令和3年予備試験短答民法 失踪

追記

失踪宣告の取り消しについての素朴な疑問まとめ

〇失踪宣告が取り消されると、宣告後取消前になされた行為はなかったものとして扱われる
〇しかし、善意でなした行為はそのまま存続する
〇つまり、悪意でした行為はしていないものとして扱われる※無効であって効力を生じないという意味ではない。効力を生じないとすると、一旦有効になった事が前提になるが悪意の場合は最初から無効である。
財産については善意であろうが悪意であろうが現存利益を返還する

〔第1問〕(配点:2)
失踪宣告に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わ
せたものは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[No.1])
ア.不在者の推定相続人は,家庭裁判所に失踪宣告の請求をすることができる。
イ.死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が,その危難が去った後1年間明らかでない
ことを理由として失踪宣告がされた場合には,失踪宣告を受けた者は,その危難が去った時に
死亡したものとみなされる。
ウ.失踪宣告を受けて死亡したものとみなされたAから甲土地を相続したBが,Cに甲土地を売
却した後に,Aの失踪宣告が取り消された。この場合において,CがAの生存につき善意であ
ったときは,Bがこれにつき悪意であったとしても,その取消しは,BC間の売買契約による
甲土地の所有権の移転に影響を及ぼさない。
エ.失踪宣告が取り消された場合,失踪宣告によって財産を得た者は,失踪者の生存につき善意
であっても,財産を得ることによって受けた利益の全額を失踪者に返還しなければならない。
オ.失踪宣告を受けて死亡したものとみなされたAが,失踪宣告が取り消される前に,Bから甲
土地を買い受けた場合,この売買契約は,失踪宣告がされたことにつきBが善意であるときに
限り効力を有する。
1.ア イ 2.ア エ 3.イ オ 4.ウ エ 5.ウ オ

正答は1
私は3にしていた。肢アを保留にし、肢オは一応×にしているようだが?
さて、この問題アが分からなくても正解にたどり着けるのだが、×と考えた肢と保留した肢を比較した結果、自分が確定した判断のほうが言わば間違っていると判断したらもはやどうしようもない。
保留した肢と正誤を曲がりなりにも判断した肢を比較した場合、確率的には判断できた肢のほうが信ぴょう性が高い。

失踪宣告の問題についてよく出されるのは宣告の取り消しと、それに伴なう善意悪意の問題だろう。
ものの本を読むと初見では分かったようで分からない、分かったつもりで問題にあたると結構間違えるが、条文にかえると意外にすっきりする。

失踪そうの宣告)
第三十条 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪そうの宣告をすることができる。
2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
(失踪の宣告の効力)
第三十一条 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
(失踪の宣告の取消し)
第三十二条 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。

失踪宣告が取り消された場合、善意でした行為の効力に影響なし

善意が当事者双方に必要なのか?

という素朴な疑問が湧くが条文には書いてないので判例の出番となり、そういう意味でこの問題は判例の趣旨に照らし、となっている。
当事者双方善意でした行為の効力は有効ということは、一方でも悪意だと無効と読める。

現存利益の返還に善悪の違いはあるのか

そして、財産を得たものは現存利益だけ返還すればよい。取消では善意でしたとか悪意であった場合はなどという問題が良く出される。
善意でした場合は現存利益で悪意だったら全額返還などという言い回しである。
32条2項では失踪宣告の取り消しによって得た財産の権利を失うとだけ書いてあり、善意悪意についていの言及はない。
そうすると、素直に読めば善意だろうが悪意だろうが取消によって得た財産の権利は失うが現存利益だけ返還すればいいとなりそうだが果たしてどうか。
正直言ってこの条文のつくりは欠陥がある(笑)
とは言え、悪意の場合は無効であり、無効だけど財産は現存利益だけ返還とすると財産を得た場合は事実上無効ではなくなるとも考えられるのだがこれでいいのか?
素直にコンメンタールを読もう。

判例ナシ

しかし、コンメンタールにも問題提起はあるものの明確な答えナシ(判例ナシ)。
それで、この問題につき、過去の司法試験の短答ではどのように出題されていたのかを確認してみることにした。
平成15年までの間に失踪宣告関連の問題は6問だったが、現存利益返還を善悪にからめている出題はない。

