訴因
分かっていたつもりがやはり分かっていない。
公訴事実と訴因の違いをきかれると、????(笑)
まとめ
公訴事実・・・犯罪を特定していない具体的事実
訴因・・・公訴事実からある特定の犯罪事実を抽出したもの検察官が審判対象としたい犯罪事実
公訴事実と訴因の違い
公訴事実は訴因を含んだものとか、公訴事実のほうが訴因より広い概念と解釈すると余計混乱してしまうようだ(笑)
公訴事実≒訴因
公訴事実と訴因は別の概念だが
公訴事実と訴因を別の概念として捉えるのではなく(別ですけど)公訴事実に法的構成あるいは法的評価をしたものを訴因として考えたほうがよい。
なぜなら公訴事実の同一性が問題となるのは訴因の変更などのときであるが、この時判例の考え方ではA訴因とB訴因が公訴事実の同一性の範囲内にあるかをみるときに両者の基本的部分が同一かどうかで判断する(刑事訴訟法講義案120頁)。
そもそも、起訴状に記載されている公訴事実はそれ1個しかなく、その公訴事実から訴因が抽出されるというような私の考え方だと訴因の変更の際おかしなことになる(当該公訴事実からA訴因が抽出B訴因も抽出されるのが理屈だから、同一性の範囲内にあると言えばある)。
訴因が公訴事実に法的評価を加えたものとすると、単に構成要件が変わるのであれば当然問題なく訴因の変更は認められることになる。
しかし、訴因の変更になんの制限も加えなければ無制約に訴因変更が許されてしまうことになりそうであるが、実際公訴事実と違う事実を訴因とすることはできないのではないか。
公訴事実と訴因は基本的部分がそもそも同じであって、別の事実であるわけがない。そして訴因が別の事実であればそれは別の公訴事実ということになり、ここで公訴事実の同一性があるかないかという話になってくる。
(例えば訴因変更を無制限に許せば訴因をまったく別の犯罪にすりかえる事ができるがそんな事したらもう1回起訴し直せよという話になるのは容易に分かる)
つまり、この問題はひらたく言うと同一の手続き内でどこまで起訴内容を変更できるのかという話であって、訴因という概念をあらたに持ってきたが故に訴因だったら変更してもいいけどそれには限度がありますよ、と言っているすぎにない。
同一性の範囲内というミスリード
そうすると、公訴事実と訴因がまったく別個の話ではなく、本質の部分では同じものであって、見方が違う、或いは捉え方が違うものなのに、公訴事実の同一性の範囲内という表現の仕方ではまるで公訴事実が大きな〇でその中に訴因が入っているようなイメージになってしまう。
従って従前のA訴因をB訴因に変更した場合、B訴因が(この場合A訴因と比較しても意味はない)起訴状記載の公訴事実と呼ばれている具体的な事実と違っていればそれは訴因変更が許されず、その訴因に変えたければ起訴し直せという話になる。
範囲内という表現は一見理解しやすいものの、そもそも公訴事実と訴因が同じものを元にして出来上がっており、かつ別個の概念だとすると範囲内より同じかどうかで判断すべきだろう。そういう風に理解すると腑に落ちる。
また、訴因変更の要否の問題は要するに訴因を変更しないと公判が維持できないとか有罪にできないとか、そういう問題に過ぎない。仮に訴因変更が必要だとしても変更しないからといって何らかの罰則を受けるわけでもなく、変更が必要な事案であったとしても変更せずに一旦取り下げて再度やり直すことだってできる。※訴因変更の要否とは「ある事実を認定するためには訴因変更が必要か否か」という話である。以下詳述。
※なぜ訴因という概念を導入したのか?
旧法下では訴因という概念自体がなかったようで、公訴事実の範囲内であれば別の犯罪を認定していたらしい。
しかし、現在は訴因で示された犯罪事実以外を裁判所が勝手に認定してはいけないということで腑に落ちる。
要するに同じ事実であっても捉え方によっては様々な犯罪に該当する場合があるわけで、こういう事実(社会的事実とか言うらしい)を公訴事実と言い、その中で検察官が犯罪を特定しているものが結局訴因と言えるだろう。
問題は、では訴因の変更が必要な場合、或いは不要な場合である。
この点まず注意したいのは訴因変更が不要であっても起訴状記載の罪名とか罰条を変更する場合があるのか?
罪名や罰条を変更するということそれ自体が訴因の変更にあたるのか?
訴因変更が必要なのに訴因を変更せずに公判を維持した場合は当該犯罪に関しては無罪になるだけなのか?
