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刑法事例演習教材のしょっぱなは正当防衛関連の問題である。
結果が違法性阻却の判断にとって重要かという問題提起がある。
言い換えれば結果が重ければ違法性阻却には傾かないのか?ということになるが、そんな変な話はなかろう。
逆に結果が重大でなければ正当防衛に傾きがち、というのも変な話だ。
というのを文章で論理的に説明するのが論文試験なのだが(笑)やはり改めてきかれると困る(笑)
その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であつても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではないと解すべき
分かった気になっている急迫性の問題
積極的加害意思があると急迫性が否定されるという有名な論点?がある。なぜ加害意思があると急迫性が否定されるのかイマイチ腑に落ちない話。
基本書などで説明されているのを読んだときは分かったつもりになっているが、後から改めてみかえすと、なんのこっちゃとなること数回。今回もまたなんのこっちゃ状態で、要するに理解してないという事だろう。
加害意思がある場合は普通に考えると防衛の意思の要件の問題のように思える。
この点学説上も争いがあるらしいが深入りせず結論だけまとめておこう。刑法総論講義案202ページにある。
積極的加害意思があると急迫性がなくなるという意味
まとめ
積極的加害意思があると、急迫性がなくなると言っているのではなく
侵害が起きる前の段階で
「侵害を予期+加害意思」=急迫性がない
侵害を予期していない場合は防衛の意思の問題となる
侵害の急迫性の司法試験委員会の捉え方
H24予備〔第2問〕(配点:2)
正当防衛に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているも
のはどれか (解答欄は 。 ,[№2 )]
1.刑法第36条にいう「急迫」とは,法益が侵害される危険が切迫していることをいい,被害
の現在性を意味するものではない。
2.刑法第36条にいう「不正」とは,違法であることを意味し,侵害が全体としての法秩序に
反することをいう。
3.刑法第36条にいう「権利」は個人的法益を指し,国家的法益や社会的法益は含まれない。
4.侵害者に対する攻撃的な意思を有していたとしても,防衛の意思が認められる場合がある。
5.けんか闘争において正当防衛が成立するかどうかを判断するに当たっては,闘争行為中の瞬
間的な部分の攻防の態様のみに着眼するのではなく,けんか闘争を全般的に観察することが必
要である。
正解は3と明白だが、肢1は明らかに不適切だろう。読み方というか普通に読むと現在性を意味しないとすれば現に法益侵害が行われている最牛には反撃行為が正当防衛に該当しないとなってしまいかねない。
普通に考えるとそんなことは有り得ないから迷ったりはしないだろうが。ただ、更に深読みすると「被害の現在性」とあるので被害が現に生じている必要はないと捉えると確かに正しい肢となる。いずれにせよ不適切な肢と言えよう。こういう言葉遊び的な事を短答ではよくやるのが司法試験委員会である。
予備校の解説に依存してしまう危険性
平成元年 〔第15問〕(配点:3)
正当防衛に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものを
2個選びなさい。(解答欄は,[№25],[№26]順不同)
1.当然又はほとんど確実に侵害が予期された場合において,単に予期された侵害を避けなかっ
たにとどまらず,その機会を利用して積極的に相手方に対し加害行為をする意思で暴行に及ん
だときは,その暴行行為については,正当防衛が成立する余地はない。
2.いわゆるけんか闘争において相手方に対してした暴行行為については,正当防衛が成立する
余地はない。
3.手拳で殴る素振りをしながら「お前殴られたいのか。」と言って近付いてきた相手方を,殺
傷能力のある刃物を構えて脅した場合,その脅迫行為については,正当防衛が成立する余地は
ない。
4.自己に対しナイフを示して脅している相手方に対し専ら攻撃の意思で暴行に及んだ場合,そ
の暴行行為については,正当防衛が成立する余地はない。
5.財産的権利を防衛するために相手方の身体に暴行を加えて傷害を負わせた場合,その暴行行
為については,正当防衛が成立する余地はない。
正解は1と4
肢4は侵害を予期したわけではなく、もっぱら攻撃の意思での暴行である。要するに侵害を予期していない場合でも攻撃の意思だけでの反撃行為に正当防衛が成立するかという話である。体系別短答式過去問集 P102の解説によれば昭和52年判例を持ち出して侵害の急迫性の要件を満たさないからだという。果たしてそういう理由なのか?