効力を生じないと無効は違うのか問題

ここで新たに気になった問題がある。
S63の問題

Aが失踪、妻Bの申し立てにより失踪宣告がされた。その後、失踪宣告が取り消された場合に取消前になされた行為でもっとも成り立ちにくいのはどれかという問題である。
正答は2
「肢2 Bが再婚した場合において、B及び再婚の相手がAの生存につき悪意である時はその婚姻は効力を生じない。」
私は悪意の場合は無効だろ、ということで成り立つんじゃね?と思い、肢4を成り立ちにくいとした。肢4も微妙だが他の肢には自信があったので消去法である。
「肢4 BがAの土地を相続したとしてCに譲渡し、Cがさらにその土地をDに譲渡した場合Aの生存につきB及びCが善意であるときは、Dは、悪意であっても、Aに対しその土地を返還する必要はない。」

判例のない短答問題のつくり

この問題まずもっとも成り立ちにくいものを選ばせるもので判例の趣旨に照らしてという問題ではない。
コンメンタールではいわゆる重婚事例では善意であれば前婚は復活しないという民事局長の回答があるのみで判例などはないようである。
つまり、この問題の正答である肢2は判例でないことは明らかであり、条文や他の判例などからの推論、演繹的なものと言えるだろう。
そもそもこのような演繹的な推論を国家試験で使っていいのかという問題はさておき、ぐうの音も出ない論理が使われているに違いない。

肢2には「婚姻は効力を生じない」と書かれており、これが成り立ちにくいということは婚姻は効力を生じる可能性があるということになる。
そもそも、失踪宣告が取り消されると取消前になされた行為はしなかったものとして扱われるらしい。これは条文には明確に書かれてはいないがそのように読めるしコンメンタールにもそう書いてある。
「無効=最初から効力を生じていない」ということである。

とすると、やはり善意だと効力に影響を生じないのだから肢2は成り立つと考えるのが普通。しかし、まさにこれが短答落ち常連の悲しい性。
なぜこの肢が成り立ちにくいのかLEC東京リーガルマインドの解説を読んでからの結論はこうなった。
解説には2つの意味で根拠づけがされているが、そのうちの一つが以下。
効力を生じない=失効の意味 失効とは効力が生じていることが前提となっている
肢2は一旦重婚状態を認めたうえで失効させると言っていることになる。
双方悪意で婚姻が無効であれば効力を生じないという言い方はしない(多分LECの見解)

この見解だと要するに法律用語の問題になってしまうのだが。。。。
失踪宣告が取り消されると取消前に行った行為がなかったものとして扱われる すると本来再婚も無効となるが善意で行えば有効である これが原則である
双方悪意の場合原則通り無効と考えるのが普通であるが、それが成り立ちにくいとなるならやはり解説の言うような「効力を生じない」=一旦再婚を有効とするような考え方は成り立ちにくい。
しかし、一般的に効力を生じないとは無効と同義ではなかろうか。無効と取消、或いは撤回でさえ様々な議論があり、条文上でも結構あいまいに使われていたがちょっと調べると効力を生じないと無効とは同義ではないらしい(笑)
撤回が『効力を生じない』の規定と基本的解釈

効力を生じないの意味

『効力を生じない』の内容について
→後発的な事情による失効だけである
原始的な『無効』はこれに該当しない

『撤回』が『無効』である場合
=『後発的な事情による失効』ではない
=撤回の効力が当初から生じない
つまり『撤回』自体が存在しない

失効=効力を生じない 

つまり問題文に「婚姻は無効である」と書かれていたら成り立ちうるということになっていたわけである。
思うに、これまでもこのような基本的な用語の間違いで問題そのものを見誤っていたのかもしれないと思うと笑うしかない。

なぜもっとも成り立ちにくいものを選べとなっているか

ちなみにLECの解説ではもう一つ742条を根拠にしたものがある。
要するに婚姻の無効事由にあたらないからというものであるが、だとすると売買や他の契約においても無効事由にあたらなければ悪意であっても有効となってしまうのではないか。
しかし、32条の趣旨と法律用語をきちんと理解していると混乱することなく正解が導けそうだ。
失踪宣告の取り消しの結果、身分上、財産上の変動はなかったものとして扱われるとは条文にはどこにも書かれていないが、善意であるときに限って効力に影響を及ぼさないとしているので原則的には無効であると読めるし、基本書などでもそうなっている。
一旦有効としたうえでそれを取り消すわけではないという点が理解できており、さらに効力を生じないという言葉の意味をきちんと理解していれば他の条文を引き合いに出すまでもなく判断できただろうし、それがこの問題の狙いの一つかもしれない。

