代理人の詐欺~代理人が詐欺をする~代理人が詐欺を受ける ~第三者の詐欺

1年前に勉強したことが綺麗さっぱり消し飛んでいたようだ。記事を読んで改めて気づく。
また、少々勘違いしていたこともあるようなので以前の記事を残しつつ、改めてまとめておきたいと思う。
民法101条(代理行為の瑕疵) 民法改正勉強ノート10
民法が変わる(8)~代理行為の瑕疵(民法101条)
民法96条(詐欺又は強迫) 民法改正勉強ノート07

代理人と第三者の詐欺についての改正ロジック

代理人が詐欺行為をはたらいた場合、101条1項を適用する 大判明39.3.31

この点、学説は代理人による詐欺も96条1項で処理する ※96条2項の第三者には代理人は含まれないとする


改正101条1項は第三者による行為によって代理人が意思表示をした結果を規定している代理人の意思表示そのものの瑕疵を規定しているわけではないので代理人が詐欺行為等を働いた場合は規定外


代理人による詐欺は96条1項で処理 ※この事自体は条文の文言上は規定されていない

また、101条2項では101条1項と違い、錯誤詐欺脅迫が規定されていない⇒第三者による詐欺などは代理人について決するのではなく、原則通りということであろう

101条を改正することによって、代理人による詐欺行為に101条1項を適用させなくし、学説を採用したものだという 新債権法の論点と解釈 P45

https://www.kobegodo.jp/LawyerColumn.html?id=248
(1)代理人の相手方に対する意思表示の際の意思の不存在・詐欺・強迫・悪意・有過失は代理人の主観で決すること(欺罔されたか否かは代理人によって判断する)、(2)相手方の代理人に対する意思表示について、その効力が、悪意・有過失により影響を受ける場合にも代理人により決すること(相手方が心裡留保で意思表示をし、それについて本人が善意でも代理人が悪意であれば無効となる)をそれぞれ明文化することで上記の疑義を払拭しています。これにより代理人による詐欺は民法101条1項の問題ではないこと(民法96条1項の問題であること)も明確になりました。

①欺罔されたかどうかは代理人によって判断する
②代理人による詐欺は101条1項の問題ではない
「欺罔されたかどうか」の主語が誰なのかがよく分からないが②がある事から代理人が詐欺を行った場合は適用されないので、いずれにしろ詐欺や脅迫などの結果、代理人が意思表示を行った場合に詐欺を受けたとか脅迫を受けた、などは代理人について判断するということを言っているようである。
 

改正101条の条文構造

101条1項

1項 
代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

代理人による能動代理の規定と言われるが厳密には違う

代理人の意思表示→相手方
代理人の意思表示そのものではなく、意思表示をした結果の効力に影響を及ぼす場合を規定
 ※ 代理人が詐欺や脅迫をした場合ではなく第三が行った場合を規定している

101条2項

2項 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

相手方からの意思表示を代理人が受け取った場合の受動代理についての規定といわれるが厳密には違う
相手方→代理人 ※本人に直接意思表示をした場合は規定されていない
相手方の意思表示そのものではなく、意思表示を受けた結果の効力に影響を及ぼす場合 ※意思表示を受けた者が知っているかどうかが影響する場合に限定している
 ※意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫については規定されていない

第三者の詐欺により相手方が意思表示を行った場合の代理効果

第三者が詐欺行為を行った結果、相手方が意思表示を代理人に行った場合については規定されていない。この場合は96条2項が適用されるのだろうか。
96条2項は相手方が知っているか知っている場合に限り取り消せると規定しているため、この場合の相手方とは(代理行為の相手方が取り消そうとする場合)代理人をいうのか本人なのか問題となる。
https://www.kobegodo.jp/LawyerColumn.html?id=248
詐欺や脅迫が行われて代理人が意思表示をした場合は、欺罔されたとか脅迫されたなどの判断は代理人ついて判断するが、
詐欺や脅迫が行われて相手方が意思表示をした場合は、101条2項では規定されていない。
従ってこの場合はやはり96条2項が適用されると考えるのが素直だろう。
そして、101条2項が敢えて詐欺などを除外していることを考えると、この場合96条2項に言う相手方とは代理人ではなく本人が素直な解釈ということになろうか。
結局第三者が詐欺を行って相手方が意思表示を行った場合、仮に代理人が詐欺の事実を知っていても本人が知っていなければ相手方は取り消せないことになるのだろうか。

代理人の詐欺改正関連まとめ

96① 通常の詐欺 ※代理人が詐欺を行う場合含む
96② 契約当事者以外の第三者が詐欺を行った場合 ※取り消しの主体から見た場合

101① 代理人→相手方 の意思表示の場合に第三者が詐欺を行った場合
101② 相手方→代理人 の意思表示の結果 意思表示を受けたものが当該事情を知っているかどうかで影響を受ける場合 ※詐欺などが除外されているので第三者が詐欺を行った場合は96②を適用するものと思われる