正当防衛が認められる要件③ 防衛の意思を持って行われているか
正当防衛は「攻撃の意思と防衛の意思が併存している場合は認められる」「もっぱら攻撃の意思のみで反撃している場合には認められない」というのが、判例上の通説になります。
防衛の意思の要件の存否は不正の侵害に対し現に反撃行為に及ぶ時点に問題
侵害の急迫性の要件の存否は反撃行為に及ぶ以前の段階(状況上の前提)の問題
となると、積極的加害意思とは言ってもいつの時点かで違いがでてくることになる。とは言え、そうだとするとまだ侵害行為がない段階ではいずれにしても急迫性はない。
また、侵害行為があるか目前に迫っている状態は急迫性はあるだろうが、この段階で仮に積極的加害意思ががあればそれは防衛の意思がないと判断されるだろう。
つまり、判例がいう侵害が予期される場合において積極的加害意思で侵害に臨んだ場合は急迫性の要件を満たさないというのは敢えて言うまでもないことを言っているようにも聞こえる。※誰かが襲ってくると予期していて実際に襲われた場合に反撃行為に及んだ場合、単に侵害を予期していただけでは急迫性は失われず、正当防衛は成立するが、ここに、積極的加害意思があればもはや正当防衛の要件を満たさない。要件のうちの急迫性の部分を満たさないと言っているわけである。
また、防衛の意思自体は積極的加害意思があるからと言って必ずしも否定されるとは限らない(というより否定できるものなのか?)。
勿論実際に不正の侵害がありそれに対して一見すると防衛行為を行っているように見えても元々積極的加害意思があったのだから急迫性の要件を満たさないと言っているのだろうが、余計に分かりにくくなっている。
そうすると侵害が起きる前の時点では侵害を予期しておらず、たまたま侵害に直面して反撃行為に及んだが、その時点で積極的加害意思があった場合は急迫性がないのか、それとも防衛の意思がないとするのか。言い換えると積極的加害意図は侵害の予期と同時期に生じていなければならないのか?
昭和52年判例
判決文だけからは判断できない。仮に事前に積極的加害意図があったとして、反撃行為の時点では積極的加害意図がなかったとしたらどうなるのか?
このように考えていくと急迫性というのは切羽詰まっているとかそういうことではなく、単に反撃行為と侵害行為の間に時間的距離がないかあまりないことを言うものであり、正当防衛が成立する要件のうちの状況をいっているのであろう。
侵害が予期される+積極的加害意思 = 急迫性がない
急迫性があると言えるためには少なくとも
「侵害が予期されていない+積極的加害意思がない」という状態が必要であるということになる。
侵害が予期されていることのみでは急迫性がないとは必ずしも言えない
積極的加害意思があることのみでは急迫性がないとは必ずしも言えない
急迫性という言葉だけをとらえるとなんとも変な話だが急迫性というのを日本語的感覚でとらえずに時間的な接着性と状況上の前提要件ととらえると少しは腑に落ちてくる。
また、積極的ではない加害意思だった場合どうなのか?そもそも積極的とはどういう事なのか?この問題突き詰めると結構論理的に薄弱な部分があることが分かる。
試験的に言えば、学説や判例がどう言っているのかが最低限理解出来ていることが答案上表現されていればいいと思われるので、このような部分にまで深追いするのは得策ではないだろう。
急迫性の私見 結局急迫性要件は正当防衛を成立させない場合の要件になっているようだ 正当防衛が成立しないとする場合に急迫性にはあたらないとし、その急迫性とはなんぞやという定義をケースバイケースにして幅をもたせる。
言い換えれば、反撃行為を正当化できうる状況を急迫性という言葉に仮託していると言ってよい。従って一般的な急迫性の説明である、侵害が現にあるとかまじかに迫っているなどの定義だとまったピントがズレてしまう。そもそも侵害がなければ正当防衛もなにもないので侵害があることは前提であり、侵害自体に急迫性を求めるのはおかしな話で、急迫性を求めるなら反撃行為だろう。侵害があった後に反撃行為を行うとか、侵害行為が発生していないのに反撃行為を行うとしたらそこにやはり侵害行為との時間的接着性を求めるのが自然だからである。
防衛行為の相当性 やむを得ずにした行為とは
正当防衛と緊急避難の条文には同じ「やむを得ずにした行為」が使われている。