前婚の復活 失踪宣告の取り消しは死んだことによって変動したことが元に戻る

失踪宣告をすると離婚ではなく婚姻関係の消滅
行方不明者が生きていることを知っていた場合は、取消しにより行方不明者との婚姻関係が復活します

失踪宣告の取消後の法律関係
前婚が復活し、後婚と重婚状態が生じるということらしい。つまり失効とかそういうことではない。

そもそも、失踪宣告がなされると要は死んだこととして扱われるという事であり、宣告が取り消されると死んだことによって変動した法律効果が元に戻るのが原則ということである。
元に戻らないのが善意でなされた行為であって、その場合でも得た利益は現存利益があれば返還しなければならない。
従って、失踪宣告によって当然前婚は復活するが、後婚がどうなるかについては条文では規定がなく、後婚が必ずしも無効となるわけではない。
LECの解説では「効力を生じない→有効だということを前提にしてその後失効することが間違い」という意味で成り立ちにくいと言っているのか?
「有効だということを前提にしていることそもそもが間違い→無効だから」成り立ちにくいと言っているのかが非常に紛らわしい。
後婚は善意だろうが悪意だろうが影響を受けない、重婚状態が正答であるならば失効しないので有効であることを前提にすることが間違いのようなミスリードを誘う解説のやり方はよくないのではないか。

とは言え、ここで改めて素朴な疑問が浮かんでくる。失踪宣告の取消後の法律関係を素直に字義通り読むと、
善意で行った再婚は当然そのまま存続するし、生存が判明した配偶者との前婚も復活しないので問題はないが、悪意で行った再婚では、前婚は復活するものの、後婚もそのまま存続してしまうのはなぜか?
これが財産関係の取引であれば悪意で行った取引はなかったものとして扱われるだろう。

H15
〔No.31〕 Aの夫Bが失踪し,行方不明となってから8年後に,Aの請求により,Bの失踪宣告がされた。
この事例に関する次のアからオまでの記述のうち,正しいものを組み合わせたものは,後記1から5まで
のうちどれか。
ア Bは,乗船していた船舶が沈没し,行方不明となった場合には,船舶が沈没した後1年が満了した
時に,死亡したものとみなされる。
– 18 –
イ Bは,別の場所で生存しており,失踪宣告から1年後に,Cとの間でその所有不動産を買い受ける
旨の契約を締結していた。この場合,失踪宣告が取り消されるか否かによって,当該売買契約の効力
は影響を受けない。
ウ Bが別の場所で生存していることが判明したため,失踪宣告から2年後に,失踪宣告は取り消され
た。しかし,Aは,取消し前に,Bから相続した不動産をDに売却していた。この場合,A及びDが
Bの生存につき善意であれば,Bは,Dに対して当該不動産の返還を請求することができない。
エ Aは,Bの死亡により保険金を受領したが,その後に,Bが生存していることが判明した。この場
合,生命保険会社は,失踪宣告の取消しを得なくても,Bが生存していることを証明することができ
れば,Aに対して保険金の返還を請求することができる。
オ Bが別の場所で生存していることが判明したため,失踪宣告から12年後に,失踪宣告は取り消さ
れた。この場合,Bの生存につきAが善意無過失であれば,Aは,Bから相続した不動産を時効取得
できるので,Bは,Aに対し,当該不動産の返還を請求することができない。
1.ア イ 2.ア オ 3.イ ウ 4.ウ エ 5.エ オ

正解は3
ウが〇だとすぐに分かるのだが後一つがどうしても分からない。
イをいくらよんでも〇だと分からない。それもそのはず「Cとの間でその所有不動産を買い受ける旨の契約を締結していた」のは失踪宣告を受けた本人であるBである。
それをAだと読んでしまっていた。。。Aが仮に悪意だとしたら影響受けるしな、と。
もう笑うしかない。

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