消滅時効制度の全体像
時効の効力関係 144~146
時効がいつから起算されるのか 166
時効の進行 147~
権利行使ができるのに権利を行使しない期間が一定期間続くと権利行使できるその権利が消滅してしまう
従って時効期間のカウントが開始されるのは権利行使ができる時からである
一定の事由があればその時効期間のカウントに障害があるが、時効制度の趣旨からその事由は権利行使あるいはそれに類似する事由ということになる
この点、承認だけはその趣が異なる
承認は時効の利益を受ける債務者が行う行為だからである
中断→更新 停止→猶予
猶予とは時効が停止(進行期間がそのままでストップ)するのではなく当該行為があった場合に時効が完成しないことを言う
※停止について
改正前で時効の停止について規定されているのは158~160 民法147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新) 民法改正勉強ノート28
中断にしろ停止にしろ非常に分かりにくいし、日常用語的に考えると中断も停止も同じようなことを言っていることに気付く
従って
中断→更新
停止→猶予
に表現が改められたというが、そもそもの意味が分からなければ表現が改められても意味はない。そもそも意味が分かっていれば表現が改められてもさほど意味はない。
むしろ、その言葉の定義を条文で規定するべきであろう。
ここで中断→更新は時効期間がリセットされゼロから再び進行を始めることを言う
では停止とはどういう意味か。
時効の停止は停止ではない
この点改正前での一般的な説明は時効の完成を猶予する、延期するという。一方でそのものズバリ時効を停止するという表現もある。
時効を停止するという意味と時効の完成を猶予延期するという意味は実は違うことに気付く。
時効を停止するという言葉のもつ一般的なイメージは時効期間のカウントを停止するという意味もある。というか、そういう捉えられ方をしても不思議はない。
そうすると、時効の停止は時効期間が進行しないことを意味し、仮に時効の停止事由があった場合、その停止期間終了後に停止されたカウントが再び開始される。
時効期間満了まで1か月で停止事由があるとその時点でカウントは停止する。そして法定代理人が就職するまで1年を要しても時効完成までまだ1かげつ残ったままである。
そして旧法では就職後6か月は時効は完成しないと規定するが、就職してから残りの時効期間が進行を始めると解するのか?それとも就職後6か月経過後から進行を始めるのかで違いがでることになる。
法の規定の体裁は単に時効が完成しないと言っているだけであるから、停止事由があると時効期間がそこでストップするのではなく、本来時効完成する場合であっても停止事由があれば時効は完成しないということを規定しているだけであろう。
停止事由がなくなれば時効の期間が再進行するのではなく停止事由がなくなれば完成の一時停止が解除される。つまり、時効の停止とは時効の完成の一時停止を言っているということになる。
H8-21
オ 未成年者Aは,法定代理人Dを介してCに10万円を貸し付けたが,弁済期が到
来して6年後にDが死亡し,その後の5年間,Aの法定代理人の不在が続いた後,
BがAの法定代理人になった。その1年後,Bは,Cに貸金10万円の返済を請求
した。これに対し,Cは,「貸金債権の消滅時効期間は10年であり,時効中断事
由がないから,消滅時効が完成している」と主張した。
正解は〇となり消滅時効は完成している。
仮に時効の停止を時効期間のカウント停止だとすると、Bの法定代理人就職まで5年間の期間は少なくとも時効期間に算入されないことになり時効は完成しないことになる。
まとめ
時効の停止は時効の進行が停止するのではなく時効が完成しないことを言う。従って時効停止事由があったとしてもその時点で何かが起きるという概念自体がない。
改正時効完成障害事由
改正による時効完成障害事由は大きく分けて3つのグループに分けられる
〇猶予更新グループ
〇猶予グループ
〇更新
〇猶予更新グループ
147 裁判上の行為
原則 時効期間が到来しても当該行為が終了するまでは完成しない 確定判決がでると当該行為の終了時でゼロリセット
※確定判決などがなく当該事由が終了すると終了時から6か月は完成しない
従って当該行為があった時点で時効の進行が停止するわけではないので、当該行為があっても時効は進行し、時効期間が満了する場合もある。
しかし147①により時効は完成しない。仮に10年以上経過して確定判決がでた場合でも時効期間はゼロリセットされ再進行する。
もしも、確定判決がでなかった場合(取り下げた場合とか?)は当該行為の終了時から6か月は時効は完成しない。
ここで、終了とは何を言うのか?裁判上で請求したとして何をもって終了というのか?
ここに言う裁判上の行為
・裁判上の請求
・支払督促
・和解 調停
・破産 再生
疑問点
147条の条文を素直に読むと、時効期間が満了してもある行為が終了するまでは時効は完成しないので、ある行為が終了すれば時効は完成することになる。
このとき、確定判決等がない場合は終了後6か月は完成しないが、仮に当該行為終了後1年経過して確定判決が出た場合はどうなるのか?
裁判上の請求の場合は訴訟が終了する事を当該行為の終了というのだろう。
また、支払督促などは必ず訴訟に移行するわけではなく、147条に規定されている終了という意味がやはり問題となるはずだ。債務者が異議を申し立てると訴訟に移行するが、この場合は裁判上の請求(旧法149にいう訴えの提起)になる、という理解でいいのか?
また、支払督促の終了とは債権者の申し立て手続きが終了したことを言うのか、それとも債務者の異議申立期間満了を言うのだろうか?