試験にはよく正当防衛と緊急避難の異同についての問題が出されるが、つまり、本当にその違いが分かっているのか?聞かれているのだろう。
やむを得ずにした行為の意味について違うということは分かっていても、実は本当に理解していない場合がある(私のことだが(笑))
往々にして試験問題には防衛行為の相当性、避難行為の相当性という言い方がされるが、相当性そのものに違いがあるという点に注意が必要だ。
例えば、正当防衛においては必要性、相当性で足りるのに対して緊急避難においては補充性、法益権衡が要求されるとあるが、必要性、相当性がなんであるのかが理解されていなければ言葉の反復にすぎない。
正当防衛における防衛行為の相当性
1やむを得ずにした行為 ※反撃行為が侵害に対する防衛手段として必要最小限度のもの、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するもの 刑法総論講義案P204
緊急避難における避難行為の相当性
相当性が認められる為の要件
1やむを得ずにした行為(補充の原則)※必要があって他に方法がない
2避難行為によって生じた害が避難行為により避けようとした害の程度を超えなかった(法益権衡の原則)
1は行為そのものについての問題、2その結果についての問題であることが分かる
正当防衛の防衛行為はいくつかの選択肢がある中でも成立するが、緊急避難の場合は他に手段がある場合は当該行為では相当性が認められない可能性があり、かつ、仮に1が充足されても結果避難行為によって生じた害よりも大きければやはり緊急避難は認められないことになる。
正当防衛では結果が仮に避けようとした害よりも大きくても成立するということは、要するに結果は問わないということになる。
(正当防衛)
第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
(緊急避難)
第三十七条 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
2 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。
過剰防衛
正当防衛と過剰防衛の違いとは? もし刑事事件になったらどうなるの
「正当防衛と過剰防衛の区別は、「やむを得ずにした行為」といえるかどうか、すなわち、防衛行為が必要最小限度であったかどうかによって区別します。」
「(2)過剰防衛も成立しない場合
量的過剰のように、侵害行為終了後の反撃行為が一連の防衛行為であると評価できない場合には、不正の侵害が終了した後の反撃行為については、過剰防衛が適用されませんので、刑の減免を受けることができません。」
量的過剰は正当防衛にもならないし、過剰防衛にもならないということか。
ん?正当防衛の成立要件である、防衛の意思、急迫不正の侵害があったとして、防衛行為の必要性相当性の要件を充たせば正当防衛は成立するが、必要性を逸脱してしまうと過剰防衛になるのではなかろうか。
過剰防衛・緊急避難とは?正当防衛との違い
量的な過剰については、途中で急迫不正の侵害は存在しなくなっているので、これを過剰防衛として刑の減免を適用できるかどうかが問題となります。判例では、最判昭34.2.5(刑集13・1・1)が、被告人が防衛行為に出た後、既に侵害態勢が崩れて横倒しになった被害者に対して、更なる追撃行為に出た結果、被害者を死亡させた事案に関し、「被告人の本件一連の行為」が全体として過剰防衛に該当すると判断しています。
ポイントは、最初の反撃行為と、不正の侵害が終了した後の反撃行為を、全体として一体の行為と評価できるか否かです。
一体の行為と評価できれば、「全体として防衛行為ではあるが過剰なもの」として過剰防衛を適用し、刑の減免が可能となります。
過剰についての認識の有無は過剰防衛の成否に影響しないのか
最高裁判所第一小法廷昭和62年3月26日 刑集 第41巻2号182頁
この事例は急迫不正の侵害がないのでまず誤想防衛にあたる。そして防衛行為が過剰であったため過剰防衛とされている。
過剰について被告人に認識があったかどうかは定かではない。※過剰事実についての認識があったようである刑法総論講義案P272
しかし、この判決腑に落ちない。過剰防衛というのは急迫不正の侵害と防衛の意思があったうえでの判断であり、急迫不正の侵害がないのにあると思った、という点で正当防衛を一旦成立させているとみていいのだろうか?
