っています。

長所:生涯および死後もフルアクセスできます。この人物は、あなたが生きている間はアカウントに完全にアクセスでき、これらの資金を使用してあなたに代わって請求書を支払うことができます。あなたが死亡した後も、追加の書類を記入することなく、引き続きアカウントに完全にアクセスできます。

短所:共同所有者として、この人が債権者問題を抱えていたり、自分たちに対して判決が下された場合、債権者はこの共同口座のお金にアクセスして借金を返済する可能性があります。また、「共同所有者」として、この人はあなたの請求書を支払わずにすべてのお金を受け取り、それを自分のために使用する可能性があります。

警告 1:誰かを銀行口座の共同所有者にすると、IRS の観点からは、技術的にはその口座内のお金をその人に「与える」ことになります。銀行口座の金額が 17,000 ドル (未婚の場合) または 34,000 ドル (既婚の場合) を超える場合は、この「贈り物」を IRS に報告する必要がある場合があります。

警告 2:上記の「死亡時支払額」セクションの警告 2 および 3 を参照してください。これらの警告は共同所有口座にも適用されます。

3.財産に関する委任状

正式な相続計画には、署名済みの財産に関する委任状が含まれている必要があります。これは、あなたが精神的に無能力になった場合、または単に誰かにあなたの財産と財政を手伝ってもらいたい場合に、あなたが生きている間に「不動産関連」取引を手伝うためにあなたに代わって行動する代理人を指名する文書です。

あなたが誰かをあなたの委任状として指名すると、その人はあなたが生きている間に請求書などの支払いを助けるためにあなたの銀行口座にアクセスすることができますが、その人はこの銀行口座の所有権を持って いません。

長所: あなたの財産に関する委任状として – あなたが署名したPOA-Propertyのコピーを銀行に提示することで、あなたが生きている間に誰かがあなたの銀行口座にアクセスできます。

短所: 財産に関する委任状はあなたの生存中にのみ有効です。あなたが亡くなると、POA – 財産は自動的に終了します。

短所: 財産に関する委任状は、誰かの死亡時に銀行資産を移転するものではありません。これらの資産は、指定された受益者がいる POD 口座またはその他の場合にのみ、死亡時に譲渡できます。

4.書き込み権限の確認

銀行では、あなたの口座の「署名者」に誰かを指定することができます。つまり、この人物は、あなたが生きている間、財産に関する委任状の署名を必要とせずに、小切手を書いたり、あなたの銀行口座から引き出したりできるということです。

長所:これらの「小切手記入権限」を銀行口座に付与すると、署名済みの委任状を必要とせずに、請求書などの支払いを代理で行うことができます。

短所:誰かにあなたのアカウントにのみ「小切手書き込み権限」を与えた場合、その人はあなたの死亡時にこのアカウントを自動的に継承しません。死亡時支払指定を通じてその人を受取人として指定する必要があります。

警告 1:小切手の書き込み権限は銀行口座によって異なります。 1 つの口座に対して小切手の振り込み権限を持っていても、すべての口座に自動的に適用されるわけではありません。緊急時に誰かがあなたのすべてのアカウントにアクセスできるように、委任状に適切に署名しておく必要があります。

警告 2:小切手の書き込み権限は、生存中にこのアカウントの所有権を譲渡するものではありません。誰かに所有権を与えたい場合は、その人を共同所有者にする必要があります。

結論

優れた遺産計画の一環として、緊急時または死亡時に他人に銀行口座へのアクセスを許可する方法が考慮されます。銀行口座へのアクセスや所有権を許可する各方法の長所と短所を理解することで、遺産計画に反するのではなく、遺産計画に合わせて機能する方法で銀行口座を整理および設定できるようになります。