こういう短答の問題が出た場合どう答えればいいのか。これまでの判例で似たような事例があればそれを参考にするしかないだろうがそこまで解説されている参考書の類は持っていないのだが。
時効の中断制度と猶予更新制度はまったく違う制度
S43-53 肢4 訴えの提起中は時効は進行しないが、これは時効の停止とは言わない
正解は〇のようだが、旧法下では訴えの提起は時効の中断事由であり、この場合時効が訴え提起時に時効が中断している。そして確定判決によって時効がゼロか再進行するので訴訟継続中は結果として時効は進行しないが、これを時効の停止とは言わないだろう。
問題は改正法下である。
改正法下では訴えの提起は当該行為が終了まで時効が完成しないと規定するので、字義通りに読むと訴えの提起中も時効は進行することになる。
しかし、旧法下と同じような考え方をすると、訴えの提起時点で時効完成猶予効果が発生するとも考えられる。つまり時効期間のカウントをどうするかについてはこの条文だけからは判断できない。
旧法でいう時効の中断が更新に変わったという解説ではこの時効についての様々な疑問点は永久に噴出し続けるが、まったく別の制度であると理解すると話は早い。
猶予とは
訴訟提起といった権利行使だけでは時効進行に対して何らの効果も生じないが、
その手続き中に時効期間が経過しても時効の完成が猶予される 完成猶予制度147① 新債権法の論点と解釈P59
これまでの制度だと権利行使があった時点で一旦時効をゼロにしてストップさせるが、それは実は暫定的なもので権利確定して新たにゼロから時効が再進行する。
従って、権利行使時点でゼロになっても訴えが取り下げられると時効の中断はなかったものとして扱われる。
言わば確定判決がない、ということが時効の中断の解除条件のようになっていて複雑な制度となっている。
改正法では、よりシンプルに、権利行使ではなく権利確定時点で時効をゼロリセットしカウント開始するようにし、確定時点までは時効が完成しないようにして権利行使者を保護している。
従って、権利行使時点は時効完成猶予が開始される起算点にすぎない。
このようにみてくると、旧法で言う時効の中断は単純にゼロリセットするものではなく、時効のカウントを一旦ストップさせる効力もあったことがわかる(停止という言葉を使うと混乱するのでストップ)。
そして時効の停止は停止ではなく、猶予のことを言っている。
民法が難しいのではなく、条文の表現や、あるいは法自体のロジックに欠点がありまくるため、学習者を混乱させ、また、教える方も実は本当に理解せずに教えている人もちらほらいる。そのため難しく感じさせているのではないか。などと短答常連落ちは責任転嫁しておきます(笑)
148 強制執行担保権実行
原則 時効期間が到来しても当該行為が終了するまでは完成しない 当該行為が終了したらその時点からゼロリセット
※取下げや取消による終了は終了時から6か月は完成しない
・強制執行
・担保権実行
・競売
・財産開示手続き
H22〔第6問〕(配点:2)
消滅時効の中断に関する次のアからエまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているもの
を組み合わせたものは,後記1から6までのうちどれか。(解答欄は,[№6])
ア.AがBに対して有する債権をCが連帯保証し,Cに対するAの連帯保証債権を担保するた
め,Dが物上保証人になった場合において,AがDに対して担保不動産競売を申し立て,その
手続が進行することは,Bの主債務の消滅時効の中断事由に該当する。
イ.物上保証人に対する担保不動産競売の申立てにより,執行裁判所が競売開始決定をし,これ
が債務者に送達された場合には,債権者の債務者に対する被担保債権について消滅時効は中断
する。
ウ.強制競売の手続において執行力のある債務名義の正本を有する債権者がする配当要求は,差
押えに準ずるものとして,配当要求に係る債権につき時効中断の効力を生ずる。
エ.強制競売の手続において催告を受けた抵当権者がする債権の届出は,破産手続参加に準ずる
ものとして,その届出に係る債権につき時効中断の効力を生ずる。
1.ア イ 2.ア ウ 3.ア エ 4.イ ウ 5.イ エ 6.ウ エ
連帯保証債務の物上保証 の競売申し立て 主債務の時効に影響なし
物上保証(主債務)に対する競売申し立て 主債務の時効完成猶予
配当要求 時効の完成猶予
債権の届け出 影響なし
猶予更新グループまとめ
当該行為があった時点で時効の進行がとまるわけではない
当該行為時点は時効期間が満了しているかしていないかの分水嶺
当該行為があると時効完成が猶予されると考えるのではなく、当該行為があった後に時効期間が満了しても完成しない
当該行為があった後に通常あるであろう行為があればゼロリセットされるのが基本※強制執行等の場合は基本的にその行為の後に訴訟が予定されていない
ゼロリセットされない場合は当該行為終了時点から6か月は完成しない
ゼロリセットされる事象が確定判決の場合と当該行為の終了という違いがある
6か月プラスされる事象が確定判決のない場合と取下げ取消という違いがある
〇猶予グループ
〇ゼロリセットされない
149 仮差押え 終了+6か月 仮差押えがあった以降で時効期間満了を迎える場合でも終了時点から6か月間時効は完成しない
・仮差押え 仮処分
150 催告 催告時+6か月 ※催告は準法律行為だとされる 法律行為とは 催告したから必ず弁済されるわけではなく別の法律効果が発生する
物上保証人に対する競売申立ては当該保証が主債務を保証するものであれば中断効が生じ、連帯保証債務を保証するものであれば中断効が生じない
裁判上留置権の抗弁を提出 → 催告にあたる 訴訟継続中および訴訟終結後6か月は中断するS38.10.30としているから改正後も同様の扱いか
151 協議 合意時+1年 協議期間 拒絶通知+6か月 のいずれか早い期間
※催告による猶予期間中、協議による猶予期間中に催告および協議のダブルでの猶予期間はない
〇更新
152 承認 ゼロリセット
承認にあたるとされる事例
代理人への承認
弁済猶予の懇請
延期証の差し入れ
担保の供与
利息の支払い
債務弁済の委任
債権申出の催告
代金減額の交渉
代金の一部支払い 全部承認に該当
可分債務についての一部弁済 一部承認
権利行使に異議を述べなかった 該当せず
承認の前提とした法律行為が撤回されても承認による中断効は消滅しない 相殺主張に対し受働債権の承認後、相殺が撤回された場合でも承認の効果は消滅しない
債権譲渡そのものは時効の障害事由ではないが、債権譲渡に対する承諾は承認にあたるようだ H27-6肢2
処分権限は不要なので被保佐人でも承認の効果はある
時効の利益を受ける者によってなす
連帯債務における時効の承認
旧法下では連帯債務では時効は絶対的効力があったはずだが、確か承認の場合は相対効だったよな、ん?なぜだ?