判例スピード攻略講座
上記によれば被告人の基準で急迫不正の侵害があるとしているが、正当防衛の急迫不正の侵害は行為者本人の基準をするものなのだろうか。
判例の事案は、相手も自己防衛の為(亡くなっているので真偽は分からないが)ファイティングポーズをとっており、被告人にとっては不正の侵害にはあたらない。それを被告人は不正の侵害だと誤信したことになる。
判例には誤信と書いてあり、また誤想過剰防衛とも書かれている。過剰防衛が成立するということは防衛の意思と侵害の急迫性は認めていると言う解釈でいいはずだ。
「違法性阻却事由があると誤信した場合、反対動悸が形成できない。そこで、行為者の認識を基準にして違法背阻却事由があると認められる場合には故意は認められないというべきである。」判例スピード攻略講座
なるほど。
最高裁判例は役に立たないので原審を見よう(笑)
昭和59年11月22日 東京高等裁判所
長い事実認定。裁判官にはなりたくない(笑)
<要旨>三、 誤想防衛の成否について。要旨>
(一)、 右認定のように、本件においては急迫不正の侵害が存在したものとはいえないけれども、右の如く急迫不正の侵害があるものと誤認して防衛行為を行つた場合に、右防衛行為が相当であつたときは、いわゆる誤想防衛として事実の錯誤により故意が阻却され、犯罪は成立しないものと解するのが相当である。しかし、防衛行為が相当性を欠き、過剰にわたるものであるときは、少なくとも後記のように防衛行為の相当性を基礎づける事実につき錯誤の存しない本件の如き場合においては、事実の錯誤として故意の阻却は認められないものと解するのが相当である。
ただこの場合においては正当防衛との均衡上、過剰防衛に関する刑法三六条二項の規定に準拠して、刑の軽減又は免除をなし得るものと解するのが相当である(最高裁昭和四一年七月七日第二小法廷決定・刑集二〇巻六号五五四頁参照)。
違法性阻却事由の錯誤は事実の錯誤で故意を阻却するできまり
「急迫不正の侵害を誤信した場合は事実の錯誤により故意が阻却されて正当防衛になる」犯罪は成立しないという理解でいいようだ。
従って行為者の認識を基準にして急迫不正の侵害がある、などとすると減点を喰らいかねない。
さて、一番知りたい過剰についての認識のある場合はどういう処理をするのか?
過剰認識については過剰防衛の成否に影響なし?
急迫不正の侵害もあると誤信、防衛行為の過剰についての認識もない場合
結論からいうとトータルで誤想防衛⇒正当防衛成立 刑法総論講義案P273
急迫不正の侵害もあると誤信、防衛行為の過剰について認識がある場合
この場合トータルで故意犯成立。しかし、過剰防衛に準拠して刑を減免する。
なるほど、だから判例は過剰防衛に関する刑法三六条二項の規定に準拠して、という表現を使っていたわけである。
ところで、誤想防衛ではない普通の正当防衛の際に防衛行為が過剰だった場合も同じ処理でいいのか。
いや、それはおかしい。過剰についての認識がないからといって不可罰だと過剰防衛の意味なし(笑)
では過剰についての認識があるとどうなるのか?
仮に誤想過剰防衛について過剰の認識がある場合はトータルで故意犯にしてしまうと、本来の過剰防衛との均衡を失すると同書では言っているから、過剰についての認識がある場合に過剰防衛になるのは間違いなさそう。
しかし、過剰についての認識がない場合はどうか?質的過剰にせよ量的過剰にせよ認識がなければトータル不可罰なのか?
言い換えれば過剰防衛が成立するには過剰認識が必要なのか?
過剰防衛が成立するためには過剰の認識が必要。
過剰認識がなければトータルで不可罰。
誤想防衛についての判例と短答肢のミスリード
有名な勘違い騎士道事件 昭和62年3月26日
本件回し蹴り行為は、被告人が誤信した播磨による急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱していることが明らかであるとし、被告人の所為について傷害致死罪が成立し、いわゆる誤想過剰防衛に当たるとして刑法三六条二項により刑を減軽した原判断は、正当である
そもそも誤想防衛や過剰防衛は正当防衛ではない。誤想過剰防衛は正当防衛をベースにした犯罪ではない。
(正当防衛)
第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
36条2項では、犯罪が成立することを前提として減免できるとしているので正当防衛ではない。そして36条には誤想防衛についての規定はない。
よって誤想防衛は事実の錯誤として故意が阻却され犯罪は成立しないものの、過剰についての認識があれば結局犯罪は成立することになろう。昭和62年判例は端的に傷害致死が成立してそれを36条2項により減軽した判断が正当としているが、だとすると誤想防衛についてはどう判断したのか?過剰についてはどう判断したのか?
