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平成20年
出題の趣旨
設問1
取締役会の承認を受けずに締結された保証契約の効力と, 甲社及び乙社の間で行われた株式交換の問題点を指摘させるもの
「多額の借財」(会社法第362条第4項第2号)に当たるものとして,それぞれの会社の取締役会の承認を受けなければならない
いずれについても,取締役会の承認を受けていないため,その効力が問題となる
様々な理論構成を用いることが考えられる
民法第93条ただし書を類推適用する判例の立場を採った場合には,取締役会の承認を受けていないことを知らなかったことについて丙銀行の側に過失がなかったかどうかという点
上記保証契約はが利益相反取引の一つである間接取引(会社法第356条第1項第3号,第365条)に当たるのではないか
この点についても取締役会の承認を受けていなかったことから,いわゆる相対的無効説によれば,丙銀行の側がその点について善意かつ無重過失であったかどうかを検討することが必要となる
乙社の株主が上記取引にかかわっているA及びBの2人だけであることから,そもそも取締役会の承認を受ける必要はなかったのではないかという点も問題となる
株式交換の問題点について
①知れている債権者に対する各別の催告(同法第799条第1項第3号及び第2項)が行われていない
②債権者(丙銀行)の異議を受けた弁済等(同条第5項)が行われていない
③株主に対して交付する株式交換の対価が不当である点
④株式交換を承認した株主総会の決議に特別の利害関係を有する者が参加していた点(同法第831条第1項第3号参照)などに問題が認められる
これらが株式交換無効の訴え(同法第828条第1項第11号)の無効原因となるかどうか
また,丙銀行に当該訴訟に関する原告適格(同条第2項第11号)があるかどうかといった点を検討する必要がある
株式交換を無効とすることができれば,株式交換の対価として不当に流出した会社財産を取り戻すことが可能となるという実益にも言及することが期待される
設問2
利益相反取引の一つである直接取引(会社法第356条第1項第2号,第365条)に当たるにもかかわらず取締役会の承認を受けていない
取引を無効とすることによって,甲社の責任財産を回復できないかが問題となる
一人会社(甲社)の株主自身(乙社)が直接取引の相手方になっている場合には,実質的な利益相反関係が認められないことから,取締役会の承認は要しないとするのが判例
この考え方で債権者(丁社)の保護を図ることができるのかという点について,悩みを見いだすことができるかどうかが肝要
乙社に対する責任追及の可能性が問題
①法人格否認の法理によりその責任を追及する見解
②事実上の取締役として対第三者責任(同法第429条第1項)を追及する見解
③株主の権利の行使に関する利益供与(同法第120条)としてその責任を追及する見解
④隠れた剰余金の配当として分配可能額を超える部分についての返還(同法第462条)を求める見解
甲社の取締役について,対第三者責任(同法第429条第1項)を追及することが考えられる
設問3
民訴
採点実感
判例があるような問題点であるにもかかわらず,判例に言及するものも少なく,丁寧さが十分とは言い難い
利益相反取引に形式的に該当するとした場合であっても,すべての株主の同意があるということになると,判例によれば取引は有効ということになりそうである(出題趣旨参照)が,本件事案のように債権者の保護が問題となる局面においても,そのような考えで本当によいのか
実務家が事案の解決に当たる場合には当然に疑問が湧いてくるであろう問題点について,気を回して悩むといったような答案が極めて少なかった
法律の規定の解釈に関する学説や判例については,短答式のための勉強などでそれ自体は知識としては有しているのであろうが,さらに,それが実務上どのような意味を有することになるのかという問題意識を持っているかどうかが,このような設問に遭遇した場合に問われることになる
設問1
「保証債務履行請求の可否」に関しては,複数ある法的な問題点のうちの一つだけを論じているというものが多い
「株式交換の問題点」に関しても,複数の問題点を論じてはいるものの,当該問題点を論ずることの意味や実益が何かということについては,何ら明らかにされておらず,単に設問自体に検討の対象が明示されているからとにかく論じただけ
間接取引に該当するか否かの判断基準をどのように考えるのか
設問2
