https://www.moj.go.jp/content/000056976.pdf
平成22年度旧司法試験第二次試験論文式試験問題と出題趣旨
【憲 法】
第1問
理容師法は,「理容師の資格を定めるとともに,理容の業務が適正に
行われるように規律し,もつて公衆衛生の向上に資することを目的」(同
法第1条)として制定された法律である。同法第12条第4号は,理容
所(理髪店)の開設者に「都道府県が条例で定める衛生上必要な措置」
を講ずるよう義務付け,同法第14条は,都道府県知事は,理容所の開
設者が上記第12条の規定に違反したときには,期間を定めて理容所の
閉鎖を命ずることができる旨を規定している。
A県では,公共交通機関の拠点となる駅の周辺を中心に,簡易な設備
(洗髪設備なし)で安価・迅速に散髪を行うことのできる理容所が多く
開設され,そこでの利用者が増加した結果,従来から存在していた理容
所の利用者が激減していた。そのような事情を背景に,上記の理容師法
の目的を達成し,理容師が洗髪を必要と認めた場合や利用者が洗髪を要
望した場合等に適切な施術ができるようにすることで理容業務が適正に
行われるようにするとともに,理容所における一層の衛生確保により,
公衆衛生の向上を図る目的で,A県は,同法第12条第4号に基づき,
衛生上必要な措置として,洗髪するための給湯可能な設備を設けること
を義務付ける内容の条例を制定した。このA県の条例に含まれる憲法上
の問題について論ぜよ。
なお,法律と条例の関係については論じる必要はない。
【 参照条文 】理容師法
第1条 この法律は,理容師の資格を定めるとともに,理容の業務が適正に行われる
ように規律し,もつて公衆衛生の向上に資することを目的とする。
第1条の2 この法律で理容とは,頭髪の刈込,顔そり等の方法により,容姿を整え
ることをいう。
② この法律で理容師とは,理容を業とする者をいう。
③ この法律で,理容所とは,理容の業を行うために設けられた施設をいう。
第12条 理容所の開設者は,理容所につき左に掲げる措置を講じなければならない。
一 常に清潔に保つこと。
二 消毒設備を設けること。
三 採光,照明及び換気を充分にすること。
四 その他都道府県が条例で定める衛生上必要な措置
(出題趣旨)
条例による理容所の規制につき,一見すると公衆衛生上の観点からの
営業態様に関する規制について,その実態が競争制限的で既存業者保護
となる効果を持ち,かつ,違反者に対しては理容所の閉鎖という法律上
の効果を伴う点で,単なる営業態様規制ではなく,開業規制とも考え得
る点を,憲法第22条第1項の職業選択の自由との関係でどのように考
えることができるのかを問うことを意図したものである。
第2問
選挙区選出の参議院議員である甲は,参議院本会議での居眠りや野次
がひどく,議長や所属政党から口頭での注意をたびたび受けていた。甲
の態度はその後も改善されず,平成22年2月某日,甲は酔った状態で
本会議に出席し,野次を飛ばすのみならず,対立政党の議員に対し暴力
を振るった。
このような甲の問題行動を受けて,参議院は出席議員の3分の2以上
の多数による議決で甲を除名処分とした。甲はこの処分を不服として,
議員の地位の確認を求めて裁判所に訴えを提起した。
この事例に含まれる憲法上の問題点を,甲が地方議会議員であり,上
記と同様の理由で地方議会から除名処分を受けた場合及び甲が参議院議
員であり,所属政党から除名処分を受けた場合と比較しつつ論ぜよ。
(出題趣旨)
本問は,憲法第76条の定める司法権について,その趣旨を踏まえた
上で,裁判所による司法権の行使に対する制約につき,その根拠の違い
及び関連判例に留意し,当該事案への適用を論理的に記述することがで
きるかどうかを問うものである。
https://www.moj.go.jp/content/000049032.pdf
平成21年度旧司法試験第二次試 験論文式試験問題と出題趣旨
【憲 法】
第1問
自動車の多重衝突により多数の死傷者が出た交通事故の発生前後の状
況を,たまたまその付近でドラマを収録していたテレビ局のカメラマン
がデジタルビデオカメラで撮影しており,テレビ局がこれを編集の上ニ