第三者が合法的に銀行口座にアクセスできる権限

ここでは銀行口座に他人が合法的にアクセスできる権限として4つが紹介されている
1は受取人に関してのものなので今回の件とは直接関係はない
2は口座の共同所有者に指定する
3は委任状を提出する方法
4は口座の署名者に指定する
上記の記事では3つの方法が紹介されている
『Power of Attorney』(POA)口座から送金する権限をこの人に委ねます”という委任状を銀行に提出
※委任する内容は自由にカスタマイズできます。例えば毎月の送金額上限を50万ドル、あるいはもっと多く設定することもできます
複数の人物が共同で署名(サイン)の権限を持つ『サイナー』というシステム
※法人口座などで用いられ、口座開設時に社長と財務責任者をサイナーに指定し、口座運用において署名権限を持たせるケースなどが考えられます。POAは、数多くある口座の運用行為のうち、日常的な振込や送金など委任状に記載のある行為にのみ権限を付与するものですが、サイナーには基本的に広い権限が与えられます
日本の銀行の『振込代理権』にあたる『Check writing privileges』という、口座名義人の許可を得た人物が送金できるシステム

財産全般の管理代理権ではなく振込の代理権という意味

わざわざこのように方式が違うということは権限やできることできないことなども違いがあるわけで、その法的な効果も違いがあるはずである。
よく引き合いに出される『Check writing privileges』は振込代理権とすると、あくまで振り込みの代理をするということだろうか。
字義通りに解釈すると、振込をする代理権と言えそうである。もっとも、振込をする際にイチイチ振込をする内容を指定して振込させる必要がないのであれば事実上代理権のある者がその権限内で自由に振込はできることになる。
しかし、そうすると単に振り込むだけの権限となる(アメリカだと実際は小切手の発行も含むだろう)。
つまり、この振込代理権のある者が当該預金口座を法律上支配していると言えるのか?ということになるだろう。
業務上横領などで預金口座から払い戻しを受けたりして摘発される場合、預金口座に対する占有=法律上の支配があるからとされることが一般的であるが、ある程度自由に出金送金できるのであれば法律上の支配があると言っていいのかもしれない。
しかしながら、『Power of Attorney』(POA)と『Check writing privileges』を比較すると明らかに違う制度である。『Power of Attorney』(POA)は送金の権限そのものを委ねているため、口座自体の送金権限が当該人になっているとみることができる。これは恐らく代理人ということではないだろう。従ってこの場合はほぼほぼ法律上の支配があるとみていいだろう。

振込代理人用のパスワードを発行する意味

他方『Check writing privileges』というのはあくまで振込の代理権である。銀行側では本人の確認が不要なだけで、当該振込の代理権があって初めて振込が合法的になると考えることが素直な解釈かもしれない。
言い換えると、ザックリ言えば本人からこれこれこういう支払いがあるから代わりに支払っておいてくれと指定されて、代理人のパスワードなどで振り込むといった形である。そうすれば本人のパスワードなどは教える必要がない。従って、完全に口座に対する法律上の支配があるとは言えなくなる。もっとも送金額の制限がなければ事実上自由に送金できてしまうため法律上の支配があるとすることもやぶさかではない。
しかし、これは事実上の話であって、銀行のシステム上明確に区別を設けており、法律効果も違うのが原則であるならば基本的には別物と考えるべきだろう。
そういう意味では、違法な賭博の借金返済のために振込を代理してくれと水原氏に頼んだ覚えはなく、勝手に送金されたからそれは窃盗であるという理屈はおかしな話ではない。

誤振込されたお金は誰のものか

話はそれるが、預金口座の占有という点からは密接に関連するのでこの点からも少し考えてみたい。
【誤振込を受けた者の引出行為と窃盗・詐欺・電子計算機使用詐欺罪】
どうやら平成15年の判例で結論がでているようである。
〇誤振込されたお金の引き出し権限は誤振込された口座の名義人である。
つまりこのお金は占有離脱物ではなく、口座の名義人の占有にあると言えるだろう。※所有権があるかどうかは不明。以下の考え方を参照すると多分ないと思われる。解説では銀行の占有とある。
〇とは言え、誤振込があったという告知義務はある。※つまり知らなかったら告知義務違反とはならない。
〇告知義務に違反して払い戻しを受けると詐欺罪に該当する。※場合によっては電子計算機使用詐欺