ヒントが設問自体には明示されていなかったためか,出題趣旨で説明しているような複数の法的な問題点について幅広く論ずるという答案は極めて少なく,単一の問題点についてだけ論じている
そもそも会社法はまったく分からないと言っていい。
短答前に過去問の答えを丸暗記しているだけ。それで5割くらいとれていたりするのも問題なわけだが。
どうせ大した点数はとれないのなら発想を転換して、論文の問題で出されるような論点を中心に勉強して短答プロパーを捨てると言う暴挙に出てみようと思う(なぜ暴挙なのかと言えば論点が確実に理解出来て、かつ、短答の問題に対応できるかどうかは別問題だからである)。
さて、本問は民訴と事例が重複しているが、採点実感にもあるように問題が長すぎる。掘り下げて考察しろと言っているくせに掘り下げる時間が足りないのだ。むやみに問題を長くしているのは事例を具体的に抽出してほしいからかもしれないが無駄な記載も多い。そういうのも取捨選択しろということかもしれないが。だとするなら、この問題に対して望まれる解答を記述する場合はどれくらいの時間がかかるのかなども含めて問題を作成すべきで、後で自戒しているのはどうかと思う。
受験生は人生がかかっているのだから。
取締役に委任できない事項
「多額の借財」(会社法第362条第4項第2号)に当たるものとして,それぞれの会社の取締役会の承認を受けなければならない、と出題の趣旨にあったので改めて条文などを確認。
相変わらず会社法の条文は出来が悪い。
取締役会の承認が必要な事ってなんだっけ?と条文を探しても途方に暮れる。
なぜなら取締役会の承認が必要な事として記載されておらず、委任できない事項として記載されているからである。
従って取締役会の承認が必要ではなく、正確には取締役会で決定する、あるいは執行する事項だろう。
勿論誰かが提案してそれを取締役会で承認するという形式もあり得るが、いずれにしろ執行するのは取締役会であり、当該取締役が行うのではない(リアルな世界では社員さんとかがやるかもしれんが)。こういう事って言い出すと結構キリがないが、こういう問題の出し方を短答では結構やるのが司法試験である。
そして、ややこしいのは取締役会が存在しない会社でも取締役に委任できない事項があるという。なんとも不思議な条文がある。
(業務の執行)
第三百四十八条 取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、株式会社(取締役会設置会社を除く。以下この条において同じ。)の業務を執行する。
2 取締役が二人以上ある場合には、株式会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役の過半数をもって決定する。
3 前項の場合には、取締役は、次に掲げる事項についての決定を各取締役に委任することができない。
一 支配人の選任及び解任
二 支店の設置、移転及び廃止
三 第二百九十八条第一項各号(第三百二十五条において準用する場合を含む。)に掲げる事項
四 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
五 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除
4 大会社においては、取締役は、前項第四号に掲げる事項を決定しなければならない。
取締役が二人以上いる時は過半数で業務執行を行うから単独の取締役には委任できないということだろうか。
別に委任してもいいんじゃね(笑)と思うが、取締役が二人の時は過半数ってどうやって決めるのか?
結局全員一致なのか。会社法はかなり細かいところまで規定するくせに、抜けも多い(笑)
取締役会のある会社にくらべ、委任できない事項が少なくなっている。一体どういう違いがあるのか。
取締役会のある会社にしろない会社にしろ、複数の取締役がいる場合は協議して、特定の取締役に委任するようにしても良さそうだが。
4項は大会社でない場合は決める必要がないということでよろしいか。大会社で二人以上の取締役がいる場合は過半数で決めるということなのだろう。
いきあたりばったりの思いつきで条文つくってないか。あ、これ忘れてた、とか(笑)
こういうところが気になって会社法は勉強する気すら起きない。いやむしろ勉強するのが癪に障るレベル。
とは言え、会社法が10点くらいしかとれないのは死活問題。
取締役会の承認が必要な取引とは
取締役会の決議を得ない取引の効力の前に、そもそも取締役会の決議が必要な行為ってナンだ?
