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短答問題
〔No.32〕 次のアからオまでの記述のうち,誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア Aは,Bに対する自己の金銭債務を弁済していたが,Bから強制執行すると脅かされ,取りあえず,これを避けるため,Bに対し,Bから請求された額を支払った。この場合,Aは,Bに対し,支払った金額を不当利得として返還請求することができる。
イ 債務者Aは,Bに対し,弁済期前であることを知りつつ,債務を弁済した。この場合,Aは,Bが期限前に弁済を受けたことによって中間利息などの利益を受けているときは,Bに対し,その利益を不当利得として返還請求することができる。
ウ Bは,Cに対する債権につき,自己の債務と誤信したAから弁済を受けたが,C自らが弁済したものと信じて,債権証書をAに交付したところ,Aは,その証書を紛失した。この場合,Aは,Bに対し,弁済したものを不当利得として返還請求することはできない。
エ Aは,死亡した親の債権者と称するBから債務の弁済を求められたため,その債務を相続したものと信じて,これを支払った。この場合,支払の際,調査をすればそのような債務が存在しないことを容易に判断することができ,Aが上記のとおり信じたことに過失があると認められるときでも,Aは,Bに対し,弁済したものを不当利得として返還請求することができる。
オ Aは,BのCに対する債務を自己の債務と誤信して弁済し,その後,Cは,Bに対するその債権を消滅時効により失った。この場合,Aは,Bに対し,求償することができない。
1.ア ウ 2.ア エ 3.イ ウ 4.イ オ 5.エ オ
この問題も自信を持って間違えてしまう(笑)
正解は4 正解
非債弁済は不当利得の特則
↓このような考え方がもっとも短答突破に遠い考え方だと今なら分かる。択一プロパーだからと言って、細かい知識を暗記しようとしても、結局すべての知識は網羅できない。見た事も聞いたこともないような肢はいくらでも創作できる。基本的なロジックを理解していなければ対応できない。これが短答落ち常連の正体である。
確かに深いところまではきいてこないかもしれないが、きちんと正確に理解しておく必要は少なくともある。
非債弁済は実は不当利得の特則であり、不当利得のロジックが問題の随所にあることに気づかなければならない。
そして、不当利得は論文でも出題され、不当利得は地味に深い問題である。
「解説にあるようにマイナーな問題、いわゆる択一プロパーと言える非債弁済についてである。
このような分野は条文知識だけであまり深い事はきいてこない傾向だと言う。従って、条文さえきちんと押さえておけば逆に得点源になるという。」
なるほど。
非債弁済については改正がない。よかったと胸をなでおろしている場合ではない。結局すべてうろ覚えではないか(笑)
非債弁済は不当利得の章に3条規定されている。
非債弁済は不当利得として返還請求できない場合を規定
(債務の不存在を知ってした弁済)
第七百五条 債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない。
(期限前の弁済)
第七百六条 債務者は、弁済期にない債務の弁済として給付をしたときは、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、債務者が錯誤によってその給付をしたときは、債権者は、これによって得た利益を返還しなければならない。
(他人の債務の弁済)
第七百七条 債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合において、債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し、担保を放棄し、又は時効によってその債権を失ったときは、その弁済をした者は、返還の請求をすることができない。
2 前項の規定は、弁済をした者から債務者に対する求償権の行使を妨げない。
債務がないことが分かりつつ弁済する場合
705は債務がないことを知って敢えて弁済として給付した場合→ 返還請求できない ※債務がないのに自己の債務だとして弁済する
弁済期前だと知って弁済する場合
706は債務者が弁済期前に弁済として給付した場合→ 返還請求できない ※但し 錯誤による場合は債権者は利益を返還する
他人債務を間違って自分の債務だと思い弁済する場合
707は他人の債務を錯誤によって自己の債務として弁済した場合→ 返還請求できる ※但し 債権証書を紛失などした場合は不当利得返還請求できない
非債弁済条文構造まとめ
705 債務がないことを知って給付 → 返還請求不可
※他人の債務を他人の債務と知って弁済するのは第三者の弁済
※他人の債務を自己の債務と誤信して弁済するのは錯誤で原則不当利得になり得る但し、707の特則がある
706 期限前だと知って弁済 → 返還請求不可
※仮に錯誤によって弁済しても返還請求できない
707 債務者でない者が錯誤で弁済した場合一定の事由がある → 返還請求できない
※要するに債務者ではないということを知らないとも言える。もっとも債務者ではないが弁済する義務がある、と誤信したという状況も想定できる。
※一定の事由がなければ返還請求できるのが原則
自己の債務ではない(自己の債務を弁済してしまったとか)と知って弁済したが、それが他人の債務だった場合その債務はどうなるのか?