ュース番組で放映した後,撮影時の生データが記録されたディスクを保
管していたところ,同事故を自動車運転過失致死傷事件として捜査中の
司法警察員が,令状に基づき同デ ィスクを差し押さえた。
この事例に含まれる憲法上の問題点について,その交通事故を取材し
ていたテレビ局が,一般人が撮影したデジタルデータの記録されたディ
スクを入手し,それを編集の上ニュース番組で放映したところ,同事故
に関する自動車運転過失致死傷被告事件の係属する裁判所が,テレビ局
に対し,同ディスクの提出命令を 発した場合と比較しつつ,論ぜよ。
(出題趣旨)
本問は,報道の自由・取材の自由の憲法上の位置づけを明らかにし,
これらに対する刑事事件捜査・公平な裁判の必要性による制約が許され
るか否かにつき,報道の内容,取材経緯,警察による押収と裁判所の提
出命令の違い等に留意して,関連判例も踏まえつつ,事案に応じて分析
検討することを求めるものである。
第2問
国会議員であるとともに弁護士でもあるAは,派遣労働者の権利利益
を拡充する内容の法律案に関して開催された地方公聴会において,この
法律案の必要性を訴える中で,「この法律案に反対して いる経営者団体
の幹部Bは,労働者を搾取することしか考えておらず,自分が担当して
いる訴訟においてもBが違法に労働者を働かせていることを立証済みで
ある。」旨の発言をしたほか,この発言を自己が開設したホームページ
に掲載した。Bは,Aの発言やホームページへの掲載により名誉を毀損
されたとして,国とAを相手取り損害賠償を求めて提訴するとともに,
Aが所属する弁護士会に対してそ の懲戒の請求をした。
この事例に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。
(出題趣旨)
本問は,憲法第51条が定める国会議員の免責特権について,その趣
旨を踏まえつつ,免責の対象となる行為の範囲や免責の効果,国家賠償
請求の形での救済の可否等について検討し,当該事案への適用を論理的
に記述することができるかどうかを問うものである。
https://www.moj.go.jp/content/000049031.pdf
平成20年度旧司法試験第二次試験論文式試験問題と出題趣旨
【憲 法】
第1問
A自治会は 「地縁による団体 (地方自治法第260条の2)の認可を受けて地域住 , 」
民への利便を提供している団体であるが,長年,地域環境の向上と緑化の促進を目的と
する団体から寄付の要請を受けて,班長らが集金に当たっていたものの,集金に応じる
会員は必ずしも多くなかった。
そこで,A自治会は,班長らの負担を解消するため,定期総会において,自治会費を
年5000円から6000円に増額し,その増額分を前記寄付に充てる決議を行った。
この決議に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。
(出題趣旨)
自治会のような団体が寄付に協力するために会員から負担金等を徴収することを総会
決議で決めることは会員の思想信条の自由を侵害しないかについて,関連判例を踏まえ
つつ,自治会の性格,寄付の目的,負担金等の徴収目的,会員の負担の程度等を考慮に
入れて,事案に即して論ずることができるかどうかを問うものである。
第2問
民間の個人又は団体による教育事業 慈善事業 博愛事業その他の公益事業 以下 教 , , (「
育等公益事業」という )の 。 自律的で適正な運営を確保し,その発展を支援するため,特
定の教育等公益事業につき,国が助成金を交付する制度を次の要領でつくることになっ
たと仮定する。
1 助成金の交付の対象となる教育等公益事業は,特定の宗教又は思想信条の信奉,
普及又は実践を目的とせず,客観的にもこれと遮断された態様で営まれること。
2 助成金の交付を行うか否かの決定は, (「 」 教育等公益事業の事業主体 以下 事業者
という )の申請を受けて,内閣の所轄の 。 下に置かれる委員会が行う。委員会の委
員は,両議院の同意を得て,内閣総理大臣が任命する。委員は,独立してその職権
を行う。
3 助成金の交付を受けた事業者は,教育等公益事業の実施内容及び収支(助成金の