(取締役会の権限等)
第三百六十二条 取締役会は、すべての取締役で組織する。
2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一 取締役会設置会社の業務執行の決定
二 取締役の職務の執行の監督
三 代表取締役の選定及び解職
3 取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。
4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
一 重要な財産の処分及び譲受け
二 多額の借財
三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
七 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除
5 大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。
「5 大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。」
とあるが、では大会社でない場合はどうなのか。他の号は決定する必要はないのか?(笑)
このやり方、効率わるっ(笑)
会社法をどうやって勉強するか問題
取締役会の承認を得ずに行った取引行為がどうなるのか。条文にはないようだ(笑)
なぜないのか。民法改正では判例理論を取り入れたり、或いは逆に判例とは違う内容の規定を置いたりして論理的整合性や実務の実情に合わせたりしているが。
結局、会社法の本一冊読んだところでどうにもならない。
短答対策だけを考えれば肢別本あたりを何度か繰り返して暗記すれば5割はいけるだろう。
論文も視野に入れて、ほぼ知識がない状態からの効果的な勉強法は、具体的な事例を通して適宜判例や条文、基本書などで確認していくというやり方だろうか。
これは民訴や刑訴などにも言えるが、漠然と基本書や判例を読み込んでもイメージが掴みづらいためだろう。
何のためにそのような規定が置かれているか分からない。基本書などで解説されていたとしても、どうしてそういう困ったことが起こるのか、本質が分かっていない為、結果として丸暗記に。当然記憶の定着は悪くなるし、ちょっとでも角度を変えた問題が出ると、途端に混乱してしまう。
と、書いていて思う。
こりゃ会社法に限った話ではない(笑)
ということで会社法の勉強でいい基本書などはないかアマゾンで検索していたものの、どれもどうせ似たり寄ったりなので持っている本でいいだろう。
基本書というよりもレジュメのようにまとめてあるほうがよさそうだ。
こういう場合は司法書士のテキストが出来がいい。司法試験向けは難しく書きすぎである。
取締役の権限と取締役会
取締役会設置会社と非設置会社で違いがある。
取締役会のない会社
①業務の執行の決定 取締役の過半数
②業務の執行 取締役
取締役会のある会社
①業務の執行の決定 取締役会
②業務の執行 代表取締役 or 選定された取締役 363①2
ここで代表とは対外的なものであり、業務の執行は内部的なもの。
また、代表権を持つものは必ず業務執行権をもつ。司法書士スタンダードテキスト6P73
(取締役会設置会社の取締役の権限)
第三百六十三条 次に掲げる取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。
一 代表取締役
二 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの
2 前項各号に掲げる取締役は、三箇月に一回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない。
条文を見ると代表取締役か選定された取締役かどっちかだけかどっちともか分からなかったがどっちともでよいようだ。
従ってorではなくand。
なぜわざわざ代表以外という文言をいれるのか。このように書かれていると代表取締役は選定できないように読めるし、選定できないのだろう。そうするとわざわざこう規定されていると選定取締役がいる場合は代取には業務執行権がないようにも捉えられるが違うようだ。
株式会社と取締役の訴訟
監査役設置会社 監査役が会社を代表する
取締役会のない会社
株主総会で定めた代表者 ※定めていなければ代表取締役
取締役会のある会社
株主総会で定めていなければ取締役会で代表者 ※取締役会でも定めていなければ代表取締役
以下の規定は取締役会のない会社
(株式会社の代表)
第三百四十九条 取締役は、株式会社を代表する。ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。
2 前項本文の取締役が二人以上ある場合には、取締役は、各自、株式会社を代表する。
3 株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができる。
4 代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
取締役会の決議を得ない取引の効力
会社法自体には規定がないようだ。
手持ちの本で調べよう。リーガルクエスト会社法を遠い昔に買って一度通読していたようだ。色々と書き込みをしていたがまったく覚えていない(笑)
P175に該当事項があったが、いきなりこう書いてある。
「取締役会決議を必要とする取引が決議なしに行われた場合の効力はどうか。このような場合でも、株主全員の同が認められる場合ーたとえば、一人会社云々」
いやいや、まず原則どうなるかを書くべきで、初めに例外とでもいうようなことを解説されても困るのだが。
どうりでリーガルクエストが忘却の彼方に追いやられるわけだ(笑)結構評判の良い本だが。
搔い摘むと、原則有効で、相手方が決議を経ていないことを知っているか、知ることができた場合に無効とする最判昭40.9.22民集19.6.1666頁
いわゆる心裡留保説らしい。