素朴な疑問がわんさかでてくる。
訴因変更の要否と可否とは
訴因変更の要否とは当該事実と訴因がどの程度異なれば訴因変更が必要か否かという問題である。言い換えると一定の限度を超えると訴因変更しなければならないということでもある。
訴因変更の可否とは、当該訴訟手続きの中での訴因では証拠上有罪認定できないとしても同一の訴訟手続きの中で証拠認定できる訴因に変更できるかという問題である。
訴因変更の要否は裁判所側が訴因変更について考える場合
訴因変更の可否は検察官側が訴因変更について考える場合
という説明がよくなされている。
この場合、訴因に不可欠な部分や重要な事項については変更が必要だが、被告人にとって不意打ちにならないなら変更不要という説明がなされる。このロジックだと、不意打ちになるなら変更が必要となる。
まるで不意打ちになるかもしれないから訴因変更請求しようとでも言いたそうなニュアンスだがそうだろうか。
訴因変更の要否は裁判所側が主導権を持つという意味か?
https://ameblo.jp/ernie2326/entry-12628077327.html
訴因変更の要否は、検察官が訴因変更請求をせずとも、裁判所が事実を認定できるかという話なのです
つまり訴因と異なる事実を認定するには原則訴因変更をしなければならないが、例外的に変更しなくてもよい場合があり、これを訴因変更の要否と言っている。見方を変えると検察側の意図しない犯罪事実が認定され得る可能性もある。
この点被告人の不意打ちにならない、不利益にならないなら変更しなくてもよいと、被告人側目線の話ばかりがでるがそうとばかりも言えない。
また、変更しなくてもよい、という言い方はあたかも検察官からわざわざ変更しなくても検察官の意図に沿ったような認定をしてあげますよ的なニュアンスだが、変更しなくてもよいというのは変更しなくても勝手に裁判所が訴因外の事まで認定しちゃいますよ、という意味である(もっとも不意打ち防止にならないならという条件付きだが)。
訴因変更の要否とは
まとめると、訴因変更の要否とは「ある事実を認定するためには訴因変更が必要か否か」という事である。
一般的な説明としては裁判所側が訴因変更について考える場合と言われるが、
検察官が訴因に記載していない事実を認定してもらおうとする場合もあるかもしれない。
このような場合でも訴因変更の要否と言えるだろう。
訴因変更の可否とは
そうすると、訴因変更の可否とは、こういった訴因変更をする際に、では一体どれくらい、どこからどこまで変更できるのだろうかという問題になりそうだが、この説明も
検察官が訴因変更請求をした場合に、裁判所がそれを許さなければいけないか、という問題です
となされる。訴因変更の可否と言われるが許否と言ってもいいかもしれない。
訴因変更の可否、及びその判断基準としての公訴事実の同一性が先走り過ぎると、訴因変更の可否はあたかも訴因変更ができるかないかがまずあるようなイメージになるが、あくまで訴因変更をしようとする際に問題となる話であり、訴因変更の可否がまずありきではない。
現訴因A ⇔ 認定しようとしている事実B
このとき検察官から訴因変更請求が行われたら両者の間に同一性があれば変更が許される公訴事実と認定しようとしているBの間に同一性があれば変更が許される(一般的には公訴事実の範囲内などと言われる)
もし、検察官からの変更請求がなく裁判所が認定しようとしていたらそれは要否になり、訴因変更しなければ認定できないとしたらそれは訴因変更が必要であり、訴因変更しなくても認定できるならそれは訴因変更は不要ということになる。
この場合もまず訴因変更が必要、が最初にあるわけではない。
いずれにしろ許すか許さないかの判断基準に公訴事実の同一性が使われることになる。
公訴事実の同一性があれば訴因の変更を許し、公訴事実の同一性がなければ訴因変更を許さない。
公訴事実の同一性はあるかないかである
この点についても、同一性の範囲内という言い方だがこれだとあたかも範囲内で大きくなったり小さくなったり、あるいは範囲内ギリギリとかありそうだが、同一性はあるかないかである。
訴因変更の要否と可否 まとめ
〇訴因変更の要否とは
ある事実を認定するためには訴因変更しなければいけないかどうか
訴因変更しなければその事実は認定できない
不意打ちにならないなら訴因変更は必ずしも必要ではない
〇訴因変更の可否とは
訴因変更をする際にその訴因に変更できるかどうかどうか
公訴事実に同一性があれば変更でき、なければ変更できない
訴因変更の要否、及び可否が非常に分かりにくくなっているのは、主体が違うものなのに主体を意識せず言葉だけが独り歩きしているせいだろう。主語がなくても意思疎通ができてしまう日本語の弊害かもしれない。
訴因には一体何を書くのか