https://www.daylight-law.jp/criminal/boryoku/boko/qa3/によれば、「被告人の誤想防衛の主張は認めませんでしたが、誤想過剰防衛が成立するとして刑を減刑した原審(東京高裁 昭和59年11月22日)の判断を正当と判断し」、「誤想防衛の場合に、防衛行為が相当であったときは、事実の錯誤により故意が阻却されると述べていました。しかし、「防衛行為が相当性を欠いて過剰にわたり、相当性を基礎づける事実につき錯誤が認められないときは故意は阻却されないものの、刑法三六条二項に準拠して刑の軽減または免除をなしうるとの見解」
つまりこの事例の場合はそもそも誤想防衛ではなく、反撃行為が相当性を欠いた場合には刑の減免ができるとしています。そうすると、そもそも急迫不正の侵害がないのに防衛行為のつもりで反撃行為をした場合にも36条2項が適用される余地があるということになります。
短答の論理解釈
H20 〔第3問〕(配点:2)
正当防衛(刑法第36条第1項)の成立要件に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に
従って検討した場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№3])
ア. 正当防衛は,不正の侵害に対して成立するから,正当防衛行為に対する正当防衛は成立し得
ない。
イ. 正当防衛は,急迫の侵害に対して成立するから,反撃行為を行った者が侵害を予期していた
場合には正当防衛は成立し得ない。
ウ. やむを得ずにした行為として正当防衛が成立するには,防衛行為が侵害に対する防衛手段と
して相当性を有するものであることを要するから,防衛行為によって生じた害が避けようとし
た害の程度を超えた場合には正当防衛は成立し得ない。
エ. 正当防衛は,不正の侵害に対して成立するから,加害者の過失行為に対しては正当防衛は成
立し得ない。
オ. 急迫不正の侵害がないのにあると誤信して,防衛の意思で反撃行為を行った場合には正当防
衛は成立し得ない。
1. ア イ 2. ア オ 3. イ ウ 4. ウ エ 5. エ オ
肢のオで少し迷ってしまう短答落ち(笑)いわゆる誤想防衛だが、誤想防衛をよく知らないと罪にとわれない=正当防衛になって罪に問われないのか?と思ってしまう。
要するによく理解していないだけなのだが。
解説には急迫不正の侵害がないから正当防衛が成立しないとあるが、これにも違和感を持つのが短答落ち常連の脳内なのである。前述のように誤想防衛で罪に問われないのは正当防衛が成立してしまうからかもしれない、などと思ってしまうと急迫不正の侵害がなくても誤想防衛だと正当防衛が成立する、などという独自理論が成立してしまうのである。
結局単なる勉強不足理解不足なだけであり、ロジックもクソもないという(笑)
対物防衛
この点参考になるような判例はないようだ。http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~mtadaki/seminar/resume/2017/ze07k.pdf
昭和36年の短答の肢でこんなのがある。
他人がその飼い犬をけしかけ、噛みつかれそうになったので、その犬をけり殺した。
正当防衛は成立するという事のようである。司法試験短答式試験過去試験問題 刑法
これは犬そのものに対する正当防衛ではなく、犬の飼い主の不法行為に対しての正当防衛という事だろう。
対物防衛は議論の実益がないのか
平成23年予備第一問の肢2のような問題の出し方に短答落ちは注意が必要である。
2.甲は,散歩中,仲の悪かった乙から大型犬をけしかけられたので,犬から逃げようとして,
偶然その場を通り掛かった丙を突き飛ばして走り去った。甲の行為により,丙は転倒して全治
約1週間を要する足首捻挫の傷害を負った。この場合,甲には正当防衛が成立する。
昭和36年と似たような事例だが、正解は×である。
対物防衛については否定説が多いらしいが、そもそも判例がない。つまりこの肢論理問題と言える。勿論その論理には正確な知識がなければならないが。
対物防衛が認められるか認められないかだけにとらわれると問題の本質が見えない。
対物防衛が認められるか?ではなく正当防衛が認められるか?ということなので、正当防衛の要件に当てはめることが必要だ。というより法律の問題は基本そういうものだ。
構成要件に当てはめる
するとまず急迫不正の侵害はある。反撃行為が相当性を有していると言える。だから正当防衛成立じゃね?と思ってしまうのが短答に落ち続ける思考。
ここで重要なのはその反撃行為が何に向いているか?なのである。言い換えればその侵害そのものに向けられておらず、まったく関係のない第三者に向けられている場合に正当防衛が認められるか?という点に帰着する。
正当防衛は本来は犯罪となるような行為でも罪に問わないという話なので、それなりの正当化根拠が必要である。
さて、関係のない第三者を傷つけた場合にまでそのような寛大な処置は必要なのか?という話で、これは条文には明確に書かれていないが、素直に読めば防衛行為、反撃行為はその不正の侵害に対する行為なので、関係のない第三者に対して反撃(防衛)するような事まで含んでいなさそうである。
関係のない第三者は防衛行為を甘受しなければいけないのか?