「取締役会の承認を受けていないことを知らなかったことについて丙銀行の側に過失がなかったかどうかという点」
これ以上の題意はないようだ。
無効主張 会社のみ 最判平21.4.17民集6.4.535頁
利益相反と競業取引
利益供与
(株主等の権利の行使に関する利益の供与)
第百二十条 株式会社は、何人に対しても、株主の権利、当該株式会社に係る適格旧株主(第八百四十七条の二第九項に規定する適格旧株主をいう。)の権利又は当該株式会社の最終完全親会社等(第八百四十七条の三第一項に規定する最終完全親会社等をいう。)の株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る。以下この条において同じ。)をしてはならない。
2 株式会社が特定の株主に対して無償で財産上の利益の供与をしたときは、当該株式会社は、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしたものと推定する。株式会社が特定の株主に対して有償で財産上の利益の供与をした場合において、当該株式会社又はその子会社の受けた利益が当該財産上の利益に比して著しく少ないときも、同様とする。
3 株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与を受けた者は、これを当該株式会社又はその子会社に返還しなければならない。この場合において、当該利益の供与を受けた者は、当該株式会社又はその子会社に対して当該利益と引換えに給付をしたものがあるときは、その返還を受けることができる。
4 株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与をすることに関与した取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役を含む。以下この項において同じ。)として法務省令で定める者は、当該株式会社に対して、連帯して、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う。ただし、その者(当該利益の供与をした取締役を除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。
5 前項の義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。
供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う 120④
※供与した者は無過失責任
違法配当
違法配当した価額に相当する額を会社に支払う責任を負う 462①
利益供与にあたる行為、利益供与にあたらない行為
第三者に対する責任
第三者に対する責任としてわざわざ条文が別個になっているのは、上記のような行為の損害が第三者におよんだ場合として包括的に規定する意味だろう。
(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
第四百二十九条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
2 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
一 取締役及び執行役 次に掲げる行為
イ 株式、新株予約権、社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての虚偽の通知又は当該募集のための当該株式会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料についての虚偽の記載若しくは記録
ロ 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
ハ 虚偽の登記
ニ 虚偽の公告(第四百四十条第三項に規定する措置を含む。)
二 会計参与 計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに会計参与報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
三 監査役、監査等委員及び監査委員 監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
四 会計監査人 会計監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
悪意、重過失があれば第三者に対しても連帯して損害賠償責任を負う(429①、430)
※中間責任
言わば当たり前の事であり、わざわざ規定するまでもないような気がしないでもない(不法行為で事足りそうだ)。
と思ったの束の間
44年判決
第三者保護の立場から、取締役が悪意、重過失により、会社に対する任務を懈怠し第三者に損害を被らせたときは、当該任務懈怠行為と第三者の損害に因果関係が有る限り、間接損害、直接損害のいずれであるかを問わず、損害賠償責任を負わせたもの。最判昭44.11.26民集23.11.2150頁
という判例がある。それに過失ではなく重過失なので不法行為では荷が重すぎた。
この判旨めちゃくちゃ長いが、この責任の法的性質に関連している部分を引用抜粋してつなげてみると
取締役の対第三者責任は、補充責任、すなわち、会社の第三者に対する損害賠償義務の存在を前提とし、これに対して補充的のものであり、結局、間接損害、すなわち、会社に損害が生じ、これにより第三者が間接に損害を被つた場合に関するものであつた
現行商法二六六条ノ三第一項前段は 発起人の第三者に対する責任の規定 に倣つたものなのである