旧法下においては時効完成も絶対的効力があると規定されていたが、改正法では削除されている
この点旧法下において承認による時効の中断は相対的効力しかない
なぜ相対効なのかと言えば、旧440に相対効が原則として規定されているからであるが、
絶対的効力があるのは時効の完成であって時効の中断ではない
つまり、なぜ混乱していたのかと言えば時効の完成と時効の中断をいっしょくたにしていたからである(笑)
これが短答常連落ちの悲しい性
短答のミスリード 承認しても放棄しても援用権があるとは?
S57-35 甲乙が2000万円の連帯債務を負っている場合
肢3 消滅時効の完成直前に甲がその債務を承認したため、乙についてのみ消滅時効が完成した場合においては、乙がその時効の利益を放棄したときでも、甲は、1000万円の限度でその債務を免れることができる。
解説では、連帯債務者の1人について消滅時効が完成した場合、その時効について他の連帯債務者も援用件を有する、とある
まず、改正においては時効の完成の絶対効は削除されたので、債務者の1人に時効が完成しても他の債務者には影響がない。
影響がないとは、要するに時効完成した債務者と債権者の間では債務は消滅するが、依然として債務総額を残りの債務者は弁済しなければならない。そして弁済した場合は時効完成した債務者に求償する、ということのようである。
この問題は旧法下なので時効の完成は絶対効である。そしてその時効利益を放棄しているので依然として債務が残っている。
時効が完成していれば債務総額が1000万円になるので甲にも利益がある。とは言えいずれにしろ甲の負担部分は1000万円であるから時効が完成しようがしまいが最終的には関係ないが、どうやら甲にも利益があるとして時効の援用ができるようである。
承認した債務は他債務者の分まで含んでいないのか
問題は本人が放棄したものを他人が援用できるのか?という点であるが、試験的にはできるようだ。
また、この問題がいやらしいのは甲は自分の債務は承認している点である。一旦承認した場合は爾後援用はできないとするのが判例であるが、この問題は他債務者の時効になる。
もっとも、さらに突き詰めて考えると、債務総額2000万が消滅時効にかかる直前に「甲がその債務を承認した」となっており、その債務についての言及がない。この場合その承認は債務全額に及ぶのではないか?承認が相対効ということと、その承認が債務全額に及ぶかどうかは別問題である。
いずれにせよ承認は相対効なので他債務者には関係がない。甲と債権者の間だけの話だが債務総額なのか自分の債務だけなのかは違いがあるはずだ。
さて、一旦債務を承認したりした場合は信義則上その後時効の援用は許されないとするならば仮に債務総額について承認したのならば自己の負担部分以外の乙の負担部分についても援用はできないのではないか?
とも言えるが、正解は肢3は正しいそうである(笑) 承認は相対効だから自己の負担分しか承認できない、ということなのかもしれないし、肢自体に乙の時効が完成した、とあるのでそれを前提として考えなければいけないのだろう。しかし、その前提が間違いなのかもしれないわけで、問題ってそういうもんでしょう?
とは言え、ミスリードしたのはそういうところではなく、「甲が承認したため乙の時効が完成した」と読んでしまい、承認は相対効なのにそんなことあるのか?と解釈判断してしまったのだが(笑)
147と148は同じ条文構造で、1項で猶予2項で更新を定める。
つまり猶予と更新で別の事象を定めているのではなく、ある事象が猶予にあたる場合と更新になる場合を定めている
当初の記事で書いていた以下の項目だてはミスリードを誘ってしまう
猶予
A 一定の事由が存在し続ける間進行ストップ → 存在しなくなると再進行
B 一定の事由があるとそこから6か月ストップ → 6か月経過すると再進行
更新
C 一定の事由があると新たにゼロから進行
猶予と更新の合わせ技 147① A 請求、督促、和解、破産 ②判決等で確定したときはAが終了したときから進行
※判決などで確定しなかった場合はA終了時から6か月進行ストップ
148① A 強制執行、担保実行、競売 ②A終了で
B 149 仮差押え 仮処分 150 催告
C 152 承認
裁判上の請求を行うと時効の進行はストップし、確定判決でリセットされる。しかし、判決がでずに終了(取下げなど)すればその終了時点から6か月間は時効の進行がストップする(1項括弧書き)。
さて、時効の進行がストップする起点は裁判上の請求をした時になろう。そしてその請求がなくなる、要は裁判が終了するまでの間は時効の進行はストップしていることになり、判決がでればゼロから時効が再進行する。
ここで疑問なのは判決前に訴えが取り下げられた場合などは、
1.裁判上の請求時点から時効がストップし、かつ取下げ時点から6か月停止されるのか?それとも
2.単に訴え取り下げ時点から6か月停止のみになるのか?
仮に取下げ時点を猶予の起算点とすると、訴えから数年たって取下げる場合などは時効がかなり進行し、下手すると時効完成しているかもしれないので、普通に考えると2ということになるだろう。旧民法でも時効の条文のつくりは批判が多かったが改正民法もできが悪い(笑)
判例のロジックを条文化したと思われるが、なんともわかりにくい。
まず、猶予とは何ぞやという話で猶予の定義についての規定はなく、ある事象が終了するまでの間は時効が完成しないとだけ書いてある。時効が進行しないとは書かれていないので捉え方によっては進行はするが、完成はしないという表現もありうる。そうすると猶予期間によっては時効が再進行を始めて1日で時効が完成することもある。
猶予が一時停止というならばその起算点と終了点を明確にしておくべきである。
①確定判決がない場合は当該事象の終了時点から6か月は時効が完成しない
②確定判決時で更新
請求時点で時効の進行がストップするが、一旦ストップしたものがいつまでストップし続けるかという規定をベースにして、①は確定判決がない場合に6か月の猶予期間の起算点を規定している。しかしこの規定うぶりだと一旦ストップしたものはどうなるのかはわからない。一旦ストップしたものはないものとして扱うと言う解釈もあり得る。
※151協議
以下のいずれか早いほうの間は完成猶予
協議による合意時から1年
協議期間中(1年未満)
協議続行拒絶通知から6か月
②協議猶予中の再合意は合計5年
③催告による猶予中の協議合意によっては猶予しない。協議合意猶予中の催告猶予も猶予しない。
旧法時効概観
中断事由として請求、支払特則、和解、調停、破産、差押え、仮差押え、仮処分を列挙し、中断しない場合を規定。
催告も中断事由だが6か月以内に請求など一定の事由がないと中断しないという規定。
一旦中断するということは、時効があらたにカウントされている。
一旦時効が新たに進行しているものを一定の事由があると中断しないとしているので元の時効が進行を始めるので、結果的に猶予と同じ構造になっている。
消滅時効の起算点についてのミスリードに注意
旧166 権利を行使できる時から起算 10年
改166 追加 権利を行使できることを知った時から起算 5年 ※債権
※権利を行使できる時から消滅時効は進行する。この点につき変更はなく、知った時から5年という短期消滅時効が追加されている事に注意。
権利を行使できることを知った時から消滅時効が進行するのではなく、これまでと同様権利を行使できる時から時効は進行する。
権利を行使できることを知った時とは
通常確定期限付き債権などは契約する時に期限は分かる(契約成立すると権利発生し権利発生時に権利が行使できるときを知る)ので主観的起算点と客観的起算点が一致するという説明がなされる。
権利行使できることを知っていても権利行使できる時まで時効は進行しない?
