不当利得とは

不当利得と即時取得
平成21年の民法論文で即時取得したと思われる物の使用利益の返還請求の問題が出ていた。
不当利得は法律上の原因がない場合だから、即時取得したとすると法律上の原因はあるよな、だから不当利得返還請求はできない。と考えてしまうのが短答常連落ちである(勿論私の事である)
司法試験民法論文出題趣旨採点実感など
平成21年問題
不当利得返還請求においては即時取得された物についても成立する大判昭11.1.17民集15巻101頁基本法コンメンタール債権各論Ⅱ第四版P15 他方やはり即時取得は原権利者に対しては不当利得返還の義務は負わないとの記述もある基本法コンメンタール物権第三版P58※貨幣などについては不当利得返還請求は認められないようだ現金の即時取得

とは言え、即時取得にも不当利得返還義務が認められる場合は譲渡者が無資力とかの場合に限定しているようである。

いかに薄っぺらな知識だったが露呈する。

不当利得の本質 不法行為と不当利得の違い
不法行為はBがAの利益を違法に侵した場合にAの損害をBに償わせるためにAに損害賠償の請求を与える制度。
不当利得はBの利得が法律上の原因がないときその利得をAに返還させて公平を回復実現させる制度。
利得の全部を返還させるとそれがAの被った損害より大きい時はかえってAが利得することになるから、Aの損失の限度で返還させる。結果Bに余分の利得が残存することもある。 
不法行為は損害を填補させるのが目的だから不法行為者になんの利得がなくても賠償義務を負わせられる。従って故意過失などの要件が課せられている。
他方、不当利得は故意過失は不要。ただ返還すべき利得の範囲は法律上の原因のないことを知っていた場合704と知らなかった場合703で区別され、知っていた場合は利得だけではなく損害賠償責任まで負う。
基本法コンメンタール債権各論ⅡP9

これを本問についてみると、即時取得した機械の使用料を返還しなければいけないのか?
即時取得したとして考えてみると、確かに真の権利者は損害を被っていると言えるが、だとすると本来は機械そのものを返還請求できそうであるが、出題趣旨からはそうは読み取れない。
出題趣旨には他人の物の使用という表現が使われているので、もしかすると即時取得したわけではないのかもしれない。
これを非給付型と言うらしい基本法コンメンタール債権各論ⅡP18
こんなの発見

https://tatsumi.co.jp/stream/documents/090922_ninomiya5.pdf
以下抜粋
〔設問3〕
~使用利益の処理・法的構成の問題~~基本的知識
?X社がY社から使用利益を返還してもらうための法的根拠?
⑴ 不当利得返還請求権(703条)
〈要件〉① 法律上の原因がないこと
② 他人の財産又は労務によって利益を受けたこと(受益)
③ 他人に損失を与えたこと
④ 受益と損失の間に因果関係あること
〈効果〉損失者は受益者に対して,得た利益の返還を請求出来る。
⑵ 本ケースに即して考えてみると……
② Y社はPS112を使用したことで利益あり
③ X社はPS112を使用させたことで使用利益分の損失あり
④ ②と③には因果関係有り
辰已法律研究所 – 8 –
①につき,Y社は無権限者であるA社からPS112を買い受けて使用していた。
→「法律上の原因なく」といえそう
But Y社は権利者であると信じて使用していた

「善意の占有者は,占有物から生ずる果実を取得する」(189条)
Y社が,無権利であることに気付いたのは,H20.5.7に書面が到達したときから
従って,この時からの使用利益を不当利得として返還請求することが出来る。

即時取得したかどうかはスルーされている。出題趣旨でもまったく言及されていないのでそれでいいのかもしれない。
しかし、189条の善意占有の話がでてきているが善意者であっても現存利益を返還するのが703条だと思われ。
また、『いつから請求することができるか(引渡時,解除時,返還請求時,返還請求訴訟提起時が考えられる』と出題趣旨にある。確かに善意悪意を基準にすると書面到達時からは少なくとも704になりそうである。
しかし、不当利得返還請求の制度趣旨に立ち返ってみると「不当利得はBの利得が法律上の原因がないときその利得をAに返還させて公平を回復実現させる制度」なので善意であろうが悪意であろうが権利者の損失と受益者の利得があればそれを公平の観点から返還させるものなので、即時取得していない前提であれば引き渡し時(使用開始時)からの使用利益を返還させるのがスジではなかろうか。
改めて189条と190条をみてみると、なんと190条は704条の特則らしい。初めて知った。
そうすると占有物に限っては189と190条のほうが優先的に適用されるという解釈でいいのだろう。疑ってすいません(笑)
使用利益も果実に含むと考えていいらしい基本法コンメンタール物権第三版P52
とは言え、不当利得した金銭を運用して得た利益は果実と同視できないからこれを返還すべきか否かはもっぱら703による。