平成15年判例

という裁判所のロジックである。
確かにこのロジックは刑法のこれまでの考え方を踏襲しているように見える。
スーパーで商品を買ってお金を払いお釣りを貰った場合に、その場でお釣りが多いことに気付いて持って帰った場合(詐欺)と、家に帰ってから気付き、そのまま貰ってしまった場合(占有離脱物横領)では罪名が違う。
しかし、預金口座にこのロジックをそのまま当てはめるというのも少し難しいと思われる。
平成15年判例では、誤送金をした相手側からすると言わば自分の占有を離脱したお金と言えるし、誤振込を受けた側からすると法律上の占有支配下にある口座に入金されているので誤振込であっても占有下にあるというロジックになりそうであるが、誤振込の場合は銀行に占有があるとする。

多く貰ったお釣りは誰のものか

しかし、お釣りの事例では家に持って帰ってから気付いて領得すると占有離脱物として扱われている。そうすると、この場合そもそもお釣りを貰った時点ではお釣りを貰った人の占有下にはないという前提だろう。
仮に誤振込された人が誤振込されたことに気付かずに送金したり、お金を引き出した場合は告知義務違反に該当しないので詐欺には問えない。誤振込されたお金自体の占有は銀行にあるため窃盗に該当しそうであるが、故意がないため無罪になりそうである。
そして、誤振込されたお金の占有は銀行にあるものの、当該お金が引き出された場合などの返還請求権は振込をした側にあるという。
また、これまでの刑法の一般的な考え方では、誤って配達された郵便物は占有を離脱したものとされ配達を受けた側には占有権はないこととなっている。物理的な物を現実に持っていても法律的な意味での占有権はないとする考え方であるが、預金口座だとなぜ誤振込されるとあたかも占有権があるようになってしまうのか?
これについてはお金に色がないというお金の特性からくるものかもしれないが、そうだとすればなぜ誤振込されたものと元々口座にあるお金とを明確に区別して占有が銀行にあり口座名義人にはないなどと言えてしまうのか。

預金口座のお金に占有を観念することはできるのか

預金口座に占有を観念すること自体に無理があるのではないか?
そもそも論として、銀行には預金額全体のお金があるわけではない。元々、不正に取得したキャッシュカードでお金を引き出すなどした場合に機械をだますことはできないから窃盗としていたロジックに実は無理があったというだけなのだろう。確かに理屈としては成り立つものの突き詰めて考えていくと突っ込みどころが多い。
立法上対応できないことを無理に現行の法律の解釈を拡大させて対応せざるを得なかったという点は否めない。
平成15年判例でも銀行の占有に言及しているが、今やある程度立法上解決されているのでわざわざ占有概念を持ち出す必要もない。言い換えれば預金口座に対して窃盗概念を持ち出さなくても対応できるようになっているが、ここで今回の水原一平氏の件ではどうなるのか?という話につながっていくのである・・・(笑)
横領などを考えるとやはり占有概念がないとどうにも都合が悪くなる。。。

業務上横領の場合預金口座の占有は銀行にはない?

業務上横領罪と「占有」
預金口座のお金と横領を考える時のロジックとしては、

銀行に預金しているというケースであっても、その預金を操作できる立場にある場合には、預金に対する「占有」(濫用のおそれのある支配力)(刑法253条)を有していると考えられています(大審院判決大正9年3月12日)

そうすると、誤振込されたお金の占有はやはり誤振込された口座の名義人とするほうがすっきりする。とは言え、このように解してしまうと窃盗にもならずましてや委託関係にもないから横領も成立しないことになってしまう。