勿論、期限が到来してから時効は進行するので、契約時に権利行使できることを知ったとしても結局期限到来時から進行することになるので早いほうの5年で時効になる。
そのように考えなければ、契約成立時から消滅時効が進行することになってしまう。
しかし、このように考えると不確定期限について少々疑問となる。
不確定期限の場合は期限が到来するのが未定ではあるが、上の理屈からは契約時に期限が到来すれば権利行使できるということを知ることになる。もっとも不確定期限なので権利はまだ発生していないとも言えるが、権利行使ができるのは期限が到来した時点であることは少なくとも分かっている。
そうすると、仮に不確定期限が到来した時に債権者が現実にそれを知らなくても主観的な消滅時効もそこから進行することになる。
この時、後に実際に期限が到来したと現実に知ったとしても上の理屈だと既に知っているので消滅時効の起算点は期限到来時からになるので主観的起算点と客観的起算点は変わらない。
また、解除権の消滅時効は債務不履行時とされるが、契約をした時点で解除権の権利行使できるのは債務不履行時であると分かるので(契約書に記載する)、債権者が現実に債務不履行を知らなくても債務不履行が発生した時点で権利行使はできるので消滅時効は進行することになる。この場合も不確定期限と同じようになってしまい、わざわざ改正した意味がなくなる。
従って、権利を行使できることを知った、とは現実に権利行使できる状態になったという事を知った時点としたほうがよいのではないか。
期限が9月末日という確定期限であれば、契約成立時ではなく、9月末日であるという事を知った時点であり、通常は9月末日になれば分かるだろうからその日がいずれの消滅時効の起算点となる点は変わらない。
他方、9月末日ということがわからなかった場合(例えば事故にあい意識不明で入院していた)は短期消滅時効の起算点はまだ到来していないこととなる。
権利行使できることを知ったとは、期限が到来したなど現実に権利行使できる状態になった事を知った時である、としたほうがしっくりくるのだが?
この点今後の短答式などでどのような問題が出され、どのような帰結になるのか注視。
権利が行使できる時と権利行使ができることを知った時の起算点は同じなのか?
H19〔第6問〕(配点:2)
消滅時効に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているものを組み
合わせたものは,後記1から5までのうちどれか (解答欄は ) 。 ,[№6]
ア. 確定期限の定めのある債権の消滅時効は,その期限が到来した時から進行する。
イ. 不確定期限の定めのある債権の消滅時効は,債務者が期限の到来を知った時から進行する。
ウ. 債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効は,本来の債務の履行を請求することができる
時から進行する。
エ. 割賦払債務について,債務者が割賦金の支払を怠ったときは債権者の請求により直ちに残債
務全額を弁済すべき旨の約定がある場合には,債務者が割賦金の支払を怠った時から,残債務
全額についての消滅時効が進行する。
オ. 留置権者が留置物の占有を継続している間であっても,その被担保債権についての消滅時効
は進行する。
1. ア イ 2. ア オ 3. イ エ 4. ウ エ 5. ウ オ
改正法に従うと肢のアは〇か×か。旧法では確実に〇であることは分かる。改正法に従っても司法試験・予備試験 体系別短答式過去問集 (2) 民法(1) 2020年P196によれば〇だそうである。
理由は「権利行使できる時から10年という期間よりも短い時効期間も規定されているが、権利を行使する事ができる時には時効の進行が始まるのであって、権利を行使することができることを知った時まで時効の進行が始まらないわけではない」からだという。
この見解だと、権利行使できる前に権利行使できることを知ることがある事を前提としており、この場合は権利行使ができる時まで時効は進行せず、かつ時効の進行はそこから始まるということになる(時効の起算点自体知った時ではなく期限到来時)。結局一般的に言われているロジックと同じようである。
※追記
改めて解説を読んでもなんだか腑に落ちない。なぜか。
権利が行使できるときに時効の進行が始まる、というのは確かにそうである。
権利を行使できることを知った時まで時効の進行が始まらないわけではない、というロジックがおかしいのだ。
そうではなく、肢はたんに権利行使ができる時から時効の進行が始まると言っているに過ぎない。これ自体は〇で間違いない。仮にこの肢が権利行使ができる時のみとなっているといささか微妙なのである。
解説の見解だと権利行使ができる時から時効の進行が始まるのみならず、権利行使ができることを知った時から5年という1項の場合も同じ起算点という意味に捉えられるからである。
1項と2項は時効の起算点そのものが違うのであって解説の見解はそれを同列に論じるものだからである。
従って肢アは改正法においても〇になることに違いはないが解説のロジックがおかしいのである。
権利行使可能でなければ時効自体起算されないのは間違いない。その上で権利行使可能を知った場合はそこから5年の短期消滅時効が規定されている。
確かに解説の言うように権利を行使できることを知った時まで時効の進行が始まらないわけではないが、それだけで終わってしまうと説明不足になる。
旧法下では〇で問題ないが、改正法になると短期消滅時効が規定されたため〇と言えるのかと言う話で、端的に言えば「期限到来時からのみ進行」とでもなっていれば×だろう。ただそういう話なのである。新設された短期消滅時効を考慮して解説しようとし、余計なロジックが現れたものと言えるだろう。
肢は「確定期限の定めのある債権の消滅時効は,その期限が到来した時から進行する」であるが、これを仮に×だと判断したとする。
解説はそれを
権利を行使することができることを知った時まで時効の進行が始まらない(わけではない)という理由で×だと判断したと解説者は思っているようである。
また、この短期消滅時効は独立別個の起算点ではないのか?解説の見解だと権利行使可能という前提状況があってこその短期消滅時効のように見えるというよりまるで同じ起算点かの如く読める。
しかし、そもそも、短期消滅時効は「権利行使可能を知った」と規定されているため権利行使可能でなければ「権利行使可能を知った」とは言えないはずである。別に権利行使可能時点と同じ起算点にする必要性はないし、もしも同じ起算点にしてしまうと短期5年を設定している意味がなくなる。違う起算点であるからこそ短期の意味があると言える。