罪名罰条は訴因に不要※罪名は起訴状の記載要件ではなく便宜上記載されているもので罪名と罰条に矛盾があれば罰条による。条解刑訴P513
訴因とは社会的事実を犯罪構成要件にあてはめて法律的に構成した具体的事実
訴因として明示すべきものは罪となるべき事実とこれを特定するための日時・場所・方法など
犯罪構成要件に該当する事実をもれなく記載※動機などは不要 条解刑訴P513
従って訴因変更と罰条の変更は別問題
訴因変更が必要なのに検察官が訴因変更をしない場合は裁判所が命ずる場合があるが、仮に裁判所も命じず、検察官も訴因変更しなかったらその訴因では無罪になるはず。
訴因変更の具体的基準
①訴因の記載として不可欠な事項であれば訴因変更必要
②①に該当しない場合被告人の防御にとって著しい不利益を生じさせるものは訴因変更必要
③訴因変更が不要な場合であっても被告人に対して不意打ちを与えるような場合は何らかの措置を講ずる
法律構成に変化がなくても事実面のずれが一定の限界を超えれば訴因変更必要
法律構成に変化があっても事実面のずれがないか、あっても些少の場合訴因変更不要
※事実面のずれが一定の限界を超えるかどうかの判断基準は被告人の防御上の不利益があるかないか 条解刑訴P688
第二百五十六条 公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。
② 起訴状には、左の事項を記載しなければならない。
一 被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項
二 公訴事実
三 罪名
③ 公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。
④ 罪名は、適用すべき罰条を示してこれを記載しなければならない。但し、罰条の記載の誤は、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がない限り、公訴提起の効力に影響を及ぼさない。
⑤ 数個の訴因及び罰条は、予備的に又は択一的にこれを記載することができる。
⑥ 起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない。
予備的択一的記載
法学検定試験にこんな問題があった。
「検察官は審判の対象を明確にすべきであるから、起訴状に詐欺の事実と恐喝の事実を択一的に記載することはできない。」
訴因は予備的、択一的に記載できるとはさっき勉強した話だが間違ってしまう。
詐欺と恐喝ってまったく違うから公訴事実自体違うんじゃないのか?という理由で〇にしたが×だった(笑)
これが択一常連落ちの思考回路である。
まず、一公訴事実につき一訴因が基本。
例外
科刑上一罪の場合は複数の訴因となる。
予備的択一的記載の場合。この場合同一の公訴事実の範囲内であることが前提である。
さて、上記の問題は果たして問題として適切なのか?確かに自分勝手に公訴事実の同一性がないなどと判断するほうが悪いと言われればそうかもしれないが。どこにも公訴事実に言及がないのだから問題文だけから判断すれば択一的に記載できるかどうかを問われているのだから答えとしては記載できるのだから×ということになる。
まさに短答落ち常連の思考が白日の下にさらされた(笑)
とは言え、こういう問題の出し方をなんの問題意識なく出してしまうところに日本人の論理力のなさが垣間見える(自分の事を棚に上げて言うおじさん(笑))
この事に関連し、民事訴訟法での既判力に同じような問題の出し方がありかなり混乱をしてしまう。
遮断効についての問題。
第三百十二条 裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。
② 裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。
③ 裁判所は、訴因又は罰条の追加、撤回又は変更があつたときは、速やかに追加、撤回又は変更された部分を被告人に通知しなければならない。
④ 裁判所は、訴因又は罰条の追加又は変更により被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があると認めるときは、被告人又は弁護人の請求により、決定で、被告人に充分な防禦の準備をさせるため必要な期間公判手続を停止しなければならない。
短答過去問
H19 〔第31問〕(配点:3)
起訴状記載の公訴事実の特定に関し,裁判所が検察官に対して求釈明する義務を負うのは,訴因
の明示に必要な範囲に限られるとの見解がある。次のアからオまでの各記述のうち,この見解と矛
盾するものの組合せとして正しいものは,後記1から6までのうちどれか (解答欄は ) 。 ,[№44]
