在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件 平成17年9月14日
この事件に関し平成22年の採点実感でこんな言及がある。
在外邦人選挙権訴訟判決では選挙権又はその行使を制限することは,そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り違憲であるとしている
違憲である理由を述べているわけだが、このように簡潔にまとめることが果たしてできるだろうか?
何が言いたいかというと、短答式試験では判例の見解を問われる問題がやたら多いが、このとき、その判例は知っていてもこのように簡潔に聞かれて、言いきられてしまうと迷う事が多い。
知っていても迷うということは理解していないから、と言うとそうでもない。理解していないというより、理由付けを間違ったり曲解したりしている事があるからだ。つまり、判例集を読んで、解説を読んでも結局自分なりに曲解してしまったら意味がない。だからこそ、独学より誰かから学んだほうがいいわけだ。
それはいいとして、結局判例に対して、司法試験委員会がどのように捉えているかを知れば(どういうロジックで判例を理解するのか)このような曲解を防げるだろう。
ということでこの判例を改めて素で自分で捉えて、司法試験委員会の見解とどのように違うかを比較検討してみよう。
上記引用部分は判決文の下記部分からの引用だった。
憲法の以上の趣旨にかんがみれば,自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として,国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず,国民の選挙権又はその行使を制限するためには,
そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。そして,そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り,上記のやむを得ない事由があるとはいえず,このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違反するといわざるを得ない。
この引用部分だけをとらえると違憲であるとは書かれていないが、前後の脈絡から違憲である、となる。
逆に言えば「制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合」は選挙権を制限してもよい、で間違いないだろう。しかし、こういった類の問題はあまり出題されないようだが。
重要なのはどのような場合に違憲になるかであって、判決文にはそれが書かれているからである。
また、
国が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置をとらないという不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合の立法不作為の実体的合憲性の問題と,立法不作為が国家賠償法上違法の評価を受けるための要件という問題を区別して検討している
この点、上記判決引用文の続きに「不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合についても,同様である」とあるので少し混乱する。
司法試験委員会が言っているのは立法不作為そのものが違憲となるかどうかの一般的基準の事だろう。
判決が言っているのは選挙権を制限する場合の違憲判断の基準は立法不作為の場合であっても異なるところはない、ということだろう。
※裁判所は立法不作為そのものが違憲かどうかを判断していない。立法不作為が国賠上違法になるかどうかの基準を言っている。またしても曲解していたようだ(笑)
国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら,【要旨5】立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。
判決文の中にわざわざ言及がある在宅投票廃止事件は上記引用と異ならない趣旨だという
。在宅投票廃止事件
国家賠償法一条一項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。したがつて、国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であつて、当該立法の内容の違憲性
の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反する廉があるとしても、その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。以上のとおりであるから、国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであつて、国会議員の立法行為は、立法
の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。
←ここまで国賠上違法かどうかのはなし
改めて気づいたのが立法不作為が違憲だと言っているわけではなく、あくまで国賠上違法の評価を受ける基準を言っていることである。
国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に云々かんぬんは国賠上違法になる定義である。
とは言え、立法の内容なり、立法行為が(立法不作為を考えると必然的に内容も考慮するわけだが)違憲だとしたら国賠上も違法になりそうではあるが、国賠上違法だから違憲とはならないか。
在外日本人選挙権事件と在宅投票廃止事件では真逆の結論が出ているが、これは在外日本人事件では結果的に選挙権を制限しているためそれが違憲だと判断されているからであり、立法不作為が違憲だからではない。
これを今まで混同していたようだ。
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