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相殺については既判力はあるのに遮断効(失権効)はないとは何ぞや。
遮断効とは
既判力は標準時における権利関係を確定してしまうから、標準時までに発生した事由にもとづく主張を遮断され、以降標準時前の事由を主張して確定された権利関係の存否を争う事ができなくなる(民事訴訟法講義案P278)
逆に言えば、遮断効がなければ争えることになる。
遮断効における問題の所在
前訴で主張しなかった、取消権などの形成権を後訴で主張できるのか?
取消権と遮断効
取消権は当該請求権自体に内在付着するものだから、後訴では取消権を行使できない
取消権は既判力によって遮断される
最三小判昭36.12.12民集15-11-2778
相殺権と遮断効
相殺権は別個の反対債権であるから、これを行使するか否かは自由で前訴で当然に提出すべき防御方法でもない。
相殺権は既判力によって遮断されない
最二小昭40.4.2民集19-3-589
主張していなくても後から主張できなくなる遮断効
まとめ
※主張していなかったら→後訴でも主張できない 主張していたら→主張していなかったことにはできない
相殺は主張していなかったら後訴では主張できる 主張していたら当然主張していなかったことにはできない⇒その意味で既判力はあることになる
前訴で主張していようがいまいが既判力が生じたら後訴では主張できなくなるのが遮断効。
主張していなくても、というのがポイントである。
この点、相殺は主張したとしても遮断されないのか?(主張していたらもはや遮断のはなしではなくなる)
単に遮断されないとしか問題に書かれていないと主張したのか主張していないのか分からずに混乱してしまう(笑)
相殺の場合は主張していなければ後訴でも主張できる(遮断効があると、主張していなくても後訴で主張できない)ということになり、前訴で主張していれば114条2項により既判力が生じているから遮断効もあるということになる、はずだ。それとも前訴で相殺の抗弁をしてそれが認められても、遮断効がないから後訴でもまた主張できるということなのか?こういう曲解をしてしまうのが短答落ち常連の悲しい習性だろうか。
遮断される→主張できない
遮断されない→主張できる、とはならない※別の理由で主張できない事もあり得るし
相殺の主張をして認められたらそれを前提に後訴はすすむのでもう一回相殺を主張する必要もないはずだが。
遮断効があるかないかという表現の方が適切だろう。相殺にはそもそも遮断効がない。が、一旦主張すれば既判力を生じる。
※追記
遮断効の適用対象かそうでないか、としたほうがより適切かもしれない。
そもそも遮断効は主張できるとかできないとかではなく、確定した権利関係を標準時以前の事由で争うことができないという意味である。
従って取消権を後訴で行使できないのは前訴で取消権を行使していないことを前提にして判決されていればもはや後から行使しますとは言えないということである。
相殺の場合は、前訴で相殺権を行使していない場合であれば後訴で行使してもそれは構わんよ、ということであり、仮に前訴で行使していて、後訴でそれを取り消すなどということはできないのは当然である。遮断されないからまた主張したりあるいは行使していないものとしたりしてまたできたりするという意味ではない。
要するに前訴と矛盾するような事はできないということであり、前訴で行使していなかったものは後訴でも行使できなくなることを遮断とか失権とか言っているようである。
遮断効について補足
既判力の効果、効力として遮断効は説明されている。
前訴で相続原因で所有権を取得したとして登記請求を行って敗訴して、後訴で売買原因に変更して訴えた場合どうなるのか。
この場合売買による所有権取得と主張することはできない。既判力により遮断されるからであるという。
このとき、所有権の取得原因について既判力が生じているわけではないことに注意が必要である。
あくまで、既判力が生じているのは訴訟物である。
遮断効は、基準時以前に生じていた事由判決の基礎とされた事項と矛盾するような主張を後訴で主張できないという意味であり、それは前訴で主張していようがいまいが関係なく生じる既判力の効果である。