第三者が詐欺を行った場合2パターン存在する
代理人→相手方 101①
相手方→当事者(代理人)96②
※代理人が絡むからと言って全て101①が適用されるわけではない 代理人からの意思表示の結果に影響する場合は101①であり、代理人に対しての意思表示を取り消す場合は96②が適用される、ようだ

まあややこしいったらありゃしない

代理権の濫用と心裡留保

また、これまで心裡留保を類推適用していた代理権の濫用は別途規定された
(代理権の濫用)
第百七条 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

もっとも、相手方が心裡留保した場合についての直接的な規定はなく、この場合は101条2項が適用されるようだ。

短答問題

相手方の詐欺により契約してしまった代理人

H27-3

ウ.Aの代理人として土地を購入する権限を与えられたBが,CのBに対する詐欺により,Aの
ためにすることを示してCとの間で甲土地の売買契約を締結した場合,Aは,その売買契約を
取り消すことができない。

正解は×
代理人が相手方にした意思表示の効力が詐欺によって影響を受ける場合にはその事実の有無は代理人によって決せられる101-1
代理人BはCの詐欺によって契約したのだからAは96条1項で取消せる 司法試験・予備試験 体系別短答式過去問集 (2) 民法(1)P104

代理人と相手方の通謀を無効主張する相手

H30-4

ウ.代理人が相手方と通謀して売買契約の締結を仮装した場合,相手方は,本人がその通謀虚偽
表示を知っていたか否かにかかわらず,当該売買契約の無効を主張することができる。

正解は〇
司法試験・予備試験 体系別短答式過去問集 (2) 民法(1)P146の解説によれば101条1項を適用しているが、双方の意思表示であり、かつ相手方が無効を主張する場合であるから結論的には変わらないが101条2項を適用するのではないか?

101条は代理行為で詐欺などが行われた場合の適用要件を判断する基準となる

101条はそれ自体が単独で存在するのではなく詐欺や脅迫、あるいは通謀虚偽表示、心裡留保などを適用する際に、代理行為の場合は101条を使って判断せよ、ということである。
詐欺を受けたかどうかは代理人について判断するが、詐欺を受けて相手方が意思表示をした場合はそもそも101条の適用外であり、代理人による詐欺の場合は96条1項でそれ以外であれば96条2項。
相手が詐欺を行った場合についても101条1項が適用されるが、この場合も最終的には96条1項適用の判断材料である。
しかし、相手方の意思表示について代理人が詐欺を行った場合は101条2項の適用外であり、また96条2項の第三者にも代理人は該当しないので結局96条1項の適用となる

相手方の詐欺により代理人が意思表示 101①→ 96①
第三者の詐欺により代理人が意思表示 101①→ 96②
代理人よる詐欺により相手方が意思表示 96①
第三者による詐欺により相手方が意思表示 96②

↓以前の記事

改正された101条①はぼーっと読むとミスリードを誘う。

〇代理人が詐欺などを働いた場合は想定されていない。
〇代理人が相手方に意思表示をする際に影響を受けた場合の話。
要するに代理行為の際に第三者にしろ相手方にしろ詐欺や脅迫行為などが行われて、代理人の意思表示が瑕疵を帯びてしまった場合、当該事情は代理人を基準に考えようという言わば当たり前の事が書かれているように読める。

キモは判例の考え方と96条2項の解釈

一見すると当たり前のようで、一体何が改正なのか。いや、何を変えたかったのか?
判例は代理人が行った詐欺についても101条を適用していたようだ(新債権法の論点と解釈 P44)。うろ覚えなのは不合格者の証だろう。

しかし、改正によって代理人が行った詐欺については101条が適用できなくなる。条文をぼーっと読んでしまうと代理人から相手方への意思表示だから代理人が詐欺とか脅迫した場合も含んでいると読めなくもないが(実際は私はそう読んでいた(笑))。
代理人を第三者だと考えてしまう旧来の判例の考え方(?そういう表現は書かれていない、これは私独自の解釈)だと、相手方が代理人の詐欺行為で取り消しを行おうとすると96条2項によって本人がその事を知っていなければ取り消せない事になり、不都合が生じてしまう。
この為、学説は96条2項の第三者には代理人は入らないとしていたようだ(理由は私の解釈だが)。しかし、判例は代理人が詐欺を行った場合にも端的に旧101条を適用していた(そうすれば本人が知っていようがいまいが関係なく相手方は取消せるからだろう)。
この判例法理だと、96条2項との整合性はどうなんだ?という素朴な疑問が湧く人もいるはずだ。私は最初勉強していた時にそう思った記憶があるが、ベテランほど枝葉末節に拘って合格が遠のくという先人達の言葉に促され深く突っ込まずにスルーした。なぜなら基本書などでもあまり突っ込んで書かれていなかったようだからである(考えてみれば民法の基本書はあまり読んだことがなかった(笑))。
そうなると、新法では代理人が詐欺を行った場合はどうなるのか?と言うと、学説を採用するということなので(新債権法の論点と解釈 P45)代理人の詐欺は第三者の詐欺にはならなくなり、それこそ端的に代理人と相手方間で処理していくのだろう(多分)。
結局101条を適用する、とするよりも端的に96条2項にいう第三者に代理人は該当しないとしたほうがやはりスッキリする。当時私は勝手にそのように解釈していたように思う。これは当時では間違いと言っていい考え方だろう。少なくとも判例とは違うわけで、判例の考え方自体をよく把握せずに独自の考え方をしていたら、それは試験に合格するわけがない(笑)