そこで、問題となるのは発起人の第三者に対する責任の規定の本質であるが 発起人の責任の規定をもつて第三者に対する不法行為上の責任を認めたものでないと断定し これに倣つたところの現行商法二六六条ノ三をもつて不法行為上の責任の規定でないと主張するものと思われる しかし 、発起人の第三者に対する責任についての判例には、取締役の第三者に対する責任に関する判例と異り、そこには、発起人の責任を以て「補充責任」としたり、あるいは「間接費任」とするものを見出し難い 却つて、判例は「この賠償責任は不法行為上の責任と同様」であるとし、この見地に立つて「被害者に過失ありたるときは、裁判所は損害賠償の額を定めるにつきこれを斟酌し得るもの」としている
このような見地に立つとき、この発起人の第三者に対する責任の規定に倣つたところの現行商法二六六条ノ三第一項前段をば、取締役の第三者に対する不法行為上の責任の規定であり、しかも取締役の責任を悪意又は重大な過失に限定したものと
解するのは、むしろ当然とさえ思われる。従つて、同条は、不法行為の一般規定である民法七〇九条に対して特別規定の関係に立ち、これと競合しない
つまり、不法行為責任ではないのではなく、不法行為責任の特別規定という理解でいいようだ。取締役の第三者に対する責任・法の趣旨・法的性質
直接・間接の両損害とも適用範囲に含める説は,同条が特別の責任を法定したと見る。最高裁大法廷判決は最後の立場をとる
悪意重過失は何についてか
すぐに考える肢でチェックすると、短答にこんな問題が出ていた。
※第三者任務懈怠についての悪意重過失を証明すればよい。リーガルクエスト会社法P229
会社法第429条第1項に基づく取締役の第三者に対する責任が発生するためには、第三者に対する加害についての悪意又は重過失が要件となる?
条文では職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときと規定されているから、職務行為についての悪意重過失であり、誰かを傷つけようとする悪意又は重過失ではない事は分かる。
※任務懈怠についての悪意重過失を第三者が証明する
しかし、この肢、普通に読むと変な日本語である。加害という意味を素直に捉えて害を加えると理解すると、悪意のない加害というものがあるのだろうか(笑)
そこで短答常連落ちは混乱する。加害って一体ナンダ?(笑)勉強した直後なのに華麗に間違える。
加害を職務と読み替えて〇にしてしまう(笑)
過失相殺は?
株式交換の無効と原告適格
株式交換の問題点について出題の趣旨に細かく記載されている。なるほど、なんだか初めて見たような気がする(笑)
条文には株式交換についての項目でまとめられているのではなく、債権者の異議と言う項目の中に紛れ込んでいるようだ。
(債権者の異議)
第七百九十九条 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、存続株式会社等に対し、吸収合併等について異議を述べることができる。
一 吸収合併をする場合 吸収合併存続株式会社の債権者
二 吸収分割をする場合 吸収分割承継株式会社の債権者
三 株式交換をする場合において、株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもののみである場合以外の場合又は第七百六十八条第一項第四号ハに規定する場合 株式交換完全親株式会社の債権者
2 前項の規定により存続株式会社等の債権者が異議を述べることができる場合には、存続株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。
一 吸収合併等をする旨
二 消滅会社等の商号及び住所
三 存続株式会社等及び消滅会社等(株式会社に限る。)の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
四 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
3 前項の規定にかかわらず、存続株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告は、することを要しない。
4 債権者が第二項第四号の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該吸収合併等について承認をしたものとみなす。
5 債権者が第二項第四号の期間内に異議を述べたときは、存続株式会社等は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該吸収合併等をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。
この中で関係のあるものは次の2点らしい。
①知れている債権者に対する各別の催告(同法第799条第1項第3号及び第2項)が行われていない
②債権者(丙銀行)の異議を受けた弁済等(同条第5項)が行われていない
こういう問題点がある場合に実際どうなるのかについての具体的規定はないらしい。
さらに、③株主に対して交付する株式交換の対価が不当である点
④株式交換を承認した株主総会の決議に特別の利害関係を有する者が参加していた点(同法第831条第1項第3号参照)などに問題が認められる
こういう問題がある場合には次の処置を行えばいいようだ。
これらが株式交換無効の訴え(同法第828条第1項第11号)の無効原因となるかどうか
また,訴えるとして
丙銀行に当該訴訟に関する原告適格(同条第2項第11号)があるかどうか
(会社の組織に関する行為の無効の訴え)
第八百二十八条 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。
一 会社の設立 会社の成立の日から二年以内
二 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から一年以内)
三 自己株式の処分 自己株式の処分の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、自己株式の処分の効力が生じた日から一年以内)
