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電子契約書に印鑑が不要な理由とクラウドサイン
この記事を読んでいて、文書の成立についての条文ってなんだっけと、民法で探していました。どうぞ笑ってやってつかぁーさい。
二段の推定概要
(文書の成立)
第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
2 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
3 公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
5 第二項及び第三項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。
民事訴訟法でした(笑)
1段目 本人の実印が押されている→本人の意思によって押印されているだろう
2段目本人の意思によって押印されている本人の署名又は押印がある→真正に成立した文書本人の印影がある場合、反証がなければ、その印影は本人の意思で押されたものと推定できるため、民訴法第326条(現228条4項)により真正に成立したと推定すべきである
電子署名法第3条では電子署名による場合も実印による場合と同様二段の推定が働くということらしいです。
そもそもなぜ二段の推定が行われるのか?
契約書を証拠とする場合、その契約書が本人の意思によって作成されたものか、本人が同意した契約書かを証明することは困難かつ時間がかかります。そこで「二段の推定」という考え方を用いて、手間や時間を軽減するのです
実は二段の推定が行われる結果デメリットがあることもあります。反証自体に手間や時間がかかり、反証できない場合も多いからです。
従って、重要な契約書などには実印が使われるということになりますし、この法律を知っていたらサインだけだといくらでも後から覆されそうで、自分が契約当事者だったら相手のサインだけで済まそうなどとはゆめゆめ思いませんよね(もしかすると本人じゃない可能性)。
逆に言えばこの法律があるのに実印を使わずあえてサインで済ませるって怪しいとも判断されそうです。
二段の推定の推定の流れ
二段の推定は228条4項の場合の話である。
「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」
「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは」という意味
署名または押印が本人または代理人の意思に基づいて真正に成立したときはという意味である。基本法コンメンタール民事訴訟法2P249
署名は自署でなくても代書でも記名でもよい※本人の意思に基づいていればよいという意味
押印は実印でなくても認印でよい
228④の署名押印は作成者の意思に基づくと推定されるわけではない
従って228④の署名押印は作成者の意思に基づいていなければならなず、記名押印があるからと言って作成者の意思に基づいているとは必ずしも言えない。
また、「署名または押印の部分の成立につき当事者間に争いがないか、その成立が証拠によって認められる場合に文書全体の成立が推定される。」基本法コンメンタール民事訴訟法2P249
228④の推定を受けた場合、反証を提出して推定を覆すことは可能である。
判例による事実上の推定
しかし、印影が作成者の印章によって顕出されたものであるときは、反証のない限りその印影はその者の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定することができる。最判昭39.5.12民集18.4.597この推定の結果その文書は228④の推定をも受けることができる。この推定は事実上の推定であり、相手方の反証により覆ることがある。基本法コンメンタール民事訴訟法2P249
二段の推定というより省略という勘違い
228④自体は作成者の意思に基づく署名や押印があれば真正に成立したものと推定するという規定。
そして意思に基づくかどうかまで推定するのが所謂二段の推定。
二段階の推定だと要件が厳しそうなイメージだが実際は意思に基づくかどうかをショートカットするものである。←ミスリード
ここで素朴な疑問が湧く。二段の推定って本当に必要なのか。
条文の文言だけを見ると、作成者の意思に基づくという文言は入っていない。
そもそも「「文書の成立」とは、その文書が作成者の意思に基づいて作成されたことを言う。文書の成立が真正であるといってもそれは文書が作成者の意思に基づいて作成されたことが認められるだけであって、文書の記載事項や内容までが真実であると認められるわけではない。実質的証拠能力の有無は裁判官の自由心証によって定まる。」基本法コンメンタール民事訴訟法2P248
228④の文言を素直に読むと、署名や押印があれば結局作成者の意思に基づいて文書が作成されたと推定されるわけで、判例でわざわざ言及したのはどういうことなのか。
改めて判例を読むと、結局条文の説明をしているだけだった(笑)
要するに上の疑問点と同じく、条文上からは署名押印があればすなわち作成者の意思に基づくということは書いておらず、文書が真正に成立したと書いてあるから、作成者の意思に基づいているという推定がそこにあるということを言っているに過ぎない。
見方を変えれば228④の推定規定は文書が真正に成立したと規定するのではなく、署名押印があれば作成者の意思に基づいていると推定すると規定するだけでよかっただけなのかもしれない。