逆に、権利行使ができると知らなくても時効は進行するのであって、もし時効が進行し始めて1年後に権利行使可能であると知ったらそこから5年で短期消滅時効が完成すると考えると、肢の問いの建てた方だと期限到来時から進行するとだけ言っているから改正法では間違いではないか?という疑問がわくという話である。
https://www.businesslawyers.jp/practices/1185
まとめ
そうするといずれにしても、権利行使できる時から消滅時効は起算されることになり、権利行使ができることを知ったときが別個に起算される場面はかなり限定的で、かつ、必ず期限到来より後になることになる。
※追記 期限の定めのない消費貸借
第五百九十一条 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる
いつでも返還を請求できるが相当の期間を定めなければいけない。そうなると時効の起算点としては債権成立時ではなく、相当期間経過後からなのか?どうやらそれでよさそうだ。
期限の定めのない債権は、いつ時効期間が経過するのでしょうか。
上記の考え方だと-相当期間経過後に権利行使可能となると考えているのと同じことであるが、法の規定の仕方からいって少々疑問となる。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
各債権の起算点比較
確定期限付き債権 期限到来 (知った時)
不確定期限付き債権 期限到来 知った時
期限の定めのない債権 債権成立時 (知った時)
債務不履行による損害賠償 本来の債権の履行を請求できる時 (知った時)
不法行為に基づく損害賠償 損害及び加害者を知った時
解除権 債務不履行の時 ※債務不履行を知った時?
H26〔第6問〕(配点:2)
消滅時効の起算点に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを
組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№6])
ア.不確定期限の定めのある債権の消滅時効は,債権者が期限の到来を知った時から進行する。
イ.契約解除に基づく原状回復義務が履行不能になった場合において,その履行不能による損害
賠償請求権の消滅時効は,原状回復義務が履行不能になった時から進行する。
ウ.無断転貸を理由とする土地賃貸借契約の解除権の消滅時効は,転借人が転貸借契約に基づい
て当該土地の使用収益を開始した時から進行する。
エ.安全配慮義務違反による損害賠償請求権の消滅時効は,損害が発生した時から進行する。
オ.10回に分割して弁済する旨の約定がある場合において,債務者が1回でも弁済を怠ったと
きは債権者の請求により直ちに残債務全額を弁済すべきものとする約定があるときには,残債
権全額の消滅時効は,債務者が弁済を怠った時から進行する。
1.ア イ 2.ア オ 3.イ エ 4.ウ エ 5.ウ オ
肢イ
損害賠償請求権の消滅時効の起算点は本来の債務の履行を請求できるときと判例は言う
履行不能による損害賠償なので履行不能になったとき、と考えると
履行不能になったときに原状回復が請求できるようになるわけではない
履行不能になったことによる損害賠償請求権の本来の債権とは原状回復請求権となろう
そうすると、原状回復ができなくなった事による損害賠償請求権の時効の起算点は原状回復請求ができるようになったとき、となる
原状回復請求ができるようになるとき、というのは結局契約が解除されたとき、となる
問題文には原状回復義務が履行不能になったとき、となっているのでこの肢は間違い、ということなのだろう。
判例があるかもしれないが、ロジックで解くことはできそうだ
勿論短答常連落ちは間違ったが(笑)
H25 〔第6問〕(配点:2)
消滅時効に関する次のアからエまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わ
せたものは,後記1から6までのうちどれか。(解答欄は,[№6])
ア.他人の代理人として契約をした者が無権代理人であり,かつ,本人の追認を得ることができ
なかった場合において,相手方の選択により無権代理人として履行に代わる損害賠償義務を負
うときは,当該損害賠償義務は不法行為による損害賠償責任であるから,無権代理行為の時か
ら3年の時効消滅にかかる。
イ.債務者が消滅時効の完成後に債権者に対して債務を承認した場合において,その後さらに消
滅時効の期間が経過したときは,債務者は,その完成した消滅時効を援用することができる。
ウ.特定物売買の目的物に隠れた瑕疵があった場合に,買主が売主に対して有する損害賠償請求
権は,買主が瑕疵の存在に気付かなくても,目的物が買主に引き渡された時から10年の時効
消滅にかかる。
エ.不法行為に基づく損害賠償請求権の存在が訴訟上の和解によって確定され,その弁済期が和
解の時から1年後とされた場合であっても,その請求権は,その和解が調書に記載された時か
ら10年の時効消滅にかかる。
1.ア イ 2.ア ウ 3.ア エ 4.イ ウ 5.イ エ 6.ウ エ
肢ア
無権代理人に対する損害賠償債権は特別な無過失責任だとして不法行為でも債務不履行でもないようだ 体系別過去問集P202
引用判例によれば無過失責任ということだけで時効がどうなるかについては述べていない。
肢は×なので不法行為における時効が適用されないのは分かるが、債務不履行による損害賠償請求権においての時効が適用されるとも適用されないとも言っていないのではっきりしたことは言えないが、仮に債務不履行による損害賠償請求権と同じロジックだとすると時効の起算点は本来の債権の履行が請求できるとき、この場合であれば代理行為が完了したときなのか?代理行為を行うという本来の債務の履行を請求できるだとすれば代理行為が完了したときではなく当該契約が成立した後、要するに代理行為を依頼したときとなりそうである。
仮に3日後に代理行為を行う契約であれば契約成立後3日経過で時効のカウントが開始するということでよさそうだ
不法行為、生命身体の侵害
不法行為 主観 3年 客観 20年
不法行為に限らず生命、身体の侵害 主観5年 客観20年
つまり不法行為によって生命や身体の侵害の結果が生じれば、時効期間が5年に伸びたことになる
出世払いは不確定期限と言い切れるのか?
