令和1年 26問 請負 過分な費用

請負

請負人の担保責任に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものを組み合わせたも
のは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№26])
ア.仕事の目的物に重要でない瑕疵がある場合において,その修補に過分の費用を要するときは,
注文者は,請負人に対し,瑕疵の修補を請求することができない。
イ.仕事の目的物に瑕疵があり,その修補を請求することができる場合であっても,注文者は,
請負人に対し,瑕疵の修補に代わる損害賠償を請求することができる。
ウ.仕事の目的物の瑕疵が注文者の与えた指図によって生じたときは,請負人は,その指図が不
適当であることを知りながら注文者に告げなかったときであっても,瑕疵担保責任を負わない。
エ.建物の建築の請負において,注文者による瑕疵修補の請求は,建物が完成した時から1年以
内にしなければならない。
オ.請負人は,瑕疵担保責任を負わない旨の特約をしたときであっても,知りながら告げなかっ
た事実については,その責任を免れない。
1.ア イ 2.ア オ 3.イ ウ 4.ウ エ 5.エ オ

アは×だと判断したがイもオも〇だったのでウとエは×だった。
さてアはどうなのか?
旧民法634①では過分な費用については瑕疵が重要でない場合に過分な費用がかかるときは瑕疵の修補を請求できるできないと規定されているだけであって、瑕疵が重要な場合は過分な費用がかかっても請求できることになる。
なので×ではなく〇だったようだ。
この点改正後は事情が異なる。請負に関する民法改正のポイント

瑕疵が重要か修補に過分な費用を要するかで区別していた旧法

一方、旧民法634条1項ただし書については、瑕疵が重要な場合には、修補に過分の費用を要するときでも請負人は修補義務を免れないと解されており、請負人が過大な負担を強いられるという点で不合理であるとの批判が強い規定であったことから、改正民法においては削除されました。立法担当者の見解によると、改正民法においては、修補に過分の費用を要する場合には、修補は取引上の社会通念に照らして履行不能であり、履行不能に関する改正民法412条の2第1項の規定が適用されるものと解されており、注文者は請負人に対して修補を求めることはできず、契約の解除や損害賠償請求により解決されることになります。

従って結果としては瑕疵が重要であろうがなかろうが過分な費用がかかる場合は修補請求できない。

解答 4

旧634条の条文論理構造
仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。 ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りではない

瑕疵があれば注文者は瑕疵の修補請求ができる
瑕疵が重要でなく、かつ過分の費用がかかる場合は修補請求できない
瑕疵が重要であればいくらお金がかかっても修補請求できる と読める

改正後、修補に過分の費用を要するとは履行不能にあたる

改正後は、司法試験・予備試験 体系別短答式過去問集 (3) 民法(2) 2020年P386によれば結局のところ修補に過分な費用を要する場合は履行不能にあたるようだ。
旧法であれば、修理にいくらお金がかかろうが修理しろ、と言えるのでそれは不合理だとして当該規定は削除されたようである。
しかし、修理すれば追完できるのであれば履行不能と擬制するのはいかがなものか?とは言え、履行不能となると損害賠償は請求できる。

改正
(履行不能)
第四百十二条の二 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

改正民法においては瑕疵修補請求を直接規定したものがないが(制限について636条)、改正民法562条の規定が請負の場合にも準用される(改正民法559条)ということである。

第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

第九節 請負
(請負)
第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
(報酬の支払時期)
第六百三十三条 報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。
(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
第六百三十四条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
第六百三十五条 削除
(請負人の担保責任の制限)
第六百三十六条 請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第六百三十七条 前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
2 前項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、適用しない。
第六百三十八条 削除
第六百三十九条 削除
第六百四十条 削除
(注文者による契約の解除)
第六百四十一条 請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
(注文者についての破産手続の開始による解除)
第六百四十二条 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる。ただし、請負人による契約の解除については、仕事を完成した後は、この限りでない。
2 前項に規定する場合において、請負人は、既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について、破産財団の配当に加入することができる。
3 第一項の場合には、契約の解除によって生じた損害の賠償は、破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り、請求することができる。この場合において、請負人は、その損害賠償について、破産財団の配当に加入する。

報酬請求権と損賠請求権は同時履行

短答のロジック

完成建物の所有権は材料提供者帰属説 判例通説

〔第29問〕(配点:2)
建物建築工事の請負契約に係る完成建物の所有権の帰属について,材料を提供する者が請負人で
あっても原始的に注文者に帰属するとする見解があるが,次のアからオまでの各記述のうち,この
見解の論拠として適切でないものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄
は,[№33])
ア.不動産工事の先取特権の規定が民法に設けられている。
イ.建物建築工事において完成建物の引渡しを受けていない注文者の債権者がその建物に対し強
制執行をすることができることになるのは,妥当でない。
ウ.建物建築工事において,建築確認を注文者が申請し,注文者の名義で所有権保存登記を行う
という実態がある。
エ.建物は土地と別個の不動産であるから,建築された建物はその敷地に付合しない。
オ.建物建築工事の請負契約において,請負人が建物の所有権を取得するとしても,請負人には
敷地利用権がない。
1.ア イ 2.ア ウ 3.イ エ 4.ウ オ 5.エ オ

