〔No.35〕 Aは,甲土地及び乙土地を所有していたが,甲土地をBに,乙土地をCに売却した。しかし,
登記については,B及びCの要望により,甲土地及び乙土地のいずれについても,AからB及びCに対す
る共有持分各2分の1の移転登記を経由した。その後,Bは,Dに対し,甲土地及び乙土地について,い
ずれもB名義で登記されている2分の1の共有持分を売却し,その旨の登記を経由した。
この事例に関する次のアからオまでの記述のうち,「我が国の不動産登記には公信力はないが,権利者
が不実の登記を作出した場合には,不実の登記について善意の第三者は,虚偽表示の規定の類推適用によ
り保護される。」との考え方に立った場合,正しいものは幾つあるか。
ア Dが善意の場合,Cは,甲土地及び乙土地のいずれについても2分の1の共有持分を有することに
なる。
イ Dが善意の場合,Dは,甲土地及び乙土地のいずれについても2分の1の共有持分を有することに
なる。
ウ Dが悪意の場合,Cは,Dに対し,乙土地について,2分の1の持分の範囲に限り,その権利を対
抗することができる。
エ Dが悪意の場合,Dは,甲土地の所有権を全部取得する。
オ Dが善意か悪意かによって,Bが甲土地について共有持分を有することになるか否かが異なってく
る。
1.1個 2.2個 3.3個 4.4個 5.5個
本問は正答率が38.5%と低く、合否に影響しない問題だとされている。
さて、私も例にもれず2として間違えたが、おそらくオを正しいと判断したためのようだ。
正解は1個である。
よって、正答としてはオ間違いになるがなぜ間違いなのか?
よくよく考えると94.2の類推が認められた場合、善意の第三者であるDには虚偽表示の無効を主張できず、結果としてBが共有者として認められ、逆にDが悪意だとDが全部貰える結果となりなんだか変な結果になる。
そもそも94.2類推の場合は虚偽表示の無効を第三者に主張できないのであって、第三者は有効無効どちらも主張できるわけであるが、Dが有効だと主張するとそれは虚偽表示が有効だということになり、結局2分の1の持ち分を得る。虚偽表示が無効だと主張すれば全部を得ることになる。善意であれば有効無効どちらも主張でき、悪意であれば有効は主張できない。いずれにしても善意か悪意かで結果は変わらないと言える。
しかし、これもおかしな話で善意ということは虚偽表示であることを知らなかったのに、半分買ったつもりが実は全部だったと後から分かって全部貰おうとするというのもなんだか腑に落ちない。とは言え、これが法律構成ということになるのだろう。あくまで私見だが。
民法は知識の確認の試験と言われているが、こういう問題は知識があるとかないとかだけでは解けないかと言えば知識がきちんとあれば解けそうではあるものの、こういうある意味ひねくれた出題、いや、ひっかけにも近い問題だと知識が正確でも落としてしまうことになりかねない。
また、こういう問題ばっかりやっていると問題の本質が逆に見えてこず木を見て森を見ず状態で技巧的になりすぎて、結局知識の吸収がおろそかになってしまう傾向がある。
さて、注意が必要なのは乙土地である。乙土地はBのものではなく、共有持ち分すらない。いずれにしろ乙土地についてDがそのことを知っている場合は当然なにも得られないが、善意の場合は2分の1は得られることになる。
本問とは逆の事例で、もともと共有不動産で、それを単独名義にして売却した場合の判例。
AとB共有の甲不動産につき,AがBに無断でA単独所有の登記
を経由したが,Bはその事実を知りながら長時間これを放置してい
た場合において,甲不動産がAとBの共有であることを知らないC
に,Aが甲不動産を売却したときは,BはCに対し,自己の持分を
主張することはできない(最判45.9.22)https://www.itojuku.co.jp/pdf/shihoshoshi/2C170403R02.pdf
これは分かりやすい事例で、善意の第三者を保護するという趣旨そのまんまになる。
94条2項 善意の第三者にあたるかあたらないか
94条2項の第三者にあたるかあたらないか問題は過去問を見ても頻出事項であることが分かる。第三者にあたるかあたらないかとは要するに無効か有効かの判断に直結するから、その意味で善意の第三者として保護するに値する人なのか?という視点で区別したほうが早そうである。
そもそもこの善意の第三者の具体的事例を網羅的に暗記するほど頭がよくない。覚えたと思ってもどうせ試験の頃は忘れているだろう。
不動産の二重譲渡
不動産の二重譲渡は司法試験では定番メニュー。94条2項類推適用についてはどんな問題があるのか。
94.2で問題とされる二重譲渡の事例は単純な二重譲渡ではない。
まず甲乙間で仮想譲渡され、乙が丙へ譲渡し、甲は丁に譲渡したという設定である。
丁と丙はどちらが勝つかという話で、ここに94.2を類推適用しようではないかということであるが、判例は対抗問題で決している。
が、結論だけ覚えると論点を見逃してしまう。
この問題が94.2類推の問題として捉えられているのは、丙がまず94.2で善意の第三者として保護されると丙は所有権者ということになる。
丁はどうなるのか?登記はすでに甲にはない状態で丁が取引しているとすると丁は94.2の適用を論ずるまでもない。
が、丙が登記を備えていない場合にどちらが優先するか?ということになる。
判例の結論から言えば仮に丁が乙から登記を受ければ丙に勝つということになる。
最判昭42.10.31
民法短答事例問題の解き方
改めて解いたらまた間違う(笑)
イとエを〇と判断
Aが甲土地をBに譲渡
乙土地をCに譲渡
これが基本となる
BがDに甲地の2分の1 乙地の2分の1 を譲渡
Bは本来甲地の所有権しかないため、Dは乙地について所有権を取得しないのが原則である
もっとも94条2項の善意の第三者にあたれば甲乙それぞれ2分の1の所有権を主張できる
仮に悪意であったとしても甲地については少なくとも2分の1の所有権は取得する
ア Dが善意の場合,Cは,甲土地及び乙土地のいずれについても2分の1の共有持分を有することになる → ×
※Cは本来乙しか所有権はない。甲地についての持分はない。
イ Dが善意の場合,Dは,甲土地及び乙土地のいずれについても2分の1の共有持分を有することになる。→ 〇
ウ Dが悪意の場合,Cは,Dに対し,乙土地について,2分の1の持分の範囲に限り,その権利を対抗することができる。→ ×
※Cは本来乙地全部の所有権を持つ。また、乙地についてBは何の処分権限もないので、Dがそれを知っている場合は保護されない。
エ Dが悪意の場合,Dは,甲土地の所有権を全部取得する。 → ×
※BとDの契約は甲については2分の1の売買契約なので甲地全部を取得する事はない。
オ Dが善意か悪意かによって,Bが甲土地について共有持分を有することになるか否かが異なってくる。
※Bは甲地全部を所有しているので、Dとは全部についての売買契約が結べる。仮にDが悪意としてもその事を知っているにすぎず、売買契約は甲について2分の1である。
その事を知らないからと言って、売買契約以上のものがもらえるわけではない。
基本からじっくり解いていくと特に難しい問題ではないことが分かる。