第三者にしてみれば自分には何の落ち度もないのに反撃行為をくらったのに相手は正当防衛で無罪では夜も眠れない。それこそ、もっと強力な正当化根拠が必要だろう。
関係のない第三者は不正では正であり、この場合は結局緊急避難の問題となる。
そして、対物防衛とはまさにその犬などに対しての反撃行為になり、そうするとそもそも野良犬などに反撃行為をしたところで器物損壊などに問われる事はない(動物愛護法などはありうるか)。従って対物防衛を論ずる実益はほぼほぼないと思われる。もっとも動物愛護法によって動物を傷つけたとして検挙された場合に、正当防衛を主張することも考えられるが、おそらく試験的にはそういう問題は出せないはずだ。仮に出すとしたら学説問題にするだろう。
まとめ
犬に嚙まれたので犬を蹴った場合に正当防衛が成立するのはそれが飼い犬であり、飼い主に何らかの落ち度がある場合
緊急避難
昭和52-75 短答 肢2 司法試験短答式試験過去試験問題 刑法
タクシーの運転手甲は、銀行強盗の犯人乙が車で逃走するのを目撃したので乙を捕えるために追跡し、乙の車に後ろから追突させて停止させた。その際、タクシーの乗客丙に傷を負わせた。甲には緊急避難が成立する。
〇か×か?
正答は〇で緊急避難は成立するようである。ちなみに私は×にした。
理由は逃走している犯人を捕えようとする行為自体が要するに現在の危難とは言えないのではないかと思ったからである。
従って私は緊急避難に言う現在の危難をよく分かっていないと言うことになる。
現在の危難とは
「現在」とは正当防衛における「急迫」と同義であり、危難が現在し、又は間近に押し迫ったことをいう。
「危難」とは法益に対する侵害又は侵害の危険のある状態をいう。不正であることを要しないから、違法適法を問わず、動物の動作であっても、自然現象でもよい。
豪雨により稲の苗が水に沈むおそれがあったことから被告人らが排水のためやむを得ず下流の板せきを損壊した事案につき緊急避難が成立する。大判昭8.11.30刑集12.2160頁
現在の危難は急迫不正の侵害を包含する広い概念である
急迫不正の侵害も現在の危難の一種である。したがって急迫不正の侵害を受けた者が、侵害者に対し反撃行為を行えば正当防衛の成否が問題となるのに対し、第三者に対し避難行為を行った場合には緊急避難の成否が問題となる。刑法総論講義案改訂版P216
ここで気づく。緊急避難に対する大いなる勘違いを(笑)
正当防衛は不正対正
緊急避難は正対正
緊急避難は不正の侵害に対しても成立すると言う意味
として説明されることが多いので(というより必ずと言っていい)勘違いしやすい。緊急避難というのは不正の侵害に対しても成立し、その侵害あるいは危難を避けるために行った行為の相手方が正(関係のない第三者)の場合に緊急避難となり、不正の侵害者に対しては正当防衛となる。
そのように考えて初めて昭和52-75肢2は緊急避難となる。
私はそもそも危難にあたらないと考えたのでお話にならないが、例えば自分の物ではなく第三者の物を盗んだ窃盗犯人を捕まえるために暴行を働いた場合に正当防衛が認められるとして、その時に通行人を突き倒した場合に緊急避難が成立すると思われるが、この通行人自体は不正の侵害はもとより、何もしていないのに被害を被っている。
だからこそ正対正のような説明がなされるが、前述の「危難」の定義によれば法益の侵害は必要である。
相手が正であることは間違いないがこの場合相手は何もしていない。あくまで別の者の侵害行為に対しての防衛行為がたまたま第三者に及び緊急避難にあたっているだけである。
これを一般的な説明のように緊急避難は正対正と理解してしまうと、急迫不正の侵害に対して緊急避難は成立しないのではないかと勘違いしやすいのではないか(そんなの私だけですか(笑))
言い換えると、急迫不正の侵害のように侵害者に対して防衛行為を行う場合は対象が不正なので分かりやすいが、何もしていない第三者に対する緊急避難の場合は人にせよ、モノにせよ、法益侵害は対象者以外である。