707では他人の債務を錯誤によって自己の債務として弁済したら返還請求できるとしており、他人の債務であることを知りつつ自己の債務として弁済するような場合(想定しづらいが)返還請求できないことになる。この場合弁済が有効となってしまうのか。この点についての考察はないようだ。
結局、善意(誤信、或いは錯誤)で給付した場合は不当利得で返還請求でき、悪意(知っている)の場合は返還請求できないのが原則。
それを規定したのが705であり、706は善意でも原則返還請求できず、707は一定の場合は善意だとしても返還請求できない場合を規定。
債務がない 705 悪意→返還請求不可 ※705自体は悪意のみ規定している善意→返還請求可
期限前 706 善悪どちらも返還請求不可
債務がない 707 善意→返還請求可※一定の場合は不可 悪意→返還請求不可
この点、非債弁済とひとくくりにして、非債弁済とは、債務が存在しないのに、債務の弁済として給付を行うことを言うと説明されるが705くらいしかこれに当てはまらないことが分かる。
債務がないことを知って自己の債務として弁済する場合
さて、債務がないことを知って敢えてその弁済として給付をしたらその返還請求はできないと705は規定する。が、この場合弁済が有効になり債権債務は消滅するのか?と思ったが、そもそも債務自体がないことが要件になっている。※自分の債務でなくても他人の債務ということは有り得る。
錯誤によって弁済した場合
つまり、他人の債務を他人の債務として弁済する行為は705の範疇ではない。では他人の債務を自己の債務と誤信して弁済した場合はどうなるか?707により不当利得として返還請求できる。
他人の債務をを自己の債務と誤信して弁済すると第三者の弁済としては有効にはならないとされる。従って707で不当利得返還請求。
第三者の債務を第三者の債務として弁済するのは有効な弁済
他人の債務を第三者の債務として弁済することは勿論有効。474改正。
※追記
不当利得を勉強していて、非債弁済は不当利得の特則であることを知る。
705
非債弁済が不当利得に該当するためには不当利得の一般要件に加え、債務の不存在を知らなかった場合に限る。
債務がないと分かっていたら返還請求できず、債務がないとは知らなかったら返還請求できるわけである。要するに不当利得の要件よりも厳しくなっている。過失によって知らなかった場合でも返還請求できる。基本法コンメンタール債権各論ⅡP20
706
債務そのものは存在しているので不当利得とはならない。但し、錯誤によって弁済した場合はそれによって債権者が受けた利益を返還しなければならない。中間利息などは不当利得が成立するから当然と言えば当然であるが、ここでも給付者の錯誤を要件としている点でやはり一般の不当利得よりは厳しくなっている。
707
他人の債務を自己の債務と誤信して弁済した場合は、不当利得にあたるので返還請求できるのが原則である。
しかし、債権者が第三者の弁済だと誤信した場合、弁済が有効になるので不測の損害を被る場合がある。債権証書を弁済者へ返還して債権の行使ができなくなるような事態。このような場合弁済者は返還請求できない。
その結果弁済自体が第三者の弁済として有効になる。そして弁済者は不当利得返還請求を債務者に対して求償できることになる。基本法コンメンタール債権各論ⅡP19
返還請求できない場合は弁済が有効となるのかまとめ
705はそもそも債務がないことを前提としているので有効になるという余地がない。
もっとも他人の債務の弁済の場合も自己に債務がない事に含める余地があるが、
その場合であっても錯誤によって弁済すれば返還請求できる。
返還請求できないのは分かった上で敢えて弁済する場合である。
返還請求できないとどうなるかについては、707の錯誤によって弁済した場合に、善意で証書滅失、担保法規、時効により再建を失った場合に返還請求できず、このときは第三者の弁済として有効となるとする。
第四百七十四条 債務の弁済は、第三者もすることができる。
2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。
3 前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。
4 前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。
非債弁済で返還請求できるために共通しているのは弁済者が善意=債務がある、あるいは支払わなければならないと誤信していることである。