旧101条①意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

第百一条 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
2 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
3 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。

復代理人の責任の改正

旧105① 任意代理人が復代理人を選任したとき(やむを得ない事由および本人の許諾により) 選任及び監督について責任を負う
旧106①但し やむを得ない事情で復代理人を選任した場合は105①の責任を負う → 法定代理人はいつでも復代理人を選任できるがつねに損害賠償責任を負う 基本法コンメンタール民法総則 P183

任意代理人が復代理人を選任した場合の責任軽減規定削除

旧105条1項の任意代理人が復代理人を選任した場合が削除され、法定代理人のみの責任軽減規定に変更されている。

(任意代理人による復代理人の選任)
第百四条 委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。
(法定代理人による復代理人の選任)
第百五条 法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
(復代理人の権限等)
第百六条 復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。
2 復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。

任意代理人が復代理人を選任した場合の責任はどの条文を根拠とするのか

旧法下での責任軽減規定は根拠が不明なため削除されただけのようである。
従って原則通りの損害賠償責任となる。
(復受任者の選任等)
第六百四十四条の二 受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。
2 代理権を付与する委任において、受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは、復受任者は、委任者に対して、その権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う。

(受任者の注意義務)
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

受任者は委任の本旨に従い善良なる管理者の注意をもって委任事務を処理すべき義務を負う
委任の本旨とは、「債務の本旨」(415条493条)と同義であり、具体的には各委任契約の内容によってきまる 基本法コンメンタール債権各論Ⅰ P192

選任および監督について責任を負うとは

715条1項の使用者責任と同種のもの 基本法コンメンタール民法総則 P183
選任について 不適法な者を復代理人に選任したことによって本人に損害を与えた
監督について 必要な支持を与えなかったことによって本人に損害を与えた
これだけでは通常の損害賠償との違いが分からないが、要するに、仮に本人に損害が生じたとしても、選任及び監督に過失がないことを証明すれば免責されるということだろう。その意味で責任が軽減される、ということのようである。

代理人死亡後に復代理人が相手方と契約を締結した場合

(復代理人の権限等)
第百六条 復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。
2 復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。

旧107が移動しただけで変更はない。
復代理人は代理人の代理人ではなく106①本人の代理人であるから、原代理人の表示などは不要だとされている。
もっとも、復代理人と代理人との内部関係などは106以外に規定はないので結局通説を言っているに過ぎないようだ。
従って、復代理人は代理人の代理人ではないという見解はあくまでそう言われているだけだという解釈も成り立ちうる。民法はこのように条文に書かれていない部分を解釈、判例の積み重ねによって補っている場合が多い。
後付けのロジックも多いため、論理的ではない解釈が往々にしてある。

過去問

S38-28
代理人死亡後、復代理人が本人の為にした契約について相手方が本人に対してその契約が有効であると主張できるものはどれか

正解は「相手方が善意無過失であれば主張できる」らしい。
そもそもこの肢、一体何についての善意無過失なのかは書いていないので問題だが、代理人が死んだということについて知らないということだろう。
この場合代理人の死亡によって代理権自体が消滅しているので通説などの考え方によれば、必然的に復代理人の権限も消滅するはずであるが、そのことを過失なく知らなければ契約が有効だということらしい。さて、このロジックはどこからきているのか?

この場合は代理権消滅後の代理行為と同じ構造になるから、112条の場面だろうか。
代理権消滅後の表見代理等)
第百十二条 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

ということらしい。

復代理人の権限まとめ

復代理人は本人の代理人である
復代理人の代理行為の効果は本人に直接帰属する
復代理人が代理行為をする場合は原代理人の表示は必要ない
復代理人の権限は代理人の権限がベースとなるので代理人の権限より広くなることはない
代理人の代理権が消滅すると復代理人の権限も消滅する

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