既判力の基準時と遮断効
解除権と遮断効
判例理論からは解除権は遮断されると解してよい民事訴訟法講義案P280
まぎらわしい問題
以下のうち判例に照らして既判力で遮断されるものを1つ選びなさい。
1.相殺権
2.建物買取請求権
3.取消権
4.限定承認
正答は3の取消権である。相殺などの形成権は既判力関連の問題で頻出であるが、既判力と遮断効のことをざっくりしか理解していないと混乱してしまう問題である。
解説を見ると1.2.4は既判力で遮断されず、後訴で持ち出すことができるとサラっと書かれているが、前訴で主張していたらいくらなんでも既判力は生じているよな?持ち出せるっけとなること必至。
この問題は遮断されるかどうかを聞いているのであって遮断効というのは前訴で主張していない場合であっても後訴ではもはや主張できなくなる効果の事であり、要するに問題文の前提としては前訴で主張していないということなのだろう。
※相殺権には遮断効がないが既判力はある。この意味は主張していなければ後訴でも主張できるが主張していれば後訴では主張できないということである。
遮断効は主張していても主張していなくても後訴ではそれと矛盾するような主張ができない効果である。従って主張していなければ主張できなくなる。相殺権は主張していなければ主張できるので明確に違いがあると言える。遮断という言葉でここまで読み取る必要があるわけだ。※短答常連落ちはこういうので地味に躓く。法学検定の問題はこういった問題が多い
遮断効
主張してないなら
主張できない
H25〔第70問〕(配点:2)
確定判決の既判力に関する次の1から5までの各記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているも
のを2個選びなさい。(解答欄は,[№75],[№76]順不同)
1.貸金返還請求訴訟において,被告がその債務につき消滅時効が完成していたのに援用の意思
表示をしないまま口頭弁論が終結し,請求認容判決が確定した場合であっても,被告は,その
後にした時効の援用の効果を請求異議の事由として主張することができる。
2.貸金返還請求訴訟において,被告が原告に対する反対債権を有し相殺適状にあったのに相殺
の意思表示をしないまま口頭弁論が終結し,請求認容判決が確定した場合であっても,被告は,
その後にした相殺の意思表示の効果を請求異議の事由として主張することができる。
3.売買による所有権の取得を請求原因として買主が提起した所有権確認訴訟において,売主で
ある被告が詐欺を理由として当該売買契約の取消しをすることができたのにこれをしないまま
口頭弁論が終結し,請求認容判決が確定した場合であっても,被告は,自己の所有権の確認を
求める後訴において当該売買契約の取消しを主張して買主の所有権の取得を争うことができ
る。
4.土地の賃貸人から提起された建物収去土地明渡請求訴訟において,賃借人である被告が建物
買取請求権を行使しないまま口頭弁論が終結し,請求認容判決が確定した場合であっても,被
告は,その後にした建物買取請求権の行使の効果を請求異議の事由として主張することができ
る。
5.将来の賃料相当額の損害金請求を認容する判決が確定した場合であっても,その後,土地価
格の昂騰等の事情によって当該判決の認容額が不相当となったときは,原告は,後訴により,
当該認容額と適正賃料額との差額に相当する損害金の支払を求めることができる。
正解は1と3
1.時効 主張できない
2.相殺 主張できる
3.取消権 主張できない
4.建物買取請求権 主張できる
5.将来給付における損害額の変更 主張できる
そもそも、この問題、請求異議の訴えの要件について知らないと解けない(笑)
(請求異議の訴え)
第三十五条 債務名義(第二十二条第二号又は第三号の二から第四号までに掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。
2 確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。
3 第三十三条第二項及び前条第二項の規定は、第一項の訴えについて準用する。