ざっくりとしたイメージだと出世払いって条件ぽいな、と思っていたら
「出世払いとは?」【身近な法律知識6】
出世しなかったら返済しなくていいという約束ではなく,出世した時点まで,あるいは出世の見込みがなくなった時点まで,返済を猶予するという意味の約束だとした
条件は効力の発生消滅、期限はいつ?
出世払いは不確定期限というのが判例だという、事は実は知っていたがどうも腑に落ちませんね。
なぜかというと、条件と期限の一般的な説明をミスリードしていたからです。
条件の説明でよくあるのは、将来不確定な事実にかかる、というフレーズ。また、期限の説明には到来するのが確実な、というフレーズ。
「明年1月1日から賃貸すると約した場合のように法律行為の効力そおものに関する始期を定めることも契約自由の原則からみてもとより有効としなければならない。この場合の始期は、まさに停止条件に対応する。」基本法コンメンタール民法総則P213
この場合1月1日は地球が滅亡しない限りは確実に到来するので期限という事になりそうですが、その期限到来時から賃貸を開始するので停止条件だと言われるともうわけわかめですね。ただ、これは始期の期限は停止条件に対応すると言っているだけで停止条件だとは言っていませんね。
期限とは
期限に関しての条文
(期限の到来の効果)
第百三十五条 法律行為に始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない。
2 法律行為に終期を付したときは、その法律行為の効力は、期限が到来した時に消滅する。
始期というのは要するに期限が到来したら法律行為を行うということですね。期限が到来するのは確実であり、法律行為の発生がそれにかかっていればまるで停止条件じゃん、ということが書かれていたわけですね(笑)
135①は期限が到来するまで請求できないと規定。これは始期と呼ばれるもののようです。
135②は終期で、期限がくるとその効力が消滅するということで、まるで解除条件のような規定ぶりであることに改めて気づきました(初めてとも言う)。
「期限は始期と終期、確定期限と不確定期限にわけられる。」基本法コンメンタール民法総則P213 初めて知る(笑)
条件とは
条件についての規定
(条件が成就した場合の効果)
第百二十七条 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。
2 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。
3 当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。
条件が成就した時
期限が到来
これらを入れ替えても成立しそうで、そうなるとやはり条件と期限の区別は、到来するかしないか分からないものが条件で、到来することが確実なものは期限でよさそうだ。
もっと言うと、到来しないかもしれないものは条件であって、期限ではない。
そこで出世払いを考えると、例えば食事代を払った場合に出世払いでいいよ、という場合、出世したら返してくれ、あるいは奢って返せ、という事になる。問題は出世しなかった場合だが、判例によれば出世しなくても返す必要があるということになるが、ほとんどの人は出世しなかったらではなく、出世したら返せという趣旨で出世しなかった場合は返す必要はないという事を含んでいると思う。
この場合、むしろ食事代は奢った、贈与したことになり、出世したら奢れよ、あるいは金をくれと言う意味でお金を返せという趣旨ではないと考えるほうが自然だと思う。
そうすると、出世したら食事を奢るという停止条件と考えたほうが良さそうである。
そして、過去問をチェックしていたらS62-32にそのまんまの問題が出ていた。そして華麗に間違えるのが短答落ちクオリティと言えよう(笑)
よくよくこの問題文を読んでみると、条件と期限の説明文が分かりにくいというか、そもそもそれは期限とか条件とかの定義とは言えないのではないかと疑問符がつく。
出世しなければ払わなくてよいという意味→条件 →出世すれば払う
出世するかしないかは分からないから条件だという風に読めますが、本来条件とはその条件が到来するかどうか分からないことであって、ある事柄と別の事柄のどっちが起こるか分からないことを言うのではないはずです。
出世払いにおいては出世するというのが条件なだけであって、出世しなかった場合の事は何も決めていません。いずれにせよ出世するかしないかは分からないので条件にあたるというイメージから間違うことはないと思いますが、条件の説明としては不適切だと思われます。
出世すれば払うが、それまでは支払いを先延ばししているだけで出世しないことに確定すればやはり支払う→期限
期限というのは本来必ず到来するものを言います。それがいつか分からなければ不確定期限となります。
出世すれば支払い出世しなくても支払う→どっちにしろ払う 出世するかどうかは分かりませんし、出世しないかどうかも分かりませんからやはりこれは条件になります。しかし、判例はこの理屈で期限という解釈をしていますから判例をちゃんと勉強していれば問題ないと言えるでしょう。
国語の試験ではなく法律の試験なのでそれでいいでしょう。
「成功した暁には金銭を贈与する。」これは普通に考えると条件に該当すると分かります。成功するかしないかは分からないからです。