この場合正当防衛の場合の不正というのは侵害者と防衛行為を行う相手が一致しているものの、緊急避難の場合は侵害と非難行為を行う相手が一致していない。にもかかわらず正当防衛と同じような表現で正対正と言い切ってしまう点に問題がある。(と、考えているのは日本中で私一人みたいだが(笑))
正対正の本来の意味
ただ、ここでまた疑問に思う。
不正ではない侵害って結局は物や自然現象だけになる。
また、不正の侵害に対しても、全く関係のない第三者に防衛行為の被害が及べばその者に対しては緊急避難になる。
仮に不正ではない侵害行為を行う者がいたとして、その者に対しての防衛行為を行った場合、これは緊急避難ということになるはずだ。そしてこの場合、一般的な説明で言えば正対正になる。しかし、不正ではない侵害を人間が行うという事が想定し辛い。
緊急避難を語る時によく引き合いに出されるのは災害などの状況下で、生き残るために他人を殺してしまうような場面。
確かにまさに正対正ではあるものの、侵害は自然状況だったりするわけで、この場合当該侵害を食い止めるわけではなく生き残るためであり、侵害を避けようとすることにあたるだろう。その時にたまたま居合わせた人を生き残るために殺してしまう。
そうだ、まさにこの場面、生き残るために殺そうとしてきた相手をまさに殺してしまうのが正対正なのだ。。
要約たどり着くこの納得感(笑)
※追記
久しぶりに正当防衛関連の短答過去問をやっていてまた同じような問題で躓く。結局何も分かっていなかった(笑)
54-66
肢1 正当防衛は「急迫不正の侵害」について許されるのにたいし、緊急避難は「現在の危難」を避けるため認められ「急迫不正の侵害」について許されないのは、前者が正対不正の関係であるのに対し、後者は正対正の関係であるからである。
正解 ×
同じような肢がまた出題されている。この頃は試験委員も結構のんびりしていたのだろうか。
60-30
肢3 緊急避難は正対正の関係であるが、正対不正の関係である正当防衛と同じく、急迫不正の侵害から身を守る場合にも許される。
正解 〇
言い回しが変わっているが言っている事は同じであるが、短答落ち常連泣かせのロジックと言っていいだろう。
正対正の関係と言い切っているのに不正に対しても成立するという言い方はいかがなものか。
正対正、あるいは正対不正という場合の対象と、急迫不正の侵害に対しても許されるという場合の対象が実は違っているから混乱するのである。
いや、敢えてそういう作りの肢にしていると言っていいだろう。敢えて特定していない、受験生なら知っていて当然だろう問題である。
こういうのに非常に弱い(笑)
要するに法曹、あるいは司法試験受験生なら常識と化している事項については細かな説明や指示限定、特定をしない。
誤解、ミスリードするほうが悪い。
従って、論文では細かな設定、資料、指示などがある。そうしなければ法律の問題など極論すれば言ったもん勝ちになって収拾がつかない。
さて、愚痴っても仕方ない(笑)
このような問題で足元をすくわれないためにはやはり原理原則をしっかりと理解しておくしかない。
「正当防衛が違法な侵害者に対し、反撃するという正対不正の関係であるのに対し、
緊急避難は、現在の危難を避けるために、元来この危難の発生原因とは無関係である第三者の法益をやむなく侵害する行為であって、」条解刑法P111
たしか、短答過去問で不正の侵害に対して正当防衛を行うと、「正」なので、関係のない第三者に対しては「正対正」になるというようなロジックがあったと思うが(これも自分解釈かもしれない)、そもそもこれが間違いで、別に正当防衛行為を行わなくても何らかの危難を避けようとしても「正」である。