四 新株予約権(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合にあっては、当該新株予約権付社債についての社債を含む。以下この章において同じ。)の発行 新株予約権の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、新株予約権の発行の効力が生じた日から一年以内)
五 株式会社における資本金の額の減少 資本金の額の減少の効力が生じた日から六箇月以内
六 会社の組織変更 組織変更の効力が生じた日から六箇月以内
七 会社の吸収合併 吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内
八 会社の新設合併 新設合併の効力が生じた日から六箇月以内
九 会社の吸収分割 吸収分割の効力が生じた日から六箇月以内
十 会社の新設分割 新設分割の効力が生じた日から六箇月以内
十一 株式会社の株式交換 株式交換の効力が生じた日から六箇月以内
十二 株式会社の株式移転 株式移転の効力が生じた日から六箇月以内
十三 株式会社の株式交付 株式交付の効力が生じた日から六箇月以内
2 次の各号に掲げる行為の無効の訴えは、当該各号に定める者に限り、提起することができる。
一 前項第一号に掲げる行為 設立する株式会社の株主等(株主、取締役又は清算人(監査役設置会社にあっては株主、取締役、監査役又は清算人、指名委員会等設置会社にあっては株主、取締役、執行役又は清算人)をいう。以下この節において同じ。)又は設立する持分会社の社員等(社員又は清算人をいう。以下この項において同じ。)
二 前項第二号に掲げる行為 当該株式会社の株主等
三 前項第三号に掲げる行為 当該株式会社の株主等
四 前項第四号に掲げる行為 当該株式会社の株主等又は新株予約権者
五 前項第五号に掲げる行為 当該株式会社の株主等、破産管財人又は資本金の額の減少について承認をしなかった債権者
六 前項第六号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において組織変更をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は組織変更後の会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは組織変更について承認をしなかった債権者
七 前項第七号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において吸収合併をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は吸収合併後存続する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは吸収合併について承認をしなかった債権者
八 前項第八号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において新設合併をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は新設合併により設立する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは新設合併について承認をしなかった債権者
九 前項第九号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において吸収分割契約をした会社の株主等若しくは社員等であった者又は吸収分割契約をした会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは吸収分割について承認をしなかった債権者
十 前項第十号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において新設分割をする会社の株主等若しくは社員等であった者又は新設分割をする会社若しくは新設分割により設立する会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは新設分割について承認をしなかった債権者
十一 前項第十一号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において株式交換契約をした会社の株主等若しくは社員等であった者又は株式交換契約をした会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは株式交換について承認をしなかった債権者
十二 前項第十二号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において株式移転をする株式会社の株主等であった者又は株式移転により設立する株式会社の株主等、破産管財人若しくは株式移転について承認をしなかった債権者
十三 前項第十三号に掲げる行為 当該行為の効力が生じた日において株式交付親会社の株主等であった者、株式交付に際して株式交付親会社に株式交付子会社の株式若しくは新株予約権等を譲り渡した者又は株式交付親会社の株主等、破産管財人若しくは株式交付について承認をしなかった債権者
細かく区分されているものの、一体何が無効というのか、或いは無効とはどういう事なのかについての記載はない。
そもそも各号に分けて規定する必要もなさそうだが。
会社法も実体法と手続き法に分けたほうがいいのではないか。
つーことで判例をまとめないと話にならない。
株式交換の無効と828条の無効事由
無効事由は解釈に委ねられている。
https://www.businesslawyers.jp/practices/1385
株式交付の無効事由については、会社法上、明示的な規定は設けられておらず、解釈に委ねられています(他の「会社の組織に関する行為の無効の訴え(改正会社法828条)における無効事由」と同様です)。