しかし、ここで問題文のような考え方をして成功しなかったとしても贈与するとしたらどうでしょうか?或いは成功しなかった暁にはお金を返せとしたらどうでしょうか?付け加えたらダメじゃんという話ですが、出世払いにおいては判例がそういう解釈を付け加えていますし、問題文でもそういう例をあげています。
仮にそういうものを付け加えても条件になるという事でいいのか?というミスリードをしてしまうのが短答常連落ちでしょうか(笑)
この場合、金銭を現時点で贈与しているわけでもなく何か奢ったりしているわけでもないです。
単に成功したらお金をやると言っているだけなので明らかに停止条件になりますね。
そう考えると、一般的な出世払いと言われる状況ではまず何らかの金銭的提供があって、その弁済については出世するまで待ってやる、或いは出世しなければ払わなくてよい、ということになり、むしろ解除条件とも捉えることができます。
判例の言うように出世するかしないかはいずれ分かる(死ぬ時までには分かる)とするなら期限という考え方もアリ。出世していなければ支払わなくていいだけですし。
しかし、やはり出世するかしないかはいずれ分かるとしても、出世するかしないかはやはり分かりません。
到来するかしないか分からないものが条件だとすると、出世するかしないかではなく出世するという事が分からないから条件という風にしなければなりません。
出世するかしないかはいずれ分かると考えるなら、ある条件が成就するかしないかはいずれ分かるからそれは期限だと言っているようなものです。
胎児の権利能力と条件
胎児の当事者能力について
不法行為にもとづく損賠や相続、遺贈については胎児でも権利能力があるとされるが、判例は生きて生まれることを停止条件として不法行為時や相続開始時にに遡って権利能力を取得するという昭和7.10.6
単なる停止条件ではなく、条件成就すると遡って効力が発生するというなんとも都合の良い判決である。
そして、民事訴訟においては胎児でも当事者能力が認められるが、死産を解除条件とする。
いずれにしろ民法の趣旨としては胎児中であっても相続できるし遺贈を受けることもでき、不法行為を受けた場合は損賠請求権もある。まだ生まれてきていないからとしてもほぼほぼ生まれてくるのだからちょっとした時間的なズレで不利益をこうむるのは実際的ではないということだろう。
とは言え、では法定代理人が和解したりすることまでは想定していないが、提訴する場合は法定代理人等に代わって提訴させてもいいだろうということなのだろう。
代理人が代理人として個別に行動することと、提訴する場合では状況が違うということなのかもしれない。
条件が無効や無条件になる場合
無効になる場合と無条件になる場合が規定されている。
ここで無条件になるという意味でちょっと混乱(笑)
停止条件が無条件になると、要は条件がなくなりそもそも契約自体が発効することはないはずだ。
この点、131条1項には既に条件が成就している場合は無条件となると規定されている。しかし、これは結局無条件というよりも契約が既に発効しているという意味だろう。
解除条件だと条件が成就すると契約が解除されるため、既に条件が成就している場合はいきなり契約がなくなってしまう。しかし131条1項では無効と規定されている。
無効ではなく無条件としても別段不都合はないように思えるが条文に規定されているためそう解答せざるを得ない。
条文知識がそのままでている問題が平成7年にあった
従ってこの問題問題文から推測して解答すると正答にはたどり着けないだろう
不能条件
不能な条件は永久に条件成就が有り得ないから停止条件は無効である基本法コンメンタール民法総則P213
しかし、解除条件の場合は無条件で有効となる。無条件なので契約の解除条件がなくなるという意味になる。
そうすると、これは条件が成就しない場合と同じ状況である。131条2項
随意条件
随意条件で無効となるのは停止条件が債務者の意思のみに係るとき
債務者が気が向いたときにお金をやる、などという行為は本気でそれを行う意思がないから無効という説明がなされるが、それを言い出すと解除条件でも同じように考えられなくもないが、よくよく考えると例えば金銭消費貸借の解除条件を債権者の意思にかからせて、これを無効とするとその金銭消費貸借契約自体が無効となってしまうから無効とはできないし、債務者にかかる場合も同様となる。
既成条件
そもそも、無条件だと無効だとか言っているのは当該法律行為そのものの事であって、条件のことではない。
そう考えていくと、当該条件を付けること自体に不都合がある場合にわざわざ当該法律行為そのものを無効だとか無条件だとか規定する意味あいがなければわざわざ規定する意味もない。
また、停止条件の場合はまだ契約の効力は発生していないため、条件成就によって契約が発効する実益がある場合に有効とし、実益がない場合は無効としても不都合はない。
逆に無条件とするということは契約が発効するという事を意味する。この時、考え方としては無条件とせずに無効とする考え方もとりうる。
しかし、民法ではこれを無条件としている。恐らくこのロジックは単にそう規定しているだけということでよさそうだ。
他方、解除条件の場合は既に契約が発効している。従ってこれを無効にするにはそれ相応の理由と必要性がなければならない。
※解除条件付き売買契約を結ぶ場合を考えるとまだ契約自体は発効していない
解除条件で無効になるのは既に条件が成就している場合と不法条件の場合のみだが、条件成就している場合に無効とせず無条件としても特に不都合はないのではないか?