昭和52年のタクシー運転手の場合は犯人を捕まえようとする行為が正当防衛行為にあたるかあたらないかはまったく関係がなく、危難を避けるためかどうかが実はキモで、危難を避けるためと認められれば緊急避難が成立するということであり、この事案の場合は緊急避難が成立するということである。
そこで、「緊急避難は不正の侵害に対しても成立する」という意味である。
素直にこの日本語を読めば不正の侵害を行っている人がいて、それを避けようとして緊急避難が成立する、と考えるはずである。そしてまさにそういうことになる(笑)
しかし、問題はその侵害を行っている本人に対してはどうかというと正当防衛が成立するかどうかであろう。
正対正のミスリードを修正 緊急避難の条文を補足して解釈する
つまり、緊急避難は要するに危難(侵害含む)を避けるためにやむをえずに『第三者に対して行った行為』は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。
ということなのである。
で、いいはずだ(笑)
正当防衛と緊急避難の違い
やむを得ずの意味の違い
第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
第三十七条 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。
正当防衛も緊急避難も同じ「やむを得ずにした行為」と規定されている。意味は違う。これが法律を余計に難しく感じさせている原因の一つだ。
緊急避難とは?緊急避難と正当防衛の違いを徹底解説!
緊急避難の場合、上記のように「補充性の要件」が必要とされていますが、正当防衛の場合は比較的緩やかに解され、具体的状況の下において、その防衛行為が侵害を排除し、又は法益を守るために必要かつ相当なものであれば足りるとされています(「相当性の要件」とも呼ばれています)
緊急避難のやむを得ずにした行為とは「その危難を避けるために必要な唯一の方法であって、他に方法がなかったこと」が必要。
「法益権衡の要件」の有無
緊急避難が成立するためには「避難行為によって侵害された法益が、避難行為によって危難から免れた法益よりも大きくなかったこと」が必要
正当防衛にはこの規定がないため、仮に反撃行為によって侵害された利益が、守ろうとした利益よりも大きかったとしても正当防衛は成立する余地がある
相棒で学ぶ刑法(笑)
緊急避難の補充性の要件からすると、タクシー運転手が強盗を捕まえるために車をぶつける、という行為はめちゃくちゃ微妙な話である。
さて、相棒20を見ていた。監禁された女性を隣人が助け出そうとし、合いカギを使って部屋に侵入。そこに都合のいいことに犯人が帰宅。犯人を殴打して女性を救出した。
しかし、救出したおばあさんは住居不法侵入及び傷害の容疑でタイーホという、最近の相棒にありがちな杉下右京の徹底した法律至上主義に面食らう(笑)
ここで疑問に思うはずである。これは正当防衛?否、緊急避難?
まず、監禁されている女性を助けるという状況は不正の侵害なのだろうか?いずれにせよ住居への不法侵入の対象はモノなのか?否、犯人のイエであるから結局は犯人の権利を対象として、結局犯人は不法の侵害を行っており、それが対象だと考える。しかし、救出しようとするおばあさんは正なのか?否、不法侵入してるんだから正ではないな、不正であってそれが正当防衛と認定された結果正だな、などとこれが短答でだされたら確実に時間不足やないかい(笑)
そもそも、不正の侵害に対しても緊急避難は成立するとか言い始めるから余計混乱するのである。
緊急避難と正当防衛のメルクマーク
要するに
当該防衛行為なり避難行為が向けられている対象が
〇侵害そのものか※侵害の元凶から直接間接に派生しているモノや権利含む
〇侵害そのものではなく他の対象か
をまず見極めなければならない。これを正対不正とか正対正などから始めてしまうと混乱してしまう。
という事で杉下右京よ、あのおばあさんは正当防衛が成立して無罪だ!(笑)