もっとも、即時取得したことを前提に考えると、即時取得したものに対して使用利益を払わなければいけないのであればいつまで支払わなければいけないのだろうか?
また、即時取得していないとすると、確かに悪意の占有者となりいずれにしても使用利益は支払わなければならないが、だとするとこの場合もいつまでだろうか?否、他人の物の使用という事になるから返還請求できるのでいずれ返還することになるだろう。
即時取得したものについて使用利益を支払わせるのはやはり問題だと思われ。
結局この問題は即時取得したかどうかはスルーしないと成立しない問題のようだ。

法律上の原因を欠くとは

法律上の原因を欠くとは,利得を受けた者が対価なくそれを受け,取引通念上是認できない場合をいう。https://blog.goo.ne.jp/xc_ls/c/f1021b9c6edb928f98010f0aadb0f411/1

正義公平の原理から言って帰属した利益をそのままその帰属者に残存させておくことが、不当不公平だと思われる場合と言うような場合である。基本法コンメンタール債権各論ⅡP11

つまり文字通り法律上の原因を欠くと捉えるものではなく、ケースバイケースである。と思ったが試験的には違うようである。
平成23年に不当利得の論点がある。司法試験民法論文出題趣旨採点実感をまとめて振り返って勉強する
「Bの受益とCの損失との間の因果関係については,Cの内装工事によりBの受ける利益は,本来,CA間の請負契約に基づくものであるため,請負代金債務の債務者であるAの財産に由来するものであるが,Aの無資力によりAに対する請負代金債権の全部又は一部が無価値であるときは,その限度においてBの受けた利益はCの労務に由来することとなる。Bの受益が法律上の原因を欠くことについては,AB間の賃貸借契約を全体として見たときに,Bが対価関係なしに当該利益を受けたときに限られる。賃貸借の期間中にBがAから得られる賃料総額が相場よりも7200万円少ないことなどの事情に基づいた判断が求められる」
出題趣旨にはこう書いてある。
Bの所有している建物をAに賃貸。
Aは内装工事をCに依頼。
Aは内装工事代2500万を未払い。
Bはその後建物をFに売却(1億円の時価だったものを1.6億で売却)
ちなみにBは敷金としてAから2500万を受け取っているがそれはFへ渡されてはいない。
また、BはAから賃料を一度も受け取っていない。

まず、Cに損害があるのは明らかであり、出題趣旨には2500万円とあるが、実際はCはEに4000万で丸投げ(2000万は支払い済み)である。従って本当に損害が2500万と言えるのか疑問だが。出題趣旨が2500万と言っているからそうなのだろうが、予備校などは多少は疑問に思ってもよいのではないか。憲法あたりでこういう論文の書き方するとめっちゃ怒られそうである(笑)
恐らく、直接の因果関係を考えた時の相手方との関係をベースにするということなのだろう。
そうすると、やはり直接の契約の相手方はAである。
Bに不当利得請求する事が当然のような書き方であるが、「Aの無資力によりAに対する請負代金債権の全部又は一部が無価値であるときは,その限度においてBの受けた利益はCの労務に由来することとなる」と出題趣旨にはある。
このロジックだと、Aが無資力でなければAに請求することになり、勿論それでいいわけだが、無資力だからBが利益を得たわけではないはずである。Bの建物の価値の増加とAの資力の有無はなんの関係もない。
また、「Bの受益が法律上の原因を欠くことについては,AB間の賃貸借契約を全体として見たときに,Bが対価関係なしに当該利益を受けたときに限られる。」とある。
確かにBの受益が不当利得請求の対象になるためには法律上の利益を欠く=対価関係にない(BがAに対価を支払っていない)ことが必要になる。
BがAに対して何らかの対価を支払っていればそれなりの利益を得ても不公平ではないが、BがAに対して何も支払っていないのに利益を得ていたら不公平だからである。
そして、Bは賃料を一切貰っていないし、また、その賃料も内装工事などをするという条件で半額の設定にしていた。
など諸々の事情を勘案しつつ請求額は決められていく。

ということで、単に不公平というだけではなく、何らかの対価を支払っていない事も必要のように思われる。

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