完成建物の所有権は注文者に帰属するという説
この説の論拠として適切かどうかという問題
※追記
改めてみると「適切かどうか」ではなく、「適切ではないかどうか」である。
従って肢アは注文者に所有権が帰属するという説の論拠になるというよりも「適切ではない」とは言えないというふうに捉えるべきなのだろう。

肢ア 不動産工事の先取特権の規定がある ← 注文者に所有権が帰属するという説の論拠になるのかならないのか
解答は〇 理由は請負人に先取り特権が認められているのなら、請負人に所有権が帰属しなくても保護に欠けるところはないからという。
請負人に先取特権が認められているのが、そもそも所有権があるからであるという考えかたをしてしまったのは何を隠そう私である(笑)

この論点の視点は、所有権の帰属をロジックとして判断するのではなく、利益衡量して判断しているということになる。従って、これはロジックではなく説を知っていないと解けないということになる。
が、各説の論拠をイチイチ覚えていられるわけもない。よって、必ず各肢を検討する必要がある。

立法担当者の見解に対する疑問

https://www.businesslawyers.jp/practices/1242
改正民法においては、修補に過分の費用を要する場合には、修補は取引上の社会通念に照らして履行不能であり、履行不能に関する改正民法412条の2第1項の規定が適用されるものと解されており、注文者は請負人に対して修補を求めることはできず、契約の解除や損害賠償請求により解決される

「修補に過分の費用を要する場合には、修補は取引上の社会通念に照らして履行不能」となるために敢えて修補請求に関しての規定は設けなかったようである。
とは言え、現実の社会では恐らく過分な費用かどうかの判断は難しいだろう。
注文者は修理してくれと請求したものの、修理代が予想以上にかかるため請負人が拒否したとすればそれは履行不能というよりはむしろ541か542での解除になるのではないか?
過分な費用がかかるから履行不能であり、履行不能の場合は請求できないと裁判上ではなるにしても履行を請求できないだけであり、解除はできない。

(履行不能)
第四百十二条の二 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

立法担当者としては瑕疵があったとしても解除権はないというふうに考えているのか?
請負についての解除の規定は以下のみとなっている

(注文者による契約の解除)
第六百四十一条 請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
(注文者についての破産手続の開始による解除)
第六百四十二条 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる。ただし、請負人による契約の解除については、仕事を完成した後は、この限りでない。
2 前項に規定する場合において、請負人は、既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について、破産財団の配当に加入することができる。
3 第一項の場合には、契約の解除によって生じた損害の賠償は、破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り、請求することができる。この場合において、請負人は、その損害賠償について、破産財団の配当に加入する。

一旦完成してしまうと(瑕疵がある状態で完成と言えるのかどうかの別論点があるが)もはや注文者に解除権はないという事でいいようだ。

修理代金が過分な費用とは何を基準にして判断するのかという論点はあるが、例えば家を建築した場合に瑕疵が見つかり修補請求を行う。
このとき、雨漏り修理に100万円、家ごと建て替える必要がある場合は家ごと建て替える場合のほうが過分な費用と言えそうだが、仮に雨漏り修理に1000万かかるとしたらどうなるのか?
いずれにしろ履行不能による損害賠償請求がなされるだろうが、この場合雨漏り修理に相場では100万なのに1000万という過分な費用がかかるとしてもそれが認めらられるなら実質的にはあまり差異はない。もっとも修理できない場合もあるだろうからそういう時には履行不能というのは実益がありそうだが、この場合は過分な費用がかかるから履行不能ではなく、履行そのものが不能だから文字通り履行不能なだけである。
旧法下では瑕疵が重要な場合はどんなに過分な費用が必要でも修補請求が認められるのが不都合だからと言うが、請負人が履行を拒否すればいいだけの話であろう。

旧法634
(請負人の担保責任)
第 634 条 仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、
相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただ
し、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要する
ときは、この限りでない。
2 注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償
の請求をすることができる。この場合においては、第五百三十三条の
規定を準用する。

旧法635
第 635 条 仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約した目的を達す
ることができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。
ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。

635条はそっくりそのまま削除されているため、目的物に瑕疵があってそのために契約した目的を達することができない場合でも契約は解除できないことになる。
目的を達することができないような場合は重要な瑕疵と言えると思われるが、もし妥当な費用であれば修補は請求できることになる。
修補したとしても契約の目的が達せられない場合は再度修補請求できそうだが、このように何度も修補しなければならないようであれば履行不能という解釈になるのだろうが、その場合でも契約の解除はできないので損害を賠償してしもらうしかない。損害というものが何にあたるのかはまた別論点になるだろうが。

過分な費用がかかるときは修補請求権がなく履行不能になるというよりは、注文者の解除権がなくなっているという点が大きいようである。
とは言え、過分な費用がかかるときは履行不能になる、という文言はないのでこれはあくまで立法担当者の立法趣旨ということになるだろう。
従って裁判所で別の判断が下される可能性はある。そのようにならないためにも法律を規定しているのだからその点は規定する必要があったと言える。

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