占有があろうがなかろうが誤振込の告知義務はある

しかし、占有はあるとしてもそれはあくまで他人のお金であることに変わりはない。従って、告知義務はあるため、それを怠って送金したり引き出せばやはり詐欺罪は成立するとすることも可能である。仮に誤振込だと知らずにお金を引き出したが、誤振込だと気付いたにも関わらず費消してしまえば占有離脱物横領とすることも可能である。
誤振込を知らなかった場合の処理についてはいずれにしろ変わらない。
お釣りの事例では、お釣りを貰った時点でお釣りが多いことに気付いたが、そのまま持って帰れば占有離脱物横領であり、その時定員からお釣りが多くないですかなどと聞かれたにも関わらず嘘を言って領得した場合に詐欺が成立するのである。お釣りの場合も信義則上の告知義務があるから気付いているのに黙って家に帰るだけで告知義務違反とすることも可能だが、やはり欺罔行為というものを観念しにくいため詐欺の適用は難しい。

平成15年判例の疑問

従って、誤振込されたお金を引き出す権限が受け取り口座の名義人にあるという構成をとるのに当該お金の占有は銀行にあるとするのはなんとも技巧的すぎる。
この点、なぜこのような構成をとるのか。その理由として誤振込されたお金の引き出しや送金の権限が受け取り口座の名義人にないと色々不都合がある理由が述べられているが、

 民事上の払戻請求(占有・前提)
事情によっては着金がキャンセルになるとしたら、いろいろな取引が成り立たなくなります。たとえば不動産売買では、着金した以上、もうキャンセルされないことを前提として、所有権移転登記を行う、というような同時履行が行われているのです

確かに振り込んで着金したはいいが、それを振込者側の一存で撤回できるとなると色々と面倒そうではある。しかし、これは一旦振り込んだ側にキャンセルする権限があるかないかということであって、誤振込を受けた側に引き出す権限があるかないかとは別の話である。
仮にキャンセル権限がないとしても、引き出す権限もないとすることも可能である。なんせ、裁判所は誤振込されたお金の占有権は銀行にあるとしているからである。
この裁判所のロジックをベースにすれば、受け取り口座の名義人には引き出したり送金したりする権限が初めからないということになる。誤振込をした側にキャンセル権限がないことと誤振込された側にも引き出し権限がないとすることとは両立する。
しかし、所有権自体は誤振込した側にあるため誤振込を受けた者に対しての返還請求権はある。
他方、誤振込された側には告知義務は当然あるため誤振込を知りながら払い戻しや送金をすれば詐欺に該当する。知らなければ罪に問うことは難しいのは同様である。
当該お金を引き出した後に誤振込されたお金だと知ったにも関わらず領得費消してしまった場合はどうか。
この場合はやはり占有離脱物横領に問議することが適切だろう。
もっとも横領にしても占有が横領者と銀行両社に併存しているとすることも可能であり、結局誤振込においては占有が誰にあるのかは講学上は別として実際上あまり問題ではないのかもしれない。

※追記

水原氏、大谷の銀行口座設定を“独自変更”…米紙が違法賭博騒動の新展開を伝える「金を盗んだ証拠を確保した」
そうしたなかで、騒動は一つの局面を迎えたのかもしれない。大谷と水原氏の関係性を伝えた『New York Times』は「オオタニの元通訳は、自身のギャンブルの借金を補うためにオオタニの金を盗んだ容疑で、罪に問われる方向で交渉中である」と指摘。「検察当局が、水原氏が450万ドル以上の金を盗んだ可能性を証明する証拠を確保した」と断言した。

 同紙は水原氏が大谷の銀行口座の設定を独自に変更し、当人が取引に関する通知を受け取らないようにしていたことを突き止めたと報道。その詳細なやり取りも伝えている。

 一連の捜査の過程において、検察側は水原氏に対して、罪を軽くすることを条件とした交渉を開始。早々に自身の行為を認めるよう促しているという。

水原氏が大谷の銀行口座の設定を独自に変更し、当人が取引に関する通知を受け取らないようにしていた
多分これで窃盗という方向で大勢が決まると思われるが、単に通知がいかないような設定変更であるのならやはり横領疑惑もまだ残る。
そもそも、設定が変えられるという事自体、口座にアクセスできる権限があったという証左なので必ずしも窃盗にあたるとは言い切れない。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です