確定判決については口頭弁論終結後に生じた事由に限って請求異議の訴えができるらしい。
この点、遮断効と同じロジックでいいようだ。
確定判決の基準時前の事由は既判力に抵触するので主張できない。
取消権 基準時前に存在した取消事由について基準時後に取消権を行使して請求異議の訴えは提起できない。最判昭55.10.23.民集34.5.747
相殺 最判昭40.4.2民集19.3.539 可能
建物買取請求権 最判平7.12.15民集49.10.3051 可能
形成権は訴訟物自体に関連するものではないので基準時前に存在していた場合でも基準時後に形成権を行使したことを異議事由とすることができる。民事執行・保全法P80
肢5が分かりにくいが、上記の知識があれば誤っているものは2つ明確に分かるので比較的簡単な問題だった。。。
令和2年〔第37問〕(配点:2)
確定判決の既判力に関する次の1から5までの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいもの
を2個選びなさい。(解答欄は,[No.42] ,[No.43]順不同)
1.XがYに対して所有権に基づき建物の明渡しを求める訴えを提起し,Xの建物の所有権の
取得が認められないとして請求を棄却する判決が確定した後,XがYに対して当該建物につ
いて同一の取得原因を主張して所有権の確認を求める訴えを提起した場合において,後訴裁
判所がXの請求を認容する判決をすることは,前訴の確定判決の既判力に反し許されない。
2.XがYに対して売買契約の詐欺取消しを理由として売買代金相当額の不当利得の返還を求
める訴えを提起し,詐欺の事実が認められないとして請求を棄却する判決が確定した後,X
がYに対して当該売買契約について通謀虚偽表示による無効を理由として売買代金相当額の
不当利得の返還を求める訴えを提起した場合において,後訴裁判所がXの請求を認容する判
決をすることは,前訴の確定判決の既判力に反し許されない。
3.XがYに対して消費貸借契約に基づき貸金の返還を求める訴えを提起し,YのXに対する
金員の支払が弁済に当たるとして請求を棄却する判決が確定した後,YがXに対して当該消
費貸借契約に基づく貸金債務についてその金員の支払の前に債務免除があったとして,支払
った金員の額の不当利得の返還を求める訴えを提起した場合において,後訴裁判所がYの請
求を認容する判決をすることは,前訴の確定判決の既判力に反し許されない。
4.XがYに対して土地の所有権の確認を求める訴えを提起し,請求を認容する判決が確定し
た後,YがXに対して当該土地の所有権の確認を求める訴えを提起した場合において,後訴
裁判所が,当該土地について前訴の口頭弁論の終結後にXから所有権を取得したとのYの主
張を認めてYの請求を認容する判決をすることは,前訴の確定判決の既判力に反し許されな
い。
5.XがYに対して消費貸借契約に基づき貸金の返還を求める訴えを提起し,請求を認容する
判決が確定した後,Yが,当該消費貸借契約に基づく貸金債務についてその訴訟の口頭弁論
の終結前に時効期間が経過していたとして消滅時効を援用し,Xに対して債務の不存在確認
を求める訴えを提起した場合において,後訴裁判所が当該貸金債務の時効消滅を理由にYの
請求を認容する判決をすることは,前訴の確定判決の既判力に反し許されない。
正解は2と5
2を3に取り違えてしまう。。。
しかし、なぜ3が×なのか分からない
つまり、当初正しい→既判力に反して許されないと判断したわけであるが、既判力に反しないということのようだ。
これは保留だな。
※追記
既判力の基準時と遮断効
「既判力は基準時における権利関係の存否を確定する。そこで、それ以前の時期における権利の存否については反けるの理由中で判断されているとしても既判力の対象ではない」⇒ 基準時前の権利の存否についてを確定するものではない
「既判力で口頭弁論終結時の権利関係が確定されると、当事者は基準時以降に生じた事由によって判決内容を争う事は妨げられないが、それ以前に生じていた事由を主張して判決を争い、抗弁する事ができなくなる。これを既判力による失権効または遮断効という」⇒ 基準時前の権利関係について判決内容と矛盾するような主張ができない※権利が確定しているわけではない