この点肢アは弁済し終わっていると分かっているので仮に脅されていても少なくとも705不当利得返還請求はできないようににも思えるが、判例は不当利得返還請求できるとしている大判大6.12.11短答H6-31肢イH13-32肢ア。他の規定で返還請求できるかはまた別の話である。
707は債務者でないのに錯誤によって弁済した場合とありこれは他人の債務の弁済である。
一旦まとめると
705には他人の債務と知って弁済した場合はそもそも含まれない。他人の債務を自己の債務と誤信して弁済した場合も含まれない。要するにそもそも債務自体がないときに債務がないと知って弁済した場合に返還請求できないとする。
707は他人の債務を弁済した場合であるが、有効な第三者弁済ではなく錯誤によって他人の債務を弁済した場合にその返還請求をできない場合を定めている。
そこで、例えば債務がないのに錯誤で弁済した場合は単なる錯誤のはなしとなる。
また、707で返還請求できないとなると弁済が有効となり債務は消滅するとされる。それは弁済をした者が債務者に求償できると規定する2項からみてとれる。
これを踏まえて問題をみてみよう。
まず肢のアで躓くのが短答常連落ちの悲しい性(笑)
これは知識が下手にあると混乱する。
金銭債務を弁済していたが、という意味を弁済を継続していると読んでしまうことがあげられる。こう読んでしまうと自己の債務なのでそもそも非債弁済の話ではなくなり、不当利得でないのではないかと判断してしまうだろう。
本問の正答は4のイオであり、アが〇であろうが×であろうが関係ないが、強制執行を免れるための給付は任意の給付ではないため705の適用はないという判例六法にものっている判例をもとにした作問だと思われるため恐らく〇ということだろう。
イウは条文通りでイが×、ウが〇
さて、エである。こういう言い回し、混乱します(笑)
まず、狭義の非債弁済である705は債務がないことを知っている、ことが必要なのでエは非債弁済ではないので返還請求できるのが原則となる。が、債務があると信じたことに過失があるなどの甘い言葉が並ぶ(笑)
そもそも非債弁済自体がうろ覚えだと返還請求できるのかできないのかさえよく分からないところにきて債務があると信じたことにつき過失があったとかなると錯誤でも錯誤取消できなかったけとかプチパニック。もうお話にならない。
改めて、非債弁済は債務がない事を知っていた、という状態なのでエはそもそも705の射程範囲ではない。ということは原則通り不当利得返還請求ができる。過失の有無については判例にもでていないようなので無視していいようだ。
オも条文通りで×。
仮にアとエを保留にしても確実にイとオが×なので答えはでた。。。。
手違いで送金した530億円、シティバンクの回収認めず 米裁判所判決
化粧品会社レブロンへの融資の幹事会社だったシティバンクが、債権者に約800万ドルの利息を支払うべきところを、誤ってほぼ100倍の金額を送金してしまった。
法律では通常、誤って自分の口座に送金された現金を使った者が罰せられる。しかしニューヨーク州の法律には、もし受益者が現金を受け取って、それが手違いで送金されたものだと知らなかった場合、その現金を保持できるという例外規定があった。
債権者側は、シティバンクから融資の繰り上げ返済を受けたと思ったと主張した。手違いで送金された額は、シティバンクが債権各社に対して負っていた債務の額と、「1セント単位まで」一致していた。ただし返済期日はまだ相当先だった。
以上の事例、日本の法律だったらどうなるか。
シティバンクは債務者であり弁済期前なので706条が該当するようにもみえるが、シティバンクは弁済したわけではない。
ニューヨークの法律では手違いで送金されたものだと知らなかった場合はその現金を保持できるということであるが、だとするとこれは期限前の弁済として扱われるのだろうか。だとすればシティバンクとしても実質的な損害はないことになるが。
通常の誤送金は送金先そのものが違っていたという場合が多いだろうし、送金先はあっていても金額が違うなどの場合だろう。シティバンクのように債務額が1セント単位で一致していたという特殊な事例。
この事例だと日本でも弁済とみなされても仕方ないという判決がでる可能性もある。しかし706条但し書きは、債務者が錯誤によってその給付をしたときは、債権者は、これによって得た利益を返還しなければならないとある。ということはなんの利益も得ていなければ返還する必要なし。
シティバンクは明らかに錯誤によって給付しているものの、日本だと債権者側がなんらかの利益を得たか証明できれば返還請求できることになるが、得た利益の額に限定されるのでこの場合でも全額返還は無理だろう。
ところで期限前に弁済を受けて得られる利益ってナンダ(笑)