ざっくりまとめ
無過失が推定される推定されない問題
取得時効は無過失は推定されない
即時取得は無過失が推定される188条の適法推定は自分ではなく相手の状態
なにについての無過失か?というと相手の占有が適法だと思った場合に過失があるかないかである。
188条によって適法と推定されるのは実は相手方である。
従って例え無権利者であろうと適法だと推定される相手と取引した自分は過失がないとする。
※厳密に言うと188条の無過失推定が働く、わけではない。あくまで188条が適用されているのは相手方である。取得時効に188条の適法推定が適用されない理由
一方取得時効には188条の適用がない。というより、そもそも相手方が存在していない場合もある。
この点取得時効にも188条は適用されるという説もあるらしい。また取得時効に188条が適用されないという論拠に乏しいとする意見もある。しかし、取得時効全般に無過失推定を働かされるよりは無過失については個別具体的に判断する余地があるとしたほうがより実際的であると思うが、ここで立ち入っても意味はないので取得時効には188条の適用はないと覚えたほうがよい。
分かりやすい記事があったので引用抜粋しておきます。
即時取得者は、民法188条によって適法(=処分権がある)と推定された占有を前主から承継します。つまり、即時取得者が現在している占有が適法と推定されるからではなく、適法と推定された占有を前主から受け継いだから、無過失が推定されるわけです。
推定される無過失、推定されない無過失
(占有の態様等に関する推定)
第百八十六条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。
(占有物について行使する権利の適法の推定)
第百八十八条 占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。
即時取得では無過失は推定されるが取得時効では無過失は推定されない
占有の復習をしていてハマってしまう。一度理解したはずが改めてノートを見直すとなんだかよく分からない(笑)
即時取得と取得時効を比較して無過失は推定されるかされないか問題が短答でよく出されている印象。
私のようによく理解していない受験者が多いからだろう。いや、実はネットなどの解説を見ても実はよく分かってないと思われるものが多いことに改めて気づく。
即時取得では無過失が推定される
まず、即時取得192条では無過失が推定されて取得時効では無過失は推定されないが、この過失も厳密に言うと何に対しての過失を言っているのか実はよく分かっていない。
そして無過失が推定されるされないの根拠に186条と188条が引用される。
が、そもそもこの論理構成が少しおかしいのである。
即時取得での過失の有無とは一体なんなのか
即時取得は取引行為について適用されるが、取得時効は取引だけの話ではない。
即時取得で過失の有無を問題にしているのは前主の権限に対して(前主が無権利者ではないと信じたことについて)である。
186条と188条の適用場面の違い
186条は所有の意思をもってと規定されているのでいわゆる本権についての規定である。
他方188条は本権に限るものではなく、例えば賃借人などについても適用される規定であり主旨が異なる。
また条文上186条には無過失が規定されていないが、188条は適法を推定されており、ここで188条は無過失も推定されるとする。
という事はは186条のみではいずれにしても無過失は推定されず、188条をもってようやく無過失迄推定されることになる。この点188条からすれば前主の占有は適法であるということになるので、適法な前主と取引した相手は結果として過失はないということになる。
一方取得時効はどうか。取得時効は取引の有無は問題になっていない。占有を始めたものは186条によって善意、平穏、公然などが推定されるのは即時取得の場合と同じである。さらに188条はどうか?188条は占有権限が適法であると推定するものであるが、いわば占有している状態を適法(占有者は権限あり)として扱ってイチイチ適法な権利者かどうか確認しなくても取引できるようにしている制度と言っていい。
取得時効の場合であれば何らかの理由で所有権があると信じたことについて適用することになるだろう。取得時効では188条は適用されないのは前主のことを必ずしも想定する必要はないからである。しかし、取得時効については188条は適用されない。そもそも前主がいないと信じている場合もあるからである。
即時取得の場合の判例、学説の考え方は前主の占有権限について188条が適法だと言っているのだからそう考えて第三者が取引しても不思議はないということであり、る。取引行為についての過失を考えているわけではない。あくまで前主の占有についてである。
となると、取得時効の場合であってもに188条を適用しようとすると、占有を開始した時点での占有者の行為態様について適用するのではなく前主の占有について考えることになってしまう。とは言え必ずしも取引行為ばかりではない。いずれにしろ188条自体が適用されないとする。
占有者が占有しているものについて権利を行使するのは適法と推定するとしても、取得時効の場合において占有を始めた時点の過失の有無は自分が占有を開始するに至った状況など、占有を始めてもしょうがないと信じることについての過失の有無のことを言っていることになり、これは占有状態を適法化することとは根本的に違う話である。
取得時効は自分の占有権限についての問題
取得時効の場合は占有を開始した者が占有権限があるかないかについての過失が問題なのだから188条の出番ではない、ということになる。
即時取得と取得時効の過失の違い
即時取得は前主に権限がなくても取引行為が有効になるものだから、前主の権限があると信じたことについての過失の有無。
取得時効は占有を開始した自分の権限についての過失の有無。
とりあえずまとめ
188条自体が無過失を規定しているわけではない。
192条の即時取得では188条が適用されるから無過失も推定されるのではなく、前主に188条が適用されて占有権限が適法とされるので取引相手はそれを信じたとしても原則過失はないとされる。
取得時効で前主がいない場合もある。取引行為ばかりではないから前主の占有を信じて取引をして占有を開始するという即時取得のような状況とは違い、自分に権限ありと信じたことに対しての過失の有無。
追記 即時取得の善意とは
平成21年の論文に即時取得が出題されていた司法試験民法論文出題趣旨採点実感など
改めて善意無過失とは「動産の占有を始めたものにおいて、取引の相手方がその動産につき無権利者でないと誤信し、かつかく信ずるにつき過失のなかったことを意味する。
つまり無権利者だと知らないことが善意と言えよう。とは言え、186条で占有者は善意・平穏・公然に占有をなすものと推定すると規定されているため、善意は推定される。従って反証される事があり得る。
また無過失も前述の如く推定されるので立証は不要。最判昭45・12・4民集24巻13号1987頁
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