使途を含む )について委員会に報告し, 。 審査を受けなければならない。審査の結
果,上記1の要件を満たしていないと認められたときは,委員会は,事業者に対し
て,助成金の返還等を命ずることができる。
4 委員会は,事業者に対し,いつでもその遂行に係る教育等公益事業に関して報告
を求め,助言又は勧告をすることができる。
この制度の憲法上の問題点を論ぜよ。
(出題趣旨)
私人による公益事業に対する国の財政的支援に関する憲法上の論点を,財政民主主義
の観点から公金支出を制限する憲法第89条後段の趣旨を踏まえ,同条の「公の支配」
の意義,独立行政委員会の憲法上の位置づけ及び独立行政委員会によって「公の支配」
を行うことの可否等に関連させつつ問うものである。
https://www.moj.go.jp/content/000049030.pdf
平成19年度旧司法試験第二次試験論文式試験問題と出題趣旨
【憲 法】
第1問
A市では 条例で 市職員の採用に ,, , 。 当たり 日本国籍を有することを要件としている
この条例の憲法上の問題点について,市議会議員の選挙権が,法律で,日本国籍を有す
る者に限定されていることと対比しつつ,論ぜよ。
(出題趣旨)
本問は,外国人の公務就任権及び地方議会議員の選挙権について,外国人の人権享有
主体性,それぞれの権利の性質,国民主権原理と地方自治との関係などを踏まえて論理
的に記述することができるかどうかを問うものである。
第2問
「内閣は,条約を締結する際,その条約の合憲性について,最高裁判所の見解を求め
ることができる。最高裁判所が違憲であるとの見解を示した場合は,内閣はその条約を
締結することはできない 」と 。 いう趣旨の法律が制定されたと仮定する。この法律に含ま
れる憲法上の問題点について論ぜよ。
(出題趣旨)
本問は,内閣が条約を締結するに際し,その合憲性について最高裁判所の見解を求め
ることができるかという点について,違憲審査権の性格,司法権の意義,憲法と条約の
関係,国会の条約承認権等に関する基本的理解を踏まえながら,論理的記述ができるか
どうかを問うものである。
https://www.moj.go.jp/content/000049029.pdf
平成18年度旧司法試験第二次試験論文式試験問題と出題趣旨
【憲 法】
第1問
国会は,主に午後6時から同11時までの時間帯における広告放送時間の拡大が,多
様で質の高い放送番組への視聴者のアクセスを阻害する効果を及ぼしているとの理由か
ら,この時間帯における広告放送を1時間ごとに5分以内に制限するとともに,この制
限に違反して広告放送を行った場合には当該放送事業者の放送免許を取り消す旨の法律
を制定した。この結果,放送事業者としては,東京キー局の場合,1社平均で数十億円
の減収が見込まれている。この法律に含まれる憲法上の問題点について論ぜよ。
(出題趣旨)
本問は,放送事業者の広告放送の自由を制約する法律が制定されたという仮定の事案
について,営利的表現の自由の保障根拠や放送という媒体の特性を踏まえて,その合憲
性審査基準を検討し,当該事案に適用するとともに,放送事業者に生じうる損害に対す
る賠償ないし補償の可能性をも検討し,これらを論理的に記述できるかどうかを問うも
のである。
第2問
A市において 「市長は,住民全体の利害に重大な影響を及ぼす事項について,住民投 ,
票を実施することができる。この場合,市長及び議会は,住民投票の結果に従わなけれ
ばならない 」という趣旨の条例が制定されたと仮定する。 。
この条例に含まれる憲法上の問題点について 「内 , 閣総理大臣は,国民全体の利害に重
大な影響を及ぼす事項について,国民投票を実施することができる。この場合,内閣及
び国会は,国民投票の結果に従わなければならない。」という趣旨の法律が制定された場
合と比較しつつ,論ぜよ。
(出題趣旨)
本問は,条例により投票結果に法的拘束力を与える住民投票制度を導入することが憲
法上許されるかという点について,日本国憲法における代表民主制と直接民主制の位置
づけや関連規定の趣旨,地方自治の本旨等に関する基本的理解を踏まえながら,国民投
票の場合と対比しつつ,論理的記述ができるかどうかを問うものである。