ア. 訴因の明示に欠けるところはないが,裁判所として被告人の防御の観点から明らかにするこ
とが重要であると考える事項について,裁判所が検察官に求釈明することができる。
イ. 裁判所が求釈明義務に基づいて検察官に対して求釈明したにもかかわらず,検察官がこれに
応じない場合は,当事者主義を採る現行法の下では,公訴棄却の判決をせず,そのまま次の手
続に進むしかない。
ウ. 裁判所が求釈明義務に基づいて検察官に対して求釈明し,検察官がこれに応じて釈明した場
合,検察官が釈明した内容が当然に訴因の内容となるとは限らない。
エ. 裁判所は,訴因の明示にとって補正が必要な事項については,弁護人から求釈明要求がない
場合であっても,自ら検察官に対して求釈明しなければならない。
オ. 裁判所は,求釈明する必要がないと考える事項について,弁護人から求釈明要求があった場
合,一応,検察官に対して,任意に釈明に応じるかどうかを打診し,検察官がこれに応ずれば
釈明を許すことができる。
1. ア イ 2. ア ウ 3. イ ウ 4. イ エ 5. ウ エ 6. エ オ
正解は3
気になったのは
ウ. 裁判所が求釈明義務に基づいて検察官に対して求釈明し,検察官がこれに応じて釈明した場
合,検察官が釈明した内容が当然に訴因の内容となるとは限らない。
問題は、
「裁判所が検察官に対して求釈明する義務を負うのは,訴因の明示に必要な範囲に限られるとの見解」に矛盾するものを選べ、である。
一見すると論理問題のように見えるが、文章そのものは論理的に矛盾はしていない。
肢ウが矛盾するということは、矛盾しない肢に変換すると「検察官が釈明した内容が当然に訴因の内容となる」、ということになる。そしてこれが求釈明する義務を負うのは,訴因の明示に必要な範囲に限られるとの見解から導き出されるということになるはずである。
訴因の明示に必要な範囲に限られるという見解と検察官の釈明した内容が訴因となる、或いはならないというのは矛盾の関係にそもそもないような気がするのだが。
しかし、
https://www.lec-jp.com/shihou/yobi/guidance/pdf/index/LU17525.pdf
「訴因の記載が明確でない場合には、検察官の釈明を求め、もしこれを明確にしないときにこそ、訴因が特定しないものとして公訴を棄却すべきもの」としている(最決昭 33.1.23)。
なお,検察官が,釈明して訴因を特定したときは,その釈明内容が訴因の内容を構成し,裁判所はそのまま審理を続けることになる
なお,裁判所は,争点を明確にするために,訴因の特定に不可欠とはいえない事項であっても被告人の防御に重要な事項(識別説からは訴因の特定に不要な事項)について,検察官に対して,裁量的・任意的に求釈明することができる。△検察官が,上記事項を任意に釈明したとしても,訴因の内容とはならない。
「起訴状に関して検察官が釈明した場合、その釈明内容も訴因の明示に必要な事項であるときは訴因の内容となるが、訴因の明示に必要ではなく、訴因の具体化にすぎない事項であるときは訴因の内容とはならない」
「前者の場合、釈明されたところと異なる事実を認定する場合は、訴因変更の手続きが必要なのはいうまでもないが、」条解刑事訴訟法P598
検察官が釈明すればどんなものでも訴因になるわけではないはずだ
肢ウが仮に矛盾すると考えると、矛盾しないようにするには検察官が釈明した内容が訴因の内容となる。
このときもしその訴因として釈明した内容が訴因の同一性の範囲内から逸脱していたとしてもこのロジックでは訴因の内容となる、というふうに捉えられるのだが。
それともあくまで検察官が主張しているものをとりあえず訴因の内容とするという意味なだけで必ずしも当該主張内容を必ず訴因として採用する意味ではないということなのだろうか?日本語の文章として素直なのは検察官が釈明したものがすなわち訴因となると解釈されるはずである。
つまりこの問題は論理問題に見えて論理問題ではない。単なる知識問題なのだろう。。
論理的に考えると必ずしも矛盾とは言えない。
また、そういう意味ではイもオも怪しい。明らかに矛盾しないと言えるものがアとエなので消去法で答えが出せそうだが、イとウが怪しいので必ず正答にたどりつけるとも言えない。
訴因変更命令
訴因変更命令には形成的効力が認められるか (昭和40年4月28日最高裁)
検察官が裁判所の訴因変更命令に従わないのに、
裁判所の訴因変更命令により訴因が変更されたものとすることは、
裁判所に直接訴因を動かす権限を認めることになり、
かくては、訴因の変更を検察官の権限としている
刑訴法の基本的構造に反するから、訴因変更命令に
右のような効力を認めることは
到底できないものといわなければならない
コメント