この点、無効事由の典型例としては、以下のようなものが考えられます。株式交付計画について法定の要件を欠くこと
株式交付計画を承認する株主総会の決議に瑕疵があること
株式交付計画の内容等を記載した事前開示書面・事前開示書面が備え置かれていないこと
債権者異議手続をとらなければならないときに、これをとらなかったこと
828条をみると、何が無効にあたるか、どういう要件で無効になるかはまったく規定されていないことが分かる。
無効という意味も828条に規定はない。
遡及効がなく将来効のみという規定は839条にあるが、
(無効又は取消しの判決の効力)
第八百三十九条 会社の組織に関する訴え(第八百三十四条第一号から第十二号の二まで、第十八号及び第十九号に掲げる訴えに限る。)に係る請求を認容する判決が確定したときは、当該判決において無効とされ、又は取り消された行為(当該行為によって会社が設立された場合にあっては当該設立を含み、当該行為に際して株式又は新株予約権が交付された場合にあっては当該株式又は新株予約権を含む。)は、将来に向かってその効力を失う。
834条の言及はあるものの、828条はない。なぜ被告適格のほうをもってきているのだろうか(笑)
実体法的な要件そして効果のうち、効果しか規定されていないという。
条文を読んでも意味がないので判例をあたらねばなるまいが。
無効原因は法定されていないが、合併の無効原因と同様である。
①契約書が作成されなかった
②契約書が作成されたが要件不備
③株式交換承認総会に無効または取消自由があった
④事前開示に不備があった
など、重体だな手続き違反無効事由になると解されている 実務会社法講義P465
株式交換は吸収合併と同義
無効原因を見ていて気づく、株式交換は要するに合併だな。
親会社の株を子会社となる株主に割り当てて、子会社の株式を全部取得するのが株式交換だからである。
つまり、合併の一方法として株式交換があるに過ぎない。
検査薬の調査も不要、株主の個別の同意も不要なので、完全子会社化する最も確実な方法 実務会社法講義P454
株式交換の手続き
株式交換は特に子会社となる方にとってはかなり重大な事なのでその手続きも厳格にする必要があるのではないか。
第四章第一節に株式交換に関する規定があるが、株式交換を決定する手続きについてはここには規定がないようだ(笑)
株式交換を行うためには、各当事会社の取締役会決議を経て、代表取締役が株式交換契約を締結し、株式交換の条件や手続きの進行次期などを定めるが、会社法は株式交換契約書を作成する事を要求している。 実務会社法講義P454
取締役会のない会社は取締役の過半数で決定するということだろう。え、簡単すぎじゃね(笑)
※取締役会決議というのは株式交換契約あるいは株式交換を行うという事に関してで、会社法上必要な承認のことではないようだ。
原則として各当事会社の株主総会の承認を受ける。リーガルクエスト会社法P366
やはり株式交換は組織再編に等しいからだろう。783①795①804①309②12
流れとしては
株式交換契約書を作成して、各当事会社において株主総会の承認を得なければならない(783①795①)
※交換対価が持ち分の場合783②簡易組織再編行為796③略式組織再編行為784①の場合は株主総会の承認不要
総会招集通知には参考書類に以下の記載が必要
①株式交換を行う理由
②株式交換契約の内容
③完全子会社の場合に、完全子会社の株主に対して交付する金銭等がある場合にはその相当性に関する事項の概要など
④完全親会社の場合に完全子会社の株主に対して交付する金銭などがある場合には、その相当性に関する事項の概要など
実務会社法講義P458
決議方法
株主総会特別決議 783①795① 309②12 原則過半数出席、3分の2以上の賛成
※公開完全子会社に譲渡制限株式を交付する場合は特殊決議 309③2
株式交換についての債権者の異議
789①3株式交換契約新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権である場合 当該新株予約権付社債についての社債権者
810①3株式移転計画新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権である場合 当該新株予約権付社債についての社債権者
799①3株式交換をする場合において、株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもののみである場合以外の場合又は第七百六十八条第一項第四号ハに規定する場合 株式交換完全親株式会社の債権者
※子会社となる会社の債権者は含まれていない。短答18-48
(株主総会等の決議の取消しの訴え)
第八百三十一条 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより株主(当該決議が創立総会の決議である場合にあっては、設立時株主)又は取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。以下この項において同じ。)、監査役若しくは清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査等委員会設置会社である場合にあっては、設立時監査等委員である設立時取締役又はそれ以外の設立時取締役)又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。
一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。
二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。
三 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。
2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。