※既に条件が成就しているものを解除条件として契約を結ぶ意味はない。無条件として契約を有効とした場合は普通の契約になってしまう。確かに不都合はないが意味がない。もっとも、不能条件は無条件となる。
〇条件付き契約を考える時は、既にある契約に条件をつける場合ではなく、条件付き契約をこれから結ぼうとする場合を考える
既に条件が成就している条件を
停止条件とする契約を結ぶ意味はあるのか 既に成就しているので契約を結んだ時点で契約が発効するが問題はない → 無条件として有効にする
解除条件とする契約はどうか 既に成就しているので契約を結んだ時点で解除されてしまう → 無効
条件が成就しないと確定している条件を
停止条件とする 契約が永遠に発効しないので停止条件付契約を結ぶ意味自体がない → 無効
解除条件とする 無条件として契約を有効として存続させてもよい → 無条件
不能条件
実現不能なことを条件にした場合はどうか
停止条件 実現不能なことなので永遠に契約は発効しない → 無効
解除条件 実現不能なのでいつまでも解除されないがとくに問題ない → 無条件として有効
無効になる条件
既成条件 解除
不成就 停止
不能 停止
不法 停止解除
随意 停止条件における債務者の意思
7-29
ア 随意条件 債権者のみ 有効
イ 随意条件 債務者のみ 無効
ウ 不能条件 無効
エ 不法条件 無効
オ 不成就条件 無効
(既成条件)
第百三十一条 条件が法律行為の時に既に成就していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無条件とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無効とする。
2 条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無効とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする。
3 前二項に規定する場合において、当事者が条件が成就したこと又は成就しなかったことを知らない間は、第百二十八条及び第百二十九条の規定を準用する。
(不法条件)
第百三十二条 不法な条件を付した法律行為は、無効とする。不法な行為をしないことを条件とするものも、同様とする。
(不能条件)
第百三十三条 不能の停止条件を付した法律行為は、無効とする。
2 不能の解除条件を付した法律行為は、無条件とする。
(随意条件)
第百三十四条 停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効とする。
S37-66 S49-19 S62-32 H7-29 R1-4 H19-4 H22-5 H27-5 H24-6
条文
(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第百四十七条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)
第百四十八条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続
2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。
(仮差押え等による時効の完成猶予)
第百四十九条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
一 仮差押え
二 仮処分
(催告による時効の完成猶予)
第百五十条 催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
第百五十一条 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から一年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時
2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。
3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
4 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。
5 前項の規定は、第一項第三号の通知について準用する。
(承認による時効の更新)
第百五十二条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)
第百五十三条 第百四十七条又は第百四十八条の規定による時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
2 第百四十九条から第百五十一条までの規定による時効の完成猶予は、完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
3 前条の規定による時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
第百五十四条 第百四十八条第一項各号又は第百四十九条各号に掲げる事由に係る手続は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、第百四十八条又は第百四十九条の規定による時効の完成猶予又は更新の効力を生じない。
第百五十五条から第百五十七条まで 削除
(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予)
第百五十八条 時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
2 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。
(夫婦間の権利の時効の完成猶予)
第百五十九条 夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
(相続財産に関する時効の完成猶予)
第百六十条 相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
(天災等による時効の完成猶予)
第百六十一条 時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため第百四十七条第一項各号又は第百四十八条第一項各号に掲げる事由に係る手続を行うことができないときは、その障害が消滅した時から三箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
第三節 消滅時効
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)
第百六十七条 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「十年間」とあるのは、「二十年間」とする。
NHKの受信料と時効
NHKの受信契約をしなかったら割増金を請求することができるようになったというニュースを見て、NHKの受信料の時効ってどうなってんだと気になる。
https://www.nhk.or.jp/info/otherpress/pdf/2022/20221011_3.pdf受信規約の一部変更
NHKが起こしている裁判は契約した方だけではなく、未契約の方も起こされます。テレビ等を持っていることが何らかの形で明らかにされて訴えられた時、「時効の援用」つまり時効を使えないため、テレビ等が設置したとされた日からの受信料全額が請求されてしまいます。契約済みの方の場合、「時効の援用」をすることができますので、NHKから裁判を起こされても5年間分の請求のみに限定することができます。
例えば、テレビの設置が10年前の場合、仮に今のNHK受信料の月額1275円で計算すると、受信料額は153,000円となりますが、契約済みの方はこのうち5年間の76,500円のみの支払いで済みます。
また、未契約の方は「割増金」という金額を別途支払わなければならなくなります。この「割増金」はNHK受信規約12条に定められており、本来NHKと契約をしなければならなかった期間は、受信料の2倍の金額を支払わなければならないとされています。
未契約だと時効の援用ができない・・・・
未契約なので受信料自体を請求できないからということだと思う。そもそも未契約で裁判を起こされて強制的に契約させられた場合、いつが契約時点となり、かつ未払いの受信料はいつからのものを支払う義務があるのか?
最高裁大法廷,放送法の受信料制度を合憲と判断
受信契約成立にはあくまで双方の意思表示の合致を要し,裁判による場合は,設置者に承諾の意思表示を命じる判決が必要であるとした。この場合,受信契約は,判決の確定時に成立するが,受信料債権は,受信契約の定めによって,受信設備設置の月に遡って発生する。また,この受信料債権の時効は,受信契約成立時(判決確定時)から進行すると判示した
受信契約は判決確定時に成立する
受信料債権は受信設備設置の月から発生
そこで民法の消滅時効の条文を改めてみよう
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
いずれにせよ判決によってそこでリセットされ時効は再カウントされるが、問題はそれまでの未払い受信料である。
NHK党が言うように、仮に
受信機設置から10年で提訴した場合
契約済みであれば最初の5年分は既に時効消滅していることになるが、
未契約だと、受信料の支払い義務自体がないからNHKは受信料債権自体がないことになり提訴されても時効の援用自体できない
判決によって受信契約が結ばされるのは判決確定時だが、受信料債権は受信機設置月から発生し、判決確定時から当該債権の時効が進行することになる
また、割増金は受信規約12条2項によれば受信機設置の翌月から受信契約締結の前月までとなっている
受信機の設置の月の翌月から放送受信契約
を締結した月の前月までの期間(以下本項にお
いて「対象月」という。)について、第1条第2
項に従った契約種別の放送受信料に加え、その
2倍に相当する額である割増金を請求するこ
とができる。
そうすると、契約済の場合よりも4倍高い料金となる(笑)
従ってNHK党はきちんと契約した上で未払いを推奨しているようだ。しかし、そもそも受信機を設置した日時を特定することなんてできるのだろうか。
仮に特定しているとするならばその時点で契約を迫るはずである。仮に契約締結を申し出ていない場合、契約締結をしていたら受信料の請求もできるわけで当然NHKはそのような事は知っているはずである。
仮に受信機設置が判明したのが2020年1月1日で、実際に設置されたのが10年前だとする。
この場合、未契約者に何も言わずに10年後提訴した場合でも時効は援用できないのか。
確かに形式上契約はしておらず受信料も発生していないとはいえなんだかふに落ちない判決であることは否めない。
判決が2017年なのでまだ時効関連の改正は施行されていない時期だが、「この受信料債権の時効は,受信契約成立時(判決確定時)から進行する」としており、判決によるNHK受信契約締結の場合の受信料債権はいずれにしても判決確定時から消滅時効を起算するということだろう。
そうすると、余計にヒラメ裁判官ばかりのように思えてならない。
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